クレアは襲い掛かってくる複数の刃を次々といなす。
例え筋力と反射神経を強化していても、まともに受けきれるような重さの攻撃では無い。
機械の身体と生身ではそもそものパワーが違いすぎる。これでもサイボーグ兵全体からすれば彼等の攻撃は軽い方だ。
寧ろこの程度で済んでいる、と言うべきだとクレアは向かい来る鋭い刃を捌きながらそう考えた。
そして、彼等は急所を狙って的確に刃を滑り込ませてくる。
思考する余裕さえ奪われて行く。
何よりククリナイフに似た武器を持ったあの男は武器を使わず足技だけでクレアの相手をしている。
(完全に遊ばれている)
(このままじゃ甚振られたまま殺される)
クレアは距離を取る為に後ろに跳ねてビルを駆けあがろうとした。
「一度勝負を挑んだのに逃げるのか?つれないな、嬢ちゃん」
カルロスはいつの間にかクレアの頭上で回転しながら、両手に持った2本の高周波ククリナイフをクレアに叩きつけて来た。
「ぐっ―――!」
クレアは衝撃吸収ブレードを両腕で支え、辛うじてカルロスの攻撃を凌ぐ。
(…近接戦闘じゃ分が悪い!)
「筋力強化最大!!」
クレアの筋細胞と骨細胞が無理なMUTE能力の濫用により悲鳴を上げていく。
「うああああああッ!!!」
クレアはカルロスを彼の武器ごと跳ね返した。
「やるな!嬢ちゃん!」
カルロスは回転しながら低層ビルの給水塔の上に着地し、クレアは衝撃で吹き飛ばされ屋上のパイプを背中で破壊しながらも、何とか態勢を整えて着地した。
カルロスの部下達も次とクレアを追って低層ビルに降りてくる。
(やっぱり『糸』を使うしかない…。でも彼等をどうやって拘束する?)
クレアが考えている間にも連合軍兵士達の命が次々と奪われて行く。
クレアは考えた。
カルロスという男みたいに話が通じるような相手ばかりじゃない。
というよりは彼の様な考えが「向こう」の一般的な考えとも思わない。
市民の命が危ない。
「どうした?嬢ちゃん。考え事をしてる暇なんてあるのか??」
カルロスがいきなりクレアの横に現れ、重いミドルキックをクレアの横腹にブチ込んだ。
クレアは咄嗟に反射神経を強化して衝撃刀で打点をずらそうとした。
だが蹴りは刀を砕いてそのままクレアの脇腹に直撃した。
「うぐっ!!…ううっ!…ああっ!」
声にならない叫びを上げながらクレアは低層ビルの屋上から蹴りだされた。
クレアは必死の力で思念の糸を出し、落下地点に簡易的なネットを出現させて緩やかに着地した。
クレアは足に力を入れて立とうにも生まれたての小鹿の様に足がガクついて、立つ事が出来ずに座り込んでしまった。
内臓にもかなりのダメージが入っている。
「ふうふっ…あうぅぅ……」
クレアは痛みと衝撃で上手く呼吸が出来ない。
(私の身体はなんて脆弱なの)
次々とカルロスの部下達が飛び降りてくる。
(あんな事を言っておいて彼らを1人も拘束出来ていない)
カルロスの部下達が近づいてくる。
(私は…弱い。…街を、市民を、法を、秩序を守ると誓っておいて)
(何一つ守れやしない)
カルロスの部下達は背中に背負っている銃を抜く。
(みんな、ごめんなさい。わたしはとても弱い存在でした)
カルロスの部下達は涙を浮かべるクレアに対して一斉に射撃の構えを取った。
(マイクさん。あの面白い人ともう少しお話したかったな…)
突然、カルロスの部下達とクレアの間にビルの隙間から出て来た装甲車が割り込んだ。
「「「!!!」」」
装甲車が視界に入ったカルロスの部下達は即座に銃の引き金を引く。
猛烈な銃弾の雨が装甲車に襲い掛かる。
「乗って下さい!!マーヴェリックさん!!」
「ごめんなさい。重い一撃を食らって立てないの」
クレアは声の主の方へ視線を合わせる。
「あ!あなたは…!!」
「…!!分かりました!」
『彼』は装甲車の横のハッチから飛び出てクレアを抱きかかえると装甲車に乗り込み、大声で運転席に向かって指示を出した。
装甲車は銃撃で穴だらけになりながらも、その場から急発進して街の北の郊外へと向かって走り去って行った。
部下の1人が低層ビルの上に居るカルロスに通話チャネルで話し掛ける。
「隊長、申し訳ございません。彼女を逃した責任は私達にあります。どうかご処罰の程を」
「いや、いい。此処で殺せればそれが最上だったが、元々任務の目的はルニシア団長の警護だ」
「追い返せれば深追いする必要は無い。最初から戦う気も無かった」
「機士団員なら追いかけて行くべきなんだろうが、生憎俺等は傭兵だ」
「給料分以上の仕事をするのがプロだが目的以上の事をする必要も無い」
「それにお前達は期待以上の動きをした」
「装甲車が現れた時即座に一斉射撃をしたな。その点だけで日頃の訓練と傭兵としての心構えがお前ら全員に行き届いている事が確かめられた」
「俺にとってはこれだけで十分過ぎるよ」
「そうですか……寛大なご処置に感謝致します」
部下は安堵と同時に心の中で笑顔になった。
「だがルニシア団長に会った時のチャットの件は忘れてないからな!」
「この戦争が終わったらタップリと扱いてやる」
「え~マジっすか?隊長ぉ~!」
「勘弁して下さいよぉ~…」
「隊長も鼻の下伸ばしてたじゃないですか~!」
「これはこれ!それはそれだ!ったく目を離すとすぐコレだ!」
「…というかルニシア団長の事だが…」
「「「はい??」」」
「あの女ヤバいぞ。超ド級にヤバい。今まで話した女の中でトップクラスにヤバい」
「そんな風には見えませんでしたが…寧ろ『天使』って感じでしたよ」
「いや、アレは深く関わると破滅するタイプの女だな」
「それに比べればさっき追い払った褐色銀髪巨乳のお嬢ちゃんなんて全然可愛いと思うぜ俺は」
「それは隊長の好みというか女性遍歴の経験から来るものじゃ…」
「訓練プログラム2倍な」
「ああーっ!嘘ぉーう!!」
「ま、冗談は程々にしておいて警護に戻るか」
(((冗談…???)))
「オラ、返事ィ!」
「「「了解しました!!!」」」