The Works of Black Bird ~Ventangle二次創作~ 作:Reyo
堕天特区は眠らない。経済の中心といえる外壁区は勿論のこと、支配層の座すコロニー最上部の楽園区や一般人の多い住宅区も例外ではない。単純に都市サイズからすれば人口密度が非常に高いのも理由の一端だが、神や妖精たちの中には夜こそ活発化する者が少なくないからでもある。
そして、ブラックバードやキリカたちハンターの主戦場たる宵闇区や港湾区は言わずもがな。夜討ち朝駆けで仕事をこなすハンターたちを筆頭に、不規則な生活を送りがちなならず者たち。むしろ活発さを増したきらいまである街は、夜9時を過ぎた今、ようやく本来の顔を出し始めるとも言えよう。
「そういえば、キリカ。君はNFFの下請け組織ってやつに心当たりは?」
「ふむ……無いわけでは、ないね」
ポルアの事務所を後にして暫く。仕事をするにもまずは腹ごしらえと適当な露店で買い揃えた食事を摘まみつつ、ブラックバードとキリカは打ち合わせを始めていた。
「いいね、アテがひとつあるだけでも調べる範囲が絞れる」
ケバブにかぶりついたブラックバードが嬉しそうに頷く。
神が電子世界に降臨してからというもの、情報といえば大半が足で稼ぐものになった。ウェブ上の情報は神の範疇であるが故に改竄・漏洩されやすく、国や企業は物理的な情報管理を重視するようになったからだ。故に、今もウェブに残るのは個人のSNSから発信された情報や神を戴く教団のプロパガンダが主だ。
そんな世情であれ多角的な視点と断片同士の辻褄合わせ、そして天性のセンスや不断の努力を以てウェブ上から情報を引きずり出すことを得手とする者も居る。ブラックバードもそういった情報技能を持つハンター……通称、シーカーのひとりだ。
「そういえば貴女もシーカーなんだって? フロントマンなのに珍しいね」
ポテトを摘まむキリカもまた、そういったシーカーのひとりだ。
キリカが言うように情報収集に長けたハンターで肉眼距離での直接戦闘を行う者は珍しい。情報戦という神の降臨以後は只人では制しにくい場所でのアドバンテージが得られるのであれば、それを押し付けるための暗殺や狙撃を選ぶ者の方が多いからだ。情報戦に特化しているハンターともなれば荒事は他人任せという場合もある。
「あー。僕はシーカーよりはガンナーが本業のつもりなんだけどね」
「……なるほど?」
バンバン、とブラックバードが銃を撃つ真似をしてみせて、それに少し呆れた顔で頷くキリカ。銃が撃ちたくて……というブラックバードの事情を察したのだろう。
「さて。貴女がハンターになった理由も判ったところで……私のアテ、というか心当たりは噂話レベルのものだ。以前、企業から仕事を請け負った時に聞いたヤツだからそれなりに信憑性はある」
「内容は?」
「タチの悪い連中ばかり揃えて、一般人を脅してる連中が居るって」
「少し、パンチが弱いかな?」
ブラックバードが眉をハの字にひそめる。外壁区の中小企業や住宅区の女子供を狙った徒党を組み、荒事に手を染める連中など堕天特区には掃いて捨てるほどいるだろう。
だが、ブラックバードの懸念に対してキリカはニヤリと笑みを浮かべる。超乳を机に預け、その上で腕組み——というよりは合掌するような姿勢で情報のディテールを追加していく。
「その企業、というのが自社に荒事専門の部門を持ってるところでね。社名は控えるけど、この話も『同業他社の営業妨害の一例』として聞いたのさ」
「今回の依頼人や関係者の可能性アリ、ってことかぁ」
キリカの言うことはつまり、ポルアが明かさなかった依頼元に心当たりがあるという意味だ。
ハンターへの依頼が仲介人を介すことがあるのは、いざという時に余計な波紋を出さないためでもある。表向きは友好的に、しかし裏では敵対行為を働く。仮に裏の行為がバレても知らぬ存ざぬで通すために必要なワンクッション。
「オーケー、判った。それなら、噂の出所の確定から始めるべきかな? うっかり別の組織に手を出して仕事は失敗、いらない因縁を買うとなると厄介だ」
ケバブを食べきり、手についたソースを舐めとるブラックバード。
キリカもナゲットのラストピースを平らげると指先の脂を拭きとってから頷いた。
「方針に異存はないよ。でも、噂の確定となると……」
「要はNFFの連中が出入りしてる組織を探せばいいんじゃないかな? 噂になるくらいなら出所も絞れるだろうし……カタギに手を出すようなタチの悪いならず者が相手なら僕ら自体が釣り餌にもなれる」
「結構大胆だね。でも、私としても判りやすくて賛成よ」
深夜に向けて活発さを増していく夜の街に、どちらかといえば見目麗しい部類に入る女が2人。武装しているとはいえ、堕天特区暮らしのチンピラの中でもタチの悪い連中であればその程度で怖気づくことも無いだろうという読みだ。
「でしょう? 釣れる馬鹿が居ればそれだけ楽、そうじゃなくてもトラブル防止にはもってこいで現地に監視カメラのひとつでもあれば僕らの得意分野だ」
コンバットジャケットから片袖を抜き、カービンのスリングを掛け直すブラックバード。ぴっちりとしたボディースーツにスリングを帯びて、その上にジャケットを羽織りなおせば布地にカービンが隠れて遠目からは武装していると判りにくくなる。
キリカもそれに倣い、ハンドガンのホルスターを胸の横から脇の下へとずらすようにベルトを調整した。ライフルケースは隠しようがないが、元より銃器隠匿のために設計されたそれは一見して武装していると判断するにはそれなりの知識が必要な代物だから問題ない。
「さて、それじゃ……ごちそうさま!」
空になった包み紙や紙袋をゴミ箱に投げ込んで、2人の女ハンターは混迷の度合いを増す夜の街へと踏み出していくのであった。