「寝っ転がった時に視界に入る景色ってさ、ある意味壁に立った時に見える景色と同じなんだよな」
薄汚れた定食屋の席に座っていたら、横の客が話しかけてきた。
随分と汚いなりだ。若いが髭を伸ばしっぱなしで、汗と垢が溜まったにおいがする。
思わず顔を顰めてしまう。
「……」
当然俺はそいつを無視した。
今の時代、知らない奴とわざわざ話すなんて面倒だ。
しかしそいつは、隣にいるはずの俺が席に座るただの石像に思ってそうなくらい俺など気にも止めない様子で真っ直ぐ、壁を見て言った。
「俺は壁に立てるんだ」
////////////////
放課後の繁華街。
信号が青になった横断歩道を渡る。
普段は放課後にこんな場所に出向くことはないが、今日は特別な理由で、ここに来ていた。
俺はニヤつきながら隣を歩く金髪の少女を見る。
「何ニヤついてるのですか、結城リト」
「いや、可愛いなと思って」
「っ……揶揄わないでください」
俯き加減に真紅の瞳で俺に視線を向けるのは、金色の闇と宇宙で知らぬ者はいない有名人だ。
いつもは黒いボンテージのミニスカートだが、今日は薄手の白いワンピースを着て、清楚でお洒落な感じの服を着ていた。
肩が出ており、首元もスッキリしているため、地味に露出が多い気がする。
「なんか肩出しすぎじゃないか?」
「そ、そんなことはありません。普通です。ティアも可愛いと言っていましたから」
普段と違うヤミと二人でこんな場所を出歩くのは初めてで、デートっぽいシチュエーションにドキドキだ。
いつも寡黙で人を寄せ付けないクールな印象だが、その実内面がまだ幼いだけの少女だというのも最近知った。
(未成熟なギャップがいいんだよ……!)
その少女にセクハラできるのは俺のうちなる渇望が暴走する理由でもある。
「ほんとに可愛いぞ」
俺はそう言って、ヤミの肩に腕を回す。
側から見たら、少女に付き纏いセクハラするヤンキーだろうか。
右手がワンピースから露出した華奢な肩を掴み、撫で回す。
肩を組むことで自然と顔同士が接近して、ヤミの首筋の匂いが俺の脳内を埋め尽くす。
「……やめてください。殺しますよ」
スンスンと匂いを嗅ぎながら、金髪に顔を埋めてもヤミがそこまで抵抗しないのには理由があった。
俺たちは買い物のために一緒にいるのだ。
「ん〜、いい匂いだー、お、あそこ曲がったら着くんじゃないか?」
「くっ……」
今日の昼間のことだった。
花壇の手入れをしていたら、ヤミが神妙な顔で俺に話しかけてきたのだ。
『美柑にプレゼントがしたい』と俺に伝えたヤミの顔はなんとも可愛らしかった。
「ここか……」
ヤミへのセクハラがエスカレートし、胸を触り始めたところで、目的の店に到着する。
ずらりと並ぶいくつかの店を見た俺は違和感を持つ。
ここは本当に普通の通りなのかと。
(これ、大人のおもちゃの店じゃ)
紫とピンクが目に刺さる。
マネキンがヒモみたいな革の拘束具みたいなのをつけられていたり、鞭とか、エグい形のどこに入れるかわからないような棒状のものが並んでいる店が、何軒も並んでいる。
「なあ、本当に合ってるのか?」
ヤミの話では、美柑のPCを借りて調べ物をしていたときに、卑猥な広告の間にこの店の広告が並んでいたらしい。
美柑がその画面を見て、大慌てでこの店のお菓子がすごく気になっていると、熱弁されたそうだ。
俺が怪訝な顔をしているのを見たのか、ヤミが口を開いた。
「美柑はこういう如何わしいことに興味はありません。あなたとは違います。結城リト」
ツンと背を伸ばして、目当ての店を見つめていた。
おそらく、美柑が目当てのものを探しているときにたまたま立地を調べた時に、ああいう如何わしい店が偶然にも検索に引っかかったのだろうと彼女は推察していることは、なんとなく想像がついた。確かにそう考えるのが自然だ。
しかし俺が知っている美柑の性事情を鑑みると……
(ほんとに美柑はこっちの店を探してたのか?逆じゃないか?)
そんな妄想まで出てきてしまうのだから、困ったものだ。
それにもう一つ、俺には気になることがあった。
「なあ、ヤミ。本当にいいのか」
「なんですか」
俺は、予めもらったチラシをみる。
「これから買うやつって、カップル限定で、カップル認定されないと買えないんだぜ」
「……さっき見ました。美柑は知らないですから他言無用です。あくまで演技です。勘違いしないでください。……あと肩触らないでください」
///////////////////
「……ここですね」
店の雰囲気。
まさにそっち系。
とてもお菓子屋には見えない。
「なあ、本当に美柑が気になってるのってこの店なのか?」
「……美柑が言っていたのですから、そうに決まっています」
「……」
友情パワー恐るべし。
俺は頬をポリポリと掻きながら店の中を見回す。
右手にあるカウンターには、店長と思しき男性がこちらを見ていた。
目が合う。
「あら、お若いお客さんね。いらっしゃい」
口調からして、この男は中身は女性のようだ。
中年。30後半から40くらいの年齢だろうか。
「なんか怪しい店主ですね……」
「ああ……」
「まあ良いです、さっさと演技して終わらせましょう」
ヤミはそう言って、いかがわしいそうな店に戻っていった。
「き、キスですか!?」
店の中からヤミの驚きの声が響く。
どうやらカップル認定試験の話であろうことは容易に想像がついた。
「そ、できないの?」
「ぐ……」
ヤミが戻ってきた。
普通のヤミなら俺からキスを無理やりしない限り、俺とキスすることなどないだろうが、今回はどうだ。
「どうする」
「仕方ありません……貴方が……、その、嫌でなければ……キ、キスしてもらえますか……?」
俺は内心ガッツポーズをする。
平静を装い、仕方ないよな、というポーズも忘れない。
ヤミの表情はわからない。
うつむいていたからだ。
改めて店長(仮)の前に立つ。
キスか。
キスは何回かしてきたけど、人の前でやるのは初めてだった。
赤面したヤミが目を閉じたので、俺も目を閉じて唇を合わせる。
触れ合うだけの軽いキス。
それでもヤミの唇を奪ったことについて俺は最高に気分が良かったのは言うまでもない。
「こ、これでいいですか?」
「…………」
ヤミが店長の反応を待つが、反応がない。
ただ真剣に俺たちを見つめている。
俺は小声でヤミに耳打ちする。
「(なんか俺たちのこと疑ってないか?)」
「(……も、もう一回しましょうっ、それで騙せるはずです)」
「(多分……それじゃダメだ……)」
「(?)」
俺はいいことを思いついていた。
俺は生徒に不貞を持ちかける家庭教師のように耳元で囁く。
恐らく、この店主を騙すには本気のディープキスじゃないといけない____と。
「そ、そんなことっ、やったこともないですっ!」
「しぃ!」
「スゥ、ハァ……わ、わかりました……美柑のため、です……」
「じゃあ、行くぞ」
「……」
ヤミが不安そうな表情でコクリと頷く。
俺はヤミの両肩を掴み、もう逃げられないようにがっちりホールドする。
すると、ヤミはビクッと震え、これから起きることへと覚悟を決めたようだった。
「ちゅ……ちゅる……」
唇同士が重なる音が店に響く。
先程と違うのは、その粘度。
触れるだけではない、くっつき、離れ、そしてまたくっつく。
「ちゅぅ……れぉ……クチュ……」
俺はいつの間にかキスに夢中になり、思考にも靄がかかっていく。
唾液が甘い。
頭から重力がなくなっていくような感覚で、唇と舌だけが独自の意思を持ったかのように、ヤミの口蓋と絡み合う。
薄く目を開けると、ヤミは焦点の合わない目で俺の見て、ヤミもまたキスに没頭していた。
舌を尖らせてヤミの口に挿れる。
怒られるかと思ったが、ヤミは自らの中に侵入してきた俺の舌をもてなす様に招き入れる。
お互いの性器を擦り合わせるかの様に、ヤミの舌が俺の舌と絡み合い、擦り付け合う。
「はぁっ……クチュ、はぁ……!」
呼吸も忘れ、外聞も忘れ、ただキスに夢中になる。
俺はつい、ヤミの控えめな乳房に手を伸ばす。
手から伝わるのは、芯に硬さのある若々しい乳房。
少女から大人の女になろうとする萌芽そのものだった。
下着をつけない彼女の主義のおかげで、その感触を手に焼き付ける。
「んっ!?、ちゅぅ、チュパ……!」
胸に手を伸ばされたヤミは、はっとした顔で俺を睨む。
何をしているんですか、そんな言葉が聞こえてきそうだが、俺はヤミの目を見つめることで応える。
ここでやめていいのか、と。
キスをしたまま、俺は目で訴える。
それが伝わったのか、ヤミは諦めたように眉をへの字にしてキスに意識を戻す。
すぐに体から力が抜け、キスに熱が入る。
「…………っ……、ちゅ、んっ、ぁ……」
俺の手が乳房に置かれている状態に慣れたことを確認し、俺はヤミの乳首を手のひらでコリコリと服の上から転がす。
ヤミは、ん、と小さくうめき、俺の肩を握った。
「あ〜ら、若いっていいわ〜!もっと激しくしてちょうだい?」
店長の声で一気に現実に引き戻される。
ヤミは他人の目の前で、キスに夢中になっていた自分を自覚して、顔を真っ赤にして俺を見る。
女はいつも自分の痴態を自分以外の誰かのせいにしようとする気がするのは、気のせいだろうか。
「何……ちゅ、やって……ぷ……んぁ……んんっ!」
「(ほら、ちゃんとしろって)」
「ンッ!!」
ヤミからキスを俺に頼んできた手前、俺のことをぞんざいには扱えないことを利用できる。
ヤミの頬の内側を啄むように舐めながら、俺はニヤつきが止まらない顔で、ヤミの体を楽しむことのみを考える。
ヤミが胸を押して逃れようしていることを察した俺は、服の上からヤミの乳首をかなりの力で摘む。
やっぱりノーブラのヤミの乳首は摘みやすい。
人差し指と親指が、ワンピースの生地と一緒に、グミのような硬さの先っぽにグニッとめり込む。
「ちく、びゅぅっ……!ちゅぷ、あぁはっ……!!」
俺を押しのけて離れれば、乳首が引っ張られる。
痛気持ち良さでヤミは俺から逃れられないという作戦だ。
白いワンピースに包まれている少女の乳首を想像して興奮はさらに高まっていく。
潰すように摘んだ乳首は、ヤミの動きに合わせてさらに強く摘まれる。
そして俺の胸を押したヤミは、自ら乳首を引っ張られる形となり、乳首が服の上からでもわかるほどだった。
「ん!?んんっ!!んんんんああああっ!!!」
あ、あ、と口を開けて、目を見開くヤミ。
ヤミの体が一人でに動き、爪先立ちとなってヤミの身長が一時的に高くなる。
あ、と下腹部から響いた様な声が喉から溢れる。
これまでにない反応に俺も驚く。
ヤミ自身も驚いているのか、目を見開いている。
脳が全く新しい情報を処理しきれていない様だった。
肩で息をしているヤミは、阿吽の呼吸でキスを終えた。
「ハァ〜イ、オッケーよ〜」
「はぁっ……はぁっ……!」
あまりの反応の良さに俺はつい無言になる。
「お、おい……大丈夫か?」
ヤミは内股になり、体を抱いて俯き、体を震わせている。
「……くっ……ぅ……ちょっと、椅子に、座ります……」
顎に垂れた唾液を拭いながら、これまでにないヤミの反応を思う。
「大丈夫か?」
ヤミの肩に手を置く。
ヤミは先ほどよりは復調したらしく、ワンピースの裾をぎゅっと掴んだままキッと俺を睨んだ。
可愛い。
「……あなたが、えっちいことさえしなければ、こんなことになっていません」
「はは……」
「……もう大丈夫です。早く行きましょう」
ヤミがここにもっと馴染めるように、できるだけの協力をしようと俺は軽い決意をしたのだった。
///////////////////
「ぼ、ボディタッチ……?」
ヤミの声が震える。
「そ〜よ〜。カップルなら少しエッチなボディタッチくらい普通でしょ?と思ったんだけど、キスの最中の見てたらもう十分お触りしてたし、いいかなって今思ってるわ。だからちょっと飛ばしていくけどいい?」
「……うっ」
「ここじゃ人が来るかもしれないから、専用の地下室まで来てちょうだい。梯子、気をつけてね」
「……いくか」
「…………えぇ」
「じゃあ、俺が先に降りるよ」
「待ってください」
「え?」
「私が先に降ります。あなたが下にいたら上の私が何をされるかわかったものではありません」
下を確認しながら降りるヤミ。
梯子は古びて薄暗いから、よく見ないといけないくらいだ。
ヤミに続いて俺も梯子を降り始める。
「あ!」
「え?あ、ちょっ!?」
ズボンをヤミが引っ張ったことで俺ごと地面に引っ張られる。
ドサっと音を立てて、落ちる。
「いっ……たくない?」
少なくとも1mは落ちたはずだ。
それでも膝も何も痛くない。
柔らかいマットの上にでも落ちたみたいな感触だ。
「むぐぅ!?、んぐぅんん……!」
何やら下半身、正確には尻が寒い。
そして、股間が温い。
ペニスではない。
ちょうど金玉袋が柔らかい人肌の何かに包まれて、気持ちがいい……
「ん?」
真下を見ると、純白パンツを丸出しにして、俺の金玉を口に含んで悶えるヤミがいた。
落下の衝撃で金玉が潰されなかったのは、ヤミの口がちょうど金玉を収めてくれる窪みになってくれたからだった。
「んごぁ……ん〜!んんっ!」
俺の金玉を咥えながらうめくヤミは、白い首と白い顎だけが俺の下半身から見える状態だった。
足を滑らしたヤミは、咄嗟に俺のズボンを掴み、そのままズボンごとずり下ろし、俺は下半身を露出したままヤミを下敷きに落下したのかと独り合点がいく。
「んんぅ!!……んぐぅん……!」
ヤミが口をモゴモゴして唸る。
このラッキースケベとも言える状況に内心喜びを隠せないでいた。
金玉なんて色も悪いし、汗で蒸れるし、ブヨブヨで一般女性からしてみれば、いや男であってもみたいものではないし、ましてや舐めるなんてしたくない。
そんな汚い部分をヤミは口に含み、その可憐な朝露のような唇で触れているのだ。
この背徳はこれまでにないものだった。
「んおっ」
ヤミの唾液と舌が金玉に触れてくすぐったさの混じった気持ちよさが痺れとなって俺のを襲う。
まるで俺が無理矢理、ヤミの顔面に自分の汚い尻を押し付けているような錯覚に陥る。
愉悦に浸っているのも長くは続かない。
冷静になると自分はやばいことをしていることにハッとする。
「っと……大丈夫かっヤミ!」
「うぅ……だ、大丈夫です……」
名残惜しかったが急いで立ち上がり、ズボンを引き上げてヤミに手を貸すと、ヤミは虚な目をしてよろよろと立ち上がる。
(もしかして、俺の金玉を舐めてたって気づいてないのか?)
「すみません、足が滑って……あ」
ポタっと水滴が地面に落ちる。
血だった。
ヤミの鼻からツーっと鮮血が滴っていた。
「これくらい問題ありません」
「……でもっ」
落ちた時に鼻を打ったのだろう。
ヤミの鼻からツーっと赤い線が伸びる。
フラッと立ち上がり、ぼーっとして鼻血を流すヤミを前に、俺は頭を抱えた。
意図せずにヤミを怪我させてしまったことは、俺に落ち度にあるかは別にして、少なからずショックだった。
「あら、大丈夫?しばらく休んでなさいよ」
「どうも……」
俺は彼女をベンチに座らせ、何度もヤミに大丈夫かどうかと尋ねた。
正直、流血沙汰に俺は軽いパニック状態だ。
「もう血は止まりました」
最初の1、2回は普通に答えていたヤミも、それ以降は段々とイラつきが顔に出ていることに気づいた。
それでも俺はヤミに話しかけ続ける。
ちょっとしつこいくらい。
ついにヤミが吠えた。
勢いよく立ち上がり、俺に真正面から向き合う。
「もう!大丈夫だと言っているでしょう!一体なんですか、さっきから……!」
「いや、でも……」
「私は貴方と違って体は頑丈です。普段通りにしてください!気持ち悪い。ほらっ」
ヤミは俺の手をひったくり、背中に回して、自らの胸に手を誘導する。
「いつも通りに、こう!」
ヤミに導かれ、下から持ち上げるようにヤミのおっぱいを包み、乳首に指が触れるか触れないかの距離をギリギリ保つ、いつもの俺の手技を再現したものだった。
ヤミの体温が手に伝わる。
「ちょ、ヤミ!?」
突然の逆セクハラ?に俺はびっくりする。
俺に自らの胸を触らせて、俺を睨みつけていたヤミがハッとして目を見開く。
「あ、こ、これは……ち、違いますから!!貴方に気を遣われるのが不快だっただけです……!」
「ヤミ……」
俺の胸はいっぱいだった。
ヤミがそこまで怪我を負っていなかったこともそうだが、ヤミがした行動は、俺を慰める行為でもあったからだった。
これってセクハラし放題ってことじゃね?と俺は確信していた。
「何んですか、その顔は……!?殺されたいのですか?セクハラを容認したわけじゃありませんから!」
ヤミは顔を真っ赤にして身を翻し離れようとするが、離れるヤミの胸を掴んで引き寄せる。
「あぅ……!」
腕に巻き込まれるように引き寄せられたヤミは、一瞬固まったが、俺に抱かれたとわかると、首だけそっぽを向いて俺に顔を見せずに、俺の胸へと納まって小さくなるのだった。
「……なんですか」
「いいだろ?このままで」
「…………好きにしてください」
ミルクのような匂いがするヤミを抱いて、思ったよりも距離が縮まったことを実感しつつ、少女の柔肌をいやらしく俺は撫でてニヤついていた。
//////////////
長かった。
地下に移動して3分くらい歩いてやっと到着。
こんな地下があったことに驚きながら、思う存分ヤミの体を弄って歩いていたが、ヤミは時折声を漏らすだけで、俺の行動に抵抗する仕草は見られなかった。
俺たちは移動した部屋に備え付けられた、機械の前に立たされていた。
「最後ね。普段聞けない質問タイムよ。嘘ついたらこの機械で検知するからね。ちなみに嘘ついたらお目当てのものは手に入らないわ」
ここまでやって、帰ります、という選択肢はなかった。
正直俺はヤミの新しい一面が見れて満足しているのだが、ヤミにとっては目的に物があるのだから関係ないのだ。
「アタシがあなた達に質問するわ。ん〜〜、好きな体位!」
「あ、まだ俺たち……」
「あ〜らそうだったの?」
「ええ、でも必ず俺がヤミの股をこじ開けて突っ込んでみせます!」
「いいわ、その意気よ」
「……何を言っているのですか?」
こんな一幕があったが、ヤミは本気でわかっていなさそうなのが面白かった。
身構えるヤミを目の前に、店長は腰に手を当て、ニヤリと笑って最後のお題を提示した。
「キスした時どう感じてるのか答えてもらいましょうか。じゃあ金髪のお嬢さんから」
嘘はつけない。
どういう基準かわからないが、嘘判定が出たら目当てのものは買えない。
キスの時の感じか、と俺は頭を捻る。
それをあえて言わせるとか、この店長もいい趣味をしていると思った。
ヤミはどう答えるかよく考えて、深呼吸をしている。
閉じられた瞳が開き、赤面したと思うと、はっきりと声に出し始めた。
____それは聞くだけで恥ずかしくなる独白だった。
「キスの際に感じることですね…まず、舌は予想以上に敏感で舌の感触は柔らかくて濡れた感じです。触れると舌のジョリジョリを感じてまるで電気が走るような刺激があります。最初は自分以外の異物が口の中に入ってくることに違和感がありますが、舌同士が絡み合っていると、次第に慣れてきて、お互いの唾液と息が熱になって交じり合う感じがします」
「あ、ちょ……」
店長が慌てた様子で止めようとするが、ヤミは気づかないでそのまま続ける。
今、ヤミは外部の情報をシャットアウトしていることが見て取れる。
「動きについてですが、まるで二匹の蛇がうねうねと絡み合うように、ニュルニュルと時には激しく、時には優しく動くのです。ニュルニュルは嫌いですが、このニュルニュルは嫌いではありません。そして、感情は…キスをしている時はなんだか、胸が満たされるような感覚になります。」
すうっと一息つくと、さらに真っ赤に頬を染めて、声色にも熱っぽさを含ませて続ける。
「そして……キスを交わす相手の唇から伝わる温かさは、まるで焼きたてのたい焼きような熱さで、甘さとねっとりした唇と舌が熱くなります。全てが熱くて、胸が抑えきれないくらい、何かがこみ上げてきます」
は、は、と横隔膜が緊張したようで、短い呼吸で息をする。
「あと、キスの最中は、ち、乳首を弄られるのが好きです。強めにやられると体がキュンとなって制御不能になります。あの……恥ずかしいので、これくらいでいいですか?」
ポカーンとした顔の店長と、顔から湯気が出そうな程赤面したヤミが、同時に俺のことを見た。
多分俺も彼女達から見たら、呆然と間抜けな顔をしていたと思う。
「あら、随分と生々しく……これ”気持ちいい”とかそれくらいで判定できるから、そこまで具体的に言わなくていいわよ」
なんとも言いづらそうに店長が説明をし始めて、途中からヤミが自分のした事の意味に気付いて目を見開く。
「な、なんで、途中で……あっ、あ……あぁ……!」
完全な自滅だったことを自覚してるのか、ヤミは項垂れて頭を抱えていた。
小学生とか、中学生の時にやった恥ずかしい行動を黒歴史というが、多分今のはそう言った類のものだった。
そういう時、そっとしてあげることしかできない。
「ま、いいわよ、マシンも嘘じゃないって出てるし。はい、次あなた」
お、次は俺か。
俺にも同じ質問らしい。
ヤミは自爆し、瀕死だ。
ガールフレンド(仮)のヤミ一人に恥をかかせる常識のないファックな彼氏には俺は_____
「気持ちいいです」
「はい、オッケー。嘘じゃないわ〜」
(すまない、ヤミ)
俺は心の涙を拭いて答えた。
いい笑顔だったと思う。
「結城リト……!あなたと言う人は……!!」
ヤミは真顔になり目をひん剥いて俺に突進して胸ぐらを掴む。
「や、やめたまえ……」
「誰かに言ったら、殺しますから……!」
もうすでに一番知られては行けない男に知られている。
「ちょ、本当に彼氏苦しそうよ」
「最後、彼氏から彼女に質問〜」
余程恥ずかしかったのか、結構な力で締められて俺は悲しい。
悲しさをバネに、俺から最後の質問をヤミに問いかける。
「ヤミってさ、俺のことニュルニュルのドロドロに恋しちゃってる?」
「〜〜〜〜!!な、何を……」
これはカップルを前提としたイベント。好きか嫌いかなど本物のカップルだったら特に躊躇いもない質問だろう。
「…………はい……」
項垂れたヤミは、なんだかリングのコーナーに座った某ボクサーにそっくりだった。
「オッケー、嘘判定されたらどうしようかとドキドキしちゃったわぁ」
/////////////////
カップル認定試験を終えた俺たちは、店の前まで戻ってきていた。
ヤミは目当てのもの、お菓子を手に入れて一応は満足した顔をしていたが、やはりどこか疲れた様子だった。
ヤミが先に出たので、俺も後を追おうとした時、店長から声がかかった。
「はいこれ、サービスよっ」
「なんすかこれ」
よく分からない黒い革ベルトやら、麻縄やら、ブツブツのついた棒やら……てこれ大人のおもちゃじゃねえか。
もしかしてこれを使って、ヤミとエロいことをしろってことなのだろうか。
そもそもこのカップルチェックのシステムって、完全にあの店長の趣味だよな。
カメラで盗撮されてる気配もなかったし、ただ単に恋愛を応援してるだけなのかもしれない。
適当に礼をいい、俺も急いでヤミを追う。
「それにしても」
紙袋に入った変態プレイ用の道具を見る。
これでヤミを縛って鞭を打ったりすることを想像して、俺の股間がムクリと起きる。
いや、と俺は首を振る。
軽いSMチックなプレイは好きだが、道具を使って痛めつけるのは流石に俺の性癖から外れている。
「ったく、人を見る目がねえな、あの店長」
「何を言ってるんですか。早く美柑のところに戻りますよ」
一足先に信号の手前まで行っていたヤミが俺を振り返って催促する。
俺はヤミの元に足を進める。
不意にビュオっと音を立てて風が前髪を弾く。
ビュービューとビル風が音を立てて建物の隙間を走っていく。
ヤミが俺に向かって何か言ってる、が聞こえない。
確かに口が動いている。
が、聞き取れない。
風に煽られながらもヤミに追いつく。
「今さっきなんか言った?」
「……?なんのことですか?」
知らないというヤミに首を傾げたが、気にすることでもないと思ったため、記憶のゴミ箱に投げ捨てて忘れた。
その後、ぐちぐちと貴方は何を考えているのか、誰かに言ったらどうするとか、色々文句を言われたのは言うまでもない。
/////////////
先程の店内では、店長の男がたった今試練を終えたカップルの後ろ姿を見てくつろいでいた。
「男の方がSに見えたけど、案外あのおチビちゃんが……」
店番をしながら、男はニヒルに笑った。
趣味で始めたゲームも、得意だった菓子作りも合わされば案外楽しく続いていた。
未熟で不安定な男女が目の前で、お互いを揶揄い、喧嘩し、恥ずかしがりながらその仲を深めていく変化そのものを見るのがこの男の悦びでもあった。
風がビュービューと吹いてる。
強い風は運ぶのは吉報か凶報か。
誰も聞き取れなかった言葉は、実は風が聞いている。
数秒前の信号の前で紡がれた少女の言葉も___
「結城リト、あなたには感謝しています______」
「ま、そんなこと気にしてもしょうがないわね。初々しいカップルに祝福を」
「__________殺しちゃいたいくらい❤」
/////////////////
後日談。
「あ、ありがと……ヤミさんわざわざ買ってきてくれたんだね……」
「はい……美柑にはいつもお世話になってますから」
「う、うれしー……ま、前から気になってたんだー……」
「美柑に喜んでもらえて嬉しいです!」
今日一番の驚き。
「うっまっ!!!!」
「お、美味しい……!」
「……っ!!!」
こうして、ヤミとの初デートは幕を閉じた。
こうやって日常を味わうのが、幸せだったりするのだ。
「……案外俺って幸せ者かも」
真実か、または近い未来を、いつだって風は知っているのかもしれない。
評価、感想