カルロスは移動中のコルテスに通信を取っていた。
「…という事でこちらは概ね計画通りに進んでいる。ただ途中で『乙女』の依頼があって…」
「事後承諾という訳か。普段なら許されない事だが、状況と相手を鑑みれば致し方無しという事か」
「機士団に恩を売っておけるのはデカいな…」
「それにラインバウト卿か…大公の直臣にして熟練の機士、そして宗教機士団の副団長。まず軍事行動でのミスは無いと思った方が良いだろうな」
「ああ、それなんだコルテス。そのラインバウト卿とやらだが威圧感が半端じゃ無かった」
「お前もそう思ったか。前に俺も大公に謁見した時目にした事があるが、概ね同じ感想だ」
「あの人の戦歴は俺達の人生より長い。そしてその経験に見合うだけの強さを兼ね備えている」
「まあそれだけじゃないがな…」
「ああ、「深み」を感じた。俺達が総出で掛かっても引き分けに持ち込むのがやっとだろうな」
「そんな機会はあって欲しく無いとは思うが」
「それで『乙女』の方はどうだ?カルロス?俺は会った事が無いからお前の感想を聞きたい」
「一言でいうとヤバい」
「ヤバい??」
「あそこまで綺麗で美しい義体を見たのは初めてだ。兵士の誰かがまるで『天使』だと言っていたがその通りだと思った」
「実際、兵の心は既に掴まれてしまった。恐ろしい程に美しい」
「…!!」
「外部の人間である俺達すらそうなんだ。彼女の部下は間違いなく死兵だろうな」
「従軍している機族にも彼女を支持する連中は間違いなく居るだろうしな」
「そうか…。『戦後』が厄介だな」
「それだぜ!コルテス。論功行賞や褒賞の分配の件で奴等と揉めたく無い」
「この街の財産を事前にかつ密かに奪取するお前の作戦は正しかったよ。機士団に対して譲歩がし易くなる」
「分かった。そちらはそこまで問題は無いという事か」
「そうだ。そっちはどうだコルテス?」
「中の下と言った所だ。状況は余り良くない」
「マジか。嵌められたか?」
「半分正解だ。敵の基地を壊滅させる事は出来たが、大規模な空間転移による奇襲を受けた」
「基地丸ごと捨て駒にしやがったのか!?連中マジでイカレてやがるな…」
「重装甲兵が二人やられた」
「…それは不味いな。元々犠牲が出るような想定じゃない」
「ああ、このままでは前線の正規軍も救えない」
「だからヴィトゲンシュタイン大佐には先程、酸性雲に向けて重金属反応弾を使用するように提言した」
「その提言を受け入れるかどうかは彼次第だが」
「!!!」
「…お前此処をレーゲンスシュタットと同じ様な場所にする積りか!?」
「上層に住む機族が下層の人間に戦争で生じた全ての困苦を押し付けるあの都市みたいに!!」
「そういう街がガデスには数え切れない程あるだろ!!」
「俺達はそういう場所から抜け出したくて傭兵をやっているんじゃないのか!?」
「除染はこの地を占領した後でやる。俺の私財を投げ打ってでもこの新天地は俺達の楽園にする」
「そうじゃない、コルテス。そうじゃないんだ。今ならまだ間に合う。他の方法がある筈だ!」
「ここに住む連中はまだ『異教徒』だ…だが連邦の奴等を排除出来れば『改宗』の余地がある」
「『改宗』すれば俺達と同じ主に従い、聖人を範とする考えに従う『啓典の民』だ!」
「ここに住む連中は間違いなく俺たちの故郷に住んでいる中下層民と同じ立場になる」
「…言うまでも無く俺達の仲間の殆どは中下層民出身だ…」
「都市に住めなかった奴すら居る」
「お前に助けられなければそのままスクラップや肥料になってた奴だって居る…」
「だが、そのまま救いの手を差し伸べる事が出来ずに朽ちていく奴も沢山居る…地獄みたな環境だった…」
「その地獄は俺達が一番近くで目の当たりにして来た、違うか?」
「………」
「そしてその地獄みたいな環境に対して一番憤りを感じて来たのはお前じゃないのか!!?」
「そのお前が地獄をこれから作るのか!?それだけはダメだ!!」
「第一、天国に居るお前の母親がそんな事を望んでいると思うか…?」
「………」
「お前がどんな決断をしようと俺はお前を支持し、何処までも付いて行く。だが戦い始めた切欠だけは忘れないでくれ…」
「済まなかった。カルロス。俺は些か冷静さを欠いていた…」
「お前が止めてくれなければ俺は自分が戦う理由を忘れていた」
「心から礼を言う。手間を掛けて済まなかった」
「よしてくれ。俺はお前の『親友』として忠告しただけだ」
「だが俺の言葉で思い止まってくれて嬉しいぜ『親友』」
「これから重金属反応弾の使用停止を大佐に提言する」
「だそうだ、ヴィトゲンシュタイン大佐」
「チャネルを解放していたのか!?カルロス!?」
「大佐からは事前にチャットを受け取っていてな」
カルロスがニヤッと微笑む。
「……全くお前には敵わないよカルロス…」
コルテスは溜息を付くように言葉を吐き出した。
「ヴィトゲンシュタイン大佐だ。貴官の英断に感謝する」
「大佐か。決断を押し付けて申し訳なかった」
「いや、こちらこそ軍人にあるまじき優柔不断さが生じてしまった」
「これから手に入れる土地に住む人間は我々と同胞になり得る可能性がある」
「だが同時に部下の命を早く救いたいという焦りもあった」
「そこに貴殿から重金属反応弾使用の提言があった」
「…軍人としては凄まじく魅力的な提案だった…」
「事務畑の私が戦功を上げる貴重なチャンスだ…」
「………」
「だが、娘の顔が脳裏に浮かんでね…娘は公都レーゲンスシュタットの中層に住んでいるが…」
「生まれつき重度の重金属中毒を発症している。神経の一部がやられていて補助義足を使っても立つ事が出来ない…」
「ナノマシンを使った人工神経でもか?」
「娘の脳は生まれつき『立つ』という事を認識できない。補助神経を使った試みは全て失敗に終わっている」
「なんて事だ…クソッタレ…」
カルロスは顔をしかめる。コルテスは黙って聞き入っている。
「反応弾を使用すれば間違いなく論功行賞で褒賞は貰える。出世も早まるだろう」
「だが娘がその事を聞いた時、私は彼女の父親では無くなる」
「私は悩んだ。軍人としての栄達か娘の気持ちか」
「私は娘の気持ちを取る。そして私の娘のような犠牲者を出してはならないとも考えている」
「コルテス副総督、カルロスCEO代理、私はこれから貴方方を全面的に信用して全力でバックアップを行う」
「前線兵士の救出には別の手段を考える」
「おいおい、この伊達男を信用してなかったというのかい?大佐さん」
カルロスがおどける。
「フフッ、その軽さが信用出来なかった」
「あれ?こりゃ一本取られたな。やるな大佐さん」
「…兵士の救出依頼は出ているか…?」
コルテスが大佐に問いかける。
「緊急の依頼になるが構わないな?」
大佐は少々嬉しそうに呟いた。
「ああ、これから急いで作戦を立てる。カルロス、そちらの事は頼んだ」
「おう!任された!!」
機士団なら初手で重金属反応弾を敵陣にしこたまブチ込みます。
流石に市街戦では使いませんが、使う人も居ます。
なので基本的に重金属反応弾は軍と政府機関が管理してます。