The Works of Black Bird ~Ventangle二次創作~ 作:Reyo
ポルアとのアポイントを取って事務所を訪れたのは、零下の鉄火場を抜けて半日ほどたった時刻である。
少し待っていておくれ、と言伝されてふたりが通された部屋にポルアの姿はない。
「どうする? 掛けて待ってるかい?」
「……私は辞めておく。また落とされるだろうからな」
スノウの追跡を撒きながらの半日にうんざりしたのか、疲れた表情をしたユウは無遠慮にソファに腰掛ける。対照的に、キリカは先日落とし穴に落とされたのを警戒してか立ちっぱなしだった。
「まぁ、そうかもしれないけど……でも、あの性格でポルアが天丼をやってくるかな?」
「判らないけど、警戒するに越したことはないでしょう?」
「それは違いない」
んっ、と伸びをしながら答えるユウ。キリカのように完全な警戒態勢ではないが、それでもいつ落とされても大丈夫なように浅く腰掛けているあたりユウもポルアの事を良くも悪くも信頼しているようだ。
「それにしても、わざわざ僕らだけを先に部屋に通すって。ポルアも思ったより忙しいらしいね」
「アレは好きで忙しくしている気もするけどね。仕事の斡旋も、面白がっているフシがある」
などと会話をしているうちにすぐに10分程の時間が経つ。
罠が発動したのは立て込んでいるのか、とふたりがポルアの心配をし始めた頃である。
「えっ?」
「なっ!」
床がぱかりと割れて、ソファに座っていたユウはソファごと。立っていたキリカはそのままの姿勢で落下することになる。
「……うん、家具ごとだからこの前よりは楽かな?」
「あらら、流石にもうインパクトは弱いかぁ」
そして階下に落ちたふたりを上から覗き込むポルアの姿。
「ここまで大掛かりとは思ってなかったけど、落とし穴はね。流石に予想してたよ」
今度はバランスを崩さずに着地したキリカがため息を漏らしながら胸を張った。
落とし穴の終点は以前と同じクッションだらけの部屋。前回との差異を探すのなら、壁に飾られたネオンが『Congratulations!』に掛け変わっている程度だろう。
「さて、壁に書いてある通りだ。仕事の達成はこちらでも確認しているよ、おめでとう、そしてありがとう!」
ふたりの頭上からぱちぱちと拍手の音が降る。
本人たちから報告を聞くよりも早く事情を把握しているあたり、斡旋窓口としての仕事はかなり上質といえよう。
「仕事が早いね、ポルア。ご友人から悔し紛れの愚痴でも聞いたのかい?」
「いやいや、彼女からは特に何も聞いてないさ。髪の毛一本が切れた程度で騒ぐようなことは君たちだってしないだろう? ……ま、依頼人は大満足らしいけどね!」
けらけらと笑うポルア。ポルアの友人が率いるNFFという巨大な組織にとっては、今回失ったのは末端中の末端なのだろう。
「憐れな事。とはいえ、私たちにとってはそういう末端の方が余程近しいけど」
それで金が貰えるのならば問題ない、とでもいうようにキリカが肩を竦める。
「そういえば、ブラックバード。ハンターネーム、スノウって娘がウチに捜索願いを出しに来てるけど」
「うげ、撒いたつもりだったんだけど……上手く誤魔化しておいてくれるかい?」
「ふふ、今回はアフターサービスということにしておいてあげよう」
ポルアの言葉に顔をしかめるユウ。しばらく寝泊まりする場所は選ぼう、と呟くユウをにたにたとした表情で見るあたり、ポルアは完全にユウの不運を楽しんでいるようだ。
「さて、些事はこれでおしまい。お待ちかねの報酬の時間だ!」
パチン、と指を鳴らし、ポルアが一瞬のうちにクッションの山の上へと居場所を移す。
「この山の中に、クレジットを入れたアタッシュケースを混ぜておいた! きちんと満額入っているから、探し出して持って帰ってくれたまえ!」
それだけを一方的に言い放つと、ポルアの姿が陽炎のように揺らめいて闇に溶けた。
この場に居たのが本人なのか、それとも魔術的な幻影だったのかすら定かではない。
「……探そうか」
「そうだね……」
クッションの山を掘り返してケースを探すには、結局30分程時間を取られることとなった。
無駄な疲労感に肩を落として事務所を後にするふたり。
外壁区から見える太陽は中天を越えて暫く、今が一番明るい時間帯だ。人通りも夜中程ではないが盛んで、その波に紛れるにも丁度いい頃合いだろう。
「さて、それじゃあここでお別れだね」
「うん、さすがに仕事が終わってからもお邪魔するわけにはいかないしね」
アタッシュケースで手が埋まっているのもあり、別れの握手はない。
簡素な言葉を交わして、ふたりのハンターは互いに背を向けて人波にその姿を溶け込ませていく。
ひとつの仕事が終わり、交わっていた人々はまたそれぞれの日々に戻っていくのであった。