「わかったわかった」
と言って両手を上げアンドレスは跪き両手を後ろにする
「しおらしいな」
「もうこの辺が俺の限界だろうて」
「じゃあ後向け」
「はいはい」と言うと、後ろに回していた手からナイフが放たれた。
もちろんエマはそれを避けるとアンドレスは転がり太刀を拾った。
「周りくどいな」
とエマが言うと
「もう年だからな。ちょっと息を整えたかっただけだよ」
アンドレスは大太刀を振るってきた。
エマはバックステップをして避けた
この間のハイコボルト戦に比べれば……
エマは闘いの後、ミチオにアドバイスをもらっていた。
「力があるから大きく振り回すクセがあるんじゃないかな。ある程度は太刀だからしょうがないけど、刀はもっと小さく振ってもいいんじゃないかな」
「小さく振る?」
「前にエマと試合をした時さ、大振り攻撃を受けるのではなくって避けると、そこに大きな隙間ができるからさ、そこを突けばいいんじゃない。もう俺よりエマの方が強いと思うけど……」
「そういうものなのか?」
「打刀もあるからそれも使ってあげると、攻撃の緩急もつけられるんじゃないかな」
「確かにあの時もミチオは急に速く動いたりしてたな」
アンドレスが大太刀を振ると、その反動で次の攻撃の態勢までに少しの間が生じる。ハイコボルトはこの間が無かった。短剣で小さくローリングさせるように剣を奮ってきたので、かわすのがやっとだった
「縮地」
アンドレスの横に振り切った反対側脇に跳ぶと容易に脇を攻撃できた。
「チッ、お前そんな小技が……」
アンドレスも転がって態勢を整えた。
これでアンドレスもエマの攻撃を受けないように何度か剣戟が続く
アンドレスも大太刀で攻撃を受けないように攻撃となると打つ手がないのはわかっていたが、これだけエマの攻撃が速いとかわしきれず何度か攻撃をもらっている。
「フーフーフー」
アンドレスは肩で息をしているあちこちに痛みが走る
覚悟を決める
わざと片方に大きな隙を空けて大振りをする
エマはそれを見逃すはずもなくそこに大振で上段から攻撃をした
アンドレスは腕でその攻撃を受けて、攻撃をするつもりだったが、その腕ごと切り落とされそれを肩でうけた
アンドレスはその切り落とされた腕の肘を使いエマの刀が抜けないようにからめた
「よし」反対の腕で渾身の力を込めて大太刀を振るう
エマは絡められるその前に「クイック」のスキルを使い
腕が切れ絡められた瞬間エマは刀からパッと手を離した。
アンドレスは「なにぃ!!」
エマはアンドレスがもうすでにこうするしか手がないことはわかっていただからあえてそれに乗った
エマは手を離すと、その速度は神速なスピードでもう一つの刀紅桜で近距離から居合いを決めてクリティカルヒットが入った。
アンドレスは一瞬気を失ったが
「ブチっ」という音と共に気を取り戻した。
身代わりのミサンガが発動したのだ。
アンドレスは生まれて初めて身代わりのミサンガに命を助けられた。それがショックだった。一応つけているだけで不意打ちすら受けたことのないアンドレスにとってそれは取るに足らないただの飾りのようなものだったからだ
アンドレスは絡めとった刀を捨て左手を失いかなりの出血で息も上がっている。
ところがエマは全く息が上がらず平静を保っている
「エマ強くなったな。前に戦場であった時とは比べものにならない強さだ」
「でもまだまだ上がいるんだぜ、ついこないだ会ったよ」
「すげーな……もっと強い奴がいるのか、ぬかったな。もうちょっと真面目に強くなっておくべきだったな。だけどもうちょっと付き合えよ」
「ああ、そんなに時間がないようだからな」
2人の間にはまるで時間が止まっているかのようになっているが今は乱戦中だ。
アンドレスは渾身の力を込めて大太刀を何度も振るう
「そんな攻撃じゃ当たらんぞ」
「ぬかせ」
下段で大太刀で薙ぎ払いを行うとエマは大きくジャンプして避けた
アンドレスは空中に飛んだら体勢を動かせないはず。俺の攻撃を受けるしかない。リーチのある俺の方が先にエマに攻撃が届くはずと思いアンドレスもジャンプして大太刀を振るった。
「空歩」
エマはジャンプした後、空中で2、3回ステップをして
アンドレスの背後から刀を突き刺した。
「馬鹿な……エマ空中歩けるのか?」
「ああ」
アンドレスは地面に落ちると
「完敗だな」
「またな。あの世で会おう」
「ああ、先に行ってお前にいい席空けとくわ」
と言うとエマはトドメを刺してアンドレスは息を引き取った。
エマが戦っている間に既に大勢の勝負はついていた。
すでに大半の兵隊はエルダーアースエレメンタルの槌の餌食になり、弓とマジックミサイルで次々と討ち漏らした兵隊を倒した。結局マキシムとマルティナは何をするわけでもなく戦闘の決着は付いたが、掃討戦が残っている。
「さぁそろそろマルティナ出番だぞ」
「え?うん?ここから?」
「ナバ平原まではマキシムと敵を追いかけてくれ」
「わかったわ」
「エルダーアースエレメンタルの前に出るなよ。攻撃されるぞ」
以後このナバ平原にあるこの谷間を血まみれの谷と後々言われるようになった。
その血まみれの谷を本陣は走らずに歩いていく
それに合わせて、丘の上に居た部隊も合流する
血まみれの谷を抜けるとエルダーアースエレメンタルは
持っていた槌を投げて命中させる。大きさは軽自動車並みの大きさの物が300メートル以上離れた所から投げられて、そしてそれが転がっていく。
逃げる方も必死だ。
決して進んでいくスピードが速いわけではないので、投げてしまった後でエレメンタルは地形を変化させ壁をそそり立たせる。
後ろばかり見ていると、目の前にできた壁に激突する
ジョルディの配下100名ほどは、バディの退却が始まると既に逃げて戦場から離れている
完全に敵がナバ平原からいなくなったところで、
湖畔の戦闘部隊、マキシムと一緒に17名でモンベルトにワープで移動する
当たり前だが、ここは平和だ戦争に負けた事を知っている者はココにはいないだろう。
俺たちは領主邸に急ぎ向かった。
街は何事もなかったように賑わっている。
門の前に女性が立っている。
向こうから声をかけてきた
「ミチオ様の手のものでありますか?」
「えっ?」
何かの罠か?
「あなたは?」
「申し訳ありません。私はモンベルト領主パブロの娘レティシアというものです」
「なぜ私たちがミチオの手のものと?」
「パブロ、ジョルディ、バディの奴隷が息を引き取りましたので、戦争で亡くなったことを悟りました。なので近いうちにお見えになると思い、門で待っておりました。私を捕まえにきたのではないのでしょうか?」
「まぁそうなのですが……」
ずいぶんと余裕だなと言うのが第一印象だ
「捕まるのでしたら大人しくついて参ります」
と言うと
門の所に50人ほどの女性の鎧を着た騎士が跪く
「私たちも連れて行ってもらえないでしょうか?」
「レティシア様のみが捕まるのはおかしいかと……私たちも一緒に捕まえてほしいです」
エマが
「まぁ捕まえる前に中に入れてくれないかな」
出てきた騎士達みんなの武器を預けらせてもらうと言う事でルティナが
潤沢のカバンに入れていく。
中に入り広間に通され、大きなテーブルに椅子がたくさんありそこに座る
彼女は一人で応対することになる。その他の50人は外で待っている
エマが交渉を始める
「私はエマだ。よろしく 父と兄たちが目の前にいる者達に殺されたのに先ほどの人数で闘おうというのはなかったのか?」
「はい兄達を撃退したのに我々に勝てるはずもありません」
……
レティシアは身を乗り出して俺たちに聞いてくる
「率直にお伺いしたい事がございます。この領地をどうなさいますか?」
「うーん」エマが答える
マキシムに合図を送るとマキシムが頷く。
「統治するつもりはない。損害賠償とこの土地の対価をブルガ王国にもらうつもりだ」
まぁ実際は何の損害も出ていないが……
「そうですか……でしたらお願いがございます」
と言うと土下座してきた
「ここの民3万人全てを捕らえて連れて行ってもらえませんか?」
「えっ?」みんな顔を見合わせる
「どういう事でしょうか?」ルシールがレティシアに問う
「ここに残っても、私の家は無くなり他の貴族が統治しに来ると思いますが、その後この都市の財源、資産に対して税という名の略奪が行われるでしょう。それならば、その前にそれらを全部持ってマロル様のところに編入できないでしょうか?という事です」
「大胆な策略だな」とエマは感心する。
……
「故郷を捨てられるのか?」間を空けてエマはレティシアに聞く
「それを言われると辛いですが、人がいればまた建物は作れますし、人がいれば新しい故郷を作れると思います」
「いきなり3万人来られても、しばらくはテント生活になるかもしれないぞ」
「はい承知の上です」
廊下から聞いていたのか、先程の鎧を着た女性が入ってきた。
「姫様何を言っているのですか?そんな……そんなことできるわけがないでしょう?」
「ではあなたはここに残ればいい。無理強いはしません。私は囚われの身、ミチオ様についていくだけですから」
「わ、私たちがそんな放っておくわけがないでしょう」
「ではついてくるしかないですね。ちゃんとご挨拶なさい」
「えっえっ?よ、よろしく、よろしくお願いします。……」
「まだみんな連れてくることを承知したわけではないが?」とエマが答える
「えっ?」
「ここまで話して、できないとは言えないだろう」
と俺がエマに言う。
「いいのか?」とマキシムに顔を向けると、
頷いている
レティシアは立ち上がり大きな声で言ってくる
「ただもう2つ、ここの民とマロルの民との差別はしないでいただきたい。そして金や財宝は王国とのやりとり寸前で渡すという事で、よろしいでしょうか?」
エマが答える
「なるほど、もちろんそれは受け入れよう」
と言うとエマはレティシアに手を差し伸べる
レティシアはその手を掴んで
第一回モンベルト会談を終える。
エマは握手をすると
「では、我々はこの辺で戻ります」
「ここに駐屯するわけではないのですか?」
「ええまた明日来ます」
「でしたら私をどこかの牢屋に連れて行ってください。そうしたらみんなも変なこと考えませんので」
「姫様なんてこと言うのですか?数名だけでも連れて行ってもらえないか?」
エマは俺に聞く
「ではあそこを使おうか?」
「そうだな」
レティシアと3名の者がついてくることになった
俺は戦闘班数名を連れて洞窟の牢屋にワープをする
「ここは?」
「我々が使っている地下の牢屋だ。ここは入り口も出口もないのでフィールドウォークが無いと外に出れないので使っている」
「今ここは誰も捕まえてるものはいないので、君らだけだ。申し訳ないが何日かはここにいてもらうだろう」
「問題ありません」
「食事は朝と夕の2回だ」
「はい、かしこまりました」
「しばらく入っていてもらえるか?夕御飯の時にまた来る」
「はい」
そう言い残すと我々は戦闘班の2名を残してナバ平原のゲルに戻った。
すでに他のメンバーもゲルに戻ってきていた
マキシムが
「皇帝陛下に報告しにいくのだが、一緒についてきてもらえないか?」
「はい、ロクサーヌとエマは連れて行ってもいいか?」
「ああ問題ないだろう」
他の者は撤収を始めており、全員マロル領に戻ることで一致した。
俺の部隊は撤収後湖畔の館に戻り食事の用意をすることになった
俺たちはマキシムに連れられロッジへと移動する
ロッジではセバスチャンが迎えてくれた
「皇帝陛下がお待ちです」
2階の特別室をノックする
「マキシムです。入ります」
「おお待っておったぞ。マキシムよ、報告を頼むぞ」
マキシムは報告書をすでに作成しており、ガイウスに渡す
ガイウスはそれを見て驚愕する。
カルロスがその様子を見て心配になり
「ガイウス様いかがなさったのですか?」
「ミチオ殿よ、これは真か?すごいな。すごいんだが、コレは勝ちすぎだな……」
すでにモンベルトを掌握していることを言われたのかわからなかったが
「こちらの損失は0というのはすごいな」
それ?
「ブルガ王国も黙っていないだろうな、自領の貴族の自治権、裁量権は認めているものの、国境線が変わるのは不味いだろうな。多分明日にでも密使が来るだろうな」
マキシムも頷く。
「ただ圧倒的な強さで勝ったのであれば、直轄地の兵隊を失うのも嫌がるだろう。だから交渉になるだろうな……」
「返してくれと?」
「ああそうなるだろう」
エマが手を挙げる
「エマ申してみよ」
「そこでお金を請求したく思います。現在マロル領は盗賊が蔓延り領民の職も失われつつあります。かと言って帝国にも余分にお金があるとは言えません。しかし復興させるにもお金が必要ですから、この際モンベルトは諦め、代わりに金銭を要求したいと思います」
「なるほど最初からそれをねらっていたな?……しかし、金銭を要求すると、そこの領民から略奪が始まるぞ?」
「はい。そこは先程話をしてきたのですが、パブロの長女レティシアを捕らえ交換条件に領民をマロルに編入してもらえないか?というのを打診してきました」
「なぬ?あそこもそこそこ大きい都市だと聞いていたが?」
「はい3万人ほどいます」
「それをマロルに?」
「はい。そうすることで、モンベルトの住民が新しいものを購入し、我々もお金で街の整備を行い、マロルの住民は職を得られます。いかがでしょうか?」
「まーそれだけきくと良策に聞こえるが……交渉次第ということか……」
「はい。領地返還という内容でお願いします。この数日間は我が帝国領土です。その領民がどこに引っ越しても問題ありません。たった数日で領民全てが引っ越すとは思っていないでしょうから」
「なるほど。だがそんなに簡単に引っ越せるのか?」
「全く予想していなかった提案だったので、それは今後話を詰めていく必要があります。ただすぐにまた攻めてくるとは考えにくいので、時間は稼げると思います」
「わかった。交渉のテーブルには、諸君等も参加してもらうぞ」
「はいそうさせてもらいます」
「それと、マロルにはマキシムがしばらく駐留するように」
「かしこまりました」
「では報告は以上で終了だ」
「はい」
「ところでどうやったのだ?」
「それは……」
「マキシム教えろよ」
「いや、あまりお聞きにならない方がよろしいかと……」
「何で勿体ぶってる」
ロクサーヌが
「ご内密に」とマキシムに言っている
エマは楽しそうに言う
「そのうちガイウス様の耳にも届きますよ」
2024.09.16改編