昼下がり、リーリャが二階の寝室に上げようとしていた洗濯物ーー寝具カバーやカーテンを、玄関ホールのところで取りあげた。両手に一杯、なかなかの重量だ。
彼女はたしか今朝、膝が痛むと言っていたはずだ。
「ルーデウス様、いけません。旦那様にそんなことをさせるわけには参りませんので…」
「まあまあ、そんなに固いことは言わずに、リーリャさん」
手持ち無沙汰になり、所在なげにリーリャがまごつく。
「…ですが」
「家の当主がひざを痛めたメイドを思いやるくらいしてもいいでしょう?」
俺はそう言って、ここぞとばかりにルーデウスマイルを作った。
「しかしながら……」
スマイルでもう一押し。
「いえ、かしこまりました。ではお言葉に甘えさせていただきます。それはそちらへ置いておいていただけますか?後で少しずつ運びますので……」
スマイルでもう二押し。リーリャは観念したようだ。
「分かりました。では…… 寝室のベッドの上に置いておいていただけますか。ベッドメイクを後ほどいたしますので、その時に片付けます。何も持たずになら、難なく階上にあがれますので」
メイドというか、リーリャは俺の義母でもあるんだがな……
生前、俺は笑顔の練習なんて馬鹿にしていた。きっとあの頃の俺がみたら何がルーデウスマイルだと唾棄しただろう。そもそも笑顔は作るものじゃないという考えがある。ある程度その通りだ、今でもそう思う。
けどあれはなんだろう…表情筋を使わない生活をしていたから分かることもあるのだ。使わなければ表情は死ぬし、いざという時には声を出すこともできないと。
本気出して生きると決めた以上、生前馬鹿にしていたような努力に取り組んでみる。
心地よい笑顔で社交的な活動はずっとスムーズになる…はずだと信じている。ルークやアリエルを見ているとそう思う。
なればこその笑顔の練習だ。ちょっと気味が悪くてもね…
そんなひそやかな努力の甲斐あってか(?)うちの頑固なメイドも折れてくれた。
そのやりとりをすぐそばで見ていたロキシーも口を出した。
「リーリャさん、そこにあるものも上へ運ぶのですよね」
「ロキシー様…」
「わたしは旦那様の意向に沿いたいと思います」
と、ロキシーは茶化していった。
今日、大学は休みらしい。
今期、俺は特にこれと言った講義をとっていないからその辺さっぱりうとくなってしまった…
「ロキシー様まで、ありがとうございます。お気遣い痛み入ります。正直に申し上げますと大変助かります…」
とリーリャは恐縮した様子だ。
「リーリャさん、お大事にしてください。後で治癒魔術をかけましょう」
「はい、ありがとうございます」
ロキシーと二人で仲よく二階に洗濯物の山を運んだ。
「ふう、これでいいか」
ベットの上に持っていたものを放ってそう言った。ロキシーもその横に自分の抱えていた衣類を添える。
「いや、たたんだほうがいいか――」
「きっとたたみ方にコツのようなものがありますし、そう言ったことはリーリャさんのこだわりがあるかもしれませんから、しわにならないように一枚一枚伸ばすくらいがいいんじゃないでしょうか」
なるほど。
部屋の窓を開けると、秋口のさわやかな風がすうっと入り込んできた。
昼下がり心地よい時間帯だ。
寝室で二人、洗濯物を広げてベットの上に一枚いちまい重ねながら話す。
「ロキシーって、今までこんな風に生活したことってあるんですか」
「こんな風って、定住って意味ですか?」
「そう。ブエナ村やシーローンみたいに住み込みと言うのではなく」
そういうと彼女は視線を外してちょっと考えるそぶりを見せた。
「いえ、実家以来初めてですね…」
「冒険者の生活は性に合っていたということですか?」
「まあ、そうですね。わたしは結構楽しかったですよ。気ままに過ごせますし。危ないこともありますが、まあ、幸いわたしはこうして生きているから、結果的には良かったですね」
「そっか。じゃあ、逆にここでの生活はどうですか、性にあう?」
「合っているというか、こんなに幸せだったことありません」
ああ…結婚してよかった…
あの時、シルフィには申し訳ないと思ったけどね。
思ったけどやっぱりロキシーのこのお言葉を聞くと、結婚してよかったとしみじみ思う。
「そうですか…」
部屋に心地よい沈黙が流れた。
スパン、という洗濯物を広げる音と衣ずれの音、それから窓の外から聞こえる近所の子供の声だけが響いている。
…おほん、とロキシーは咳払いした。
「ルディとこうしている時間も、わたしには宝物のようです」
見るとほんのり頬を染めている。
ああ、女神さま!おっとべ○ダンディーの話ではない。うちの女神様の話だ。なんて純粋で穢れなきアムール。宝物はこちらのセリフだ。なんなら今すぐ足元にひざまずいてつま先からぺろぺろしたい…そしてだんだんと上に…おっといけない。紳士はそんなことしない。俺は紳士だ。けれど夜は違う、夜は戦士である。戦士のお楽しみは夜にとっておこうか。
などと下卑た妄想を始めそう(始めていた)になっていると、頬を赤らめたままロキシーは続けた。
「ところでこのシーツは一昨日のあのシーツでしょうか…ちょっと恥ずかしいですね」
おとといの晩といえば、いつも通り全身全霊で
そして、ほんの少しだけシーツを汚してしまったときのことを言っているのだろう。
「何をおっしゃるのですか。なにも恥ずかしいことはありません。神が下界降臨されし証拠たる聖布に恥も何もありません」
これはいけない、女神さまがその手の話題で俺を試しているようだ。
俺の中に巣食う百八の煩悩を引きずりだそうとしてくるではないか。
「いや、ほとんどなにを言っているかわかりませんが…とにかく、あんなにされたら自分でもどうなってるのか分からないので困ります」
下腹のあたりでルディ砲の銃身に弾が込められたのが分かる。なんなら撃鉄があげられた。
――この感覚は覚えがある。シルフィともそうだった。
ロキシーと
ましてや今、寝室で二人きり。
シルフィとリーリャとアイシャは階下のキッチンにいる。ロキシーだってこの状況をよく分かっている。
「されても困るっていうけど、ロキシー、もっとくださいっていってましたよ?」
「それは…でもルディだってわたしがするの、好きでしょう?」
「ロキシー」
「なんですか」
「もしかして、誘ってますか」
そう聞くと、ロキシーは上目遣いで俺の瞳をのぞき込んでくる。
「――ダメですか?」
これはいけない、これはロキシーが悪い。
★ロキシー視点★
胸のところをルーデウスに押されてロキシーはベットに尻もちをつき、そのまま仰向けに倒されてしまった。
左足のサンダルミュールは脱げて、残った右足はルディに抜き去られた。
あまりに唐突で声も出ない。顔の真横に片手がつかれた。
ルディの端正な顔が目の前にある。自分を狙う雄の顔をしている。
ふとももの間に膝がさしこまれて足を割られ、そのまま付け根まで一気に到達した。
はっきりとそこに当たっている。
あらわになった自分の下着が、ルディにとって特別な意味があることは知っている。
自分の鼓動が聞こえてきた。
それとも、ルディの鼓動かもしれない。
…どっどっどっどっど…
「してくれるんですか?」
「ええ、止まりませんよ?」
そう言ってロキシーのスカートをめくり直して、気のはやった手つきで下着の隙間に指を滑り込ませる。
「あ…」
そのヌルリとした感触で、自分が濡らしていたのが分かる。
「ロキシー、今のだけでこんなにしてるの?」
「――そうですよ」
照れ隠しに口をとがらせて言い返す。
溢れてきた。
ロキシーの興奮は誰にも分からない。
あんなに可愛かったルディが成人して、こんなに素敵な男性になったこと。
その彼が自分の拙い誘い文句に乗ってくれること。
こんなに素敵なのに中身は昔と変わらず、劣情を向けてくるときのえもいわれぬこの感覚を。
エリナリーゼの例の言葉を借りることにする。
いわく「想像しただけで孕みそうになりますわ…」である。
まったくその通りだとロキシーは思う、誰に言うわけでもないが。
「ルディ…」
名前を呼ぶと、目が合う。
「全部ぶつけてください、気遣いなんていりません。もう今挿れてもいいですよ」
自分だって興奮している。
わたしは色んな技巧やルディが喜ぶことを二人で試していくのが好きだ。
好奇心と性欲が混じる気持ちは人に説明しがたいものがあるけれど、そういった面でもルディはとても良いパートナーだ。
だけどこれは違う。
一味違う。
女である自分を認められる悦びは、全然ちがう。
ルディはもどかしそうに下半身の衣服を脱いでいる。
それを手伝いながら、彼を見上げた。
「もう挿れますか」
聞くと無言で頷いた。ルディのその仕草で下腹部に火がつくのが分かる。
目の前であらわになった彼の男性を口に含み、自分の唾液で湿らせた。
「出来ました、挿れられますよ」
そう告げて、目を合わせながら後方に身体をたおすと、あわせるようにのしかかってきた。
太く猛ったものがあてがわれる。
滑らかにすべり込んできた。
ほとんど服を着たまま、下着だけ取ってルディを受け入れている。こんなの初めてだ。
痛くないしなんの引っかかりもない。
「ああ…」
彼と交わる時にだけ出る声がもれた。
そっと口に手を当てられる。
そうだ、窓がーー。
ルディと目が合う。彼は少し落ち着きなく、興奮している。
ベットにわたしを押しつけて、逞しいものでつらぬいている。
わたしもだ。
興奮しないわけない。
声を懸命にこらえた。
ルディのことを受け入れられる身体で良かった。
ミグルド族でも、ちんちくりんでも、きちんとできて良かった。
自分がちゃんと一人前の女で良かった。
二人の息づかいが寝室の中で絡まり合っている。
「ロキシー」
「ルディ」
「出そう……」
彼の精をもらえる身体で――良かった。
「してください」
最後は声を我慢していたのを忘れて、夢中になって身も世もなくあえぎ、ルディにしがみついた。
★★★
「ちょっと余裕がありませんでした……ごめんなさい……」
中にある彼のモノは次第に落ちつきを取り戻していく。
正面にルディの顔がある。
「謝る必要があるように見えましたか……?」
「いえ……でも俺の戦士としての沽券が……」
「一体なんの戦士なんですか」
「えー、……夜の戦士?」
「物騒ですね」
それでは暗殺者だ。ちょっと面白くて笑ってしまう。ルディもフフと軽く笑った。
もちろん彼がそういうつもりじゃないことは分かっている。
「ルディルディ」
呼ぶと目が合う。
「とっても素敵でしたよ?」
言われてルディは自信なさげに微笑んだ。
「そうですか、俺としてはもう少し大人の余裕を……」
大人って……彼はまだ十代なのに。
いや、年は関係ないか。
いつも篭絡されているのは自分なのだから。
「ふふふ……そんなにわたしが魅力的ですか」
そういうとルディは、ちょっと大げさにきょとんとした顔の芝居をした。
「言ってませんでしたっけ?」
口角が上がるのがおさえられない。
「そう言えば……いつも言ってますね」
キスをされる。
教え子としての彼は、寒気がするほど優秀だった。
パートナーとしての彼は……ちょっと恐縮してしまうくらい魅力的だ。
「そんなに背伸びしないでください…等身大で来てください。わたしはそれですごく興奮しますから」
そういうと、ルディは真顔になった。
「――うん」
言いながら、ロキシーの肩口に潜り込んできて、首筋に柔らかい口づけをする。彼から放たれる親密な何かで包まれる感覚がある。
「……あ」
どうやらルディには再び火がついたらしい。つながっているからすぐにわかる。
「いつものだって等身大の俺だよ」
「分かってますってば…あっ…」
二回目は、ゆっくりといたぶられて声を我慢するどころではなかった。
★★★
下着をつけて、着衣の乱れをお互いにチェックして階下に降りた。
階段を降りるときにお尻を触ってきたルディの手をはたき落とした。
ロキシーがトイレから出るとシルフィがニコニコしながら近づいてきた。
「窓から聞こえてたよ」
「え!」
変な声が出てしまった。ニコニコじゃない、シルフィの笑顔はニヤニヤの間違いだった。
「ロキシーつやつやだね。トイレから出てきて何してたの…?ルディ、良かった?」
そう言ってますますニヤついて肘でつついてくる。
「大丈夫。生ごみ捨てるから裏手に回ったのボクだけだし、多分聞いてたのもボクだけだよ」
「あうぅ、すみません。そんなものを聞かせてしまって」
「へ!?何言ってんの、何も悪くないよ」
「気分を害したのであれば申し訳ありません。しかし私もつい――」
「ちょっとロキシー。ロキシーだってボクだって、いつルディにしてもらってもいいでしょ。まだそんなの気にしてるの?」
「しかし…」
「ダメだよ」
めっ、という顔をしてからシルフィははにかんだ。
「いいなあ…」
シルフィの目が泳ぐ。
「ボクもしてもらおうかな…」
やはりわたしは、このあけすけなもう一人の家族がたまらなく好きだ。
「ねえ、シルフィはルディとして、中にされたあとどうしてますか」
「どうって…後で出てきちゃうからトイレに行くか…」
「たまにルディが」
「そう、ぬぐってくれることもあるよね」
「ええ、そうそう」
お互いがお互いに指を差し合う。
「あれ、嬉しくない?」
「わたしはあれ、初めての時にされてイチコロでしたよ…」
「ねー」
「下着に漏れるのが最悪だよね…」
「そうなんですよ…ルディも分かってるからたまにぬぐってくれるんでしょうかね」
廊下でそんな立ち話をしていた。
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