紐パンきつねの夏色ご奉仕 作:ナルキケーネ(ハーメルン支店)
フブキの淫靡な口技によって精通液を搾り取られたまつりは、発情促進剤のせいでムズムズしたままのペニスを勃起させる気力すら吸われていた。タイツのスケベ穴から陰部が出ないようにフニャチンを押し込み、スカートで隠す。
フブキが慌てて口をゆすぎ、身支度を整えたところでふたりの呼び出しが入り、流れるように収録が始まった。
打ち合わせ通りに、問題なく撮影が進んでいくが……仕事の進捗具合への安心に水を差すように、まつりの心にモヤモヤとした気持ちわるさが増していく。
「それじゃあですね……次は、有名なあの曲を歌っちゃおうと思いまーす!」
控え室では何事もなかったかのように、アイドルらしく振る舞っているフブキ。つい先ほどまで、淫魔のような表情を浮かべて、ペニスをしゃぶっていたとは思えない唇で……カメラの向こうにいるだろうファンたちに向かって、いつも通りの可愛らしい声を発していた。
「まつりちゃん、準備はいい?」
「……え? ああ、うん、もちろん……いや、まつりの立ち位置ここじゃねえや」
「おぉーいっ!? 何が『もちろん』なんだよっ!? まつりちゃん、しっかりしてくれ!」
「ごめんて~。さっき急に変わった部分だったしさぁ、これは仕方ないって」
「それを今ここで言うんじゃねえよっ!? もう収録中なんだからさ、頼むぜ!?」
おどけたフブキに肩を軽く小突かれただけで、倒れ込みそうになるような虚脱感に見舞われていた。
しかし、まつりはプロとして、その苦境を根性と空元気で乗り越える。きっと杞憂民には『なんか所々で元気なさそうに見えた』とか言われてしまうかもしれないが、スタッフには気づかれていない……まつりの全力で、どうにか撮影スケジュールをこなすことができたのだった。
――――――
番組収録を終えた夏色吹雪は、ふたりそろってスタジオを後にした。
とっぷりと日が暮れた夜空には、ちぎれた紫雲の向こうに、ぱらぱらと散った小さな星が見えていた。
まつりは、胸の中にあったモヤモヤとした気持ちを夜空の霞に重ねて、すんと唇を尖らせる。
「……まつりちゃん、どうしたの? さっきからずっと上の空だけど……収録で、なにかあった……?」
「大丈夫だよ、気にしないで。お仕事、あんなに上手くいったじゃんか……べつに、何もないよ」
「……嘘だ。何もなかったら、そんな……つらそうな顔、してないもん」
「……つらそう? まあ、そっか……そうかもね……」
まつりは自分の柔らかい頬に触れて、その強張った表情の固さを感じ取っていた。
その異常を見かねたフブキはまつりの手を取って、力が抜けていた腕を優しく引っ張った。スタジオから少し離れた場所にあった公園に入り、ベンチに横並んで腰掛ける。
しばらくのあいだ、お互いに何も言わず、ただふたりっきりの時間を過ごす。スマホも出さず、話題も探そうとせず……フブキは星空を眺めて、まつりの隣に寄り添い続けた。
「……なんで、何も聞かないの? フブキ、暇じゃないの……?」
キリがない沈黙に耐えかねて、まつりは重たい口を持ち上げた。
「んー……? まつりちゃんと一緒なら、退屈すらも心地良いものだからねぇ。これはこれで、よき、なのです♪」
こてん、とまつりの肩に頭を乗せて、しなだれかかるように体重を預けたフブキ。その表情は優しさと幸せに満ちており、憂いも後ろ暗さも感じさせなかった。
「……まつりちゃんが言いたくなるまで、ずっとここで待とうかな。白上にはさ、こんなことしかできないけど……まつりちゃんの力に、なってあげたいんだ」
「……フブキ……」
ぴょこぴょこと耳を動かして、寂しそうな首筋を温かくくすぐる。白毛から覗いていた誓いのリングが街灯に照らされ、オレンジ色に輝いていた。
まつりは迷いに震えた手で、フブキの肩を抱き寄せる。
その腕は、フブキを求める力を少しずつ強めていく。抑えが利かなくなるほどに、ギュっと、ひとつになろうとするように。
痛さを覚える強さで抱かれ、痕が残ってしまいそうな抱擁を受けても……フブキは、それを拒もうとしなかった。
「…………どうしたらいいか、わかんないことがあってさ……それで、ちょっと悩んでた……」
まつりは、フブキが自分から逃げ出さないことを確信してから……ぽつりぽつりと胸中を語り出す。
「……なにか、お困り事だったの?」
「困ってるっていうより……考えたいことっていうか、覚悟を決めないといけないことについて、迷ってた……かな……?」
「そっか……そのお悩みは……白上じゃ、力になれないことなのかい?」
「……どうだろ……? ある意味で解決してくれるかもしれないし、無理かもしれないし……結局、フブキのことだから……」
「…………やっぱり、私かぁ……。そりゃ、そうだよねぇ……」
フブキはある程度覚悟をしていたのか、悔しそうにまぶたを下ろす。
既に傷心の身であったため、できれば知りたくないことではあったが……大好きなまつりに、つらそうな表情をさせてまで、無意味な現実逃避をするわけにはいかなかった。
「……お口も、気持ちよくなかったんだよね……? ごめんね、無理させて……私、ホントにダメだね……」
「……ち、違うって……! その逆で……フェラが上手すぎたから、余計なこと考えちゃってさ……」
「えっ……? あ、そ、そっか……! それで、余計なことって……?」
酷く恥ずかしい勘違いをしてしまった。フブキはむせるようにこんこんと咳払いをして、あまり思い出したくないことを頭の片隅に追いやる。ご奉仕の不満が杞憂なら、フブキがその話題を続ける意味もないのだ。
「……フブキがさぁ……他の男のちんちんも、あんな風に……ずっぽり咥えてんのかなって……」
「す、するワケないだろっ……!? 生のおち……んちん……なんて……見たのも、触ったのも……まつりちゃんのが、初めてだよ……!?」
「……嘘だよ、そんなの……。手コキは絶望的にヘタクソなのに、フェラだけ上手いなんてあり得ないし……おじさんのくっさいチ×ポとか、無理矢理……しゃぶらされてるんじゃないの……?」
「されてませんっ!! アレは、その……まつりちゃんのために……ソーセージとバナナで……たくさん、練習したんだよ……! エッチな動画とか見ながらさぁ……!」
フブキは顔を真っ赤にして、恥ずかしい真実だけを告げた。恋すらもまつりが初めての相手なのに、性交渉なんて経験しているはずがなかった。
喉がひっくり返ったような声と、差し出されたスマホの画面に映されたアダルト動画の購入履歴を見たまつりは、そこに嘘がないことを察する……が、それと同時に、胸の中にあった引っ掛かりがズキズキと痛み始めた。
「えっと……まつりちゃんは、そんなことを気にしてたの……? それなら、安心して……」
「それだけじゃないよ……。まつりは……フブキが他人で汚されてることを想像して……ヤだなって、思っちゃったんだよ」
「……? それって、普通じゃないの……? 私は……まつりちゃんが他の人とエッチしてたら……イヤだと思うけど……」
「フブキはそう思ってくれて当然だろうけど……それ、まつりが言うのおかしくね?って話だから……」
『可愛い女の子が好きなのは知ってるし、スキンシップもいいけど……あそこまでベタベタする必要ないじゃんか……! あんなの……見てるだけでも、つらいよ……』
「……あー……そういうこと……かぁ……」
フブキは自分の言葉を思い返し、それがまつりを苦しめていたことを自覚した。
でも、どうしても、フブキは……あのつらさだけは、まつりにわかっていてほしかった。まつりの放蕩癖には、嫉妬というよりも喪失感に近い痛みを覚えていたのだ。
自分だけを見てほしかったから。他の女の子のことを『かわいい』って、『好き』って言ってほしくなかったから。
……まつりにも、自分と同じぐらいの純愛を抱いてほしかった。その我儘はフブキにとって、まつりを心の底から愛するために必要なものだった。
だからこそ、伝えたことを後悔するのではなく……まつりが感じた痛みを、自分の責任として胸に刻む。
「……おかしいよね……? フブキに我慢させておいて……まつりは、フブキの潔白を期待するなんてさ……我ながら、身勝手だなって思ったんだ」
「…………おかしくなんてないよ。だって……私は、まつりちゃんにそう思ってもらえて……素直に嬉しいもの」
フブキはまつりの肩に、うりうりと髪の毛を擦り付けた。
その甘ったるい愛情表現は、まつりの沈んでいた心にしっとりと沁み込んでいく。
「……フブキ……ありがと……」
まつりはフブキと頭を重ねて、お互いに身体を支え合う。
街灯に映っていたふたりの影は、いつしか……ヘンなかたちをした、ひとつのものに変わっていた。キスもセックスもしていないのに、相手の心がすぐ近くに感じられていた。
これから、いつまでも……何があっても、一緒に居たいと思った相手との時間を、ぴったりと重ねていた。
「…………うん……フブキのおかげで、やっとわかったよ……」
「んー……なにがー……?」
「……まつりは、フブキのことが好きだけど……〝アイドルの白上フブキ〟も同じぐらい好きだったから……男の影を感じたのが、ちょっとショックだったんだろうな……」
「あはは……! それって、なんだか……とっても、まつりちゃんらしい気持ちだよねぇ」
まつりの〝可愛いもの好き〟のことをよく理解しているフブキが苦笑する。
「いや、だってさ……考えてみ? 推してるアイドルが枕営業しまくってて、チ×ポしゃぶりまくってたらイヤじゃね……?」
「……まあ……それはたしかにイヤすぎるけど……」
フブキは『自分がそういうことをするような妄想をされていたのか』と気付いてしまい、ちょっと気まずい気持ちになっていた。
「でも……こうしてステージとカメラの外で……フブキの温かさを感じてさ……。フブキのこと、ここまで大切に想ってるって……わかっちゃったんよ」
「なんだよ~、今さらかよ~……! 私はこんなに……まつりちゃんのことを、一番に想ってたのによぉ~……」
「ち、違うんだって……! まつりにとって、アイドルってのは神聖なモンでさ……! べつに、フブキをそんなに好きじゃないとか、そういうアレじゃなくって……!!」
「うふふっ……♪ わかってる、わかってるってば。まつりちゃんが可愛いものを推す気持ちは、とっても大切なものだってわかってたし……だから、ずっと我慢できたんだから」
フブキのため息を間近で聞きながら、まつりは申し訳なさそうに本音を紡ぐ。
それが最適解ではないと自覚していながら、まつりには譲れないものがあった。
「……あのさ、フブキ……? まつり、これからも……可愛い女の子たちに、ちょっかい出すと思うけど……」
「……はぁ……。いつか、そう言うと思ったよ……」
フブキは両肩をがっくりと落として、自分が抱えていた我儘の贅肉を削ぎ落とした。
大切なのは、まつりを自分の思い通りにコントロールすることではない。まつりと一緒に幸せを感じて、ふたりとも笑顔でいることなのだから。
「それなら……白上も真似して、フラフラとどっかに行っちゃうぞ~? それでもいいなら、まつりちゃんも……」
「相手が可愛い女の子だったら、エッチまでしてもいいよ。仕方ないことだし」
「いいのかよっ!? 白上には、その感覚とユルさの方が不思議で仕方ないんだが……。まあ、こんな条件がなくても……OKは出すつもりだったんだけどさ……」
「……いいの……? フブキ、つらくないの?」
「そりゃ、そんなに良い気はしないけどさ……。そういうまつりちゃんだから、私を好きになってくれたんだし……私も、好きになったんだから……文句なんて言えねえさ」
フブキは諦めたように、ぺたりと耳をたたんだ。ほっぺたの熱さをごまかすように、ぷう、と頬を膨らませて。
そんな愛くるしい美少女の仕草が、見えていなくても簡単に、鮮明に想像できる。
それだけ心底から惚れている相手を、ちゃんと想えていることを自覚して、まつりが安堵の息を漏らした。
「は~……大丈夫だ……。フブキのこと……ちゃんと、死ぬまで推せるし……尽くせるわ……」
「……ん。私も、ずっと前から同じ気持ちだよ」
「……そっか……これが、フブキと同じ気持ちなんだ……。どんなに他人の精液で汚れていたとしても……フブキ以上に好きになる人、絶対できない感じ……」
「……だから、汚れてねえってのにさぁ……。まったく、まつりちゃんはお下品だよなぁ……♪」
感覚と価値観のズレは、一生合わないかもしれない。それでも、フブキは文句を言いながら……にっこりと微笑んでいた。
分け合った痛みが残した胸の疼きすら、この温もりの中では愛しく思えてしまう。
この胸を満たす、甘酸っぱくて、苦くて、ちょっとだけ痒くて……温かい気持ちのことを、きっと〝愛〟と呼ぶのだろう。
そんな、ちょっぴり照れくさいことを考えながら……フブキはまつりの身体に触れていた手で、まつりの手を握る。
「……まつりちゃん……」
「……ん……フブキ……」
どちらからともなく、その指を組み合わせて、絡ませる。
その探り合うふたつの恋心が、あまりにも初々しすぎたのか……街灯の明かりが顔を隠してしまった。
ほの白い星明かりだけが見守る暗い空の下でも、すぐ隣に貴女がいるから、怖くない。
これまで何百回も繰り返した恋人繋ぎよりも深く、ギュッと握り締めて……自然に寄せ合っていた唇で、深いキスを交わしたのだった。