マイクが隠れているその時――
ヘブンポート市――
ビルの屋上に居た作業員達が双眼鏡で何かを捕らえた。
地平線上を埋め尽くし、土煙を立てて迫って来るのがハッキリ見えた。
「シェルターへ逃げるぞ!」
「シェルターだってもう満員だ!この街から更に逃げないとダメだ!」
作業員達は資材や道具を放り出し、慌てて逃げだした。
「来ました!連中です!!」
クロイス一等調停官のイヤホン型通信機に偵察要員からの連絡が入る。
彼は自分のオフィスから館内放送チャネルを使って叫ぶ。
「全員直ぐに地下から通路を通って職員用のスペースに避難しろ!」
「端末や資料、手持ちの備品は出来る限り持って行け!!持っていけないものは部屋ごと償却する!!」
「急げ!一部の職員は手筈通りに連合部隊と合流して敵に備えろ!!」
「さあ行け行け行け!」
警報のサイレンが市中に響き渡る。
たちまち避難民がパニックになり、駆け出す。
大きな人の渦が街中に発生した。
転んだ者は踏みつけられ、老人は置き去りにされ、子供は親と離れ離れになった。
『ラインバウト様。次の目標まで距離15000です』
後ろの機士が彼に報告を上げる。
『機士団の第3大隊から第5大隊は軍の自走砲部隊と重歩兵部隊を引き連れて街の東と北へ展開し、敵の脱出を阻止しろ』
『逃走する敵が居たら殲滅』
『第1大隊と第5大隊は私が街の南から直接率い、軍のミサイル部隊と戦車部隊、そして軽歩兵部隊を指揮する』
『街の前面の空港を破壊し、正面から敵とやり合う』
『機士ガスコーニュは今まで通り第2大隊を率い、擲弾兵部隊と軽車両部隊を指揮下に置け』
『そして街の東の港湾地帯に急襲を掛け、街と接続している港湾と工業施設を完全に破壊しろ』
『俺の役割は先陣兼遊軍か?そして敵の海上からの脱出と補給の阻止も』
『そうだ。もし敵の抵抗が強かったら引いても構わない。ただし最低でも距離13000はとれ』
『了解した。指揮官殿』
『しかし空からの援軍はまだか?エアハルトの奴遊んでやがる』
『私が来なくて良いと言った。敵の防空システムだけを警戒してる訳では無い』
『連邦の精鋭が潜んでいる』
『奴等を先に炙り出すってワケか。街に侵入した後高空にバリアでも張られたら元も子も無いしな』
『奴等に有利な状況を作る事だけは避けたい、違うか?指揮官殿?』
『…そろそろ大戦争の呼吸が分かって来たか、機士ガスコーニュ』
『ああ。俺もこの立場になった以上部下と団長と大公に対する責任がある』
『だから何時までもタダの荒くれ機士って訳にも行かない』
『本当は一介の機士で居たいんだがな、主はどうも俺に苦労をさせたいらしい』
『運命に試されている、そうも取れると思わないか?ガスコーニュ』
『試練、か…だが日々の信仰の賜物じゃない事は確かだな』
『ああ。高みを目指す者には付き物だ。「それ」無くして真の栄誉は得られない』
『そして機士は生きている限り更なる高みと栄誉を目指し続ける生き物だ』
『栄誉と己が高みに上がる事は何よりも優先する』
『例えそれが聖人の名を冠する機士団においてもな』
ガスコーニュはフッと笑う。
『そうだな。完全にアンタの言うとおりだ』
『俺は自分の任務に全力を注ぐ。今の俺が考えるべきは目の前の敵を打ち倒し、敵を完全に殲滅する大きな基礎を作る事!』
『軍の擲弾兵旅団3部隊と軽車両旅団2部隊に告ぐ!我々は海側から回り込み、敵の港湾と工業施設を完膚なきまでに破壊する!!』
『若い機士である俺が軍の部隊を率いる事に言いたい事がある軍人は沢山居るだろうが…』
『率直に言う。俺についてこい!!!歴戦の兵共!!!!』
『『『ヤー!!ヘルコマンダ!!!』』』
兵士達もガスコーニュの力強い姿とそこから発せられる勢いに同調した。
黒い波から一際力強く離れていく塊が街にいる連合軍の観測部隊からも見えた。
「…不味いぞ!海側から来ている!!」
「砲兵大隊!足止めしろ!」
砲弾の雨がガスコーニュ達を襲う!
「フン!こんな物!!」
彼と配下の機士達は巨体に似合わず、素早く着弾と砲弾の爆発を避けていく。
続く擲弾兵部隊も盾で砲弾をいなし、軽車両部隊もまるでコースが決まっているかのように避けていく。
「砲撃の意味がまるで意味が無いぞ!!攻撃ヘリ部隊はどうしている!!?」
「今向かっています!」
「良し!少し離れて上空から撃ち込めれば…!」
攻撃ヘリが先陣の機士達に近づいていき、次々とミサイルや機関砲を放つ。
『しゃらくせえぇぇっあーっ!!!!』
ガスコーニュは背負っている大きな金属製の槍を右手で持つと、4つのキャタピラをつかってターンを決め、遠心力を使って槍を鋭く放り投げた。
金属製の槍は音速を超えてミサイルを吹き飛ばし、ヘリの機関部を下から貫いて破壊した。
『いよっしゃあっ!命中!!』
彼の背後から喊声が上がる。
『『『ガスコーニュ!!ガスコーニュ!!』』』
『良し!!このまま突っ込むぞ野郎共!!』
一度駆け出した猛牛は如何な障害を持っても止められない。
~~旧地下要塞第7格納庫~~
機構の職員に知らされているのは第6格納庫までだ。
この格納庫の存在を知るのはこの街においてトーサイの関係者のみだった。
「トーサイ様、スゥイートから任務完了の報告が入りました」
「そしてガデス遠征軍の主力部隊がこの街を包囲しようと攻めかかっています」
トーサイは目線を下に落として顎を摩る。
「陸路での脱出は不可能か」
「はい。東と北に警戒線を張られています。海路も敵の先鋒が港湾地帯に攻めかかっているため使えません」
「空は?」
「今の所敵の航空戦力は近辺に見当たりませんが、感知されれば巡礼城からこの街までの距離を考えると直ぐに追いつかれます」
「となると地下か。想定通りと言えば想定通りだ」
「ワープは使わないのですか?」
「アレには大量のエネルギーが要る。今この局面で能力者を使い潰したくない」
「だから、私が能力で地下に道を作る。部隊と機構に潜り込ませている職員に連絡をつけろ」
「…!了解致しました。『撤退』の準備をします」
「『仕掛け』が終わるまで後15分です」
「そうか。了解した。ご苦労。『撤退』まで休め」
「サー・イエッサー」
「ガデスの脳筋共め。この街をお前等の墓標にしてやる」