The Works of Black Bird ~Ventangle二次創作~ 作:Reyo
どたどたとやかましい足音。階段を駆けのぼるそれらの数は都合4つ。
(釣れたのは半分くらい、か……纏めて向かって来なかったのは、都合がいいやら悪いやら)
物言わぬ躯が伏せるソファから音もなく離れ、ユウは入り口の傍にしゃがみ込む。開きっぱなしの扉の影は、部屋に数歩踏み込んで振り返らなければ死角となる位置だ。
「ボスぅ~?」
「さっきの、銃声だったよなァ。昨日捕まえてきたあのハンター、銃なんて持ってたか?」
「弾ァ全部抜いたさ」
「はっ、マガジン外しただけだろうが! ……ま、ボスが遊びで撃ったのかねぇ」
階下からでは正確な場所がわからなかったのだろう。通路に反響し、小さいながらも聞こえてくる荒くれたちの声の出所は戦利品室だ。
「おいおい誰だよ。最後に使った奴はタオルで拭いとけっつっただろぉ? とんでもなくクセェじゃねえか!」
ガヤガヤと喚く声。戦利品室に一見して異常が無いように見えたからか、どこか気のたるんだ様子のままのジードの構成員たち。
その後も、やれあの女ハンターの具合が良かっただの売りさばいた戦利品で新しい武器を買うだの、能天気に雑談しながらユウの仕掛けたキルゾーンへ歩み寄ってくる。
「――っ!? ボスっ!!」
(掛かったっ!)
最初の罠は、開きっぱなしの扉を通してちらりとでも部屋の中を見れば発動する。
即ち、寝所を兼ねる玉座風ソファに力なくもたれ掛かり、血と脳漿をぶちまけた『ボス』の姿だ。
遠目から見ても死体と判る派手さ。つい数舜前まで構成員たちの脳裏に欠片すら存在しなかった『死』の存在は、ユウの目論見通りに彼らから冷静さを奪い去る。
荒くれであるジードたちの間にも、彼らなりの忠誠や仁義はあったのだろう。リーダーとして付き従っていた男の死体に、4人の構成員は矢も楯もたまらず駆け寄って。
「汚いケツが丸見えだよ」
先頭の1人を、ユウの銃撃が一瞬で肉塊へと変える。
いかに各種ウェア類で身体を強化していようと、ジードたちは人間だ。脊椎に2発、脳髄に1発の弾丸を叩き込まれては死は免れない。
「なんだぁッ!?」
目の前でヒトからモノへ変わった仲間の姿に、後続が僅かに怯む。
その隙に、と続けざまに2回目のバースト射撃を叩き込むユウだったが――構成員たちの装備状況を綿密に調べ上げなかったことのツケをここで払うこととなった。
「ボス程じゃねえが、身体は強化してるんだぜぇ!」
「チッ……!」
2人目は咄嗟に両腕を掲げ、頭を守り切ったのだ。
「銃なんて軟弱なモンでよぉ! 不意打ちでしか殺せねぇだろうが!」
「そいつをヤった奴が次のボスでいいよなぁ!」
鉄火場にはそれなりに慣れているのだろう。ボスの死体から受けたショックから早くも立ち直った3人目、4人目がユウ目掛けて躍り出る。
しかし。
「――おっと、ボクのものに汚い手で触れないでもらいたいね」
ゆらり、と。突如として実体化し、蜃気楼が揺れるような軽やかさで振るわれた酒呑童子の異形の腕が接近を遮る。
勢いのついていた3人目は不幸にも鬼腕の直撃圏まで踏み込んでおり、首から上が水風船のように爆ぜ消えることとなった。
そこに続いていた4人目も片腕をもぎ取られ、戦力として数えるのは難しい。
「鬼ィ!?」
生き残った2人の片割れが眼を剝いて叫ぶのも仕方ない。僅か十数秒のうちに2人が死に、1人は腕を捥がれ、1人は腕に銃弾を叩き込まれているのだ。
対するユウは未だ無傷。
「さて……まさかここから負けはしないよね?」
「そりゃあね」
今の助力はオマケだ、とでもいうようにウィンクしながら再度霊体化した酒呑童子に、ユウはこくりと頷きながらマガジンをリリース。出方を覗うジードたちを前に、悠々と弾倉交換を終える。
(とはいえ、油断は禁物だよ? もし、ここからあんな連中にいいようにされる事があれば、キミの評価も改めざるをえないからね)
ユウの耳元か、あるいは霊に囁かれる酒呑童子の言葉。
あながち冗談ではない様子に、ユウはぺろりと唇を舐めて気合を入れなおした。
「このアマァ……」
酒呑童子を警戒してか、残る2人のジードたちの動きは鈍い。
それに乗じて、どちらか片方だけでもとユウは銃を掲げ――それが合図。
「股さえ残ってりゃいいんだよぉ!」
片腕になったジードが、腰に吊っていた鉄斧を引き抜きながら突進する。
生け捕りが叶う相手ではないと認めたからか、そこに先ほどまでのような油断はなく。
「それも、そうだ、なァ!」
銃弾を受け止めたとは思えない様子で、もう1人がそこに追随した。
狭い室内ながらも、ユウを左右から挟みこむような動きで襲い掛かる動きは素人のものではない。
「伊達に、銃も使わずにブイブイ言わせてないってことか……!」
どちらか一方に対処すれば、残る一方への対処が疎かになる。
故に、ユウが直観的に選んだのは真正面。交差する2人の攻撃の間を抜けるように前に出て、牽制の弾丸をばらまいて寸での所ですれ違う。
「ちょこまかとォ!」
「そっちがデカすぎるだけだろっ!」
そこから、振り向く一瞬すら惜しいとユウが放つのは脇越しの連射。横薙ぎに振り回された銃口から飛び出した銃弾は、不安定な姿勢から放たれたとは思えない素直さで片腕のジードの後頭部を穿った。
「これで、あと……!」
ひとり、とユウが溢しかけたところに、ジードたちの増援……というよりは残りが集合した。
「――朝っぱらから、騒がしいじゃあねえか」
戦闘音を察してか、完全武装状態の男が3人。
「ボスも銃でヤられてる……そいつがヤったんだ!」
「へぇ」
ぎろり、と。仲間たちが殺されて殺気立った目線でユウをねめつけるジードたち。
「大の男が揃いも揃って、ボクみたいな小娘ひとりにいいようにやられたってことだね?」
その視線にユウはニヤリと皮肉っぽい笑みを浮かべて返す。
余裕綽々に見える態度は、しかし虚勢だ。ジードたちには見えぬよう構えているとはいえ、先の連射でマガジンは空。どこかでリロードを挟まなければ、ユウに反撃の術はない。
「華奢だが鬼がひとり、付いてやがる。油断すんなよ、兄弟」
「はっ、丸腰だったらともかくよォ」
ドンッ、という凄まじい踏み込みの音と共に、完全武装したジードのうちの1人が斧を振るった。
24世紀の肉体強化術は、そこいらのチンピラに下手なアスリート顔負けの身体能力を与える。振るわれた斧の暴威は、主に反射神経をはじめとする神経系への強化を施しているユウの身体にこそ届かなかったが。
「このっ……高いんだぞ、この服っ!」
その圧力だけで、ユウの纏うジャケットを引きちぎり、ボディスーツを裂いて肌を露出させる程度のことはやってのけた。
「ヒュウ、キスマークがついてやがる! さっきの細っこい鬼は男だったかぁ?」
「どうだぁい、お嬢ちゃん。今ならまだ、黙って服を脱いで股ァ開きゃ、殺さずにおいてやるぜ?」
囃し立てるジードたち。
鼻の下を伸ばしながら「あのサイバネ女にも飽きてたところだからなぁ」などと言いながら笑うその様子には、勝利への確信が見え隠れしている。
完全武装の男3人、対、銃なんていう玩具しか得物のない女。ジードたちにはそう見えているのだろう。
「今のはワザと外してやったんだ。次ァ、きっちり当てるぜぇ?」
にたりと、下卑た笑みを浮かべながらの降伏勧告。斧を突きつけるのは、最後通牒を兼ねた威嚇といったところか。
それにユウは一瞬だけ呆けたような表情となり。
「へぇ――」
次の瞬間、獰猛に笑った。
「だったら、ワザと外したってのは、後悔するんだね!」
マガジンリリースのボタンを押しながら、手首のスナップだけで空マガジンを飛ばすユウ。細長いマガジンはまるでブーメランのように宙を舞い――ジードの斧で弾き飛ばされた。
「テメェ……!」
ジードたちが色めき立つ――いったいどこに勝機があるのだと、物分かりの悪い女に苛立つように。
確かに、戦場が屋外か、あるいは死体や装飾品のない開けた場所であればユウの負けはほぼ確定していただろう。それはユウ本人が最も自覚している。
しかし、ここは屋内で都合4つの死体があり足場が悪く。しかも悪趣味な装飾だらけの部屋だ。
(これ以上、ボクの肌も見せなければ、触らせもするもんかっ!)
突きつけられていた斧は、マガジンを弾き飛ばすために振られた――即座にユウへの攻撃には用いることのできない。
仲間の振り回した武器に巻き込まれないよう、そして転がる死体に邪魔もされ、後ろに控えた他の3人は前に出ることが出来ない。
つまり、空のマガジンひとつを放り投げることで、たった数秒とはいえユウは1対1の状況を作り出したのだ。
「この距離で正面から。外す理由がないっ!」
そしてその数秒は、懐から引き抜いた新たなマガジンを装着するのに十分。
マガジンをはめ込む動作から流れるようにチャージングハンドルを引き、初弾装填。ハンドルは発条仕掛けで戻るに任せ、ストックに手を添えて射撃の精度を引き上げて。
目を狙った3点射はその全てが眼窩周辺へと着弾し、武装したジードの1人目を速やかに無力化した。
「はぁ!?」
残る武装したジードたちのうち、あまりにも鮮やかな射撃術に間抜けな声しか出せなかった方へ、今度は股間狙いの3点射。ただぶつけるだけでも悶絶するほど痛む場所に3発も弾丸を喰らったジードは、余りの激痛にショック死することとなった。
「テメ――」
数秒としないうちに武装した仲間が2人やられた。その現実を認められず、3人目はただガムシャラに斧を振り上げる。
振り上げた故にがら空きになった胴体へとユウは体当たりするように接近し、顎下からの3点射をぶち込んだ。
ぐらり、と。意志を失った3つの肉体が倒れ伏せるのはほぼ同時。
そして最後に。
「……じゃあ、そういうわけなんで」
呆気に取られた表情で立ち尽くしていた最後の1人の額に風穴を開ける。
時刻は未だ7時前。
早朝の乱戦を制して、ユウはゆっくりとため息を漏らした。