※この作品はR-18です。

相思相愛プロジェクト!!   作:わしはトマトが嫌いじゃ

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 お待たせしました皆さん、ようやく上げられました! 待ってた人い居るのかな?
 前回の投稿から三か月以上がたってるって、日にちが開きすぎて前書きとか後書きどんな口調で話してたのか自分でもよく覚えてないです。早めに投稿したいですって言って九十日ぐらい過ぎてるんだけど、この作者ほど早めにやりたいなんて言う言葉は信用できないことがわかりますね! ……はい、すみません。
 長くなりそうと思って前後編に分けたわけですけども、文字数が一万七千超えています。マジ分けてよかった。
 さて、怠惰な作者である自分の話はここまでにして、本編をどうぞ。



CASE6-2 雪花繚乱 (リーラン)

「いやーついに来たねえ『ちちぶの島』! 早速硫黄の匂いでいっぱいだ!」

 

 船から降りるなり周囲から注目を集めることをいとわず、大声で率直な感想を述べた“冬の魔道士”。

 ここはちちぶの島。『アオイの島』と同じく温泉を売りにしており、特に冬が近くなると島中が観光客で埋め尽くされる。島特有の行事も盛んにおこなわれていて、単に温泉に浸かる以外にも楽しみがたくさんある島だ。今はだいぶ冬も終わりに近づいた時期であるため、催し物はやっていないというけれど――。

 

「君は確か二度目だったね? ハオ殿を筆頭に宮殿の面々が、無理やり休めと策を弄したのは記憶に新しい。その後の騒動にも私も参加したかったなー」

 

「やめてください、余計こじれるだけですから」

 

 ……この男が一緒にいるというだけで、暇な時間ができるわけがないのは確かだった。

 

「私の説教の後も、仕事に対する力の入り方に変化があったとはいえ、仕事量が減っていたわけではなかったからね。新しい友人もできたと聞くし、たまの休みも悪くなかっただろう?」

 

「……ええ、とても楽しい時間でした」

 

「ゆえに私が修学旅行先の下見と称して、君が兵たちの療養地に適しているかの調査に同行するのもやむなしというものさ!」

 

「本音、漏れましたね。大方そうではないかと思っていましたけど」

 

 私たちの目的は療養先の下見……のつもりである、少なくとも私は。しかし彼は先ほど下見といったがそれは単なる口実で、実際は私の土産話を聞いて、行きたい欲を爆発させた結果であった。乗った飛空艇の個室に先回りされ、笑顔とともに迎えられた際に思わず持っていた手提げ鞄を顔面に投げつけてしまった。突拍子もなく実行をするのはやめてほしい。

 

「冬の温泉。いいじゃないか、ついでに熱燗もあれば最高! しかも露天温泉付き個室に泊まれるときたものだ! これ以上言うことはないさ!」

 

「その宿泊費用を経費で落としたあなたの学校はどうなっているんですか? 財政にも目を光らせている身としては、情報を開示してほしいのですけど」

 

「君も少しぐらいの贅沢、周りのみんなが許してくれると思うんだけどね。一般人向けの一人部屋って、一応君は国の代表のようなものだよ?」

 

「進んで豪華にしたいとは思いません。それに、贅沢した王は国民から反感を買います。歴史が証明していますよ?」

 

「おお、私の中君に対するキングメーターが上がったね」

 

「なんなんですかそれ……」

 

 何やら謎の目盛りが存在するみたいだ。

 

「さて、このままだと宮殿にいるのと何も変わらない、さっさと旅館に移動しようか。……ああ、人恋しさを感じたらいつでも私の部屋に。一人増えたところで変わらない広さらしいからね」

 

「い、行きませんよ!」

 

 前もって部屋は予約してあるし、直前に部屋がつぶされるようなことでも起こらない限り、彼の部屋に行くことは多分ない。仮に起きたとして、その場合は別の旅館に飛び込みで泊まることになる。

 

 

 

 ……しかし旅館に到着直後、早速事件が起こる。

 

「猿……おさるさんですか?」

 

「申し訳ございません……こんな事は滅多にないのですが……」

 

 私たちが到着する、ほんの数時間前のこと。仕上げの掃除をして換気のため窓を開けていたところ、そこから何匹か野生の猿が入ってきてしまったらしい。異変に気付いて旅館の仲居――従業員の事――が戻ってきたときには、壁や畳が爪痕だらけの泥だらけ。人を招き入れる状態ではなくなってしまったのだという。元に戻すのに何日かかるかわからない、と。

 

「現在客室の空きがほかになく……ほかの旅館なら空室があると思いますので、紹介状をいくつかしたためておきますね」

 

「仕方がないですね」

 

 旅というのはこういうトラブルは間々あるもの……いやそれはない。女将も滅多にないと言っていたし。しかし以前変な怪盗に遭遇したことと比べればまだ現実的ではある。なんだったんだろう温泉怪盗。

 ともかく彼とはいったん別行動になる――と思っていた矢先。

 

「女将殿、私の部屋はもともと二人部屋だったはずだね?」

 

 そんなことを、彼が唐突に切り出した。

 

「そうでございますが……」

 

「なら、彼女との相部屋っていうことにはできないかな? もちろん部屋代は相応なものを支払うよ」

 

「相部屋は問題ありませんが……」

 

「ちょ……ちょっと待ってください、なんで私抜きに話を進めているんですか」

 

 普通は宿泊するはずだった自分の意見が優先されるべきではないだろうか。なんだかこの島への来訪は彼が計画してきたかのように思えてしまう。

 

「どのみち一緒に行動するのだし、同じ旅館に泊まれるに越したことはないだろう?」

 

「そ、そうだとしても、年の近い男女が一緒の部屋は……」

 

 いくら自由でトラブル生産機で頼れる同僚だとしても、やっぱり線引きというものは必要なもの。そもそも恋人でもないのに、一晩だけとはいえ同じ部屋で布団を並べて寝るのは……。

 

「まあ、本音としては部屋を見せたいっていうのが一番なんだけどね。この喜びと愉悦感を誰かに伝えたいのさ」

 

「ちょっとは身構えた私の気持ちも考えてください」

 

 特に理由はないけど、少し腹が立った。

 

 

 

「いやー、結果的に君の分だけ元の料金で、儲けたものだよ」

 

「そんなふうに言うんじゃありませんよ。善意で食事まで追加で用意していただいたんですから……」

 

 それでも泊まっていただけるのなら、ということで女将のご厚意によってお値段はそのまま、夕食も部屋相応のものに切り替えるとのことで、少し申し訳なく思いつつも断るのも逆に失礼だと思い、その厚意に甘えることにした。

 

「まあ、君としても経費の無駄遣いはしたくないだろう? 願ったりじゃないか」

 

「釈然としませんけど……せっかく泊まれますから、しっかりと堪能しませんとね。旅館は本来そう言うものですし」

 

 女将に案内された部屋は、それはとてもすごかった。事前情報では部屋付きの温泉がある、広い程度しか知らされていなかったが、想像したものと実際に目にしたものとではまるで違う。二人どころか詰めれば五、六人程度なら布団を敷いて寝られるほどの畳のスペース。海に面していて開放感が抜群の木で組まれた露天風呂。細かな部分でも凝った作りになっていて、一般客が泊まるような部屋ではないのは一目瞭然だった。

 

「……いくらしました?」

 

「いやあ、わき腹をつねられながら話せることじゃないなぁ」

 

 私の分だけでも宿泊費を抑えてくれた女将に感謝しつつ、あまり多くない荷物を降ろしていく。

 今は余分な荷物を部屋に置いていくだけ。今日は夕暮れまで島中をめぐって、療養に来た兵士たちを受け入れてもらえるよう他の旅館の責任者と交渉する。もちろんこの島以外にも、様々な島で受け入れ先を探すつもりだ。あれだけの兵士が一気に押し寄せたら多大な迷惑をかけてしまう。

 

「さーて、それじゃあさっそく温泉街に……」

 

「駄目ですよ、まずほかの旅館へ伺わないと」

 

「いやいや、街にどんな店があるのかも重要な調査点だよ。一日中あちこちにある温泉にずっと浸かっているわけでもないだろうし、土産ぐらい何があるか先に見ておいても損はないと思うね」

 

「ではその時に買う饅頭は、私の分もお願いしますね?」

 

「……夕食が入らなくならない程度には」

 

 最終的に、旅館に向かう途中で少しだけ覗いておくという方針に定まった。

 

 

 

「――では、以後お見知りおきを」

 

「はい、またいつか機会があったら」

 

 これは別の旅館の責任者とのやり取り……ではない。移動中に通りかかった温泉街で、お忍びで来たある国の王族に発見され、急に外交じみた応対をせざるを得なかったのだ。

 

「ようやく解放されたね」

 

 背を向けて離れていく王族たちの姿を見ながら、少しばかり楽しそうな口調で彼が言った。

 

「びっくりしました……国の王様が観光しているなんて」

 

「君もポジション的には、対等だと思うけどね」

 

「ですが、あの様子は……」

 

 下手に出て、少しでも相手に印象よく覚えてもらおうとする魂胆が見え隠れしている、外交慣れしていない人の顔。挨拶をお付きの従者に任せた方がよかったのでは、とも思ってしまった。

 

「ああ、ハナから軍事力目当てに友好的接触を図ってきたんだろうね」

 

「以前の戦いで帝国と連邦双方の目に入りましたからね……、もちろん私たち以外の軍も獅子奮迅の活躍でしたけど」

 

「まあ、最近まで戦乱が絶えなかったわけだったからね、我々の国は。有事の際には救援に来てもらおうと今のうちにコネを作っておこうというワケだ」

 

 実のところ、今のような直接的な手段ではないけれど、以前までは接点すらなかった国々から国交樹立を前提とした文書を送られるようになった。兵力という点で見れば確かに多いが、他国へ安易に派遣できるわけではないのを理解しているのだろうか。

 

「たとえ我々が兵を出さずとも、同盟国になっているっていう事実だけで対立国は足踏みするだろうね。音頭を取って、帝国と連邦と闇の後継者とともに戦ったわけだから、小国ではそれぞれ対等とみられるかもだ」

 

「そうやって取り入ろうとするのはどこの国でもやっていますけど、あんなふうに丸分かりとなると……少し……」

 

「顔には出さないように」

 

「分かっていますよ」

 

 これでも過去に戦い方以外にも人付き合いも教えられてきた。作り笑いは慣れている。

 

「さて、それじゃあ気を取り直して……おばちゃん、このまんじゅうを一番大きい箱で二つと、一つ入ったものを二つくれないかな?」

 

「はいよ! お連れさんなんだか難しい顔してるから、オマケにもう一個つけてあげるからねぇ」

 

「何が気を取り直して、ですか。そ、それと良いですよオマケなんて……」

 

 場の空気を読んでいるのかいないのか、土産屋のおばあさんが白い魔道士に一つ多めの温泉まんじゅうを渡した。

 

「いいのいいの。お兄さんは美形だしお嬢ちゃんは別嬪さんだし……あっ、新婚さんだったかね?」

 

「あっ、やっぱりそう見える?」

 

「違います、違いますから!! それとあなたはなんで満更でもないような反応なんですか!」

 

 婚約をする。それは一般人と私の立場とでは、意味合いが大きく異なるものだ。当然今の私には婚約者はおろか、恋人すらいない。もちろんそんなことを土産屋の人が知るはずもないのは百も承知。しかし反射的に全力で否定していた。

 

「ありゃ違うのかい? 仲良さそうにしていたから、そうなのかと思っちゃったよ」

 

「同僚、ただの同僚です。仕事の関係で一緒なだけですよ」

 

「いやー私としては全然構わないのだけぶふぉう!?」

 

「あなたはちょっと静かにしてください」

 

 商品棚に置いてあった白猫ぬいぐるみを投げつけて黙らせた。モデルはたぶん、あの飛行島のおしゃべり子猫だと思われる。あの子がモデルになったものは、いろんな島で見かける。

 

「店の物投げちゃだめだよー」

 

「も、申し訳ありません、つい……これも買わせていただきます」

 

 粗相をしでかした以上、私も何か買わなくては。このぬいぐるみはキャトラにあげてみるのもいいかもしれない。モデルとなったあの子なら何か面白い使い方をしてくれるだろう。

 

 

 

 そして島中をめぐってすっかり日が暮れて、交渉もかねがね順調に進んで元の旅館の客室に戻るとき。

 

「あっ、お戻りですかお客様」

 

 旅館の受付で、最初に対応した女将が呼び止めてきた。

 

「御夕飯の準備ができておりますが、早速お部屋の方に運んでもよろしいでしょうか?」

 

「ああ、なるほど……あなたはどうします?」

 

「んー、少しだけ時間を空けて貰いたい。先に風呂に入りたいからね」

 

 一応聞いてみたが、彼の提案は私も同意だった。寒いとはいえ、歩き回ってそれなりに汗をかいている。以前この島で着た『めいせん』という着物もこの旅館でも着られると聞いたし、夕食は着替えてからがいい。

 

「では、お着換えの方を先にご用意しますね」

 

 そう言ってパタパタと履物を鳴らして、女将は他の仲居とともに奥に行った。

 

「それでは……部屋の温泉、どちらが先に入ります?」

 

「えっ? 一緒に入るんじゃないのかい?」

 

「……えっ? ごめんなさい、もう一回言ってください」

 

 単なる私の聞き間違いだったのか、もう一度聞いてみる。

 

「だから私と君とで、二人で入ろうかって言ったのだけれども」

 

「……」

 

「ああ、もしかして二人とも入っているときに旅館の人が来たらどうしようって思っているのかな? その心配はないよ、部屋と外を分ける障子があるから、閉じておけば見られないさ」

 

「そういうわけではありませんっ!」

 

 顔全体を真っ赤にして、私は叫んだ。

 

 

 

 彼の混浴の提案に下心がないのはわかっている。少しでも私と話をしたいがための、単なる思い付きに過ぎないのだ。今まで何人か女性側から告白を受けたことがあるとの噂があるものの、彼の身の回りを見るに全部断っているようだった。

 ……そして、結局。

 

「あ~……いい景色いい景色。一仕事終えた後の風呂は最高だ」

 

「年寄り臭いですよ……それにしても、私はいったい何を……。断り切れないなんて……」

 

 今日は満月。空は晴れ渡っており、月の光が海面に反射してキラキラと静かに輝く。柵が腰に届かないほどととても低く、湯船に浸かった状態で海が見える。もし船で外から見ている人がいたら、私たちの姿は丸見えとなるのは明白だった。

 そんな秘匿性など微塵もない露天風呂で、タオルを隠すべき場所を隠しただけの男女が一緒に湯につかる。少し前の密談以降、徐々にではあるが親睦を深めてきているけど、一緒に温泉に浸かるなんて飛躍しすぎでは。知人というくくりでは絶対に到達しない領域と思うのは私だけ?

 

「それと、もうお酒を飲んでいるんですね」

 

 熱い酒が入った瓶をのせた盆が、湯面にぷかぷか浮いている。湯船の反対側で飲んでいる酒の香りがここまで届くところを見ると、かなり度数が高い様子。

 

「一度やってみたかったからね。食前酒というやつさ」

 

「まああなたなら、多少飲んでも潰れるなんていうことはないでしょうけど」

 

「そういえば君は逆に全く飲まないね。下戸だったりするのかい?」

 

「どう、なんでしょう……飲んだことがないので。まだ早い気がする、と表せばいいのか……」

 

 勝利の宴などで酒がふるまわれることは良くある。だけど私はそれに手を付けたことはなかった。大体二十歳前後から飲める年齢といわれているけれど、試そうと思ったことはなかった。

 そもそもの話、急に作戦会議が行われるときに、酔っ払ってまともに策が練られない軍師など置物同然。兵士や将軍には酒が必要だが、私には必要ないものだった。

 

「……後で飲んでみる、というのはどうかな?」

 

「え」

 

「追加でお酒運んでくれるらしいし、この後の食事でと思ってね。どのぐらい酒に強いのかどうかというのも、私も気になるところだし」

 

 ……確かに、飲んだことがないから強いのかどうかもわからない。それにいざ祝宴の場で飲まざるを得ない状況になった時、飲める量を把握できないが故に迷惑をかけることもあり得る。それならいくら迷惑かけても問題なさそうな相手がいる状況で、一思いに飲んでみるのが一番。

 

「……では、度数が低いもので。本当に試すだけですからね?」

 

「介抱がいるのなら手を貸すよ?」

 

「大丈夫ですよ、止め時ぐらい自分で決められますから」

 

 要は酔ったと感じたら止めるだけの話。自制心ぐらい私にも身についている。仕事の合間に飲むような男とは違うというところを見せつけてやらなければならないのだ。

 

 

 

「え―――っ! まだ飲めますからぁ~」

 

 私から酒瓶を奪う冬の魔道士に抗議する。まだまだ大丈夫だというのに、ひどい男だ。

 

「君は止め時というものを学ばなければならないよ! そもそもこれは私が今日のためにキープしておいた銘酒だからね! 君といえども渡せないな」

 

「だってまだ、ほら、ほっぺたちょっとしか赤くなっていませんよ?」

 

「顔全体真っ赤だね。百人中百人が泥酔していると判断するよ」

 

「ご飯がおいしくてお酒が進んじゃうんですー……」

 

 お風呂から上がって、料理が運ばれてきて。彼に見守られる中初めて飲んだ酒はおいしくて、箸を進めつつもどんどんと飲めてしまうものだった。着替えた『めいせん』が着崩れてしまったが、気にするほどでもない。

 

「……君はどうやら酔うと性格が変わるタイプの人間のようだ。しかも酔っぱらうまでの許容量が少ない。勧めておいてアレだけど、今後は人前で飲むことはないようにするべきだね」

 

「だから酔っていませんって―……あっ、あなただけお酒を飲むんですか?」

 

「恥をかかない程度に酔える量を把握しているからね。経験経験」

 

 グイっと酒を呷る彼を見て、私は理不尽さに憤慨した。二人で飲めばいいのに独り占めしているのだ。

 

「隙ありっ!」

 

「んぶふっ!?」

 

 座卓を飛び越えて、酒を口に含んだままの彼に飛び掛かり、押し倒す。机の上の空の瓶が倒れて箸が転がり落ちるけど、それはどうでもいいこと。

 何が何でも渡さないというのなら、私の方も手段を選ばない。亡き君主に散々振り回されて鍛えられた軍略構築力を舐めないでほしい。

 

「いただきます……んー……」

 

 彼がまだ口に含んだままの酒を、直接口づけをして吸いだす。出来る限り多くこちらが飲み込むべく、唇をこじ開けて舌を差し込み、彼の口内を舐めまわす。

 酒がなくなるまでの間、じゅるじゅると音を立てて、私は彼に覆いかぶさりながら自慢の銘酒というものを味わった。

 

「ぷはぁっ……あ……」

 

「……君は本当に……自分のしたことが何なのか、分かっているのかい?」

 

「あなたが今更、口づけ程度に反応するなんて、一緒にお風呂に入ろうーだなんて提案してきた人と同じだとは思えません」

 

 それに何人も他の女性から告白を受けておきながら断っている前歴があるところから、恋というものに無関心か、すでに理想の相手が存在するかのどちらか。私なんかが彼の眼中にあるはずもなく、どうせこの暴挙もさらりと受け流すはず。

 

「女性の対応の仕方には慣ているんですよね? だったら私のだる絡みぐらい、付き合って貰いますよ」

 

 そんな思惑もあって、酒の勢いに任せてこうして彼に抱き着いている。誰にも見せられない、何も着飾らない。ひょっとしたらこれが本来の私、リーランの姿かもしれなかった。……キス魔、という意味ではない。

 表情が見えない彼の上でぐずるように頬を擦り寄せていると、何か思うところがあったのか、私の頭を撫でながら聞いてきた。

 

「飛び掛かって無理やりキスをする女性は君しかいないと思うよ。そういうのは大切にしなきゃ」

 

「とっておいても口づけをする相手なんていませんから……」

 

「逆に言えば私ならよかったってことかい? お付き合いの話とかは?」

 

「一応来ましたけど……私にそういう存在ができたら、今までと同じようには生きられません」

 

 恋人になるということは夫婦になることも視野に入るわけで、国を守る立場である私には縁がない存在だった。何よりほかの島から婚約の話が持ち上がったこともあったけれど、どれも相手方に有利な政略結婚じみていてうんざりしながら断ったのは記憶に新しい。

 そのためどちらかというと、作れないというより作らない、というのが正しいと思う。

 

「君の考えていることはわかるさ。立ち位置的にまともな恋愛ができないだろうということもね。それでもって近づく男はみんな、腹に一物を抱えている」

 

「……」

 

「……まあ、それはそれとして、少し嬉しいかな、私は」

 

「……あ、えっ?」

 

 いきなり好意的な反応が返ってきたので、酔いもさめて彼の顔を見上げる。

 

「酒精で頭がのぼせている状態とはいえ、あれだけ激しいキスをしてきたんだからね。それだけ受け入れてくれているってことだろう?」

 

「……そういうもの、ですか?」

 

「じゃあ別に好きでもない男に、君は進んで接吻するというのかい?」

 

「し、しませんよ! ……でも、確かにあなたのことは、多少気を許しているつもりです。けど、困らせようって思ってやったことですから……」

 

 だんだんと冴えてきた頭で自分がやらかしたことを振り返る。一緒の部屋に泊まったり、風呂に入ったり、飛びついて彼の口から酒を吸い出したり。……半分以上はこの男から振ってきたことだったけど、最終的に決めたのは私だった。

 

「ふぅん……なら、こっちの本音を話すとしようかな」

 

「本音?」

 

「さっき女慣れしているくせに、みたいなことを言っていたけど、私は女性とは今まで手をつないだことすらないからね。君以外は」

 

「……はい」

 

「それでせっかくの誘いを断っている理由についてだね。まあ一応、好みの女性というのがあるわけでね」

 

「……はい」

 

 大方予想通りだった。しかし彼の好みというのはイメージしづらい。王に仕えるのが好きだとは言っていたけれど。

 

「前にも言ったと思うけど、私は善き王が好きでね。女性だったら今すぐ求婚したいくらいに」

 

「……はい。……はい?」

 

「つまるところ、君が一番私の理想に近いんだ」

 

「…………」

 

「……言いたいことは、分かるね?」

 

 途中から顔が熱くなってきて、それを見られないように首を動かしていた。遠回しに、というより、ほぼ直接好きだと言われて、あからさまな反応を晒さないための訓練はしたことはない。

 

「……理解はしました。でも、なぜ今まで黙って……二人だけの時は何度もあったのに」

 

「前に君のことを仕えるべき王と仰いだうえ、今しがたあんなに熱烈なキスをされてしまっては、抑えも効かなくなるというものさ。元王女という肩書だけでもぐらっと来ていたのに」

 

「……ひょっとして、あの時格式めいた誓いを立てさせたのは、私を理想の女性像に近づけさせるために……?」

 

「さあ? そこのところの真実は、溶けない氷の中ということで」

 

 胡散臭く思うが、あの時肩にのしかかっていた重圧を和らげてくれたことは事実。よって、当時の企みの真実に関しては究明しないことにする。

 

「……さーて、こちらの手札は全部見せたよ。君はどうなんだい?」

 

「……私は」

 

 彼はいい人だ。性格は多少マイペースな部分もあるが、好きな人を見据えたうえで貫き通す誠実さもある。学校のことも、国の行く末を考えての事なのだろう。国に仕える人間としては、苦手と感じていた頃からそれなりに尊敬もしていた。

 でもここまで来ても、私はまだ迷っている。普通の人よりは密接にかかわっているとはいえ、一歩先に踏み出してもいいのだろうか。

 正直、怖いと思っている。大事な人がいなくなる悲しみを知っているから、それを押し殺す苦しさを知っているから。お互い戦線立つこともある職柄、繰り返される可能性ばかりを考えてしまう。

 我ながら情けない。立場がどうとか言い訳をして、結局失う怖さで身を固めずに何もできない。

 

「踏ん切りがつかないなぁ」

 

 ――そんな逡巡を見透かされてか、彼が私を抱えたまま体を起こして。

 

「それとも、すこし強引に攻めた方がいいのかな?」

 

「せめ……んっ!?」

 

 無理やり私の顔を自分に向かせると、有無を言わさず自分の唇で私の唇を塞いだ。

 さっきの私の悪ふざけとは比べ物にならないほどの、とても熱がこもった口づけ。離れようと腕に力を籠めるが、魔道士とは言え男女の力の差は覆せず、意趣返しと言わんばかりに舌を絡められてしまう。にゅるにゅると口の中で舌が激しくうごめくたびに、自分の意思に反して体をはねるように震わせてしまった。

 

「んん……んっ、く、はあ、けほっ……そんな、いきなりなんて……」

 

 せき込みながら非難するが。

 

「どの口が言っているのかな?」

 

 あっさりと言い返されて、体を起こされる。そして少しだけ考えるそぶりを見せて。

 

「……君の心配事は、たぶん杞憂に終わるよ」

 

「……っ、なぜそう言い切れるんですか?」

 

 見透かされていることには今更驚かない。でも心配無用と言い張れる根拠がわからない。

 

「簡単な話さ。私が君を守る、そして君は、こっちを守ってくれれば済む話さ。恋人って、そういうものだろう?」

 

「……ふっ、ふふふふ……なんですか、それ? 理論もへったくれもありませんよ?」

 

 彼からそんなカッコ悪い言葉が飛び出してくるとは思わず、つい笑ってしまった。

 

「……でも、そうですね。それなら、安心できますね」

 

 カッコ悪いけれど、踏みとどまりたい気持ちが取れた。失うのが怖いのなら、失わないために戦う。国を守っていた今までと同じことだというのに、なんで気づかなかったんだろうか。

 

「なら、ええ、お付き合い……していただけますか?」

 

「おおっ、いいのかい? 凍らせることぐらいしか能のない魔道士だけれど」

 

「この場において謙遜ですか? あれだけ私に好きだと言い放っていたのに?」

 

「不遜な態度でアピールするよりかは、はるかにましだと思ったんだけどね」

 

 微笑みをかけながら、彼は私の膝下と背中に腕を通して――いわゆるお姫様抱っこをして――ゆっくりと立ち上がる。

 

「……さて、このまま布団に運んで、と言いたいところだけど」

 

「ふ、布団に……でも……」

 

 お互いに好きだと暴露した後に布団行くなど、これから情を交わすと言っているようなもの。心の準備なんて出来ていない。

 

「皿を片づけてもらわないと敷けないし、旅館だと汚すと迷惑がかかるからね。……そこで、いいことを思いついたんだ」

 

 そう言って彼は、ある場所に足を運んだ。その場所とはほとんど距離はない。何ならもう見えている。

 海から丸見えの、あの露天風呂に。

 

 

 

「さっきは隠れていたけど、とても美しいよ」

 

「そ、そうですか、ありがとうございます。でもあまり……見ないでください……」

 

 顔を真っ赤にして、私は湯船の中で局部を腕で隠していた。お互いに服を脱いでいる最中に、さも当然のように「タオル? いるのかい?」と言って全裸でお湯の中に浸かっていった彼を見たら、それが礼儀のように思えて渋々何もまとわず外に出たのだ。お湯に入ってすぐ、タオルなら後から取ればよかっただけだと気付いたが後の祭り。こうして自身の肌を余すところなく彼に見られている。

 

「……随分と鍛えているんですね」

 

 先ほどの入浴時は向かい合っていたが、今度は肩がくっつくぐらいの近さで隣り合ってお湯に浸かっている。視線を右に向けて、下の方になるべく向けずに彼の体を観察した。抱きしめられたときに薄々感じていたことだったが、魔道士にしてはだいぶ筋肉がついて引き締まっている。

 

「呪文を唱えるのって面倒だし、杖に氷まとわせて殴ったり切り付けた方が早いだろう?」

 

「あなた宮廷魔道士で魔法学校の教師ですよね?」

 

「何だったら剣のほうが扱いなれているさ。……まあ」

 

 彼は私の手を取って、お湯の中のある部分にまで導いた。

 

「こっちの扱いは、まるで慣れていないけど、ね」

 

「あっ……こ、これって……」

 

 導かれた先で、指先に固いが柔らかい、不思議な感覚が生まれる。彼の股間から起立する塔のようなものを、確かに自分の指で触っていた。まだ直接目にしてはいないけれど、それが何なのかは一瞬で理解できた。

 

「君の裸を見た時から……随分とゴキゲンになってね」

 

「知識は、あります。でもあなたが、私でこんなに大きくするなんて……」

 

 性に関して無関心そうだと勝手に判断していたが、その認識を改めなければいけないらしい。むしろヤル気満々の様子。

 

「男は好きな女性の前では、獣になるときもあるということだね」

 

「あなたが獣に……こんな状況でも想像ができません」

 

「雪山をさまよう獣は、とても貪欲で積極的なんだ」

 

 ちゃぷんと水音を立てて、彼は左腕を私の体に回し、抱き寄せてきた。もはやわずかな吐息さえ聞こえる位置まで密着することとなり、お湯の温度以外の要因でのぼせてしまいそうになる。心臓の鼓動が相手に伝わっているんじゃないかと思うほど、強く速くなっているのを感じた。

 

「……自慰の経験は?」

 

「き、聞くんですか……。時々……ほ、本当に時々ですよ? ストレスが溜まった時とかに発散の目的で……」

 

「うーん、人恋しさに耐えかねて、ではないと」

 

「大体、想起する相手がいませんでしたから……ああもう、恥ずかしいこと言わせないでください!」

 

「しー……部屋で片づけてくれている仲居さんたちに聞こえるかもしれないよ?」

 

 言われてはっと口を紡ぐ。露天風呂に移動する際に彼が「夜風に当たってくるので片付けをお願いします」という旨の書置きを残していったのだ。時々覗きに来るからいずれ気づくだろうと予想しての事らしい。そうして、目論見通りに現在部屋の中で散らかった食器を一生懸命片づけて貰っている。露天風呂にいると知られたらなんと思われるか。

 

「……なぜそんなことを知りたかったんですか?」

 

「だって本番に行く前に、濡らしておかないとだめだろう?」

 

「ぬら……ひゃあっ!?」

 

 破廉恥な質問をされ、恥じらって動揺した不意を突かれ、彼が空いていた右手を私の太腿の間に割り込ませてきた。指の腹が私のとても大事なところを擦り、ビリビリした刺激に襲われて腰をはねてしまう。手で隠していたのになんという技量。

 

「無知の状態で事を急いては、負担が多いと思ってね。念のため確認したかったのさ」

 

「それと今の不意打ちは関係ないでしょう……っ!」

 

 大声を上げるわけにはいかないので、声量を抑えながら語気だけを強める。

 

「ここをこう……指を入れてほぐす……だったかな?」

 

「あっ、あっ、嘘……指が……」

 

 自分でも触れる機会が少ない陰唇を広げ、露わにされた膣内に男性の指が少しずつ侵入してくる。私と比べて彼の指は少しざらざらしていて、ただ入ってきているだけなのにすでに敏感になっている秘部には強すぎる刺激だった。ほんの数ミリ奥に進むだけで肩を震わせてしまい、悲鳴を上げないように自分の指をかんで耐え忍ぶことしかできない。

 

「痛いかい?」

 

「……痛みでは、ありません。でも……こんなの、初めてです。一人の時は、こんなにはならなかったのに……」

 

「……おっ、奥がぬるぬるしているね。どうやら、感じているようだ」

 

「ひっ」

 

 感覚から第二関節ほどしか入っていないはずの指が、私の中をクニクニと、まるでマッサージするかのように曲げ伸ばしてくる。お湯の中の事なので聞こえるはずがないのに、クチュクチュと粘性の水音が聞こえるような気がした。

 

「どんどん、愛液が出てくるね……湯の中でもわかるよ。動きがスムーズだ」

 

「そんな……こんなにすぐ、蕩けさせられるなんて……」

 

 一分も経たずに、指の動きだけで感覚が昂らせられ、追い詰められていた。一人でしていた時は、こんな事一度もなかったのに。

 

「締め付け、強いね。もしかしてイキそうなのかい?」

 

「ダメ……とめ、てくだ……あああ……っ!」

 

 私が音を上げそうになると、この男は一層指の動きを深く、強くしてきた。指は根元まで埋まり、より敏感な部分を探り当てようと蠢いている。しかも先ほどから膣以外でも、最も敏感な陰核を見つけだして執拗に表面を親指で優しく擦ってきている。上下に動くたびに電流が走るように快感が与えられ、反射的に何かを掴もうと手を握りしめる。

 が、その行動はお湯が指の隙間から逃げていくだけ。仕方なく、私が悶える原因を作っている彼の右腕に抱きしめるように掴まり、この時間が過ぎ去るのを待つという選択をした。

 

「……随分とアツいね、君から離れないようにするなんて」

 

「あな、たがぁ……激しく、するからでしょう……!」

 

 より密着する体勢になったため、彼が話すとすべて耳元で囁かれる形になってしまう。吐息混じりの囁き声が右耳に当たり、なおさら彼と密着している事実を認識させられた。

 

「だめっ、耐えられ……い、イクッ、イキますからぁ……!」

 

「ああ、存分に達するといいよ」

 

 私の性感が頂点まで高まり、それに合わせて彼が私の弱点を探り出して二本の指で力強く押し上げた。

 

「イッ……イ……~~~!!!」

 

 下腹部で積もり続けていた快感が、風船が破裂したかのように一気に解放される。腰を痙攣で激しく震わせ、ちゃぱちゃぱと湯面を波立たせた。

 絶頂の瞬間に慌てて口に手を当てて声を抑えたが、身じろぎした時に発生した水音は、部屋にいる人に私たちの存在を知らせるのには十分なほどの大きさだった。そんなことを気にする余裕は、まったくなかったけれど。

 

「―――――ぁ……はぁ……あ、ああ、う……」

 

「戻ってこられたみたいだね、大丈夫かい?」

 

 呼吸がようやくまともにできるほどに落ち着いたのを見計らって、指を引き抜いた彼が問いかけてくる。

 

「大丈夫に見えますか……?」

 

 お湯の熱さと興奮で心臓が胸から飛び出しそうなほど激しく脈打ち、無理に声を抑えようと息まで止めていたため酸欠寸前だったから、並みの戦場でさえこうはならないだろうと思えるほど疲弊していた。

 

「確かに見えないけどね。だけどここで気張ってもらわないと、こちらも持てあますところだからね」

 

 そうだった。これはまだ前哨戦に過ぎず、これから本戦に臨まなければならない。休む時間というものはない。

 

「……部屋の方は静かになったね。布団を敷き終わって出ていったのかな?」

 

「なら……部屋に移動して……」

 

「いいや、このままここで全部済ませるよ?」

 

「え……え?」

 

「布団は汚したくない、そう言ったじゃないか」

 

 そう言って彼は滑り込むように背後に回り、私の脇の下に回して立ち上がらせた。裸の姿を見られているというのは、お湯の中と外では羞恥の加減が全然違ってくる。背中側からとはいえ、今すぐタオルで隠したいぐらいに。

 

「あ、あの……」

 

「君はどうやら男のモノを見るのに、抵抗感があるようだからね。これから私が言うことの通りにしてくれないかな?」

 

 わざとらしく囁いてきて、その内容に頭がくらくらした。本当にするのかと聞こうとするものの、口をパクパクさせるだけしかできなかった。

 

 

 

「きれいなお尻だね。触れることすら憚れるほどに」

 

「見られてる……私、見られてる……」

 

 私が男性器を見ることに躊躇していたのを見計らって、彼は見えない体勢をとらせた。具体的には湯船の中から海に面する柵に手をつき、彼に向けてお尻を突き出すような恰好。当然だけど物凄く恥ずかしい。

 

「ぬるぬるしたのが、ずっと滴っているよ。太腿を伝って……お湯の中に溶け込んでいく」

 

「実況はいいですから、早く済ませてください!」

 

 至近距離でずぶ濡れの割れ目を眺めているのだろう。後ろは見えないためその様子は想像することしかできないけど、想像しただけで下腹部の奥がきゅん、と疼いてしまう。あの指以上に深く、太く、熱いものを欲していた。

 すっかり私は、情交の虜になってしまっていた。指だけで狂わされたのに、本来入れるべきものを迎え入れたらどうなるのか……そんな爛れた欲望が胸の内側で渦巻いている。初めては痛いという知識は、一旦脇に追いやった。

 

「随分と欲しがりになったものだね、この女王様は。と言っても待たせるつもりはないけどね」

 

 そう言い放って彼は私の陰唇を指で広げて、まだ全貌を把握していない男性の象徴を、涎のように滴る愛蜜にまみれた入り口にあてがった。

 先端が触れただけなのに、火傷しそうと思えるほどの熱量を感じた。

 

「……一瞬で、貫くよ?」

 

「は、は……い……」

 

 声を強張らせつつ返答し、柵を握る手に自然と力がこもる。せめて破瓜の痛みに声を出すまいと、歯を食いしばり――。

 

「――いっ、はっ……あ、ぁああ!?」

 

 ズンと下腹部に衝撃が走り、生まれたのは激痛――ではなかった。

 いや、確かに痛かったけど、彼の先端が私の子供の部屋を小突いたとき、強烈な快楽が襲ってきた。心の準備をしたつもりだったのに、のけ反ってはしたない悲鳴を上げてしまうほどに。

 

「す、すごい反応だね。それほどまで強烈な痛みが?」

 

「あうっ、うぅぅ……ち、違います、ただ刺激が強くてびっくりして……」

 

「……続けても、大丈夫かな?」

 

「お願いします。ここでやめるわけには、いきませんから」

 

「なら、お望みのままに」

 

 両手で私の腰を掴み、彼は動きを再開させた。最初ほどの勢いではなく、ゆったりとした腰使いで灼熱の棒を抜き差ししてくる。キノコの傘のような部分が出てしまいそうなまでに引き抜かれたと思いきや、今度は膣奥を抉るように突き込む。

 

「ああぁ……」

 

 ずぷん、ずちゅっ、じゅぶっ。そんな卑猥な音の発生源が自分だというのに、羞恥を感じるよりも幸福感で満たされていた。一突きされるたびに体が歓喜で震え、引き抜かれようとするとせがむように膣圧を高めて、離れないようにと抵抗する。

 一連の反応は、すべて自分の意識外で行われていた。本能的に男性を欲している。

 

「柵から手を放して、体を起こしてくれないかな?」

 

「は、い……っくぅぅう!?」

 

 言われるがまま、温泉の熱とは別の要因の汗でまみれた体を起こそうとすると、胸に新たな刺激が生まれてくぐもった絶叫を口から漏らしてしまった。

 

「ううっ、乳首を摘まんだだけで……一気に咥える力が強くなった」

 

「ひ、卑怯です。何も声をかけずにこんな……あっ、あっ、ああっ」

 

 彼は腰から両手を離して、私の両胸をその頂を中心に弄り始めた。強く、だけど痛みがないようにやさしい手つきで、まるで弾力を楽しむように揉みしだく。

 腰の動きも止めることなく私のお尻に打ち付け、付かれるたびに子宮の入り口が押し上げられる。ギリギリまで引き抜いていたさっきまでとは違い、硬質化した肉の棒を奥に断続的に細かく突き上げてくる責めは、がりがりと私の理性を削っていく。

 

「っくふうぅ……っ!」

 

「ん? 反応が変わったね……ここが弱点、ということかな?」

 

「だ、だめ、本当に……うっ、くう、あっ、はぁあ……やぁ……乳首も……いやぁ……」

 

 とうとう特に敏感な箇所を特定されてしまい、私の変化に即座に気付いた彼は同じ場所を擦りつけるように容赦なく突き込む。

 うわ言のように喘ぎ声を口から涎とともに垂れ流し、それ以上の量の愛液を太腿や彼の男性器を伝って零れ落ちる。一滴一滴は私が悦んでいることの証。乳首は彼の手で本来の性器と遜色ないほどに敏感にされ、胸全体を両手で包み込むのと同時に指の腹で圧迫するように刺激する。

 そしてあの限界まで蓄積された快感が一気に解放される、あの感覚に近付いていることを悟る。それも指の時以上に凄まじい絶頂を引き起こす、そんな予感が。

 ――同時に、別の限界が近づいてきていることに、気づいてしまった。

 

「んぅ、はっ、で、出ちゃ、出ちゃいます……!」

 

「出るって……ああ、なるほど。それだけ気持ちよくなってくれていたんだね」

 

 言いたいことを察した様子だったが、それでも腰の動きは止めてくれず、むしろ速くなってきている。

 

「な、んで……止め……んぅっ!」

 

「ここは風呂場だよ? 多少の粗相はお湯で流せるからね。こっちももう少しで出そうだから、我慢がまん」

 

「出す……って、あ、ああっ、ふ、かいぃ……!」

 

 一番奥に出すぞという意気込みが感じられるほど、一撃が重くなって子宮を揺さぶられる。与えられる快感が強すぎて、人前ですることを憚れる“アレ”が目前まで迫っていた。

 嫌、したくない、見られたくない。私のそんな思いを拒否するかのように、彼の右手が胸から離れて、繋がっている濡れた入り口のすぐ上を摘まんだ。

 

「んやあぁぁっ!」

 

 触られ、興奮して散々に勃起してしまった陰核も弄られて、もう数秒も持たないと体が悲鳴を上げる。子宮が降伏し、それが呼び水となってずっとせき止めていたものが溢れ出し、決壊する予兆。腰の震えが止まらない、もう、我慢できない。

 

「わ、たし、もう、だめ……で……!」

 

「……うん、よく頑張ったね、一緒にイこう」

 

 耳元で、囁き声で彼は宣言する。なお速く、なお強く腰を打ち付け、最後の瞬間まで速度を緩めない。

 そして、その瞬間がついに来た。

 

 どくん、どぶっ、びゅるるるるるっ!

 

「んあぁ、ああああぁぁああ!!?」

 

 男性器の先端と、子宮の入り口が完全に密着した瞬間、どろどろの熱い、塊のような迸りが、体の奥の奥に吐き出された。どんどん体の中に注ぎ込まれる子種に、待ち望んでいたと言わんばかりに体は正直に答え、絶頂した。

 

 ぷしゅ、ぷしゃああぁ……。

 

 全身が多幸感に包まれて気を抜いた時、尿道から溜まりきっていた液体を漏らしてしまった。堰を切ったかのように出続け、止めようにも止められない。両足の間から流れ出る透明な液体を、眺めることしかできなかった。

 

「あ、あ、ああ……やだ、こんなの……」

 

 やってしまった、この人の目の前で。子供のように漏らしてしまったなんて。

 今にも子供のように泣きだしてしまいそうな感情とは裏腹に、子宮に流れ込む子種の熱に反応して、ぴゅっぴゅと透明な液体が小さな穴が噴き出す。心地がいい疲労感と解放感、そして罪悪感が頭の中で複雑に絡まりあっていた。

 

「……っく……ああ、気持ちよすぎて、しばらく動けなかった……引き抜くよ」

 

 膀胱の縮小が止まってようやく放尿が収まると、彼の方も出し切った様子で、肉穴を貫いていた肉の槍をずるりと引きぬいた。収まっていた性器の形に空いたままの陰唇から、とぷっと精液が垂れる。

 何気に初めて、直接目にする男性器。白色と透明の体液にまみれ、先端は赤く膨らんでいる。女性にはないものなので異質感はぬぐえないものの、雄々しさを感じられた。

 

「その……私……」

 

「漏らしたこと、気にしているのかな? たぶん尿とは違うから、あまり自分を責めなくてもいいと思うよ。私も気にしないから」

 

「理屈ではそうなのかもしれませんけど、感情は納得できません」

 

「それよりもササっと洗い流すとしようか。と言ってもほとんど湯船の中に垂れて落ちたから……時間がたてば薄まるかな」

 

 温泉旅館の温泉を盛大に汚すなんて、私一人だったら絶対にこんなことはしない。お風呂の中でシたいなんて言い、止めてと懇願してもむしろ全力で昇り詰めさせようとしてきたこの男が悪いのだ。旅館側に知れたら責任を全部押し付けてやろうと心に決める。

 

「……責任」

 

「ん?」

 

「こんなにたっぷり……垂れるほど注がれたら、赤ちゃん、出来ちゃうかも……って、思って」

 

「……そうかもしれないね」

 

 吐き出された熱が滞留する下腹部を、彼がそっとなでた。

 

「……国外から結婚の話も持ち上がったことがあって、宮殿で騒ぎになったことがありましたよね?」

 

「君は即決で断っていたね。あまり素性の良い国ではなかったから、当然と言えば当然だけれど」

 

「私が独り身である限り、そういうの、まだまだ来ると思うんです……だから」

 

「だから?」

 

「時期が来たら、夫として名乗りを上げてほしいんです。その日がいつになるのが、本当に来るかさえわかりませんけど……」

 

 自分でもいったい何を言っているのか。恋人になりましょうと言ってから一時間も経っていないのに。

 でも、仮に外見も内面も文句なしの男性が婚約してきたとしても、私はこの人以外を選ぶつもりはない。自分勝手に先回りして手提げ鞄を投げつけられる程度の人柄で、私には十分。

 

「夫はいいけど、君の夫っていうことは王様だろう? 王様は嫌だなあ、仕えるのが好きなんだ」

 

「王になれとは、一言も言っていませんよ? 私に頭を垂れて忠義を示した人にそんなことはさせません。……でも、今日のことは、ほかの方々には内緒に、ですよ?」

 

「漏らしたことをかな? 気にしてないって言ってるのに」

 

「違いますよ! あっ、そ、それもありますけど……とにかく、口外禁止、箝口令を敷きます!」

 

「それは効力あるのかい? 喋らないから安心すればいい。私の記憶にだけとどめておきたいからね」

 

「そ、それはそれで恥ずかしいです……」

 

 きっと一生忘れない日になる、忘れたくとも、忘れられない瞬間とともに。




 書き終わった直後に投稿したので、後半粗っぽいところがあったかも。誤字とか設定とか。あったらごめんね。
 最近は寒すぎてヒーターから離れたパソコンに座るのさえ「なんかメンドイ」なんて思ってしまって。ノーパソなんだから移動させれば済む話なんですけどね。
 時々ラノベとか携帯小説を読んで、文法とか語録を再学習しています。それがきちんと反映されているかはわかりませんが……。
 また長々と待たせることになるかもしれませんが、「あっ、あったなこんなの」程度に覚えてもらえたら幸いです。それじゃあ、また。
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