アレックス・マッケンジー上級少佐は装甲車両に乗って、市外の丘から電子双眼鏡を使い街を眺めていた。
街の中心部から上空へ伸びた無数の光が市街地を破壊していくのが見えた。
同時に、燃え広がるガソリンが街全体にバラ撒かれたように各所で炎上と爆発が起きている。
(戦況は絶望的だな)
(避難民はまだ逃げ終わっていない)
(ここが正念場か)
(しかしこの装備と人員だけでどれだけ避難の為の時間稼ぎが出来るか…?)
「上級少佐殿!!」
「何だ、敵でも来たのか?」
「いえ、南西の方角の海上を見て下さい!」
「その…何と言いますか、景色が歪んでいます」
「ん?どれどれ…」
アレックスは電子双眼鏡で南西方面の海上を確認する。
「…??どういう事だ?」
空と海の間が歪んで見える。
「光の屈折じゃないのか?」
「はい。しかし車両のモニタに映った15分前の映像をご覧下さい」
「……」
「こちらが5分前」
「明らかに景色の『ズレ』が大きくなってるな…」
「マズイぞ。避難の進捗は?」
「こちらの担当区域では見えている範囲で8割方が、市外へ脱出出来ています」
「今の内に対空装備の簡易点検をしておけ」
「は、はぁ…?」
「空から『何か』がやって来る。地上での足止めが意味を為さなくなる可能性が高い」
「サー。今すぐ点検に取り掛かります」
アレックスはまた双眼鏡を構えた。
「しかし何を呼ぶのやら…」
彼は訝しげに呟いた。
空間が急激に捻じ曲がり、巨大な『何か』がせり出して来た。
「………!!!」
「戦闘配置に付け!」
「サ、サー!」
一方ガデス駐留軍の戦線―――
「大丈夫か?」
地下から救出に来た、コルテスの部下の一人が正規軍の兵士に話し掛ける。
「ああ問題ない。腕の一部と足の裏が溶けただけだ。助けに来てくれて感謝する」
「あとどれくらい残された奴がいる?」
「後2中隊程だ。距離300で方角は東だ」
「今、救出出来るか?」
「いや、マオルブルフは2台しか無い。俺達はまた往復する事になる」
「後、一旦基地に戻って修復を受けろってお宅の大佐さんが言ってたぜ」
「命令か。なら致し方ない。戦友を頼むぞ」
「任せてお…って西の空を見てみろ!来たぜ!!」
「アレは…」
兵士は眼に映った映像を拡大していく。
「ユクセル機士団が所有する『巡礼城』か!?」
「同胞!この戦争は我々の勝利だ!!」
手負いの兵士が叫ぶ。
「ああ!そうだ!俺達の勝ちだ!」
傭兵は兵士の肩を叩く。
車内からも一斉に歓声が沸く。
「主よ!!!」
「大公国万歳!!大公閣下万歳!!」
「聖ユクセルのご加護を!!」
「来たぞ!希望の城が!!」
その光景をコルテスも眺めていた。
(結局一番美味しい所は機士団に取られた、か…)
(カルロス、お前の言う事は正しかったよ。俺は汚名だけ残す所だった)
(俺はまだまだ未熟だな。また一から出直しだ)
(でも俺にはまだ仲間も部下もいる。何も失っちゃいない。これからだ)
(『戦後』からが本番だ。見てろ機士団員共…)
(俺はお前等を超えてその『先』に辿り着く)
彼は焼け爛れた機械の拳を固く握りしめ、遠くの巡礼城を見つめた。
巡礼城城内―――
空中要塞である巡礼城は常時4500名のユクセル機士によって防衛・運営されている。
要塞でありながら1つの都市でもあり、外見は壮麗な城塞都市を思わせるようであった。
管制室では機士達が忙しなく動き回っていた。
「プラズマシールド問題無し!波動機関にも問題無し!各機関正常!」
「予定座標と実座標との誤差各+0.00003以内!問題ありません!」
「外装・防壁に異常なし!」
「防衛機能全て異常無し!巡回システム正常!」
巨大な城塞が青い空を歪ませて這い出てくる。
同時に大きな振動が街全体を震わせる。
干渉門付近―――
「やっと来たのですね…我が愛しの城…」
ルニシアは巡礼城に向かって手を広げた。
巡礼城を見てカルロスは腕を組んだ。
(この城を見て落ち込むなよ、親友。俺達はまだまだイケる)
戦場―――
市街を制圧中の機族や機士達は口々に叫んだ。
「我等が城!我等が盾!!我等が意思!!!」
「おお…アレが噂に聞く巡礼城…実物はなんと壮大で壮麗か…」
「これを間近で見れただけでも戦役に参加した甲斐があった」
「勝利は近い!我等に主と聖ユクセルの加護を!!」
略奪や殺戮に夢中になっていた一部の兵士達も叫ぶ。
「やった!これで故郷に帰れる!」
「機士様様だぜ!!」
「土産物も沢山持って帰れそうだし有難い限りだ」
ガスコーニュは敵兵を殺しながら叫んだ。
「来るのが遅ぇぞ!全く!」
ラインバウトはただ無言で巡礼城を一瞥すると敵の方に向き直った。
巡礼城下部第一格納庫―――
ユクセル機士団第一航空機兵隊隊長であるエアハルトは部下と共に城塞下部の巨大格納庫で雑談をしながら待機していた。
部下もエアハルト自身も部下も自身の大型航空義体の最終チェックをしながら、その瞬間(とき)を待ち侘びていた。
「エアハルト隊長!今回の敵は歯ごたえあるんですかね?」
「さあな。俺もジアースに来るのは初めてだし連邦のクソ肉袋共相手にやり合うのは初めてだ」
「親父はやり合った事があるって言ってたけどな」
「親父殿はなんと?」
「小細工と能力がうざったらしいがそれさえ押さえ込めばなんて事は無いとよ」
雑談を遮るように格納庫にアナウンスが入る。
『エアハルト様。巡礼城の空間転移完了しました。何時でも出撃可能です』
「格納庫の扉を開け!」
彼が言い終わると同時に格納庫のハッチが開く。
「総員所定の位置について変形!!」
エアハルトとその部下達は整然と位置に着く。
そして彼等の義体は高速で空を飛ぶに相応しい形に変形していく。
「電磁カタパルト起動!!総員出撃!!!」
「主に仇なすクソ共を全て灰にしてやれ!!!」
「了解!!ヘルコマンダ!!」
容赦なき教義を脳に刻まれた鋼鉄の航空機士達が次々と巡礼城から飛び立つ。
一連の戦闘は決着を迎えようとしていた。