Chapitre 17
ボクの24歳の誕生日。サキさんがランチに招いてくれた。卒業試験は終わり,3月の医師国家試験まで自室で勉強しているから,昼も出かけられる。
「たいしたものは用意していないけどね」
と言いながら,クリームシチューをお皿によそってくれる。
「パンは食パンとフランスパン,どっちがいい?」
「どちらも要りません。シチューにジャガイモが入ってるから,炭水化物は十分です」
と答えたら,サキさんが笑いだした。
「いかにもお医者様みたいな答えね」
「まだ国家試験に受かるまでは医者じゃないんです」
「でも,すべるつもりはないでしょう?」
「そうだけど・・・・」
こんなとりとめもないおしゃべりをしながら,一緒にシチューを食べ,紅茶を飲みながらアップルパイもいただく。そして,サキさんの部屋でピアノを聴く。ボクはベッドに座っている。1時間くらいピアノを弾いてから,サキさんはボクの隣に座る。ごく自然に,抱きあってキスする。でも,服を脱ぐことはない。ジュリさんがいなくなってから,ベッドの中で裸で抱きあうことはなくなった。そこまでの欲求がない。ボクも,サキさんも。
「あの頃は,ジュリの熱にあおられていたのかな」
サキさんは,ボクの髪を撫でながら語る。そうかもしれない。8年前,16歳の誕生日の夜,ボクはジュリさんから熱をうつされたのかもしれない。
「でも,悪い熱ではなかったよ」
「もちろん。幸せな熱だったわ」
二人,抱きあいながらジュリさんのことを思う。ジュリさんがいたからこそ,ボクたちは再会できた。
3月に国家試験。4月に結果発表。ボクも橘クンも合格していた。
橘クンは美容外科を目指し,澄人さんが勤務する病院で修行することになった。
「1年くらい前から付き合ってる人は産婦人科の病院の娘さんだよね。彼女の所で研修するよう勧められなかった?」
「ああ,南野さんのこと? 勧められたけど,固辞したよ」
「そんなに婦人科はやりたくないの?」
「まあ,それも一つの理由だけど,それよりも,ほんとうに美容外科に興味があるんだ。澄人さんの病院に何度か見学に行って,おもしろいと思ってるんだ」
澄人さんの病院は黄金町からさほど遠くないから橘クンは今の部屋に住み続ける。ボクはもちろん橘家に住み続ける。この点は卒業してからも変わらない。でも,変わるものもある。医学部が移転する。ボクたちが在学中に決まっていたことだけど,この年の4月に浦舟町から海辺の福浦町に正式に移転した。病院はしばらく浦舟町に留まるけど,それもいずれは福浦に移転する。
「ボクたちの大学時代の思い出の場所が消えてなくなるんだね」
「篁は悲しいのか?」
「悲しいわけじゃないけど・・・・」
悲しいわけではない。ただ・・・・“Epoch making”という言葉が思い浮かぶ。去年暮れのジュリさんとの別れ,そして医学部の移転。ボクの人生の一つの時代が終わるという感覚。
「福浦だとさすがに黄金町から自転車で通えないから,篁と二人乗りで学校から帰ることもできない。いい時代に医学部生だったな,ボクたち」
橘クンがボクの肩を軽くたたきながら語る。
橘クンの進路はサキさんとも話題になった。
「澄人さんが熱心に勧めたのかも。あの人は美少女でも美少年でもなく美男子が好みだから,橘クンを気に入ったのかも」
ああ,その可能性もあるんだ。
「それは,サキさんにとって困ること?」
「そんなことはないわ。わたしは澄人さんの恋愛に干渉するつもりはないから。と言うか,橘クンが相手ならむしろ安心なくらい。まあ,そうは言っても,22歳の年の差を考えると,恋心というより親心に近いかもしれないね。優しく見守る感じかな」
ボクは橘医院で祥子さんのもとで研修する。「会社勤めが無理なのと同じで,大きな病院の勤務医も向かないと思うんです」
というボクの意見に
「祐樹さんの例を見るにつけ,ジュンは大病院でもそれなりに仕事ができると思うけど,それはそれとして,わたしのところで仕事してくれるのはうれしいわ」
と答えてくれた。
ボクは祥子さんに一つのことをお願いしていた。
「ボクは普通に白衣を着ていると,たいてい女医さんに間違えられます。その間違いを訂正しないでほしいんです」
「女医さんになりたいの?」
「男でありたくないというのが一番適切な表現です。積極的に女になりたいとまでは思いませんけど」
「その気持ちは一貫しているね。あの頃から。わたしに薬理学的去勢の実験を提案した頃から。まあ,いいわ。わたしとしても,いちいち訂正する手間が省けてありがたい」
祥子さんはあっさり受け入れてくれたので,ボクの方が気を遣って言葉を補った。
「それに,女医と思われたままでいる方が都合がいいと思うんです」
「どうして?」
「患者さんが恋愛感情を抱かないように,です」
祥子さんは笑った。
「まじめに話してるんです」
「ああ,ごめんなさい。もちろん,ジュンがまじめなのは分かってるわ」
「医者と患者の関係って,好意を抱かれる,頼りにされるのはいいけど,それを越えて恋愛感情を抱かれると,いろいろ不都合だろうと思うんです」
「それはそうね・・・・医学部で苦労したの? 好きでもない人たちから惚れられて」
「医学部では『氷の美少年』ということになっていたので」
祥子さんはまた笑う。ボクは話を続ける。
「同級生相手ならそれでもいいけど,患者さん相手に『氷のドクター』はよくないでしょう。親身に,親切に対応すべきだと思うし,そうしたいです」
「でも,そんなふうに親身に親切に接すると,勘違いする患者が現れそうと心配しているのね」
ボクはうなずく。
「もちろん,同性愛の女性もいることはよく分かっています。でも,それは少数派です。多めに見積もって10人に1人くらいでしょう。圧倒的多数の女性は異性愛,男性を恋愛の対象としているから,女医で通す方が安全だと思います」
祥子さんは笑みを浮かべてうなずく。
「まあ,ジュンはホルモン的には女だしね」
という言葉を添えて。それから,大事なことを思い出したように,
「でも,それなら,自称を『ボク』じゃなくて『わたし』にしないと」
「ああ,そうですね」
「ふだんから,わたしたちと話す時も,そうしなさい。それを習慣にしてしまいなさい」
「はい」
その日から,ボクは自分のことを「わたし」と言うようになった。初めのうち,橘クンはおかしがったけど,1ヶ月もしないうちに慣れたようだった。サキさんも,澄人さんも。
最初の2ヶ月は,祥子さんの診察を見学しながら手伝った。診療の合間や診療時間が終わった後,ボクは見学しながら気付いたことや疑問に思ったことを語る。祥子さんはそれに丁寧に答えてくれる。2ヶ月過ぎる頃から,再診の患者は祥子さんにスーパーバイズされながらボクが担当することになった。初診の患者は祥子さんが担当し,ボクは補助に入る。そして,中絶手術の補助にも入るようになった。
1年が過ぎる頃,再診の患者はほぼすべてボクが一人で担当し,初診でも問診票を読んでさほど複雑な問題がないようなら,ボクが一人で担当するようになった。ただし,診療時間の後で祥子さんカルテをチェックしてもらい,修正すべきことがあるなら次の診察の際に修正する。そのため,ボクが担当した初診の患者さんは必ず再診を予約してもらう。
同じ頃,妊娠初期の中絶手術を任された。もちろん,隣に祥子さんがいて,何かあればすぐに交代できる体制を整えた上でのこと。
「ほんとうに優秀だわ。1年でこれだけのレベルに達するなんて」
「そうですか?」
「そうなのよ。もう完全に二診体制でやっていけるわね」
「でも,何かの時はバックアップをお願いします」
「それはもちろん。2年目で何のバックアップも必要ないなんてことになったら,医者歴30年のわたしの立場がない」
祥子さんは1年目からボクに研修医としての給料を払ってくれる。2年目からは研修医としてでなく一人前の医者として給料を払ってくれるようになった。もう学生ではないから食費くらいは橘家に入れることにしたけど,かなりの金額が残る。2年目の夏頃には性転換手術の費用が貯まっていた。
「祥子さん,手術をしてくれる医者をご存じないですか?」
「まあ,知ってるけど」
祥子さんはおかしそうに含み笑いする。
「どうしたんですか?」
「それが,弘樹が勤めている病院の医者なの」
「えっ?」
「ほんとうに,いろいろと縁が深いね。あなたと弘樹は」
ボクはさっそくその病院を受診した。担当医は澄人さんとは別の医者。ボクはきちんと希望を伝える。
「膣造設は必要ありません。陰茎切除と尿路変更と外陰形成だけで十分です。男性と膣性行したいと思うことはあり得ないはずなので」
担当医は笑みを浮かべながらうなずく。
「そこまできっぱり言われるのなら,ご希望に添います。ただ,一応お話ししますけど,篁さんと同じように考えて膣造設を省略して,何年かして『やっぱり膣を作りたい』と言い出す人も,たまにいます。それは不可能ではないけど,最初にまとめて膣も作るよりは,いろいろ面倒なことがあります」
ボクは
「その心配はないはずです」
と答えた。担当医はうなずいた。
「膣造設がなければ,日帰り手術が可能ですよね?」
「はい」
手術は9月中旬。その日,午後から始まった手術は2~3時間ほどで終わった。リカバリールームで麻酔が抜けるのを待ち,排尿に支障がないことを確かめ,7時頃に帰宅を許され,リカバリールームを出ると,ドアの脇に橘クンが待っていた。
「念のため,電車じゃなくてタクシーで帰ろう。送っていくよ」
と言って,同伴してくれた。さりげない気遣いがうれしい。まだ麻酔が完全に抜けきっていないのか,ボクはタクシーの中で橘クンにもたれかかりそうになり,すぐにまっすぐ体を立て直す。そんなボクに橘クンは
「こんな時くらい,ボクを頼ってくれよ」
と語りかける。
「ありがとう」
そして,ボクはいつの間にかまたもたれかかり,うつらうつらしていた。
「篁,着いたよ」
「あっ,ありがとう」
橘クンはさりげなくボクの腕を支え,リビングルームに入る。ボクは
「まだ,麻酔の副作用なのか,吐き気が残っているので,夕食は要りません」
と言ってソファーに座った。
「お疲れ様でした」
祥子さんが声をかける。
「でもこれで,ジュンは堂々と『女医です』と言い張れるね。体は,体の外表面は,完全に女になったんだから」
ボクはうれしいから笑みを返す。橘クンが
「篁は,やっぱり女でありたいと思っていたのか? いつ頃から?」
と問いかける。
「女でありたいと言うより,男でいたくない,男の痕跡を消し去りたいという方がボクの気持ちにぴったりです」
「女でありたいというのと,男でいたくないというのは,別なのか?」
「ボクの中では別のことですよ」
「中性ということ?」
祥子さんが問う。
「そうですね。それが一番近いかも」
「でも,法的には男性だよね。これは変えようがない」
そう,この頃まだ,戸籍の性別変更という制度がなかった。
「別にかまいません。法的に男性で困ることって思いつかないから。男の人と結婚できないことくらいかな。でも,男の人と結婚したいなんて,思ってもいないし」
というボクの返答に橘クンは笑う。祥子さんも笑っている。そしてボクに話しかける。
「逆に言えば,女の人とは結婚できるわね」
「えっ・・・・そんなこと,思ってもいなかった。だいたい,相手がいないでしょう」
「そうね。その可能性のある人はアメリカに行ってしまったからね」
「ジュリさんのこと?・・・・それは,ぜんぜん思い浮かばなかった」
祥子さんはまた笑う。
「そうか,思ってもいなかったのね」
それから,橘クンの方を向いて,
「そう言えば,弘樹と南野さんの話はどうなってるの?」
突然話を振られて,橘クンはあわてている。ボクには先月,ぼやきを交えて話していたけど,ご両親には何も話していないみたい・・・・。
「奇妙なプロポーズをされました」
「奇妙なプロポーズ?」
「婦人科に転科して彼女と結婚してほしいと言われたんだけど・・・・なんでプロポーズする側が条件を付けるんだって話だよね」
祥子さんも祐樹さんも笑ってる。ボクも話に加わる。
「南野さんじゃなくて,親が条件を付けてるんでしょう? 彼女自身は,橘クンが美容外科のままでもいいんでしょう?」
「だから,なんで親の言いなりになるんだってこと。お母さんはお祖父さんの反対を押し切って結婚したんでしょう?」
「まあ,『認めないなら,駆け落ちする』って脅かした」
祐樹さんが笑っている。
「弘樹,祥子さんほどに勇気のある大胆な人はめったにいない。それを南野さんに求めるのは・・・・」
「要するに,橘クンが美容外科を取るか南野さんを取るか,ということでしょう?」
と言ったボクを橘クンはあきれたような顔でにらむ。
「はっきり言うなあ,篁!」
結局,それからまた1ヶ月ほどして,南野さんから「わたしたちのことは諦めてください」という手紙をもらったらしい。
祐樹さんから週1日だけでも病院勤務しないかと誘われたのは,この年の12月。ボクはためらったけど,祥子さんは積極的に勧める。
「大病院の医療も経験しておくといいよ。それに,自分の患者にガンとか筋腫とかが見つかって手術を依頼する時,つながりのある病院の方が何かと都合がいいでしょう」
「でも,それは祐樹さんの病院に頼めばいいでしょう。今もそうしているのだし」
「ジュン,わたしも祐樹さんもそろそろ60歳になるの。いつまでも頼れないでしょう。自分の人脈を作っておかないと」
それは確かにそのとおりだけど・・・・ボクは気がかりなことを尋ねた。
「その病院でわたしを女医として扱ってくれるでしょうか?」
「それは,もう話してある」
「えっ?」
祐樹さんは笑っている。
「院長と事務長が会いたがっているよ。『そんな超絶美形,ぜひお目にかかりたい』って」
結局,その週のうちに面接し,年明けから毎週木曜日に勤務することになった。ボクの法律上の性別を知っているのは院長と事務長だけ。
その病院で2ヶ月,3ヶ月勤務するうちに,特にこれといった器質的疾患がないのにいろんな症状を訴える患者さん,いわゆる婦人科不定愁訴の患者さんがボクに集まるようになった。初めのうちは戸惑ったけど,いくつかの漢方薬やマイルドな精神安定剤,抗うつ薬などを組み合わせ,そして何より,丹念に話を聞くことを心がけて対応するようになった。看護師さんが
「篁先生は,どんな支離滅裂な話でも嫌がらず怒り出すこともなくていねいに親身に聞いてくださるから,人気なんです。それに,話しやすいんです。若くて,物腰柔らかで,威圧感がないから。女どうしってこともあるし」
患者の訴えをていねいに親身に聞くのは医者の仕事の基本だと思うけど,それを怠る医者もいるということなのかな。
そんなふうにして,なんとか病院勤務のコツをつかみかけていた頃,事務長から相談を受けた。婦人科医長つまり祐樹さんも立ち会う。相談の内容は,患者さんをもっと検査に誘導してほしいということ。医者が検査もせず,処置もせず,ただ話を聞くだけなら病院の収入はゼロに近いこと。自己所有の建物で最小限のスタッフで診療する個人医院と違い,病院はいろんなコスト,間接費用を賄わないといけないことを,低姿勢で説明される。ボクは戸惑った。
「わたしがコスト的に病院に迷惑をおかけしているのなら,辞めてもいいのですけど」
と話したら,事務長は「とんでもない」というふうに引き留めた。
「辞められては困ります。篁先生は当院になくてはならない人材なんです。篁先生を頼りにしている患者様はたくさんいます。ある程度の赤字は『健全な赤字部門』として許容するつもりです。ただ,それにも限度があるということです。患者様の期待と当院の経営を両立させる方便として,受け入れていただきたいのです」
祐樹さんに目をやると,苦笑いしながらうなずいている。仕方ないから,受け入れた。
実際にやってみると,様々な血液検査やエコー,CT画像で何の異常もないことを説明されると,それだけで安心して愁訴が減る患者さんも多い。それなら,検査する意味もあるのかなとボクも一応は納得した。ある時,橘クンにこの話をしたら,大げさに感心された。
「篁も大人になったなあ。そんな話を受け入れるとは。昔の『氷の美少年』では考えられないことだ」
「まあ,わたしも26歳,20代も後半だからね」
と言って,ふと思った。でも,まだジュリさんがボクに出会った年齢よりは若いんだ。
3月末,ジュリさんからAerogrammeが届いた。
「リフレッシュ休暇で4月中旬に日本に行く。横浜にホテルを予約している。1週間くらい滞在するから,会いたい」
と簡潔に書いてある。サキさんにも同じ内容のAerogrammeが届いていた。
4月中旬の月曜日の夕方。仕事を終えてすぐ,ジュリさんが宿泊するホテルに出かける。ロビーで待っているとジュリさんがサキさんと一緒にやって来た。驚いているボクにジュリさんが説明する。
「サキはお昼頃から来てるの」
「熱が再発したみたい」
サキさんはそう言って,フッと目を伏せた。
「ジュン,おいで。夕食はルームサービスでいいでしょう」
ボクたちは部屋に入る。キングサイズのベッド。掛け布団が乱れている。ドアを閉めるなり,ジュリさんはボクをきつく抱きしめ,キスをする。服に手をかけたけど,サキさんが
「ジュリ,ジュンに晩ご飯を食べさせてあげないと」
と声をかけた。
「ウェイターがルームサービスをもってきたら,ベッドにもぐり込んでるから,サキが対応して」
「ジュリ・・・・」
サキさんがあきれたように言う。
「はい,はい」
ジュリさんはボクの体から腕をほどき,室内電話の受話器を取る。
「ジュン,何か食べたいものある?」
「別に,何でもいいけど,あまりおなかに溜まらないものがいい」
「じゃあ・・・・ピザトースト。すぐにできそうだし」
15分ほどして,ピザトーストが運ばれてきた。ウェイターが立ち去ると,ジュリさんは
「なんでピザトーストくらいで15分もかかるんだろう」
と文句を言ってる。
「ジュリ,そんなにがっつかないの。夜は長いんだから」
「がっつくよ。2年ぶり,2年4ヶ月ぶりだよ」
「さっきまで,さんざんわたしを抱いてたのに」
「サキとジュンは別なの」
そんな二人の会話を聞きながら,ボクはピザトーストを食べる。食べ終えて,声をかける。
「ジュリさん,お待たせ」
ジュリさんはボクの手を引きベッドに寝かせ,服をはぎ取っていく。最後にショーツを引き下ろし,余計なものがなくなってすっきりしたボクの股間をまじまじと見つめる。
「ほんとうに,きれいに作ってあるのね」
「だって,美容外科の仕事だもの」
「まあ,そうだけど・・・・」
ジュリさんはボクのそこにそっと口づける。
「ますます好きになるよ,ジュンの体。ああ,もちろん,ジュンの心も。身も心も“Body and Soul”」
そう言って,ボクを抱きしめた。
その夜,サキさんはうちに戻った。ボクはそのまま泊まり,翌朝ジュリさんと朝食を摂って,橘医院に戻った。日曜日から水曜日までの4日は橘医院勤務。木曜日は祐樹さんの病院に勤務。金曜日と土曜日は休み。火曜日と水曜日は仕事が終わってホテルに来て,泊まって,翌朝仕事に出かける。木曜日の夜から土曜日まではホテルに居続けた。サキさんは昼過ぎからホテルに来て,夜は遅くなってもうちに戻っていたけど,金曜日の夜は泊まった。ジュリさんは,金曜日の夜キー・アンド・ストリングに出かけたほかは,ほとんどホテルに居続けている。
「せっかくだから,どこかに出かけましょうか?」
と話しても,
「出かけなくていいよ。ジュンとサキに会いに来たんだから」
と答えてボクを抱き続ける。
「ほんとうにジュリさんは・・・・情熱的」
ジュリさんはフッと笑う。
「ちょっと間があったね。ほんとうは『肉食系』と言いたかったんでしょう」
「言わないよ」
「言ってもいいよ。ほんとうのことだから」
ボクも,サキさんと同じように,熱が再発した。
土曜日の午後,ジュリさんを成田空港まで見送る。その帰り道,スカイライナーの座席に並んで座り,ボクとサキさんは肩を寄せ合いながら,ジュリさんの熱の余韻を感じあっていた。
橘家に戻ったのはちょうど夕食時。橘クンがボクを見るなり,放心したように
「篁,今日は一段と色っぽい」
と声をかけた。