新しい種類の騎士道がこの世に生まれた事は耳に入っていた。
それも高みから降臨された方が実際に訪れたその地に……
その新しい騎士道は疲れを知らず……
邪悪な存在の血と肉のみならず、魂の力をも相手に戦うのだ。
カルロスは下水道を100人程の兵士と共に駆けていた。
市街地と下水道の地図はダウンロードして既に把握・共有済みだ。
分析も終わっている。それに地下は
下水道を走り回るのはガキの頃盗みで街の衛兵隊に追い回されて以来だ。
地下下水道から市内に入れるポイントは38箇所。大半が鉄格子か警備ロボットに封鎖されているだろう。
警備ロボットやセンサーが警報を発出したら厄介だ。
だから鉄格子や合成コンクリートで封鎖されている場所を爆破で突破する。
隊を三つに分ける。
一つ目のα隊は陽動。合成コンクリートで封鎖されている箇所を派手に吹き飛ばす。その後は各所で仕込んでおいたテルミット爆弾を遠隔で起爆、市内を混乱させる。
必要ならば敵を狙撃して混乱を助長させる。
二つ目のβ隊は貴金属を保管している幾つかの銀行地下に穴を開けて強奪し、持ち帰る。
この仕事は手際と時間が勝負だ。
三つ目のγ隊は自分が直接率い、『干渉門』を開ける。
本国側で待機している軍勢を呼び込むまでが俺の仕事だ。
だが、ある程度の戦闘は覚悟しておかなければいけないだろう。
そろそろ分岐ポイントだ。
指示を出す必要がある。
「α隊は所定の場所に向かい任務を遂行しろ!」
「「「了解」」」」
β隊とγ隊はα隊と別れ、そのまま真っ直ぐに駆けていく。
β隊とγ隊はそのまま500メートル程共に駆けてゆく。
「β隊!健闘を祈る!」
「「「ハッ!」」」
β隊はγ隊と別れ、γ隊だけがそのまま走っていた。
目標は『干渉門』近くの地下施設だ。
鋼鉄と合成コンクリートで出来た障壁に道が塞がれている。
だから「溶かす」。
「戦闘工兵!」
カルロスに呼ばれた戦闘工兵は何やらタンク状の機器を背負っている。
戦闘工兵は火炎放射器にも似たその機器を使って障壁に対し、緑色のレーザーを扉状に当てていく。
ジジジと障壁が奥まで焼き切れる音が聞こえてくる。
やがて分厚い障壁には3人分はある扉大の大きさの穴が空き、兵士達が雪崩れ込んでいく。
門まで後800メートル
門まで後400メートル
門まで後200メートル
出口。
「全員止まれ」
カルロスの部下達はピタッとその場で止まった。
「シーカー、地上を走査しろ」
シーカーと呼ばれたその兵士は特殊な義体と義眼の持ち主で、地上の方を向いて辺りを歩き回った。
彼の義眼は広範囲のX線走査を用い、障害物の裏まで見通す事が出来る。
「武装兵375、歩兵戦闘車8、兵員輸送車12、機銃8、バリケードあり」
「狙撃兵は?」
「周囲のビルの屋上に20、対装甲部隊が2」
「じゃあ狙撃兵と対装甲部隊から潰していくか」
「二手に部隊を分ける」
「一隊とシーカーは出口に穴を開けて地下施設に出た後、そこから周辺のビルに裏から侵入し、屋上まで一直線だ」
「視界と射撃場所を確保しろ」
「もう一隊は敵の熱感知システムに見つからないように急襲可能なポイントまで隠密移動だ」
「戦闘工兵は指示があるまで出口の裏で待機」
「全員光学迷彩と消音モジュールを使え。状況開始だ」
兵士達はカルロスに言われた通りに動き出す。
一隊は裏口を蹴り飛ばしてビルに侵入すると、猛スピードで屋上まで駆け上がっていく。
屋上のドアが一斉に開く。しかし狙撃兵と対装甲部隊は気づけなかった。
裏から忍び寄った兵士達によってナイフで狙撃兵達の首が切られていく。
「「屋上の確保完了しました」」
「こちらも配置についた」
「α隊の合図を待つ」
1分が経ち、2分が経過した。
「5・4・3・2・1……」
街の各所で轟音が鳴り響き、幾つかの建物が崩壊する。
それを見た門の守備兵達は一瞬動揺し、隙が出来た。
「行け行け行け!!」
カルロスが率いる部隊は守備兵達の死角から殴りこんだ。
守備兵達は次々と銃弾に倒れて、高周波ナイフに切り刻まれていく。
カルロスは突風が葉や実を落とすかのように素早く敵兵の首を刈ってゆく。
守備兵達は見えない何かに仲間が撃たれたり首が落とされたりする光景にパニックになり、あらぬ場所へ銃を撃つ者も居たが、同士討ちに終わるだけだった。
守備兵達は極度の恐慌状態に陥り、戦闘の現場から逃亡する者さえ出た。
カルロスは屋上の兵達に通信を繋ぐ
「逃げる奴は出来るだけ殺しておけ」
「全員は撃たなくて良い」
数分後、その場に居た守備兵達は死亡するか姿を消していた。
「よし。門を開ける」
門に常駐している役人は皆逃げ去っていた。
長く後方にあって平和だったこの地では命を懸けて戦う気概を持てという方が無理なのだろう。
カルロスは開閉端末にパスワードを入力する。
これは事前にアリアドナが調べてくれていたモノだ。
「俺の指にガデスの命運が掛かっている…」
「主よ俺に栄誉ある任を与えてくれた事、感謝致します…」
カルロスは画面に出た起動ボタンをタッチする。
「起動シークエンス開始……」
干渉門のロックが外れ、地鳴りが起こる。
異界と異界を隔てる巨大な扉が開いていく。
カルロスは部下を集めて「出迎え」の準備を始めた。
迎え入れるまでが自分の仕事だ。
暗がりの奥から異境の軍勢の先頭が這い出して来た。
カルロスは恭しく頭を下げ、軍勢の先頭に話し掛ける。
「私はサン・クリストバル総督付副官ベルナルド・エル・コルテスの部下の傭兵機士カルロスと申します」
「庭を掃除し、門を開け皆様のご到着をお待ちしておりました」
それを受け、先頭の機動戦車から厳めしい装甲義体の男が降りてくる。
装備の質をパッと見る限り相当な高位の機士だ。
厳めしい装甲義体の男は威厳のある調子で語り始めた。
「出迎え大儀であった」
「私はユクセル機士団の副団長でラインバウトと申す者。貴殿と貴殿の部下、そして貴殿の主の働きは主と聖人の名の元、永遠に称えられるだろう」
「申し訳ないが今は戦時故、挨拶は手短に済ませる」
「後は任されよ」
「ではお言葉に甘えて…私は後始末を済ませてから基地に戻ります」
「うむ、それが最善であろう」
ラインバウトは機動戦車に戻ると何やら指示を出し、軍勢へ発進を伝えている。
カルロスとその部下は行軍の邪魔にならないように暫く脇に控えて居たが、カルロス自身は考え事をしていた。
(教会直属の機士団が出張って来ただと?予定外だ)
(この戦争に落とし処は始めから存在し無いという事か)
(しかもユクセル機士団は機族や企業からの寄進や支援も多大だ。それ故利害と役割が被り対立する大公国の正規軍とは犬猿の仲の筈だが……)
(しかし実際は機士団単独ではなくガデスの正規軍が一緒になって行動している。向こうで何が起こっている?一度本国に戻って調査が必要だ)
(憶測だが、教会はこの戦いを聖戦にしたがっている)
(異教徒への聖戦)
(だがそれだけじゃない)
(国内に溢れている傭兵や機士、そして軍人を外に吐き出したい)
(いや、「戦う者」だけじゃない。僅かな異界の植民地を獲得したとは言え閉塞感に喘ぎ、貧しいままの民衆。豊かさを求める商人達でさえ…)
(成程、これは植民活動も兼ねている。まさに国家と種族の命運が掛かった一戦にしたいという訳か)
(現状、それ以上の事は分からねぇな)
(だが、経験上機士団の連中は多かれ少なかれイカレてる奴が多い)
(性能も精神もな)
(審問官も連れてきているだろう……)
(ただ一つ言える。これからロクな事にならないのだけは確かだ)
既に先陣は半ばまで通過していた。これ以上、礼儀を尽くす必要性は無い。
カルロスはタバコに火を付けた。
大きく吸い込み煙を吐き出す。味覚センサーをアップグレードしておいて良かったとカルロスは思った。