第13話★ その痛みに微笑んで
トビカガチの繁殖期は他の竜たちと同じく温暖期、発情を伴うのは夜でありつつも光量が比較的多い、満月周辺の晴れの日となる。
それは、私が自分の経験から、あの日の記憶を頼りに考えた推測だった。
もちろん、当時は蒼火竜に襲われた直後という非日常だったことは考慮しないといけない。
ただ、夜の時間帯にトビカガチと共に過ごしたことは何度かあったし、そのときにはそんな雰囲気にすらならなかった。生存本能だけで竜の性欲が左右されるとは、少し考えにくい。
日中を避けるのは、日中に活発なモンスターから襲われないようにするため。これは他のモンスターでもよくある習性だと思う。
ただ満月の夜に絞り込みをかけるのは独特だ。これが、私の経験に基づくもの。
トビカガチは性行為をするときに、どうしても帯電してしまう。
トビカガチの交わりは静かだけれど、羽毛は擦れ合って静電気を発するし、自身の興奮にも影響しているのだと思う。そして交尾中はそれを発散することがほとんどできない。
人である私が相手でもあれだけ帯電してしまうのだから、同種同士だったらすごいことになってしまうんじゃないだろうか。性器を傷つけてはいけないだろうし、ああいう密着した交尾になるのも頷ける。
帯電は光を伴うので、普段は相手を威嚇できるそれが、行為中は逆効果になってしまう。まるで自分たちはここだと合図をしているようなものだ。
だから、比較的明るい夜を選んで交尾をするようになった。モンスターが寝静まる頃合いでありつつ、帯電の光ができるだけ目立たないように。
私が彼に連れ去られた日が満月だったのは偶然だろうけど、今回は自分で望んでその日程に合わせる。
いろいろと考察を重ねて、でも彼がまた私を求めてくれるかは、こればかりは本当に分からない。ふつうは起こり得ないことなのだから、あの一度きりと言うことも十分にあり得る。
私としては、こうして彼と好きなだけ一緒に居られるというだけでもう十分すぎるほどだ。研究心も取り戻してきたような気がする。だから、この先はご褒美のようなもの。
キャンプの設営を終え、長期滞在用の道具も整えて、離れにある森小屋で経過観察のレポートを書く。常時自然の中にいる疲れはどうしても出てくるので、最初の内は栄養剤などの力も借りながら、少しずつ身体を慣らしていく。
トビカガチの方も、急に私が居着いたので少し落ち着かない様子ながら、大きな負担にはなっていないようだった。彼らに精神的な負荷がかかったときに起こしやすい、抜け毛や身噛みなども見られていない。
自分が望んでいた環境が自分に最も良い環境であるとは限らない。それを分かった上で、両者が重なり合うように手を尽くす。
そうして迎えた、次の満月の夜に。
トビカガチは再び、私を押し倒していた。
「よかった。これで何もなかったらどうしようって思ってたんだ」
今度は下草の生える地面ではなく、トビカガチの巣である木の上で。トビカガチは体を横倒しにして私に巻きついていた。下腹部の割れ目からは、既にやや膨らんだ性器が顔を覗かせている。
地面に比べて月光がよく届くので、以前よりも明るい。でも、上空からこちらを視認するのは難しいだろう。温暖期は雷光虫や閃光羽虫もよく飛ぶので、それらに紛れてしまうはずだ。
行為に夢中になって木から落ちないようにだけ気を付けないとな、と思いつつ。私はトビカガチの拘束の合間を縫うようにしてベルトなどの金具を外していく。
床には厚布を敷いて、木の棘や小石などが直接当たらないように。大概が私の身を守るためなのが申し訳ないけれど、その分、がんばろうと思う。
トビカガチが私の髪の匂いをすんすんと嗅ぐ。私が私であることを確かめているかのようで、くすぐったいけれど愛おしさを覚える。
うん、愛おしい。この気持ちを変に隠さなくてもいいと思うと、愛おしいという気持ちが溢れてしまいそうになる。
本当は裸になって彼を全身で感じられたらいいのだけれど、感電の危険があるのでそうもいかない。特に危ない腕と足だけ、手袋と足袋で保護することになる。
たとえ相手が人でなくても、恥ずかしいけれど。以前は脱がなかった装備の大部分を外して、私は彼に素肌を晒した。手で隠していた自らの性器も、そっと見せる。
「……貧相な体つきでごめんね」
なんて、誰に謝っているのやら。
トビカガチは私の拘束を少し緩めて、懐の中にいる私をまじまじと見つめる。彼らからすれば、突然姿が変わったように映るだろう。脱皮とでも思われているのかもしれない。
……それにしても、性器や胸も隠さずに見せて、手袋と足袋だけ付けているこの状況、思っていたよりもその、変態的というか。かあっと頬が熱くなるのを感じた。
あまりに恥ずかしすぎるので、自分からトビカガチに抱き着いた。途端に全身からひんやりとした感触が伝わる。
トビカガチは体温が外気の影響を受けやすい竜だから、今は私より体温が低いのだろう。逆にトビカガチは、私の温かさに驚いているのかもしれない。
どく、どく、とかの竜の心臓が脈打っているのを感じる。私よりもゆっくりで、その分はっきりとした音だ。
私の皮膚が負けないかが心配だったけれど、トビカガチの腹部はなめらかで、余程のことがなければこちらが傷つくことはなさそうだ。つまり、上半身の装備は脱いだままでもよさそうだった。
こうしていると、トビカガチにすっぽりと包み込まれているような感覚になる。それだけでなんだかぞくぞくした。もはや嗅ぎ慣れた獣臭さも、発情時の独特な匂いも私を疼かせる材料になっている。
私はたぶん、かなり性欲が強くて。一人でするときにはトビカガチのことをよく思い浮かべていて、何度も達していたから。こうやって直接の行為がなくても、かなり余裕がなくなってしまっている。
少し息が上がる。軽く深呼吸をして、私は私に巻きつくトビカガチに声をかけた。
「まずは一回、出そっか」
トンネルをくぐるように、私はトビカガチの性器が手に取れる位置へと移動した。
さっきよりもさらに膨らんで、固くなりつつある。手袋を手先の部分だけ一時的に外して、私の脚に何度も擦りつけられていたそれに、再び素手で触れに行く。
片手で、傍に転がしておいた容器を手に取る。栓を抜くと粘性のある透明な液体が零れ出て、それをもう片方の手で掬う。私たちの間で、性行為に用いられる、滑液と呼ばれるものだ。
「びっくりするかも、ごめんね」
とろ、と手からも零れ落ちそうなそれを、トビカガチの性器に塗った。トビカガチは少し鳴き声を上げて、びくっと腰が引ける。未知の感触に驚いたのだろう。でも、拒絶まではしていない。
彼の性器の全体にそれを塗っている間に、勃起はほどんど終えていた。滑液は人が性行為に使うだけあって、感触的な興奮を高めてくれる。トビカガチにもある程度は効いてくれているらしい。
私は自分の身体にもそれをかけた。無駄遣いできる程の量は持ち込んでいないけれど、必要なことだ。
そして、我慢など知らない彼が太腿に性器を押し付けているのをそっと手に取って、自分の胸元にそれを導いた。
「んっ……ふっ……」
性器の強い匂いと、腹部への圧迫感。私の身体は彼の尻尾が離さないでいてくれるから、私は手も使って彼の性器を扱き、射精へと導いていく。
以前、ふと考えたことがある。竜という生き物は、見ることでの快感というものを感じられるのかな、と。
他の女性から聞いた話だけれど、人の男性との行為には愛撫やキス、挿入以外にも、様々な手段がある。男性側が要求してくるものによくあるのが、性器を口に咥えたり、手で扱いたりといった、直接的な交尾には結びつかないものだ。
それは、感触的な快感というよりも、視覚を発達させた人ならではの行為のように思えた。そしてリオレウスをはじめとする一部の竜種の視力はとても高く、トビカガチもその例に漏れない。特に彼らは夜目が聞く。
今彼は、私が彼の性器を扱くさまを覗き込むように見ている。それを見て、彼はどんなことを思うのだろう。
人のそれはちょっとよく分からないけれど、彼が相手なら、欠片でもそういう気持ちよさが加わっていればいいな、と思う。私の身体が彼にそういう風に見られるのは、大きなものに見られている本能的な怖さはあれど、不快ではなかった。
「うっ……ん、んぅ……」
ただ、これはちょっと申し訳ないけれど、私の方がその恩恵が大きいかもしれない。
片方の手で彼の性器を鳩尾と挟み込むように扱きながら、もう片方の手で自分自身の性器に指を入れていた。滑液の力も借りて、少しでも解れるように。
……でも、ちょっとこれは。私の方が先に達してしまう感じだ。途中から快楽を優先する自慰に切り替わってしまった。トビカガチの勃起したそれが私の肌に密着している様は、想像しがちな私には強烈過ぎたみたい、で。
「──……っ、ふっ……ぁ……!」
ぎゅっと体の内側が熱くなって、脚が閉じたり開いたりするような。一瞬だけ身体の制御が効かなくなる感覚。世間一般では、イッた、というのだろう。
なんというか、一人でするときよりも気持ちいいというよりか、快感に身を委ねられていられる安心感のようなものが、とても手早く私を導いたような感じだった。たぶん、ものの数分で達してしまっている。
……確かに、こうやって交わる前からかなり身体が期待していた、というのはあるけれど。
それよりも、トビカガチだ。彼はまだ射精できていない。
達したばかりで力が入りづらい身体に何とか力を入れて、彼の性器を腕とお腹で包み、上下左右に滑らせる。彼の性器を身体に塗りつけるようにも映るかもしれない。
持ち込んだ滑液は相当に優秀なようで、干からびたり零れ落ちたりすることなく、私とトビカガチに快感を伝えてくれていた。
アステラはその性質上、いわゆる本番行為がかなり制限されているものだから、性欲の発散に使う道具は上等なものが多かったりする、という裏話だ。
私はまだ愛人というものを作っていなかったけれど、こんなかたちで助けてもらうことになるとは思わなかった。
ぬちぬち、と卑猥な音が伝ってくる。私の腕が疲れてしまう前に。奉仕というよりも、ちょっとした根比べのような感覚が少し微笑ましかった。
それに、彼の射精の前兆はもう掴めている。尻尾の巻きつく力や、私を抱く前脚の力が強まるのだ。そのときに激しく扱けばいいことが察せるので、分かりやすいことはいいことだ。
「う、んっ……いいよ、出しちゃって」
びくびくと震える性器を両手の手首の辺りで擦り付けるように押すと、それでトビカガチは達したようだった。
井戸の蛇口から水が溢れ出るような精液の出し方。人のそれとはだいぶ違うのだろう。その分一回の射精が長く、肋骨の凹みや胸の間にどろどろと溜まっていく。
記憶よりも多い精液の量を見て、わたしははっとしてトビカガチの顔を仰ぎ見る。相変わらず私を見ていたトビカガチは、少し息切れしているような感じがした。
この子、ちょっと出すのを我慢したな。
ほとんど直感のようなものだけど、もしそれが当たっていたなら、彼も私と負けず劣らすの物好きというか、なんというか。
その気持ちは分からなくもないけど。どこでそんなことを覚えた、と問えば、ほぼ間違いなく私が原因なんだろう。
まあ、視覚的な要素はともかく、これで彼が性行為に快感を覚え、それを求めてくれそうなことも明らかになった。やっぱりトビカガチ以外の竜にも可能性はあるんじゃないだろうか。どんな可能性かは、さておき。
視線を私の上半身の方に戻すと、そこには未だにぽたぽたと精液の雫を落とす彼の性器と、白く塗られた私の胴体があった。
指を浸けると少し沈む。持ち上げると指に白濁が絡む。その様が妙に生々しかった。
私自身が既に達していて、彼が射精するまで余韻に浸るのを抑えていたこともあり、少し夢見心地になってしまう。と、十秒ほどぼうっと惚けていた後に、はっと我を取り戻した。
「あっ、ちょ、ちょっと待って。抱き着くのはちょっと待ってて……!」
一度目の射精を終えたトビカガチが再び絡みつこうとしてくるのを、ぐぐっと片腕で押して耐える。もう片方の手で、手探りで地面に転がる容器を手に取った。
今度は滑液の容器ではなく、中身は空だ。ふたを開けると、ひやっとする冷気が溢れ出てきた。まるで氷結袋の口を開いたかのよう。そしてその例えはあながち外れでもなかったりする。
口の部分までかなり冷たいけれど、我慢するしかない。私は少し身を起こして、その容器の口を自分のお腹につけた。
胸のあたりに溜まっていた精液が皮膚を伝ってその容器に注がれていく。容器の三分の一くらいは満たせるように、零さないように気を付けながら。
私が自分のお腹の上でトビカガチに射精させたのは、これが目的だ。
たぶん、単純な刺激の与えやすさで言うなら、太ももや腋で挟んであげた方が効果的だろうと思う。気持ちよさもそっちの方が上かもしれない。
ただ、それで射精まで持っていくと、精液が地面の布に落ちて染みこんでしまって、回収がほとんどできなくなってしまう。
一番いいのは、彼が射精している間に直接採取することだけど、これも咄嗟の手際が必要になるので慣れないうちは難しい気がした。だから、自分の身体で受け止めてから流し込むことを考えた、という流れだ。
容器は工房の先端技術によって作られているようで、二重管構造、内壁にレイギエナの氷結液が充填されている。水を入れたら氷水になって出てくる勢いだった。
そんな希少な容器に注ぎ入れるのが竜の精液なのだから、なんとも言えない笑みが出てしまう。いや、たしかに貴重な採取物なのだろうけれども。
私の身体にかけられた分のほとんどが容器に入ったことを確かめて、容器に蓋をしてその辺に置いておく。あとは木の上から落とさないようにだけ注意しておけばいい。
これで私がすべき仕事はひとつ達成した。これをする必要があったから、身体の外に出すような行為を初めにした、というのはある。もちろん、前戯的な意図もあったけれど。
だから、本番はここからだ。
私がトビカガチを押し退けていた手をどけると、彼はおずおずといった風に身体を寄せてきた。
勃起も少し萎んでしまっている。私のしていた行動は理解できないだろうから、私に拒否されたと思ったのかもしれない。でも性欲の方はまだ収まっていないから、こうしてアプローチをかけている。
……愛しさがまた湧き出してきた。キスしたい、という衝動に近い想いに駆られそうになって、でも、流石にそれはできないので、代わりに彼の性器を手で撫でる。
いまさら衛生的な話をしたって何の説得力もないかもしれないけれど、大抵、身体の内側に何かを入れる行為というのは、病気をもらう可能性を跳ね上げる。私たちはこの皮膚という外装に常に守られているとも言えるだろう。
性器の挿入やキスがその代表だ。口内炎になるくらいならまだ幸運な方で、傷がついてそこから病のもととなる菌類などが入り込んだりすると、かなり危険なことになる。
性交ならまだ互いの思惑が重なっているし、いろいろと対策も打ってある。でも、キスは思いきり私主体の行動だ。そういうのは、今は封印する。何せ、まだどれもが手探りだから。
性器を何度も両手で撫でる。私もまだあなたとしたいよ、という意思を表すように。
トビカガチは何度か腰のあたりを震わせると、再び私に巻きついた。性器の勃起も元に戻る。まだ出したりてないんだ、と思うと、心臓がばくばくと音を立てた。
私の胸元に出してもらうために沈めていた身体を、トビカガチの前脚の辺りにまで引き戻す。性器に手の先がやっと届くくらい。
それはそれで、と太腿に性器を埋めようとするトビカガチを、私は手で遮った。
「…………今日は、私の中に挿れさせて」
顔から火が出るくらい恥ずかしい。でも、トビカガチには伝わりようがない。
手のひらで包んだ彼の性器を、太腿の上、女性器の先に持っていく。私のそこは、滑液の分まで含めてかなり柔らかくなっていた。
あとは変に力を入れなければ。体の緊張をうまく逸らせれば、ちゃんと入ってくれるはず。
トビカガチは性器をぐいぐいと押し付けてくる。あとは私が上手く動いて、導ければ。
心臓がさらに早鐘を打つ。やっと叶うんだ、という想いが切なさにも感じる。
以前、互いにぼろぼろのまま交わったときにはここまで来れなかった。あの日から私は、理由とか理屈を抜きに、挿れたくて。あなたのそれを受け入れたくて。あなたと、一つになりたくて。
トビカガチの性器のとがった先端が、ぴた、と私の穴の部分に当たる。性器を押さえていた両手を、そっと解いた。
ずぷ、と、それは音でなく、感触で伝わって。
私の膣の中に、彼の一部が埋まった。
「っ、うぅ……!」
苦しい。最初に来た感覚はそれだった。先の部分が尖っていたからいくらか余裕はあるかもと感じていたけれど、ぜんぜんそんなことはない。
人の女性器が受け入れるにはあまりに大きい、竜の性器。圧迫感がすごくて、入り口が押し広げられて痛みを感じる。裂けている感じがしないだけまし、というくらいの。
でも、それでもだ。私は今辛そうな表情をしているだろうし、誰も信じられないことかもしれないけれど。
苦しさも痛みも感じた上で、それを覆ってしまえるだけの幸福と愛情が、私の本能まで蕩けさせていた。むしろ出所が本能なのかもしれない。
彼との初めての夜に、彼の精液の匂いを嗅いだことで陥った感覚をさらに強めたような。誰かと心や体を溶け合わせることの、快感に。
「んぅっ、ぁ……つ、つながってる……。はぁ、はぁ……私たち、一緒になれてる……!」
涙声になってしまっているのは、お腹の苦しさからくるものなのか、嬉しさからくるものなのか、分からない。
がくがくと手足が震えるのを、なんとか意識を保って。一時的に外していた手袋を装着し、彼の身体に自分の身体を密着させる。帯電している彼の背中に腕を回して、抱き着いた。
感電は来ない。肩から先の保護具が電撃から手を守る。
あの気を失ってしまうような断続的な衝撃が伝ってこないのを、少し残念に思ってしまう自分がいた。けれど、こうして繋がっている時間を少しでも長くするための手段だから。
トビカガチの方も、種は違えどその穴が本来自らの性器が導かれる部位であることを本能的に察したようで、ぐぐっと深く押し込もうとしてくる。
それで苦しさが増してしまうわけだけど、その様子が愛おしくてたまらなかった。いよいよ私はおかしくなってしまったのかもしれない。本望、だけれど。
私の中に入っているのは、今はまだ二割くらいで本当に先端部といったところ。ここから解していって三割、四割いけるかどうか。全部なんてちょっと、物理的に壊れてしまう。気持ちの方はさておいて。
一度入れさえすれば、トビカガチはあまり激しい上下動をせずに射精まで持って行ってくれる。あとは私の方が合わせていけばいい。
処女膜の痛みはなくて。その、うん、前もって自分で処理していたので。
トビカガチの性器が大きいことは分かっていたから、道具の力を頼らせてもらった。解し方もそこで勉強して。アステラをそういう目では見てほしくないけれど、まあ、本当にその辺の種類が豊富なのだ。
それは、避妊具や滑液の分野でも。
今の私は、彼の性器を直接受け入れているわけではない。女性用の避妊用ゴムを前もって付けた上で、この行為に臨んでいる。
男性用の避妊用ゴムが彼の性器に合うはずがないので、女性用だ。それでも破けないか少し心配だったけれど、なんとか持ちこたえている、ような。
こういう道具を使うのはどうしても少し考えてしまうけれど、結果的に良かったかもしれない。
今の膣内のこの感覚は、もし生で挿入していたら痛すぎて反射で彼の性器を拒んでいたような気がする。そうなるよりは、こうして道具の力も借りて彼と繋がったままでいられる方がずっといい。
そして、滑液は互いの性器の洗浄の役割もこなしている。さっき考えていた衛生的な問題を少しでも改善するためだ。
どちらも気休めに過ぎないかもしれない。実際気休めだろう。次の日以降の私はたぶん大変な思いをする。でも、そうしてでも繋がりたいと思ったから。
「はぁ、はぁ……んっ、ぐっ……」
息が上がって、苦しげな声が出る。でも、彼の性器を離すつもりはない。
彼も彼で、自分の性器の全てが入りきらないことを悟ったらしい。自分と私の身長差から考え付いたのだとすればすごいことだけど、どうだろう。彼もまた、この感覚を手放したくないという風に、私に強くしがみ付いていた。
お互いに抱きしめ合って、性器を介して繋がっていて。そうやって求め合えていることが、どれだけ幸せなことか。
「ん、んぅ……っ!? あ、はぁ、ぁ……!」
ちかちかと頭の中で星が弾ける。身体の内から昇り詰めてきた熱い感覚に、抗いようもなく突き抜かれた。射精された、のではなく。また一人で果ててしまった。
トビカガチの羽毛を思わず強く握ってしまう。尻尾を跨ぐ脚ががくがくと震える。自分の下腹部にきゅうっと力が入った。
想像が、嬉しさが、そこから来る快感が止まない。栓の壊れた水道のように垂れ流しになってしまっている。自分がかなりあっさり達してしまう性質だとは思っていたけれど、まさかこれ程とは思わなかった。
トビカガチは気付いているだろうか。その尻尾を挟む私の足の力が強まったり緩んだりするたびに、私が達したり、その寸前で堪えようとしていたりするのを。
でもたぶん、彼の方もあまり余裕はなさそうだ。さっきはちょっと我慢していたようだけど、そもそも彼らの性器には射精を堪えるという仕組みがないんじゃないかと思う。
私を掴む前脚の爪が私の皮膚に傷をつけて、痛みが走る。さっき私も同じようなことをしたから、お互いさまだ。それくらい必死に、求めてしまっているのだろうから。
だから、出してほしい。私の中に。
私の中の一番深いところに、彼の性器が届いた。
「んっ……! ふぁ、ぁ…………」
彼の性器がどくりと膨らんで、射精が始まった。叩きつけるのではなく、じっくりと満たすような。彼の命の種が、私に注ぎ込まれていく。お腹の中ではこんな感覚なんだ、というのが伝ってくる。
私も間を置かずに果てる。今度は激しく昇り詰めるのではなく、彼の精液を受け入れようとする、長く緩むようないき方だった。
彼の射精は長いので、彼の力が緩むまではがんばって耐える。
彼の精液で満たされていくのを感じている間に、私はなんだか軽くいき続けるような状態になってしまって。無意識のうちに粗相をしてしまっていないかが少し心配だった。
彼が私を欲しいと思ってくれていることも、私と子どもを作ろうとしていることも、こうやって種を注いでくれることも。本当に、嬉しくて。
「ありがとう、ありがとうね。トビカガチ……」
思わず流れる涙をそのままに、私はそっと彼の頬へ手を伸ばし、撫でる。
膣から溢れた精子が、股を伝って床の布に染みを作っていく。私もトビカガチも、何度も体を震わせたり手足に力が入ったりしながら、お互いの余韻を共有していた。
二度目の射精を終えてもトビカガチはまだ気が済まないらしく、繋がりを保とうとしてきた。彼の性力の強さというよりも、それが種としての特性なのだろう。
それを何とかなだめて、一度性器を引き抜かせてもらう。途端に、ごっそりとした喪失感と共に、いきなり力が抜けたのでびっくりした。やっぱり、あの大きさの性器を受け入れるのに、かなり消耗してしまっていたらしい。
これは活力剤辺りを飲んでおいた方がいいかもしれない。何度も体に喝を入れる必要がある。そんなことを思いながら、男性器を引き抜いたときに一緒になって出てきた女性用の避妊用ゴムを見て、笑ってはいけないところだけど、苦笑してしまった。
案の定、破れている。あの膣内の精液の感覚はそういうことなんだろうなと思っていたけれど、やはり人用では耐えられないみたいだ。
少なくとも、挿入中の痛みを軽減する保護具としてはかなり役立ってくれている。ただ、こうなってしまうと連続では使えないので、新しく付け直す必要があった。
たぶん拘束されたままで動けないからと、必要な道具を手元に転がしておいてよかった。
新しく取り出したそれを広げて、トビカガチが萎えてしまったり耐えられなくなったりする前に、できるだけ手早く装着する。
「……んっ、ふっ……」
その構造上、膣の中まで指を入れないといけない。かなり快感に弱くなっている今の状態だと、それだけでもだいぶ大変だ。
穴を広げると、それだけでぼたぼたと精液が零れ落ちていく。今の交わりが現実の出来事だことを見せつけるような生々しさがあった。
なんとか装着を終えて、トビカガチの方に向き直る。彼は早くも待つことを覚え始めたようで、性器を大きく逆立てたまま、私に絡みついてくる。
さっきの穴の感覚が忘れられないのか、すりすりと性器を押し付けながらそれを探し、結局行き付く先が股の間なのでちょっと笑ってしまう。不覚にもかわいいと思ってしまう自分がいた。
「ほら、こっちだよ」
と、再び手で誘導して、私の膣内へと彼を導いていく。このやり取りは恒例行事になりそうだ。
今日はこれで限界かもしれない。やっぱり、私の方が先に果ててしまう。
トビカガチが納得してくれるかはまた別の話だけれど、それこそ太ももで挟んだりして我慢してもらうしかないかもしれない。
正直、今の時点でも身体的な疲れが強くて挿入は少し迷ったのだけど、今日は頑張りたいと思った。できるだけ彼の意志に沿ってあげたいし、私も自分の体力がもっとあったなら、それこそ一晩中だって繋がり合いたいくらいだから。
再び彼の性器が私の膣を満たし、私の身体が軽く仰け反る。
もう戻って来られないような、そんな挿入感だ。少なくとも人が対象だと満足できなくなってしまったかもしれない。竜との性行為というのは、それくらい強烈に身体に刻み込まれるものだった。
そうやって刻み付けられるものを愛おしく思う気持ちも、一つになることを何より求める気持ちも、今の私が確かに抱くものだ。それを知ることができて、よかった。
トビカガチは静かに私の奥へと進み、私は何度もいきながらトビカガチを受け入れていく。それを何度か繰り返して、彼の射精を促していく。
トビカガチの唸り声を聞きながら、彼の羽毛が帯電して薄く光るのを見ながら、私はせめて疲れて眠ってしまうまで、気絶だけはしないようにとがんばって交わり続けていた。
夜が明けて、その場で仮眠を取っていた私は、目を覚まして。
自分がトビカガチにすっぽりと包まれていることに気付いた。帯電は既に解けていて、彼もまた眠っているようだ。巻きつかれているのではなく、頭から尻尾で囲い込むようなかたちだった。
尻尾を枕にしていた私の図々しさに苦笑しつつ、彼の羽毛は程よく温かいんだな、と思う。体温が下がりすぎるのをこれで防いでいるのだろう。
そこでふと、自分の腹部に手を当てる。まあ、うん、痛い。それはそう、といった感じだ。
これからしばらくは腹痛と怠さに苛まれることになるだろう。これを見越して医者の方に相談して持ち込んだ薬がさっそく活躍することになりそうだ。
それはそれとして、痛みとは別に。自分の中に自分のものでない、温かな熱が宿っていることを感じ取る。
その熱が、昨晩の交わりが私の夢ではないことを示してくれていた。
これまでとはまた別種の愛おしさがこみあげてきて、私はそっと身を起こし、寝息を立てるトビカガチの額にそっと口づけをする。
これからも、こうやって繋がり合える日が来ますように、と。
そんな願いを込めた、朝の口づけだった。