6年前……
晴れた日の午後、木剣を互いに打ち続ける音がする。
そして一人の少年が倒れる音と共にそれは終了する。
「皇子、ロクサーヌは特別ゆえ」と言って老練な狼人族の男が倒れているヒシャームを起こす
「ロクサーヌ!、絶対負かしてやるからな!!」と12歳の子供が小さい10歳のロクサーヌに怒っている。
「ヒシャームになんか負けないよ!お父さんもなんか言って」とあっかんべーをヒシャームにする。
「まあまあ」とロクサーヌの母がそんな皇子を打ち負かしている姿を見てロクサーヌを叱る
「ダメでしょ。ヒシャーム様に」
とヒシャームの服についた埃と土を払ってくれる。母の名前はカトリーヌ先程の老練な男がガーランドで私の父だ
ヒシャームは毎日の様に私の邪魔をしに来る
私は色々試したいのに……この間のニートアントの毒針でノンレムゴーレムを倒したのは楽しかった。
倒すのに1時間くらいかかったけど……もちろんヒシャームを誘ったらあいつ絶対死んじゃうから誘えないし、見つかったらついてくるから何とかあいつに見つからない様にしないと……
「じゃあ俺が勝ったらロクサーヌは俺の妃になれ!!」
「あーいいよぉ勝てたらね。絶対負けないしぃ。」
「ロクサーヌそんな勝手な事を……皇子には既に婚約者がいるではないですか?」とガーランドは怖気付く。
「俺はロクサーヌに勝ってロクサーヌを嫁さんにする」
「……はぁ……」と父は頭を抱える
「お父さん大丈夫、そんな心配する必要は無い。絶対負ける事はないから」
身の回りにいる人でロクサーヌに攻撃を当てられる人は父のガーランドしかいないだから父との稽古だけが楽しい。
でも父はまだ全然本気じゃ無い……
ヒシャームが怒って家に帰ると
ロクサーヌと父のガーランドの稽古を始める。
木剣と盾を持って対峙するがまだ圧倒的な体格差があるものの、ロクサーヌはギリギリの所で避けるのがうまくそして、危うい。
「もっと盾を使え」とガーランドが叱責する
ロクサーヌは剣先の軌道を変える時のみ盾を使っていた。小さな体に盾を使っても吹き飛ばされるからなるべく当たらない事を目指したファイティングスタイルにしているが、父はなるべく動かさずに体制を崩さない事で、次の攻撃に備えるスタイルを唱えるのだが……
ロクサーヌから鋭い攻撃が何度もある
もう直ぐに追い越されるな……とガーランドは思うが、(ヴァンティス)
と心の中で唱えるとガーランドのスピードが倍増する
過剰なまでのスピード攻撃をパリイすると、
ロクサーヌは(お父様もやっと本気になったか)
ガーランドの攻撃をロクサーヌはギリギリで避けてカウンターを狙う作戦に変える
ガーランドもロクサーヌの攻撃をギリギリで避ける
そんな攻防を繰り返していると、不意にガーランドから出された足払いに引っかかってしまいロクサーヌは倒れた。
「負けました」とロクサーヌが言うと
「ロクサーヌは目で追いすぎだ」
「はい。気をつけます」
ロクサーヌはその動体視力で攻撃を見切っているが、故に視界から入らない攻撃はなかなか気が回らない。フェイントにも反応しすぎてしまうのだ。
「魔物はフェイントを使わないが人はフェイント使う。ロクサーヌも虚実をうまく使い分ければもっと強くなるぞ」と言うと倒れたロクサーヌを救い上げる
「お父様はやっぱり強いですね。ロクサーヌはお父様と結婚します」とロクサーヌは笑顔で言う。
「じゃあカトリーヌはどうする?」
「お嫁さんが二人じゃ嫌ですか?」
「ハッハッハッ」
宮殿の中庭で剣の練習をしているヒシャームを見て
男が声をかける「ヒシャーム様、そんなに剣が強くなっても貴方が戦う事はありませんよ。みんなが貴方の為に戦うのですから」と男は話しかける
「ロクサーヌに剣で勝ってロクサーヌと結婚するから」
「そんなことしなくても呼び出して結婚してしまえばいいんですよ」
「うん?そんな事できるの?」
「ヒシャーム様の御心のままに」
「ほんと?お父様に相談してみる!!ありがとうゼロ!」
と走って宮殿の奥の部屋に向かった。
ゼロは隣にいた宦官の者に「ロクサーヌとはどの様な人物かよく調べさせろ」と言うと3人の宦官はお辞儀して立ち去る
数ヶ月後、ヒシャームは勝手にロクサーヌとの婚約を発表した。もちろんそれまで約束していた婚約は勝手に破棄していた。
一度もまだ負けたこともないし、了承もしていないのに……
「お父様ヒシャームが勝手に私をお嫁さんにするとか言ってる……どうしよう」
「ああ、明日登城して審議を確かめてくるから今日はもう寝なさい」
ガーランドはカトリーヌに小声でロクサーヌに聞こえない様に、「いざという時は遠い親戚の叔父を頼ってくれ。こんなに急に説明もなくはおかしい……」
「はい」母カトリーヌも元々は騎士で剣術は心得ていたので、いざという時は決死の覚悟で行くつもりだ。
その日は深夜までガーランドは起きていた……
深夜に扉を叩く音がする。
扉は開けずにガーランドはドアまで近づく。
「こんな深夜に何か?」
「ハリファ様より勅命です」
ガーランドはカッシームの騎士だ。王の勅使に
そう言われたら扉を開けないわけにはいかない。
扉を開けるとガーランドは驚いた……
「これはゼロ様。どうしてゼロ様が……」
ゼロと言うのは宮殿一怪しい男だと認識していた。まして、彼が直接訪問とは……いつもならほとんど部下に行かせて自分の手は汚さない主義なのに、しかも一人とは……なぜ?とガーランドは一瞬放心した。
「中に入れてはくれぬのか?」
「いや、申し訳ない。ゼロ様がこんな荒屋に来るとは思いませんでしたので、汚いところですがどうぞ……」
とガーランドは家にゼロを招き入れた。
家のダイニングテーブルを囲う様に座ると
ゼロは「勅命である。ガーランド・ブライ・シュバリエイブランは娘であるロクサーヌをヒシャーム・イーサム・ハリファの婚約者として明日登城し、婚約の儀に参られよ」
と突然大きな声で話し始めた。
「あっ……んっ……かしこまりました。明日参上させていただきます」
「何か不満でも?」
「いえっ、しかしながらヒシャーム様には既にご婚約者が……」
「それは其方が心配することでは無い」
「ガーランド殿も大出世でさぞ嬉しいだろう。」
ゼロは胸元の大きなネックレスをいじりながら話す。
「ありがたき幸せです」とお辞儀をしたところ
ガーランドの肩に何かの針が刺さる。
「こっこれは?」
「ああ。麻痺毒だよ」
「な、なぜこの様な事を?」
「察しろよ。困るんだよ。色々調べたたら元王家の遠い親戚ではないか?それではヒシャーム殿が次のおよつぎになってしまうだろ?」
「なぜそれを……」
「貴殿は王家の末裔。なぜ隠していた……困るんだよ。次の世継ぎは第一皇子であるナウファム様になってもらわないとな」
「それで貴様が……」
「そう言う事だ。娘を差し出せと言ったら一家心中したって言う筋書きになっているから安心しろ」
「なるほど……黒の咆哮!」ゼロの周りは真っ暗となり足音だけが響く、スキルを使うと術者以外は真っ暗となり視野を奪う
「貴様何をした。無駄な足掻きを……めんどくさい」
その間にガーランドは二人の元へ行き
「逃げるぞ」と二人に伝える
そして、ガーランドは大きめの毛布を包んで裏の扉から逃げ出した。
すると、裏の扉は何人もの暗殺者が待っていた。
「ヴァンティス」と言うと、ガーランドは高速に動き始める。
暗殺者は次々に動き出すもガーランドには追いつけない
暗殺者の二人がガーランドにボーラ(脚を絡ませる投擲武器)を投げるとガーランドはいつもなら避けられるのにまだ麻痺が効いている様だ。その2本のボーラがガーランドを転倒させる。
ガーランドは紐をナイフで切ると、カトリーヌとロクサーヌはそこにいない事がわかるがそのままガーランドを逃しても良いと言うことでは無い
ガーランドはすぐさま立ち上がり
剣を構える
何十人もの暗殺者に囲まれている
ガーランドは高速の剣を使って次々に斬り倒すが、麻痺毒が残ってるガーランドは全く本領を発揮できない。一人が剣で刺し、それを振り解く様に反撃するがまた一人ガーランドの腹を刺す。ガーランドは最後まで剣を振るっていたが、4、5人に刺された所で最後には倒れてしまった。
「貴様ら……」
「娘と妻の場所は?」
それを聞いた者にナイフを投げ眉間に命中させ絶命させると
一斉にガーランドは刺されて絶命した。
用心深い父はこの様な時のために、カトリーヌとロクサーヌの寝室から地下に穴を掘って川まで逃げられる様にしてあり、そこには小舟が用意してあった。二人で小舟にのって脱出した。
後ろには、我が家が燃えているのがわかる。
「ヒシャーム、あいつが余計なことしなければ……」とロクサーヌは恨み事を道中何度も言ったが
「恨んではダメ。それだけの人生になってしまうから。ヒシャームのことは忘れなさい。彼に悪気はなかったと思う。そしてカッシームの事も忘れなさい。決してカッシームに近づいてはダメ」とロクサーヌが言うたびに母は恨むより忘れなさいと何度もロクサーヌに説いた。
そこから3ヶ月、カッシームの村や街には寄らずに動物を狩り野宿をした。時には女二人だから強盗に遭いながらも、強盗を2人で全滅させながらお金を剥いで、行商人から必要な物を購入して、何とか遠い親戚の叔父の家に到着した。そこは帝国領なので、流石にここまでは追ってはこないと母のカトリーヌは叔父に懇願してロクサーヌを預けた。
「ロクサーヌ、貴方の父と母の事は誰にも決して話をしてはダメよ。でもこれだけは忘れないように覚えておいて。私達は決してロクサーヌを忘れない。そしてずっと愛しているから。ずっとずっとロクサーヌと心は一緒に居るからね」
とカトリーヌはロクサーヌを抱きしめながら涙を流す。
ロクサーヌもこの3ヶ月を振り返りながら母を抱きしめて涙する「ママ、ママ、ママ」
「ロクサーヌ、ママはハリファ王にこの事を伝える為にカッシームに戻る。ロクサーヌはここで私達の帰りを待っていて……」
「やだ、やだ、ママ、ロクサーヌも一緒に行く。ロクサーヌがいた方が絶対いいよ」
と泣きながら懇願するも、叔父もロクサーヌを抑えて
「ロクサーヌ、お前の父と母はやらなくてはいけない事があるんだ。騎士とはそういうものだろ。それを止める事はできないんだよ。命をかけてもやらなくてはいけない事もあるんだよ。ロクサーヌもいつか騎士になって誰かに仕えるんだろ。その覚悟を踏みにじったらダメだよ」
「ロクサーヌ、叔父さんの言う事をよく聞いて、父に負けない立派な騎士になりなさい。あなたは純白の騎士《シュバリエイブラン》なのだから」と母は泣きながらロクサーヌに騎士になる時の叙任の儀式の真似事をして「これでロクサーヌあなたも騎士よ。泣かないで」
「うん。もう泣かないよ」
と言うとカトリーヌが見えなくなるまで、ずっとカトリーヌの姿を目に焼き付けていた。
カトリーヌは1年経っても戻らなかった為。15歳になるまで、ブラヒム語を覚え、毎日のトレーニングを欠かさなかった。そしていつか必ず……
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