どちらかが小さいと、同じところをぐるぐる回って進まなくなってしまう。
玄関がバタンと開き、庭先で訓練をしていたルディとエリスがエントランスホールに戻ってきた。
「―――」
「―――」
熱心に何か言い合っている。模擬戦の感想だろう。
キッチンまでその詳細は聞こえてこない。
声をかけようと廊下に出たら、ちょうどルディがお風呂に入ろうとしているエリスにちょっかいを出して殴られていた。
いつものことだ。
さっきまで真剣だったと思ったら、あっという間にそんな調子になっているルディのテンポについて行けないエリスが、分からないわけじゃない。
エリスに袖にされたルディの視線がうろうろした後、シルフィをとらえた。
「おかえりルディ、お風呂入らないの」
「ただいま、シルフィ。あとで入るよ」
慌ててきりっとした表情をつくっているのがちょっとおかしい。
「そう、暑かったでしょ?」
「――うん、水もらおうかな」
水差しの水をコップにいれてわたすと、のどを鳴らして飲んでいる。
ラノアも北国とはいえ夏はそれなりに暑い。晴れた夏空の下で激しい運動をしたらそれなりに喉も乾く。
「ありがとうシルフィ。ちょっと書斎で書き物をしてくる」
そう言ってシルフィに空のコップを渡し、半開きだった脱衣所の戸の中に手をのばして新しいタオルをとったルディは二階に上がっていった。
「うん――」
最近は二人とも毎日庭先で模擬訓練を行っている。
さすがに二人の模擬戦はレベルが高く、シルフィはちょっと手が出ないなと思う。
エリスが本気で闘っているところは、一度だけみたことがある。オルステッドの腕を刈った彼女の強さはもちろん特級だと思った。ただそういう物理的な強さより、あの気迫、あの気高さにこそ狂剣王の名に恥じない武者ぶりが顕れている。シルフィはエリスに対して頼もしい反面、ちょっとした嫉妬心もある。自分もあれくらい使えたらと思う。
二人の模擬戦を見学して学ぶというようなこともやってみたい。けれどここ数日は、アリエルの出立のための準備、家事、ルーシーとの時間、などなど案外忙しく過ごし回っていた。
模擬戦には立ち合えていない。
妊娠しているロキシーに、なるべくルディと過ごす時間をつくって欲しいという気持ちもある。
結果的にシルフィ自身が彼と一緒に過ごす時間はほとんどなかった。
「シルフィエット様、お茶のご用意ですか?」
「あ、リーリャさん。いいの、ボクからルディに持っていくだけだから」
「そうですか。かしこまりました」
「うん。さっきお米研いでおいたの、そこにあります。後で水に漬けておいてもらえますか。ボク今からちょっと」
ね、と顔でうったえる。
「かしこまりました。お任せください」
リーリャは全て承知しているという顔で言った。
「ありがとう」
★★★
書斎の窓を開けると、良い風が吹き込んできた。
日はまだ高く、暗い部屋から澄み渡った青い空と白い雲のコントラストが美しく映えている。
脱いだ服を椅子の背もたれにかけて、上半身半裸になってタオルでふいた。
椅子に座って、ふわりと膨らむレースカーテンをぼんやりと眺めていた。
アスラ王国に出発する前にできるだけのことはやっておきたかった。
彼の王国内の転移魔方陣が全く使えない――穏やかじゃない。当然向こうの陣営も手を打ってきたということだ。
けれどもこの短い期間で俺のできることなんて知れている。
エリスとの模擬訓練もその一環だし、本当は魔導鎧ももっと改良を加えられればよかったのだが、それには少々時間が足りない。
となるとエリスとの模擬戦を重ね、近接戦のトレーニングを積んでおくくらいが関の山だ。
欲張るより効果のあることをコンパクトにこなしたほうがいい。
ザリフの篭手が実践レベルで使えることが分かったのは良かった。
あとは普段から積み重ねてきたことが功を奏すると信じるだけだ。
そもそも剣王となったエリスが相手であれば、実践訓練としては十分だ。十日間みっちりやれれば、それなりに活きるはずだ。
それから。
出立までの短い期間、家ではできるだけロキシーと時間を過ごす。
先日シルフィの部屋でエリスとシルフィが言い合いをしていたのが聞こえてきた。
それは、夜は俺と過ごす時間をロキシーに用意したいというシルフィの配慮を、エリスに諭すためだったようだ。
そしてその晩はシルフィの日からエリスの日になり、むくれたエリスが俺のもとにやってきたということだ。
ここまでは短期的な方針。
ノートに書きつけたメモを見るともなく見る。
ここからはアイディア…
後で見返すためのアイディアをためておくのは、いまじゃすっかり習慣化した。
魔導鎧のバージョンアップは、ザリフの篭手が導入になる。
転移魔方陣を効果的に利用するためには。
行くなら(
自動人形…
……ふぅー
深呼吸だ。
権謀術数が渦巻く世界一の大国アスラの政治闘争に巻きこまれることになった。できれば関わりたくはなかったな――
ぼんやりとそんなことを考えていると、一陣の涼しい風がレースカーテンがひときわ大きく撫でた。
その波打つ様子を、見るともなく見ていた。この世界でも空はきれいだ。
…しかし…エリスもきれいだったな…。
打ちのめされた相手に懸想するなんて、いよいよその気があるのか…?
ーーコッコッ
書斎の戸をだれかが控え目にノックする。まさしくエリス以外の誰かだ。
「どうぞ」
シルフィがひょこっと顔を出した。
「ルーデウスさんや、お茶はいかがかね」
そう言いながら、トレーの飲み物をくいっと持ち上げて見せる。
「おや、シルフィエットさん。ありがとう」
そういうと、えへへと笑って机の横にきた。
無防備な夏の部屋着姿に、キッチンにいたからかエプロンをつけている。
茶色いショートパンツときなり色のタンクトップが、白く引き締まったシルフィの四肢によく映える。
ブエナ村を思い出す。
おもむろにシルフィはエプロンを外して、軽く折って机にかけた。タンクトップから見えるうす緑の肩ひもは、ブエナ村では拝めませんでした。んー、良いものだ。
「ルディ、今日もエリスにふられてたね」
シルフィはそう言いながら、俺のメモに目を落とした。
まぁ見られてたか。…ばつが悪い。
「まぁ、その…訓練でたかぶった気持ちがね…そのね…」
あんまり言い訳しても仕方ない。
「ボクがしよっか」
俺のメモに目を落としながら、こともなげにそう言う。
白くて長いまつ毛から、赤銅色の目だけがこちらをうかがっているのが見えた。
耳にかきあげた白い髪が、するりとほつれーー
俺はツバをのむ。
……。
なるべくならしない。エリスに向いた欲望を、そのままシルフィにぶつけるようなことは。
俺には三人の妻がいる。それが不実なことだと思わない。
そういうことをせず一人ひとりと誠実に向き合う限りは。
「ボクじゃだめ?」
流し目でこちらをうかがっているシルフィの表情は変わっていない。いつもの他愛ない話の延長のような調子で聞いてくる。
ただし耳は真っ赤だ。
カーテンが膨れ上がり、机の上のメモが風で軽く持ち上げられた。
シルフィはメモなんか見ていなかった。
「そうじゃないよ…シルフィは最高だよ」
「ボク、今エリスの代わりできるよ」
「ダメ」
「なんでさ」
なんでだろう。
「最高のシルフィエットさんが、エリスの代わりでいいの」
シルフィはニヤっと笑い、口を結んでうつむいた。
「……ルディは難しく考えすぎだよ」
子供がいる間柄だ。今さら遠慮するでもなく俺の息子に右手を添えて、二人にならないと絶対に見せない顔をする。
中性的とも言える美麗な顔立ちが目の前にせまってきた。
「じゃあ、ボクがルディにして欲しくてここに来たって言ったら?」
「それは言わせてごめん」
そういって腰に手を回して口づけをすると、彼女はすでに柔らかく、熱くなっていた。
「誰が相手でもあんな風にその気になってるルディを見て、ボクがその気にならないの…難しいよ?」
下半身に一気に血が集まる。賢いシルフィは、俺をその気にさせるのも上手いんだよな。
目を細めて見つめると、シルフィは上目遣いでこちらの瞳を覗き込んできた。
……。
「エッチしよっか、シルフィ、ちょっと汗臭いかもしれないけどいいかな」
言うと、こくりと頷くシルフィの顔にパッと色が差した。
★シルフィ視点★
半裸のルーデウスを目の前に、我慢できなかった。
腰に回されたルーデウスの手に導かれ、足の上にまたがって彼の首に手を回す。
自分だってしたい。
したいものはしたい。気が引けてあんまり主張しないだけだ。
とはいえ結婚して三年。
きちんと言えば彼がこうして喜んで受け入れることを、いい加減シルフィも分かっている。
舌と舌で愛情を確かめていると、すでに硬いものがシルフィの下腹部で主張を繰り返している。
ルーデウスにうながされて、シルフィは両手を上げた。
あっさりタンクトップが抜き去られた。
白い髪がふわりと乱れる。
…ルディがボクの身体をねらう顔になった。
口づけを交わしながら互いの下半身をまさぐる。
高まってきた二人の息遣いが重なり合う。
あの晩、シルフィはむくれたエリスに自分の番をゆずった。
でもそれはいい。
シルフィは素直でストレートなエリスが、けっこう好きだった。
見ていて共感するところも多い。
それでいてシルフィと違って素直に主張するエリスの言動に、胸のすく思いがするのだ。
あてられたのかもしれない。
エリスの真似ごとをしたくなったのかもしれない。
彼女もまたロキシー同様、いつの間にシルフィの心に影響を与える場所にいたのだ。
「………ふ…うん…」
少し乱暴に胸当てをずらされて乳房を口に含まれると、一気に火がついた。
「ルディ…ボク、ルディとしたかったよ」
「うん、ごめん」
「いいの、今してくれるから……ぅん…」
★★★
夕方になる直前の暗い部屋。
そのまま椅子の上でした。
上になって腰を振るシルフィは、窓が開いているのが分かっているからか声を殺して喘いでいる。
「あ……あ……ん…」
足首に脱げかけた白い下着がまるまってまとわりついている。
「シルフィ…上下じゃなくて前後に」
「え…こう……ぁ…やだ……」
「そう…うまいよ」
「…ぁ…やだやだ……」
眉根を寄せて端麗な顔を歪めて、真剣に感じているのが分かる。
俺の肩を噛んで、声を殺している。
シルフィもアスラに行くにあたって、気をはっている。俺だってそうだ。
でもこうして変わらずに生活もあって、そんな中で愛情を確かめる時間を必要としてくれたシルフィが愛しい。
「やん…どうしたの?」
俺が急に立ち上がったから、シルフィは俺にしがみつきながらあわてる。
「……ベットでちゃんとして良い?」
「してくれるの?」
口づけでそれにこたえて、そのままとなりの寝室に行った。
二回目、どの話が好き
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