※この作品はR-18です。

The Works of Black Bird ~Ventangle二次創作~   作:Reyo

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西暦232X年 8月某日 AM00:07


ならず者の流儀

 外壁区の治安は、おおよそその『高さ』に依存する。

 縦に落着したコロニーの全高はおおよそ18キロメートル、その中でも外壁区と名付けられた繁華街はコロニーのおおよそ下半分にあたる。特に地上との連絡部である港湾部やコロニーの外側に出来た宵闇区と接する下層部分は人の出入りが激しい箇所であり、自然とならず者たちの数も増えるからだ。

 キリカの案内で目星をつけたいくつかの企業での聴取や、ブラックバードの情報網を活用した末に辿り着いたNFF傘下の暴力組織。彼らが事務所を構えているのはまさに猥雑な混沌の坩堝たる外壁区下層の一角であった。

「キリカのアテ、大当たりだったね」

「おかげさまで。とはいえ、実際に組織との連絡を担当している社員が誰かを割り出したのは君だろう? ふたりでなければ片手落ちだったさ」

 表通りから僅かに踏み入った路地。キリカはライフルケースから取り出したスナイパースコープを望遠鏡代わりに表通りを監視し、その横に座り込んだブラックバードは端末を片手に通信回線をハッキングしていた。

 腹ごしらえを終えた2人が聞き込みの末に連絡員の所在を掴んだのが1時間ほど前。NFFのバッジをこれ見よがしに襟に付け、外壁区下層にはそぐわない身なりの良さで歩き回る姿は外見さえ判っていれば追跡しやすいことこの上ない存在であったという。

「……来た。2ブロック北側、そろそろキリカのスコープでも見えると思う」

 ブラックバードが端末から顔を上げてキリカに告げる。

 端末に映し出されているのはここ一帯の監視カメラ映像だ。元映像の質が悪いのを端末で強引に補正しているのか解像度はそこまで高くない。とはいえ、ブラックバードやキリカといったシーカーたちにとっては見慣れた画質でもある。連絡員が特徴的な服装をしているのもあって、一度捕捉してしまえばその後を追い続けるには十分な映像であった。

「了解……よし、見えたぞ」

 キリカの言葉を受けて、ブラックバードがハックする監視カメラを切り替える。この1時間の追跡の中で何度となく繰り返してきた方法だ。路地から路地を伝って移動し続けたふたりだったが、目標組織の事務所最寄りである此処が追跡の仕上げになることだろう。

「監視カメラの切り替えも出来たよ。あとはこれで、目星を付けたビルに入るなり、組織の構成員と接触してくれればビンゴなんだけど」

 ブラックバードがハック中の監視カメラは4つ。うち2つは表通りに設置された交通管理用のもので、残る2つが目星を付けた事務所の入り口付近に設置されているものだ。今のところ、連絡員が映っているのは表通りのカメラ。

「それにしても、あそこまで堂々と社章を付けていると逆に罠じゃないかと思いたくなる」

「ああ、それは僕も思ったよ。多分、通行証とかを兼ねてるんだろうけどさ……」

 連絡員が襟に付けている社章……薄い金色をしたそれは、解像度の低い監視カメラの映像でもそれなりに特徴を拾い上げることが出来る程度にはユニーク。人目の多い場所で外すどころか隠す素振りすらみせないのは連絡員としては二流、三流と言えよう。

 なぜなら、わざわざ外部組織との関係性を喧伝するのと同義であり、そういった油断がブラックバードとキリカという2人のハンターを呼び込む契機にもなっているからだ。

「新進気鋭のNFFの社員でしょう、それで天狗になってるのかもよ? それか……一番嫌なのは見られても問題ないくらい、あの連絡員や組織の連中が強いことだけど」

「連絡員の方はともかく、組織の構成員は大丈夫じゃ? これまでの聞き込みでも、結局用心棒の腕が立つ以外の噂は聞こえてこなかったじゃない」

「ま、そっか」

 告げられた疑念をキリカはすぐさまに否定してみせて、ブラックバードもそれに頷く。

「それに連絡員は今回のターゲットじゃないからな、っと。そっちでも見えているか? どうやら空振りせずに済みそうだ」

「ちょっと待って……よし、見えた! ビル入口の監視カメラにヒット、中に入って行くみたいだ。エレベーターの監視カメラに切り替えるよ」

 そうこうしているうちに、連絡員が踏み込んだのが2人が目星を付けていたビルであった。名義上は複数のテナントが入っていることになっているビルだが、実質的にはその全てがNFF傘下組織の支配下。

 そのビルにNFFのバッジを付けた連絡員が堂々と入って行ったのだから、仕事をするにあたっては十分な物証である。

「さて、どうしようか? 場所は確定、裏取りもOK。もう少し調べて、連絡員が帰ったら仕掛けるかい?」

「いや、そこまで焦らなくていいと思う。確かにもう深夜だから相手も油断し始める時間だけど」

 好戦的な提案をするキリカに対し、ブラックバードは少しばかり迷いを見せる。

「用心棒の情報が出てこないのが気になるんだ。用心棒っていうならトップの側にずっと居るもんだと思ってたけど、そういう話も出てこないし」

「ふむ……」

 その理由は、未だに具体的な情報の見えない用心棒の存在だ。キリカもその理由には納得がいくのか、頷きながら顎を撫でている。

「幸い、まだポルアの指定した時間までまる1日はあるんだ。一番の障害になりそうな奴についてじっくり調べてからでも遅くはないと思う」

「ああ、賛成だ。私の狙撃が効かない相手だったらお手上げだからな」

「期待してるよ、ブラックバレル? それに、具体的な人数や警護の交代時間とか、襲撃先が決まったからこそ調べられることもある……どうせなら楽に仕上げられるようじゃないか」

「ふふ、確かに。戦闘距離こそ違うが、シーカーが2人。いくらでもやりようはあるね」

 得物こそ違えど、技能的に似通った部分のある2人だ。方向性が決まってしまえば話がまとまるのも早く、そそくさと撤収の用意へと移っていく。

 だが……そう順調に物事を運ばせてくれないのが堕天特区の混沌というものである。

「おい、お前ら! そこで何してんだ!」

 オラついた、という表現が妥当な怒鳴り声。路地ということもありよく響いたその声にブラックバードとキリカが跳ねるように振り向く。

「怪しいなぁ、怪しいなぁ! テメェら、ここが誰のシマか判ってんのかぁ? あぁ!?」

 そして重なるもうひとつの怒鳴り声。

 路地の奥からおもむろに姿を現したのは2人のチンピラたち。虎の威を借る狐とはよく言ったもので、大して体格に優れた様子もない彼らがそこまで勢いづける理由は十中八九ブラックバードとキリカの仕事と関連していることだろう。

「どう思う? 僕は飛んで火に居るなんとやら、に一票」

「私もそれに一票よ。先に周囲の見回りルートから割るべきだったかしら?」

 少し手順を間違えた、とでも言うように肩を竦めるブラックバードとため息を漏らすキリカ。

 落ち着き払って見える2人の様子に気分を害したのか、チンピラたちが無意味にオラオラと鳴いて……容易く地雷を踏みつけた。

「はぁん、片方は男かと思ったが。よく見りゃいい嬢ちゃんじゃあねえか!」

 確かにブラックバードは短髪なのもあって遠目に見れば少年にも見えなくはない。だが、確かに胸の育った20代の女性である。男に間違われるのは時化た不発弾の次に嫌いであった。

「横に居る奴の乳がデカすぎるんだよ! 確かに、アレと比べりゃどんな胸でも平らだろうけどなぁ」

 キリカも、大き過ぎる胸に関してはサイズ相応の多大な苦労を負っている。寝所で役立つこともあって嫌ってこそはいないが、わざわざあげつらって来る輩は一人残らず撃ち抜いてきた。

「……そういえば、さっき誰のシマがどうこうって言ってたけど」

「いったい、何処の誰の縄張りで? 言って貰わないとわからなくってよ?」

 和やかな笑みと、額にうっすらと浮かんだ青筋。げらげらと下卑た笑い声をあげるチンピラを前にして、ブラックバードもキリカも既にいつでも銃を抜き放てる姿勢を取っていたが。

「あぁ? ここいらで俺らのこと知らねえってマジ?」

「なぁに、たっぷり教えてやればいいさ、すぐそこの俺らの事務所でなぁ!」

 それに気付く様子の欠片すら見せず、チンピラたちは得物を抜いた。抜いてしまった。片や決して大振りとは言えないナイフ、片や粗悪な作りのハンドガン。

「はぁ……相手の装備くらい、見極めたら?」

 そして、その程度にビビっていてはハンターは務まらない。

 もはや呆れの混じった声と共にブラックバードの手元から弾丸がばらまかれる。片手でスリングを引き揚げ、ストックを小脇に抱え込むように構えながら引き金を引いたのだ。

 コンパクトで素早い銃捌きから放たれた銃弾は、チンピラたちの脚を撃ち抜いて即座に動きを縫い留めていた。

「な、ぁ!?」

「お、俺の脚がぁああ!?」

 痛みに泣き叫ぶチンピラたち。破れかぶれか、ナイフを持ったチンピラが投擲の動作に入り。

「おっと、させないよ?」

 重い銃声とともに、ナイフを構えていたチンピラの手が手首から吹き飛んだ。

 硝煙をくゆらせるのはキリカの構えた巨大なハンドガン。ショットガンで用いるスラグ弾と同等の太さの弾丸は巨大生物の狩猟に用いられるもの。そんなものが直撃しては、耐えられる者の方が少ないだろう。

「それがハンターネームの由来?」

「ま、そんなところ」

 片手を失い、そのショックで気絶したチンピラを後目に談笑するふたりのハンターたち。

「お、お前らァ! この、アマ、許さねぇ、ぶっ殺してやらぁ!」

 その光景を見てとても敵わない相手に手を出したことを悟るチンピラ。しかし、その現実を認められないのだろう。構えたハンドガンを無茶苦茶に乱射する。

 が、元々の精度が良くないのか、あるいは恐怖で狙いがブレているのか。弾倉が空になるまで連射しても掠りすらせず。

「……はぁ、見苦し」

 ガンナーズ・ハイとでも言うべきか。どこか恍惚とした表情をしたブラックバードが、弾切れで空撃ちを続けるチンピラの元にゆっくりと歩み寄る。

 その最中、無造作に手を喪ったチンピラを撃ち殺し、ぶるり、と背筋を震わせる。それこそが、彼女がハンターを続けている最大の理由にして悪癖。

「ひ、ひぃ……」

「さて……?」

 後退るチンピラの頭に銃口を突き付け、ブラックバードはゆっくりと『交渉』を始めるのであった。

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