シャリーア近郊、グレイラット邸。
「おかえりなさいませ、旦那様」
深夜。
ビヘイリルの出張から帰ってきた。
外套と荷物を受け取ってくれたリーリャに礼を言い、みんなの様子をうかがう。
「特に問題なく平穏無事です。ゼニス様も子どもたちも今は就寝していて、奥様方はいつもの――」
会議ね、盛り上がっているのだろう。
仲がいいのはいいことだ。平穏無事が一番。
邪魔しちゃ悪いから風呂には一人で入ろうか。
誰も起きてないかと思ったが、意外に夜中も平常運行している。
いい湯だった。
暖かい湯が疲れた身体に沁みわたった。
剣と魔法の世界でも、日々歯車となって働くサラリーマンの気持ちが味わえるとはね。まあ、生前はそんなものとは無縁だったわけだが。
休み前のなんとも言えない開放感。
二階に上がるとシルフィの部屋からにぎやかな声が聞こえた。
エリスがなにやら騒いでいて、シルフィの笑い声が響いている。
何をそんなに盛り上がっているんだ。
知りたいところだが、いくら夫婦であっても立ち入れない女の園というものはある。
「ふぃー」
ベットに腰かけて頭をふき、魔術でそのまま髪を乾かした。
む、部屋がすこし寒い。もうそんな季節か。
この部屋は下の階の暖炉が熱源になってくれる。火が落ちて時間が経っていると、寒くなってくる。
もうずいぶん遅い時間だからな。
風と火の混合魔術で部屋を暖めて、と。
魔術がこんなに便利だと、技術を発達させる必要性というのも当然弱くなるんだよな。
コップに葡萄酒を注いで、今夜は一人でしっぽり出張帰還祝いとしよう。
ビヘイリル王室とスペルド族の関係の確認、鬼族の縄張り調査などギース戦にまつわる事後処理。「わたしもいくわ」と出発前に息巻くエリスを、今回荒事はないんだと丁重になだめた。
帰ってきたらすっかりシャリーアの秋は深まって、夜気は冷たい。収穫祭も終わっているし、あとは冬がくるのを待つばかり。
ろうそくの光が見慣れない厚手のカーテンをやわらかく照らしだしている。落ちついた色合いで品が良い。出張に行っている間に誰かが変えてくれたんだろう。
「んーんん、んんん…」
俺が生前会社員だったら、金曜日の夜ってこんな気分になったんだろうか。陽気な鼻歌がもれる。
そんなことを考えているとエリスが部屋に入ってきた。
今夜は誰も来ないかと思ってた。自然と顔がほころぶ。
「エリス、ただいま」
「おかえりなさい、ルーデウス」
ふふん、と言わんばかりの上機嫌な表情。ショートパンツからすらりと長い足が伸びていて眩しいじゃないか。
実際エリスは飾り気のない簡素ないでたちも様になる。
「ルーデウス、機嫌がいいのね」
エリスもね。まっすぐベットに向かってきて隣に腰かけた。ふわりと良いにおいがする。
「なんの歌?」
口づけを交わす。
「ん、適当だよ」
「そう」
ただのチョコ〇のテーマソングさ、君は知るまい。エリスもどうかと葡萄酒をすすめると「ちょうだい」とコップを受け取った。二人で葡萄酒を飲みながら、出張に行っている間の出来事を話した。
大方俺が風呂に入っているあいだにリーリャが俺の帰宅を告げてくれたのだろう。
酒に弱いどこかの白い髪の妻と違って、エリスは前後不覚になったりしない。アレはアレで魅力的なんだけどね。隙のある魅力というのだろう。
赤い妻の方は飲んでも少し頬を上気させるだけだ。美しくても隙はない。
ただ、エリスは酔っていなくても二人になるといつもは見せない顔を出す。
こてん。
肩にもたれて手を握り、その手を握りかえすと今度は太腿をゆっくりとなぞり始め……自然と我が息子が、出番がきたか?と言わんばかりに鎌首をもたげた。
エリスは我が息子の様子を見ていた。
と、ふいに視線をあげこちらを向く。おや、ここでハッスルタイムにもつれこむんじゃないのか?
「ねえ、ルーデウス」
「ん?」
照れ隠しするように口角を上げたエリスが聞く。
「ルーデウスがわたしのことを最初に女として意識したのはいつなの」
なんと。
近頃気を許してくれたのか、少しずつこういう打ち解けた話をするようになってきた。白い髪と青い髪の先輩が何か吹きこんだのかもしれない。
記憶をさかのぼってみる。
「……エリスはよく授業から抜け出してたの覚えてる?」
「なんでそんな話になるのよ」
ムッとした顔。今なら子供らしいと笑ってくれると思ったのだが。
「抜け出したエリスは馬小屋で寝てて、それを初めて見た時かな」
言うと、ちょっと思いだすような表情をして
「そんなことあったかしら」
もう覚えてないらしい。
馬小屋で寝ているエリスの胸をこっそりと揉み、スカートの中に手を入れた記念すべき日である。
んー、良い思い出だ。
「スカートの中に手を入れて下着をとろうとして」
エリスのあきれた顔が目の端に入ってくる。
「そうだったわ……ただのイタズラじゃなかったのね」
それは覚えているらしい。あきれつつも笑っている。
「そんなに早くからそんな風に見てたなんて、もっと早く知りたかった」
「早くに知ってもなんとも思わなかったのでは?」
だってあんなに敵意剥き出しだったじゃないですか。
「そんなことないわ。初めてルーデウスを誘ったときだって、断られるかもしれないと思って勇気を出したんだからね」
少しだけ照れている。
そうだったのか。
忘れちゃっただけかな。
エリスとこんな風に話をするなんて想像しなかった。
会話に弾みがつく。
この際だから旅の間に話せなかったことを話してみたい。
かけがえのない時間を一緒に過ごした、とは思う。
だが意外と思いは共有できてない。
魔大陸に転移したばかりの頃、お互いにどんなことを考えていたか。
ルイジェルドのことをどう思っていたのか。
ザントポート行きの船でなぜおれがエリスに手を出さなかったのか。
どうしてあの時パウロを許すことができたのか。
時間が経って、大人になって話せることもある。
いや、違うな。この際だから聞いてみよう。
「……エリスはいつから俺のこと意識してたの?」
ルーデウスのこと?と聞き返してくるので、そうだとうなずく。
エリスも首をかしげて記憶をさかのぼった。
「ルーデウスの十歳の誕生日。夜に部屋でルーデウスに謝られたとき……」
エリスを手籠めにしようとした時か。
あの時は激しく後悔してひたすら謝った。特別な日だからと言って許してくれたっけ。
「意外だな。あの時は許されてほっとしたのはこっちなのに。なんで?」
「二人で部屋にいるのに覚悟ができなかったわたしだって悪かったわ。それなのに自分が悪いってあんなに謝ってくれたから」
ふむふむ。
ふむ?どういうことだってばよ。
「いつもルーデウスが折れてくれるって気づいてた。わたしの引っ込みがつくように付き合ってくれる人はルーデウスしかいないわ」
まっすぐなエリスの瞳。
嬉しいこと言ってくれる。
「十五歳まで待ったらさせてくれるって約束もしてくれたしね」
「もー!」
からかうと、茶化さないでよと強めにはたかれた。
いたいいたい。
「ルーデウスだって、そんなに早くからわたしのこと意識してたくせに」
いたずらっぽくエリスが絡んでくる。
「あんなに小さかったクセに、わたしと何がしたかったの」
調子のいいエリスは、なんていうか可愛い。
夫の特権を感じる。
んー?ととぼけていると、にやにやとこっちを見てる。
「エロいことがしたかった!!」
ふざけて押し倒すと「もー!なによ」と言いながら実に嬉しそうである。
あー、幸せ。
「今ならできるわよ」
「え」
「ルーデウスがわたしにどんな事がしたかったか知りたいわ」
「どんなことでも?」
こんな風にエリスに誘われたのは初めてだ。
いや、エリスは駆け引きで誘ったんじゃない。素直な会話に身をゆだねた結果、流れでそうなったのだろう。
★エリス視点★
結婚したばかりの頃。ルーデウスと二人になると、話をするのももどかしかった。
ルーデウスとつながりたいという気持ちには抗えない。
そのことばかり考えていた。
何もかも血のせいにするつもりはないが、やっぱり血の影響もあるだろう。
そんな私の肉体的な飢えを、夫となったルーデウスはやっぱり上手に導いて、何年も時間をかけて満たしてくれた。
満たされたといっても、今二人きりで寝室にいるとムラムラとする。もうすぐにも始められるほど反応している。
けれど今日はルーデウスと話をしようと思った。
シルフィやロキシーがわたしの知らないルーデウスをたくさん知っていることに気がついたからかもしれない。
それだけじゃない。
リーリャやアイシャもルーデウスのことによく気がつく。
だからわたしも自分の思いをぶつけるだけじゃなくて、ルーデウスの考えていることや気持ちをもっと知りたいと思うようになった。
大好きな人と夫婦になれたのに、知らないままじゃもったいない。
きちんと聞いてみると、今日みたいにびっくりするようなこともあって、自分はルーデウスをよく知らないんだと思った。
なぜかシルフィとロキシーは、わたしに「そのままでいい」「うらやましい」というけれど。
ロキシーがいうには「エリスはルディの乙女担当です」だ。
よくわからないけどシルフィもうなずいていたから、あるいはそうなのかもしれない。
でも話してみて思った。
つのらせていた思いや欲望について照れたり恥じたりせずにちゃんと話すと……ちょっと興奮する。
★ルーデウス視点★
あの時どんなことがしたかっただろうか。
そうだな。
「んーじゃあ、まず目の前に立ってもらおう」
エリスがベットから立って「こう?」と目の前に立った。
にやにやと楽しげである。
ショートパンツからすらりと伸びた脚が目の前にきた、実にまぶしい。
俺がしてみたかったことと言えば……
「下着が見えるように、ズボンを自分でずらして見せて欲しいな」
エリスはひゅっと息を呑んだ。
顔が一気に上気した。
たしかにちょっと恥ずかしいかな。
いや……
エリスの手と目が所在なげに泳ぐのをみて改める。
もしかして、とても恥ずかしい注文をしたかも。ごめんよ、そんな気はなかったんだ。ちょっと正直な欲望を申し出ただけさ。
「あんなに小さい頃から、そんなことしたかったの?」
「そうだよ?」
「もっと……服の上から触るとか胸を揉むとかだと思ったわ……」
しばしの無言。
と、エリスは観念したようにショートパンツに手をかけて、中が見えるようにゆっくりおろして隙間をつくった。
あ……これやばい。何かのスイッチが入りそう。
エリスの黒い下着が見える。
派手さはなくピタっとした素材の無地の下着。
自分の心臓が早鐘のように鳴りだして痛い。
ついでに股間も予期せぬ緊急出動で痛い。
奇跡の隙間はすぐに閉じられていく。
エリスは眉根を寄せながらこちらを見ている。
……い、いかん。
「もっとよく見えるように……戻さないで欲しい」
怒るかな……殴られたりして。
そうしたら謝って許してもらおう。
果たして、エリスは無言で言う通りにしてくれた。
目の前に立ち、自分の下着がこちらからよく見えるようにしてくれた。
ふたたび黒い下着があらわれる。
原初の欲望の火が燃え上がるのを感じる。
つばを呑んだ。
隙間に手をそっと差し入れ、中心部分に指をはわせてみる。
悩ましい声がもれる。
布ごしにいじると、熱く柔らかく潤んでいるのが分かった。
エリスもとっくにその気になっていたのだ。
彼女は腰をもじもじとさせながらも、言いつけを守るように両手を使って、自分の下着がよく見える隙間を作り、それをいじらしくこちらに向けている。
目を見る。
赤い瞳から興奮が伝わってくる。
「もっと色々やりたいこと言っていいかな?」
やや間があって、こくりとうなずいた。
「……じゃあ次は両手を使って服をたくし上げて」
エリスは腰をもじもじと動かしながら、着ている服を両手でたくし上げた。手が乳房の下でいったん止まる。
「上までたくして欲しい」
これまで自分の欲望をこんな風に言葉でエリスにぶつけたことはなかった。
きれいな形の、豊かな乳房があらわになる。瞳が吸い寄せられるとはこの事で、おもわず凝視してしまう。
最高である。
成長する前から、こんな風にエリスに接してみたかっただろうか。
確かにしてみたかった……気がする。こんな風に話を聞いてくれるような娘じゃなかっただけで。
「下を脱がすから手はそのままで、邪魔しないでくださいね」
思わず口調もあの頃に戻った。でも何だか自然だった。エリスの両手がふさがっているのを良いことに、無防備な下の着衣に指をかけた。パサリと乾いた音をたてて寝巻きのショートパンツが足元に落ちた。
黒の下着があらわになる。
それにも指をかけて脱がせると、分泌物がクロッチに垂れて糸をひいていた。今すぐ始められそうなほどだ。エリスは痴態を見せまいと足をもじもじしている。
決して手は出してこなかった。顔を真っ赤にしている。
床に落ちた下着は、エリスの興奮の証がはっきりと見てとれた。
今までのエリスと何かが違う。
俺の欲望に応えてくれる。ならばままよ、据え膳を食わねば男の恥。
(……でもいやなら引き返せるんだからね)
そう思いつつ俺はベットから降りて、立っているエリスの前にあぐらをかいた。
「ここにあてがって」
口をあけて舌を出す。何をあてがえとは言うまい。
「――ルーデウスのエッチ!こんなこと七歳の男の子が本当に思いつくの?」
「したいと思ってたよ」
なんなら生まれる前からね。
「もーっ!」
その口ぶりとは裏腹に、エリスは一歩前に出た。おそるおそる俺の舌に性器をあてがった。
たっぷりと蜜が溜まって、実に芳醇である。
「ン……ン……やだぁ……」
吸い付くとしめった音が出て、エリスはいつもより幼い声で喘いだ。エリスも昔を思い出しているのかな。
空いている両手を乳房に伸ばした。先端に指をはわせて、優しくこねる。
急に大人の女の喘ぎ声に変わった。エリスの腰がくだけてくるまで、そのまま三点をねっとりと攻めた。
★エリス視点★
あまりの刺激と羞恥で、勝手に腰がルーデウスの口から逃げた。
「エリス、きちんとここにあてがって」
逃げるたびに彼がいやらしく舌をだして言う。
「イヤ……」
恥ずかしくて結構強めに拒否したのに、ルーデウスは下から目をまっすぐ見つめてくる。観念して腰を落とし、ルーデウスの舌に自分をあてがう。
「ふむ……ん……」
うわずった声が出ててしまう。
胸をいじられると快感のひきがねが引かれてしまうのも彼のせいだ。身体を重ねるうちにそうなった。
興奮と快感と恥が混ざって、頭がおかしくなりそう。
――正直に言って、ルーデウスに命令されると目がチカチカするほど興奮した。
「エリス、向こうを向いてに四つん這いになって」
ルーデウスはベッドの方を向いてそう告げた。
言われた通りに、ベットの真ん中で四つん這いになる。
無防備な全てが、ルーデウスの方に向いた。
相手が見えないから、どんな表情をしているのかわかない。衣すれの音で、ルーデウスがこっちを向いたのが分かった。
ふうぅぅ…
むきだしの部分に向かって、吐息を溜めるように吹きかけられた。恥ずかしさに腰が引けた。丸まった腰を、いきなりルーデウスが上から手でおさえる。腰がしなって弓なりに反りかえった。
「きちんとつきだしてて」
「ルーデウス、恥ずかしい……」
「エリスにどんなことしたかったと思う?」
――このまま、挿れられるんだろうか。
わたしは挿れて欲しい。
「あ!!」
ヌルリ。
絶対にあってはならない部分に、あってはならない感触があった。熱く、生めかしい感触。
「ああ!!だめ、そっちはちがっ……」
ルーデウスの方を見ると目が合う。
間違えて舐めたの――?
「エリス、出来ないからきちんとつきだしてて」
「……待って、ダメ」
腰をさっきよりもはっきりと強く押し下げられた。
乱暴で、少し怒っているみたいに――
腰がしなって弓なりに反りかえる。
お尻に手を添えてゆっくりと割られ、全てがあらわにされた。
「こんなのおかしいわ!……ぁぅ」
ペチャリ……再び熱くて柔らかい感触。ルーデウスは、お尻の穴に舌を這わせている。
耳まで熱い。
ヌルリ。
あってはならない場所の、あってはならない感覚。
今、はっきりとあえいでしまった。
後ろの穴を舐める、温かでなまっぽい感覚。
そんなことまでしていいの?
「ダメ……ぁぁぁ……ダメ」
そう、ダメ。
なのに柔らかく包み込むような感触が変わり、舌をすぼめて中に入ってくる。
自分のあえぎが部屋にこだましている。甘い声が出ているのは自覚してる。
ルーデウスにはバレている。
「こんな風にされて……みんな感じるの……?」
ルーデウスは答えてくれない。
熱く、とろけるようだ。
拒絶しなければ、このままもっとしてくれるかもしれない。
恥ずかしい。
でも、して欲しい。
はっきり、気持ちいい。
普通のことなのか、そうじゃないのか分からない。
ルーデウスは教えてくれない。
わたしの羞恥なんかお構いなしで、ふやけるかと思うほど後ろ側を愛された。
荒い息づかいが部屋にこだまする。
「どうして……こんな風に……いじわるにするの?」
ルーデウスの目を見て問いかけた。
今まであんな風に荒々しくされたことがないし、わたしが何かきいても答えてくれないなんてことなかった。
「どうしてって」
ルーデウスもじっと見つめ返してくる。
「ずっと……」
一瞬言いよどんだ。言いづらいこと?
「ずっと……はじめてエリスにはたかれた時からずっとこうしたかった、気がする」
初めてはたいた時?
なんのことだろう、いつだったか分からない。
そういえば、お父様に紹介されて自己紹介したルーデウスをはたいた。
「あの仕返しがしたかったってこと?」
当時はルーデウスの実力を見抜くような力はなかった。
ただの生意気なガキだと思って、先手必勝だと頬を張ってしまった。
でも、あの時はすぐにやり返されたはず。
「ちがう……」
そう、仕返しじゃない。
わたしだってびっくりしたんだから。
ルーデウスは否定したものの、少しばつが悪そうにしている。
「じゃあどうして?」
あんなに荒々しく扱われたのは初めてだった。
でも嫌じゃなかった。
むしろ……
「生意気なエリスを……屈服させてみたい……という気持ちがあった」
ルーデウスの十年、わたしの十年。
ルーデウスは、わたしに対して一度もそんな態度をとったことはない。
ましてや二人の情事では。いつも優しく付き合ってくれるルーデウス。
でも今のがルーデウスの本音ってこと?
「さっきみたいにしたかったの?」
「……うん、まあ……」
「わたしに?」
「……ああ」
ルーデウスの歯切れが悪い。
「いや、これまでのだって本当の俺だよ」
「分かってるわ」
だんだん興奮してきた。
ルーデウスのむき出しの感情にさらされ、自分の中で急になにかがはじけた気がした。
「それなら、もっと……いじわるにして」
ルーデウスは目をみはった。
でも、さっきのでわたしだって興奮してる。それが伝わったのだろう。
「じゃあ教えるよ」
とささやき、耳打ちしてきた。
(シルフィもロキシーも後ろなんか触ったことない、こんなところで感じてるのはエリスだけだよ)
顔が熱い。
「イヤっ」
反射的に身体を起こそうとした。でもルーデウスはわたしの腰を抱えていてそれができない。
そのままさっきと同じことをされた。
うわずった声が出る。
(恥ずかしい、いやっ!!)
(わたしだけなんて)
「イヤぁ」
なのに……甘えた声がでる。
「イヤなの?」
「イヤ」
なのに、あったかくてきもちい。
「そう?」
バレてる。
あたたかい舌が内側にヌルっと潜り込んでくる。
力の抜けた声が出てしまう。
ルーデウスにこんなことさせちゃダメ。
「やめようか?」
なのに、反射で舌を探して追いかけてしまう。
「イジワル」
「イヤなんだ」
「イヤよっ……ぁ……ああ」
前にも指を入れられて、いつものところで曲げられるともう腰が止められなかった。
腰が勝手にルーデウスを迎えにいく。
言葉は関係ない。
ルーデウスはやめる気がない。
そしてわたしは。
すぐにはしたなく気をやった。
※1
四つん這いのまま、後ろから受け入れた。
いつもより硬く、太く、猛々しい。
ここまで遠慮がないと、もう全てをゆだねてしまうしかなくなる。
普段はわたしが高まるとテンポよく強く、快感が引いてきたときはゆっくりと優しくしてくれるのに。
そんな都合はお構いなしに、欲望に任せて奥深くまで貫いてくる。
興奮して何度も気をやった。それでも止まらない。
腰を打ちつける破裂音と、獣のような自分の喘ぎ声が部屋中に響きわたっている。
愛する人に、恣(ほしいまま)にされて恍惚となった。あまりの刺激の強さに枕を噛んでいた。
噛んだ枕からルーデウスの匂いがすると分かった瞬間、込み上げてきて一気に達した。
自分のくぐもった喘ぎ声が遠くで聞こえた。
腹の中のものも、ひときわ大きくなりそのまま精を吐いた。
わたしはただ、腰を突き出して受け止めることしかできなかった。
ルーデウスは口にしないだけで、ずっと「お前は俺のものだ」と言っているみたいだ。
ルーデウスのものがゆっくりと抜かれた。
身体で会話した気がする。
わたしに対して、こんなに求めていたなんて知らなかった。
胸がふるえている。
わたしもきちんとルーデウスに伝えなきゃいけない。
無言でルーデウスのものを口に含んだ。
根本から舐め上げた。自分とルーデウスが混ざった味がしなくなるまで、丁寧に舐めとった。きれいにした後も、ルーデウスを奥までたっぷりと吞みこんだ。口の中で膨らんで苦しくなっても根元まできちんと愛した。
再び硬くなった。口から吐き出してルーデウスの方を向く。
無言で見つめ合う。ルーデウスはこれ以上を求めてるだろうか?
したいとも、したくないとも言わない彼のものは、敏感に反応して脈打ち、天を向いている。
もう一度ルーデウスの目を見る。何も言わないけど、彼の強い意思を感じた。
わたしはその意思を汲み、上にまたがってもう一度彼を中に迎え入れた。
吐息が漏れる。
よく彼の目をみて、彼の高まりに合わせて腰を振る。
いつも自分がしてもらってきたように。
「わたし、ルーデウスのこと気持ち良くできてる?」
ルーデウスは眉根をよせてこちらを見ている。
「エリス、気持ちいいよ」
一定に打ちつける音と、自分の呼吸音だけが聞こえる。ルーデウスの剛直を柔らかくほぐすように、射精を誘うように。
自分の方が先にきた。
「ごめんなさい、またイキそう……」
「我慢できない?」
「……ふ……ん……ごめんなさい」
こらえきれず気をやる。
絶頂の瞬間は身体がふるえ、不可抗力で彼のものを自分の都合の良い角度に押しつけてしまう。快感のあまり、長い溜息が出た。
再び腰を振り、ルーデウスの逞しいものを愛撫する。
ルーデウスの息がだんだん上がってきた。
腰が動いている。自分のお腹の中で存在感が増してきた。
そんな時こそ激しくし過ぎず、射精を促すように丁寧に腰を振る。ずっとそうしてもらってきたように。
「エリスでる」
ルーデウスの余裕のない声。
「きて」
「このまま一番奥で」
頷いて返事をした。
足を少しだけ開き、腰を入れて言われた通りにする。すぐにエリスの最奥部でルーデウスの吐精がはじまる。絶頂で腰をよじるルーデウスに負けない強さで、根元まできちんと呑み込む。
口下手な自分なりに努力した。
「あなたのものになれて嬉しい」と、きちんと態度でしめせただろうか。
★ルーデウス視点★
裸のままどたりとベットに横になった。
「エリスにこんな風にぶつけたの、初めてだ」
エリスもまだ息が荒い。
赤い前髪が汗で顔に張り付いているのを指の甲で拭うと、その腕をつかまえて頬擦りしてくる。
「ルーデウスはずっとわたしに気を遣っていてくれてたもの」
思いっきり走ったかけっこで一等賞をとった後のようなリラックスした表情。
乱れた。
「あんな風に思ってるなんて知らなかったわ」
それはそう―――自分でも気がついてなかったんだ。
「ちょっと癖になりそう……」
エリスの新しい扉を開いたらしい。
「でも優しいのも好き。またそっちでもして欲しいわ」
「もちろん」
後戯。
ピロートークというやつだ。
「エリス」
呼ぶと「なあに」と囁くように返事をする。
さすがにクタクタらしい。
「最初にした時、勇気を出して誘ったって言ってたよね」
「ええ」
「俺がエリスの事が好きだって知らないのに、どんな気持ちで誘ったの」
俺の素朴な質問を聞いて、エリスがごろりとこちら側に向く。
「ロアに着いちゃってからーー」
しばしの沈黙。
思い出す作業をしてるのか、なかなか言葉が出てこない。
「役割を果たしたルーデウスは、わたしから離れていくかもしれないと思ったわ」
あっけに取られる。
そんなことはなかった。俺はエリスと家族になるつもりだった。
「だから身体をつかって引き止めようとしたの。ルイジェルドに続いてルーデウスまで失ったらと思うと怖かった」
正直に驚いた。
そんなことしなくても俺はエリスのそばにいたのに。
「ルーデウスがわたしのことを意識しているって分かってたら、あんなに……不安になることなかったのに……」
最後の方はばつが悪そうに声が小さく、ごにょごにょと聞き取りにくかった。
今明かされる驚愕の事実。
初めてにしては大胆なのね、知ってたけど。
あと……エリスさん、いなくなったのはあなたの方ですよ。
きっと俺の驚きが顔に出ていたのだろう。
エリスはちょっと気まずそうしている。
……予想外に、大切な話をする夜になった。
いや、夫婦になったんだ。そりゃあ大切な話をする夜もくる。
とにかく繊細な話題だ。言葉を慎重に選ぼう。
「そうだったんだ」
落ち着け。
おずおずと俺の目を見返してくるエリス。そんなに警戒しないで欲しいな。
怒ったり恨んだりしていないよ。
「……責めてると取らないで欲しいんだけど……あの朝にエリスはなんでいなくなったの?」
もはや触れない方が不自然な流れになってしまった。
なんの心構えもないままこの話をしても大丈夫か。
エリスの目は泳いだ。
うつ向いてしばらく一点を見ると、やがて意を決したように……うまく話せるかわからないけど、と前置きして話しはじめた。
話が変な方に転がりだしたら、うまく収拾つけられるか?
いや、つけなきゃいけないんだ。できるはず。
そんな俺の気を知ってか知らずか、エリスはぽつりぽつりとはなし出す。
「初めて二人でした日、わたしはずっと勘違いしていたんだって分かった。
抱き合ったとき、とっても良かったけど、ルーデウスが私より小さくて……びっくりしたの」
今、絶対ショックが顔に出た。
収拾、つけられるか……?
「それは……まだ……十三だったし……アレがアレだったのは……」
ショックだ。
「ちがうの!……アレはもちろん素敵だった!
けど……その、すごい魔術師としてしかルーデウスのことを見てなかったって意味よ。
もー、なんでそうなるのよ」
ええ、そうか。いかん、早とちりか。
なんだっけ。
「すごい魔術師としてしか?」
「そう、二つ年下の男の子だってことを忘れちゃうくらい、ルーデウスはずっとすごかったって意味」
すごい魔術師だと思っていた。
「なのに、抱き合ったら小さな身体だった」
「そうよ」
ああ、そういう。
てっきりマイサンのサイズの話をしてると思ってしまったよ。
サイズの話は、確かに流れがおかしい。
ごめんと謝って続きを促すと、エリスは「もー」といった後、急に神妙な面持ちになった。
「わたしも言葉が悪かった」
え、今なんと。
俺の表情の変化は意に介さず、エリスは続ける。
「旅のあいだ、ルーデウスがいるから大丈夫だって……わたしが勝手に思ってただけだったんだって思った。
抱き合ったとき、旅の間、ずっとこんなに小さな身体に自分が寄りかかっていたんだって……すごく情けなくなった」
エリスが伝えようとしていることは、アイシャから伝え聞いたことなんだと思う。
それでも夫婦にとってとても大切な話になるという強い予感がある。
今だから。
このタイミングだから話せる。
エリスが十分に成熟したということだと思う。
「オルステッドに……言いたくないけど……ルーデウス、あなたがオルステッドに一度殺されたとき……」
エリスはつまってそのまま言いよどんでしまった。
会話が重たい行き止まりにきたのを感じる。
「釣り合いがとれないっていうのは?」
手紙の内容を思いだして聞いた。
『今のわたしとルーデウスでは釣り合いが取れません。旅に出ます』
一点を見つめるエリス。
行き止まりでつまったまま会話を終わりにしたりしない。
それが夫の責任だ。
多分、俺も少しは成長している。
はず。
沈黙の時間。
ベールを一枚ずつはがすような大切な時間。
「……一度あんなことになったのに、フィットア領に入ってからもルーデウスはぜんぜん気にすることなくて」
エリスはつまりながら、ぽつりぽつりと話してくれる。
あんなこと、か。
確かに俺は臨死体験をしていた。
そりゃあショックだろう。もし逆で、エリスがあんなことになったらトラウマで立ち上がれないかもしれない。
また沈黙。
脚をからめてきた。
滑らかなエリスの感触。
脚、長いな。こんな時でもそんなことが浮かんでくる。
エリスは俺の表情をさぐるようにちらりと見てきた。
揺れてはいけない、ダメだ。俺は今エリスの核心に触れている。
赤い瞳が俺をとらえている。
大丈夫だ、とエリスに目で伝えた。
大丈夫、受け止められる。
「ルーデウス、馬車の中で新しい魔術の練習をしてたわ。
それを見て……あのままじゃダメだと思った」
俺が魔術の練習をしてて何かまずかったろうか。
弱い自分を鍛えなければならなかった。
「練習しなくちゃ、次にオルステッドに出会った時に、自分のこともエリスのことも守れないだろ?」
「わたしもいざという時にルーデウスを守れなくちゃ、釣り合いが取れないじゃない!」
カチリとパズルのピースがはまった。そんな気がした。
「あのままルーデウスと一緒にいたら、どんどん強くなるルーデウスにわたし、絶対甘えちゃうって分かってた!」
エリスは声を荒げた。
エリスはずっと言われっぱなしだった。
ゾルダートにも、シルフィにも。誰にも聞いてもらえず、また自らも何も言わなかった。
『わたし、ひどいことしたのね』
そう言っただけだった……
その言葉の後ろにあったエリスの想いが、奔流のようにおしよせてきた。
ふーふーと肩で息をしている。
甘える事なく自分を鍛えて、俺と一緒にオルステッドに立ち向かうために、五年間……
待たせたわね!と言って現れたエリスを思いだし、目頭にこみあげてくるものがあった。
……でもエリスは大切な事をお忘れだ。
俺はルイジェルドと別れたばかりで、エリスとも別れることになった。
その寂寥感をきちんと伝えるべきだろうか。
目頭が赤いエリスに、それを今伝えるべきだろうか。
きちんと伝えるべきなんだろうな。
お前を失ったと思って寂しかったんだ、と。
「エリス……」
まだ涙は落ちていない、でも俺の声は震えた。
「俺はエリスまで失ったと思って寂しかったよ……」
「ごめんなさい」
エリスの目から涙がこぼれ、パタリと音を立ててシーツに落ちた。
「ちゃんと伝えなくて悪かったの……本当にごめんなさい」
エリスの瞳はみるみると潤み、あとからあとから涙が出てくる。
俺は謝ってほしかったわけじゃない。
伝えなきゃいけないことは伝える。
同じ失敗はなるべくしない。それだけが大切なんだ。
「もう二度とエリスを失いたくないんだ」
抱き寄せると、また足を絡めてしがみついてきた。鼻を胸にこすりつけてくる。
エリスの甘える仕草。
「言えて良かったよ」
ずっと気になっていた事、本当に言えてよかった。
「……聞けて良かった」
耳もとでぽつり。
「一生何も言ってもらえないと思ってた……!」
そう言って鼻を鳴らして泣いた。
「そうだね……ちゃんと結婚出来てよかったよ」
エリスの音にならない泣き声にもらい泣きしてしまう。
でも本当にそうだ。
エリスは知らないかもしれないけど、何も伝えられずすれ違ったままの未来だってあったんだ。
エリスの泣き声が落ち着くまで、子どもあやすように髪を撫でた。
「初めて人前で泣いた」
ヒック、としゃくりあげながら言う。
「ギレーヌとお別れした時も泣いてたよ」
「そうだったわ」
照れ隠しなのかふふふと笑いながら言う。確かにエリスが誰かの前で泣くところは想像がつかない。
落ち着いて眠くなってきたのか、エリスの体温が一気に上がってきた。
エリスのぬくもりが心地いい。夢中でしていたからか、夜気ですっかり身体が冷えていた。
かけ布団をエリスにかける。ついでに自分にも。
布団の中でエリスが抱きついてきた。
「ルーデウスあったかい」
忍び笑いしながら脚を絡めてくる。
「エリス、寒くなかった?」
「今日はそれどころじゃなかったわ」
目を見ると、エリスは目を閉じた。
深紅の長いまつげが美しい。
口付けすると、エリスがはにかんだ。
美人の笑顔は胸に悪い。心臓が握られるようだ。
「でも――あれだけしたら、今度はわたしの気持ち、ちゃんと伝わった?」
あれだけしてもらったら、どんな鈍感系主人公でも勘違いしようもない。
「エリスが俺のことをあんなに好きだなんて知らなかった」
赤い妻は満足げに微笑んだ。
頭を枕に沈める。
深く息を吸う。
それからゆっくりと吐く。
あー、満足だ。
エリスは静かになり、体温があがり、規則的な寝息を立て始めた。
※1 シルフィもロキシーも後ろなんか触ったことない
本当はシルフィが新婚の頃から少しずつ慣らされている。今ではルーデウス自身も受け入れている。
シルフィはかなり興奮するものの、まだ誰にも相談できない。
「誰にも言っちゃダメだからね!」本人談
どの話が好き?
-
1 エリスの初夜のやつ
-
2 エリスの日常のやつ
-
3 ロキシーの初夜のやつ
-
4 シルフィ&ロキシーサンド
-
5 シルフィの新婚のやつ