追撃。
逃げる相手をただ只管、暴力機械達は追い縋って行く。
その分厚い追撃は避難民や負傷者、そして車両や障害物を巻き込みながら加速していく。
機士の頭の中には名誉と報奨、女そして土地。
銃士の頭の中には出世と功績。
兵士の頭の中には金。
それらを指揮する機族の頭の中は前者全ての思いと欲望が詰まっている。
特に兵士達の欲望と興奮には最早制御が効かず、末端の兵卒の中には途中で死体から金目の物を剥ぎ取っている始末だ。
腕時計の付いた腕を切り落とし、真珠のネックレスの付いた首が切り落とされる。
下士官や将校達は敢えてこれを止めない。
止めれば極度に興奮している兵士達のその強烈な暴力と欲望の矛先が、彼等に向かう事が分かって居るからだ。
機士達もそれを分かって居るから静止しない。
明日をも知れない世界を物心付いた時から生きている兵士達の行いは今、制圧戦という場を与えられて、正に機械の身体に獣の思考が宿っているかのようであった。
追撃軍は既に陣形を成しておらず、戦術の意味も無い。街の隅々に暴力に飢えた機械の兵士達が駆け巡る。
避難民が運転する一台のバスが数体の兵士達の目に止まった。
「「獲物が居るぞ!追いかけろ!!」」
「金だ!金目の物だ!」
「捕まえろ!生身だ!奴隷商人に売れば金になる!!」
敵の兵士らしき存在が、こちらを見て騒いでいる事に気付いたバスの運転手はアクセルを思い切り踏み込み、猛スピードで逃げる。
兵士達は更に叫ぶ。
「逃げられると思ってんのかよー!!えぇーーっ!?」
「野ウサギ狩りか?狙撃銃はあるかー!?」
「見ろ!見ろ!賞与袋が逃げるぜ!!」
重装甲の兵士が手渡された大型狙撃銃を構える。
「…1、2、3、4、5、…」
轟音と共に大型の狙撃銃が火を噴く。
だが弾は少し上に逸れて窓ガラスを突き抜け、乗客達の頭を吹き飛ばし、身体を抉って向こう側の窓ガラスに突き抜ける。
「何やってんだよー!テメー!賞与袋の中身が幾つか消えちまったじゃねーか!」
「追いかけるぜ!!」
ガシャガシャと装甲兵達が追いかけて行く。
バスの運転手は恐怖に駆られながらもある程度は安堵した。
見つかった時はどうなるかと思ったが、どうにか殺人機械達から逃げ切る事が出来た、と思った。
が、結論から言えばその考えは甘かった。
運転手がバックミラーをふと見ると、背後から何かが迫ってきているのに気付く。
複数の大きな人型の装甲覆われた何かが追っかけて来る。
車内に居た避難民達はたちまちパニックになる。
「もっとスピードを上げろ!」
「きゃああああっ!!」
「何やってるの!?運転手!!」
大型の銃を持った機械の兵士達はたちまちバスに追いついてく。
ガチャガチャと音を立てながらバスと併走していく。
一人の装甲兵が走っているバスのタイヤへ向けてサブマシンガンらしき銃を連射していく。
バスはたちまちコントロールを失い、回転して障害物に乗り上げ、横転した。
車内は悲鳴と混乱で木霊する。
それを見るや否や、直ぐ様に兵士達はバスに飛びかかっていく。
バスを揺り起こし、バスのボディを剥がして行く。
乗客達で気を失っていない者達はバスの中央に固まって集まった。
バスのボディが引き剥がされ終わると、兵士達と乗客達が正対する。
一瞬の静寂の後、丸眼鏡を掛け、髪の横と後ろを刈り上げ、スキニーを履いたインテリ風の男が声を上げる。
「我々は非戦闘員だ!機構の条約とこの国の法律に基づけば我々には捕虜としての生存権と人権、及び最低限度の生活が保障される筈だ!」
「そして非戦闘員には危害を加える事が禁止されている!貴方方は機構の法廷で裁かれる必要がある!」
「そもそもこの国では戦闘行為が…街での破壊行為が…今の状態は極めて不平等…」
話が通じたと思っているのか、丸眼鏡の男はベラベラと長広舌を振るっている。
兵士達は目の前で起こっている不可思議な事に目を合わせながら会話している。
『何言ってんだコイツ?』
『言葉全く解んねぇんだけど…』
『翻訳アプリケーションある?無いならダウンロードしないと…』
『無い。戦闘中上官の許可無きダウンロード行為は軍規で禁止だろ』
『そうだったな。で、目の前のコイツどうする?』
『うーん…労働奴隷としての価値は無さそう…身体が貧弱で買い手が付かねぇよこんなの』
『見た目もアレだし、頭脳労働もダメだなありゃ…ホント何だよあの格好、あり得ねェだろ』
『確かに。旅芸人でもあんな格好はしないな』
『肥料にするか?それとも胎児用の養分かな…』
『バカ。肥料を買い取ってくれる業者は戦場には来ねェよ』
『後、こんなの養分にしたらクレーム来るぜ』
『じゃあ持って帰るか?』
『コイツ連れて行軍すんのか?それこそあり得ねェよ』
『確かに。そりゃ部隊の笑いモンだな』
『じゃ、殺すか!』
『『『異議なーし!!』』』
「…という訳ですから、貴方方は私達に謝罪した後に支部に出頭する必要が…」
「聞いてますか?」
1人の装甲兵が丸眼鏡の男に対して手を伸ばす。
「握手?そうですか、ほら、やはり話せば分かり会えるんですよ!乗客の皆さん!」
装甲兵はそのまま丸眼鏡の男の頭を掴むと高く持ち上げた。
「えっ!?ちょっ!何をして…!!」
『役立たずの奴隷な癖にピーチクパーチクうるせぇんだよ…何言っているか分かんねぇし…』
『処分だ』
装甲兵が拳に力を込めると男の頭がグシャッという音と共に、ガスの溜まったスイカみたいに弾け飛ぶ。
そして頭の無くなった死体は道路に放り投げられた。
『はーい。2列に並んでね。列を乱したらさっきみたいに処分するからな』
装甲兵達は怯えきっている乗客を1人ずつ掴んで、バスから引き摺り出して行った。
丸眼鏡の男は嫌いなタイプの人間
だからスッキリしました