ーカルネス地方 ボランディエ古城ー
冬の3日
町から少し離れた所にすでに100年以上使われていなかった寂れた古城が魔王討伐軍の集合場所である
雪こそ降っていないが風は冷たく草木も凍るほどだ。
天気はこの地方のこの時期はほぼ毎日曇り、かなり北にあるためか冬は日が沈むのが早く天気のせいもあってから昼間でも少し暗い。
小さな古城に何万という兵隊が入るわけもなく、外で焚き火をして待機している。
次々と帝国機動部隊が兵隊を連れてくるが、
やっと当の本人ミチオたち御一行が到着し出した。
フル装備のイリナは古城の城壁からそれをながめていると
「ここにいたか」エマが声をかけてきた。
「ああ、遅かったな」
「こっちにはこっちの事情があるからな」とお互い顔を向けずに話している。その声から吐く息で、かなり気温が低いのがわかる。
相変わらずエマはイリナに比べ軽装備だが、毛皮を着ているので寒くはないのだろう。
「今日中に聖王国のコフドリという町まで行きたかったのだが?」
「町に泊まる気だったのか?」
「この寒さで野営は死人が出るぞ」
「こちらで考えてある。それよりもその仮面はまだつけるのか?」最初に出会った時の火傷痕を隠すためのマスクである
「この方が周りは畏怖を感じるらしいからな」
……
「味方をビビらせてどうする」
「ふふふっ確かに……ふふふっ、ミチオはそんな事を言うのか?」
「ああそうだな。くくくっ」
エマは笑いを堪えられずにイリナ同様笑ってしまう。
二人はもちろんわかっていてそんな話をしていた。
「流石に死線を何度も超えている者たちは言うことが違うな」
とイリナは少しバカにした様子で言うので
「まぁ何度も超えているからな……」
エマは今までのこと少し思い出してしまった。
クーラタルの50階での戦闘、ナバ平原での戦闘、ディンドフ村鉱山での戦い、イエリソスでの戦い、カッシームの戦い
思い返すと無茶苦茶な作戦と無謀なことばかりだった。
「それを乗り越えられたのもミチオの能力とエマという賢者がいるからだろう?」
「そうだといいんだが……圧倒的にミチオのおかげだ」
「そんなになのか?」
「まぁこの遠征でイリナも知るだろう……」
現地入りした俺たちは早速準備して出発する。
もちろんガイウスも来ており、俺の近くで行軍している。
「うわっさむっ」ガイウスが寒さに嘆くと
セリーに「そりゃこれだけ北ですから寒いでしょう」とガイウスに冷たい目線にやられてガイウスはさらに寒くなる。
セリーは他の兵士たちはもっと軽装備なのでさらに寒いだろうから思いでの反応である
まだ毛皮を着ての行軍をしている我々はまだマシな方である。
ただの一兵卒で来ているわけだからセリーも遠慮はない
俺は俺で違う事を考えていた。
昨日のがんちゃんの話が気になっているが、ジョゼもどうしても一緒に行きたいという事だった。
乱戦になったら、ジョゼが「主人を守る」という大役を言われている。普段ならベスタだが、ベスタを俺一人で独占していると戦力の低下になるという事で俺の守りでジョゼがついてきているのだが……ジョゼの顔を見るとやはり気になる。
討伐軍は結局のところ25000しか集まらなかった。
ただ、機動力は欲しかったので馬を全ての兵隊に用意してくれたので
内訳はマロルから10000
これにはベイルの所からの1500、ラーゲル領から500
騎士団から2000、移住してきた者たちの兵隊希望者から6000の寄せ集めだ。
その他も寄せ集めと言えば寄せ集めからも知れない。
イリナは5000のエルフの兵隊をエステル男爵は2500、ブルーノ伯爵も2500、エディングの私兵隊はイリナが預かっているが約束通り1000の騎兵団が集まっている。
そして何よりアレクシアが4000余りのフル装備の騎士団を用意した。
帝国の西側で全く俺にも魔王にも興味なかったやつが4000の騎士を連れてきたのだ。
敵はコボルトばかりとはいえ70000を超えていると言う事だから3倍近くの兵力差がある。
イリナが俺の所までやってきた。移動しながら話をしようときたのだが、俺は馬車に乗っている。
イリナはエルクの様な巨大な鹿に乗っている。イリナが小さく見えるほどの大きさだ
「馬車で戦闘に向かうのか?」と大声で言うので馬車の中に誘導した
「この馬車で戦闘に向かうのか?」と聞かれたので
「いや移動中に作戦を立てている所だ」
「……本当にこの人数で戦えるのか?」と俺に聞いてきたので、
「要はユウヤを倒せばいいだけだ。70000の相手をする必要はない」
とは言ったものの全く無策だ。
エマを始め馬車ではみんな何も語らない……
いや、みんな知らないだけだ……
イリナは鉄の結束があるから余計な事を話さないだけと思っていたが、みんな『まぁなんとかなるだろう』ぐらいにしか思っていなかった。なぜならミチオが言う様に問題はユウヤだけだから。
とはいえ相手の情報がまるでない。
ないから作戦を立案できない。
「リセリカの白騎士を呼んでいいか?」とイリナが聞くと
「聖王国の騎士だったか?」
「ああそうだ」
外に合図を送ると馬車の中に乗り移ってきた。
「初めまして、リセリカ聖王国所属白騎士団カミラです。遠征軍に感謝します」
カミラはみんなの前で挨拶をすると、皆子供ばかりだったので誰がクワガ王国の国王かわからなかった。
セリーがそれを気遣って「こちらがミチオ様です」と案内した上で「リセリカ聖王国の状況を教えてください」
「……はい。順を追って説明します。
まず1ヶ月前にカッシームがイリジューム公国に侵攻と言う報告が入りました。結果はみなさんが知っての通りですが、ノボルチェスクが陥落後『魔王出現』の報告があがりました。
我々は国境閉鎖と防衛のためイリジューム公国との国境に集結しました。
すぐさま帝国軍との戦いになり、我々も参戦すべし!!と言う声はあったのですが、軍議を重ねている間に帝国敗戦と言う一報で事態は変わりました。
魔王軍はイリジューム公国ではなく聖王国に出兵してきている報を受けて、騎士団では混乱していたが
魔王は負傷している情報が入ってきてミッケラの砦にて魔王軍を迎え撃つと言うことになりました。
街道はコボルトでいっぱいになり砦では死闘ということになりました。
騎士団の3大隊が失われ後退を余儀なくされ町を放棄したのですが、一般市民が退却戦と言われても次々に襲われていくのをただただ見ているしかありませんでした。
次の町クオスキュアに着くと最初に町の民に避難する様に指示
どこに逃げればいいのですか?と聞かれましたが返す言葉なく、『より遠くに』としか言えませんでした。
奴らは町を統治するのではなく、略奪するのみで男は殺され、女は強姦され、子供は奴らの餌になっていました。
結局、我々は町を奴らごと焼き払う事を決めました。そしてまた後退。
この時点で、すでに聖女様は帝国に援軍を要求したものだと思っていましたがそれを周りの神官が止めていたため援軍要求を一切していなかった様です。
次のセガラという町まで後退しました。
町民は疲弊し、クオスキュアから逃げ延びた者もすぐさま逃げるように言われても、金も食糧もなくどこに逃げる場所もなく自ら命を断つものもいました。
町民の中には我々でできる事なら命を使ってもそれをさせてくれと提案され、我々のできることは自らの町、故郷に自ら火を放つという事しか選択肢がなく、彼らが町を越えるまでに時間をなるべく使う時間稼ぎしか無かったのです。
次のムエバズガの守備を固め町民達はリセリカ聖王国ではなくアルフェストと言う町を目指す様に誘導せよという命令が下され、町民の移動を誘導しました。
すると急に彼らは進軍をやめて、交渉したいと言ってきました。
ライカンスロープ(狼男)が交渉相手でした。
聖女のリジェネレーションを魔王が受けたいという要望で、受け入れられれば侵攻をやめてノボルチェスクに戻ると言ってきたのです」
セリーが「その時点までどこの国も援軍要請は来ていなかった様ですが……」
「はい。神官達が我々に嘘の情報を流していた様です。我々にはすでに援軍要請を出しているが、到着には時間がかかるので騎士団が死ぬ気で戦ってくれという要請がありました。
ただ我々もギリギリまで迫っていたので聖女がリジェネレーションすれば撤退するという甘い言葉を受けるしかありませんでした。なるべく時間稼ぎをしたのですが、遅くなればなるほど町は荒らされ、町民は殺されていました。
結局聖女エレオノーラ様が交渉に応じ私達白騎士団も同席した。
魔王が現れた時はこれほどの威圧感があるのか?と驚きました。全身は鋼のような筋肉に燃え盛る炎の様な模様が刻まれて顔は猛獣の顔に漆黒の角が生えていました。
体調は2メートルを越えるほどありブラヒム語を話していました。
席では怯えながらも、エレオノーラ様はリジェネレーションをかける為前に座るのですが……
『一つ質問してもよろしいでしょうか?』
『なんだ?』
『なぜこの様な酷い事をされるのですか?』
『酷い?暴力がか?』
『はい多くの国民を犯し殺しているではありませんか?』
『暴力のどこがダメなんだ?強い奴の言いなりになる。人以外はみんなそのルールだが?むしろ人に問題があるのでは?』と微笑む。
『さぁ始めろ』と促されリジェネレーションを始めた。
『かけてもすぐに元に戻るわけではなく1日かかります』
『なら明日までここにいてもらう。なんなら俺の女にしてやってもいいぞ』と嘲笑う。
エレオノーラが立ち去ろうとした時に魔王が言った
『結局全て力が強い方の意見しか通らないんだよ。それにお前ら騎士団も暴力を使うだろ?』
その言葉に騎士団長が反応する
『お前らと一緒にするな!』
『人がコボルト達を駆逐する。罪のないコボルトまで見かけたら殺す。子供だろうが殺す。これのどこが我々と違うのだ?俺たちも人を見かけたら殺す。正義とか言っている奴が一番ヤバい奴らだと俺は思うが?』
『ぐぬぬぬ……』
『おやめなさい』とエレオノーラが制止する
『お前らの神様は何をしてくれるんだ?見てるだけだろ?コレが人へのいじめなら俺と同罪じゃ無いか?』と声を高らかに笑っていた
その日のうちに神官達は皆殺しに合う事を理解すると、今まで援軍要請はしていなかった事を騎士団に伝えた。
次の日
エレオノーラ様の反対を押し切って替え玉を使って魔王の前に立たせた。
既に無くなった手足は生えており、偽エレオノーラ様の前に座った。
もちろん昨日と同じ配置でないと悟られるため騎士団を始め、神官達もその場に滞在させた。
『治った様ですね。では、撤退をお願いします』
『まぁまぁ、そう慌てなくても、うちの部下なんだが、こいつ胸に大きな傷が付いているんだよ。やられたばっかりで、本人はこの方がかっこいいとか言うんだが、どう思う?これも治してくれないか?今日もできるんだろ?リジェネレーション?』
と覗き込む様に見つめるとエレオノーラは下を向いたままだった。
「それでは話が違うのではないでしょうか?」声が震えながら返事をする。もちろん彼女にリジェネレーションを使うことはできない。
魔王は何かの品定めをする様に顔を見ている。
後ろに立っていた神官に
『お前随分具合が悪そうだな』と神官が指を刺される。
顔は真っ青になって寒いのに汗だくになっている。
『どうした?何かあったのか?』
と聞くと神官はすでに錯乱している。
『いや、俺は反対だったんだ、違うんだよ俺は何も悪くない。悪いのはこいつらで……』
『どうした?もっと大きな声で言ってくれないとわからないぞ』
『コイツは偽物だ!!』
と大声で言う。
『と言う事だが?人は嫌だね……裏切ってコレで聖職者とか抜かすんだ。私の言っていることは正しい、正義だ!とか言ってな。ルールを破ったのは君達だから。撤退はしない。』
魔王は部下達に『みんな殺せ』と命令すると一斉に飛び掛かる。
『プロテクションフロムエビル』団長が呪文を唱えるとバリアみたいなものが出来上がる
団長は『聖女様をリセリカまで撤退させよ』と言う言葉を発すると、
部屋から撤退を始める
偽のエレオノーラも立ち上がりその部屋から出ようとすると
魔王の手が団長の体を歪める。
一撃でフル装備の団長が吹き飛んだ。
すると魔法を消え今まで守られていたものがなくなり一斉に数多くのライカンスロープが偽エレオノーラに飛びかかり服をむしり取る。
その他の逃げ遅れた神官達も同様に男は殺され、女は服を破られその場で犯された。
『イヤー!!』と言う声があちこちで響き渡る。
魔王は高笑いをやめなかった。
我々はすぐさま聖女様の後を追い馬車の中で各国へ援軍要請
の信書を書いて3人1組でそのまま各国に別れた。
我々は直接帝国領に進むため、民達を誘導したアルフェストを経由してレイン伯爵領クラハを目指す予定であったが
アルフェストはすでに魔王達に火をかけられて略奪が始まっていたので、仕方なく山道の獣道に入りエルフ領内を目指すことに……」
「他にもエルフ領内を目指していた人たちもいたんですよね。その方達は?」
「行方不明だ」
「3人1組と仰ってましたが後二人は?」
「山中でホワイトグリズリーの群れと戦った時に亡くなり私だけ残りました」
「そうでしたか……大変でしたね」
「いえ、コレが私の役目ですから。そしてこの様に援軍をいただけたので私にとっては感無量です」
「あんまり考えたくないと思いますが現在リセリカ聖王国はどうなっていると思いますか?」
「2重の外壁に守られています。籠城して今も健在だと思っています」
「そうですか……作戦の立案に役立てます。
気になっているのは他の騎士団の方はリセリカ聖王国を通って街道沿いを進んできたのならもっと早くにエルフ領についていたのではないでしょうか?」
「何かしらの妨害工作があったのかもしれません」
「そうですね慎重に進む必要がありますね」
とセリーは冷静に話を聞いていた。
「うん?」ロージーからESPで連絡を受けた。
「どうやらコフドリの町から火の手が上がっているらしい」
「えっ?!」
「ってミチオ様誰と話しているの?」
読んでいただきありがとうございます
この間の月曜日は更新できなくてごめんなさい。
今回のお話は地名がたくさん出てくるので『X』で地図載せときます。
ちんたらやってますが、本人は結構楽しんでやってます。
ご容赦ください。
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