全ルーデウスが待望、夢の共演。
★エリス視点★
真っ白になったルーデウスの髪はシルフィとおそろいだ。カジャクトにありったけの魔力を込めた代償だと彼は言った。
つい十日ほど前の出来事なのに、ずいぶん前に感じる。
エリスは闘神との戦闘の最後にあの剣を握った。そして確かに感じたのだ。自分が何か途方もないものの通り途となったと。その途方もない何かが、世界最強の剣の力なのか、ルーデウスがこめた魔力なのかはエリスには分からなかった。
ただ大きいとしか。
人智を超えた力はあまりに巨大で、彼女の脳裏にはとっさに入道雲のような距離感とスケールがよぎった。
エリスの髪の毛が一房だけ白いのに対して、彼は全部白い。きっと魔力総量が大きい者が魔力を枯渇させると、
きっとわたしは、あの時初めてルーデウスの力の巨大さに触れたのだ。
彼はすごかった。
吟遊詩人の唄に出てくるような七大列強になって誇らしかった。無論そんな大層なものにならなくても、エリスはルーデウスのことを愛している。けれど彼女の本能的な部分が、愛する男の昇格をつい喜んでしまうのだ。
だからエリスは嬉しかった。
だから今日が
ただ、どのようにふるまっていいのか分からなかったのだ。
「どうやってするの?」
寝室に入るなり、誰に聞くともなく聞いてみた。
宙にういた質問に対して、一番に口を開いたのは寝巻きで寝ぐせのロキシーだった。
「そうですね。今日はわたしたちで、ルディを――その、ねぎらいましょう。まず、ルディはどうしたいんですか」
口元のよだれのあとを抜きにすれば、ロキシーはさすがだとエリスは思う。落ち着いていて動じないその態度は、年長者の風格が漂っている。何年か一緒に暮らしたから、さすがに見た目が十四歳でも、もはやそうは見えなくなっている。
ルーデウスをねぎらうのだ。
そうだ。
それはしっくりとくるし肚にストンと落ちた。
先に寝室に入っていったルーデウスは聞かれて、わたし達の方を振り返った。いつになく真剣な顔だ。
けれどふっと頬がゆるみ、大きく息を吐いた。
「終わったよ…やっと」
ルーデウスは眉根を寄せて言った。
『エロ断ちをしようと思う』彼の宣言から一年が経っている。
エリスもそれを聞いて「終わったのだ」という感覚がこみあげた。
途端にシルフィがルーデウスの胸の中にすべり込み、抱きついた。
「ルディ、…お疲れ様」
その言葉にはありがとう、と返事する。
ロキシーもルーデウスのかたわらに寄り添うように近づいた。
「長かったですね、お疲れ様です」
「ああ、みんなのおかげで何とかここまでこれた」
出遅れたエリスは腕を組むでもなく、左足重心の姿勢でシルフィの
「ヒトガミはまだ何かをしてくるかもしれない。気をぬくことはできないけど――でも今日は休もう。羽を伸ばそう」
ルーデウスはロキシーを向いてそう言ってから、こちらを向いた。
「どうするか、何も考えてないんだ…」
シルフィもこっちを向いて、思案気な顔をする。
「エリス、無理に最初からじゃなくても、自然と入ってこられるタイミングでもいいんだよ」
そう言って気遣わしげにこちらを見ている。わたしだってルーデウスの奥さんとしてちゃんとふるまうことができる、と張り合いたいところだ。本当は。
でも正直なことを言えば、シルフィがエリスに気を回してくれて助かった。
「ええ…そうね」
そう返事して、口を結んだ。
問題は二つある。
ルーデウスにだけ見せる顔を、シルフィやロキシーに見られるのはイヤだった。気恥ずかしいのだ。三人でしたことがあるシルフィやロキシーとは違って、こんな時に自分がどうふるまったらいいのか分からない。
それに。
もっと問題なのは彼をねぎらうような仕方は全然分からない。二人の関係の中で、特に夫婦生活においてはいつもエリスがやりたいようにしてきた。いや、させてもらっていた。彼が付き合ってくれているのだ、エリスだって分かっている。
もちろん愛する彼がそれじゃイヤだと言うのなら遠慮もしようもの。
けれど全然そうじゃなかった。さすがにそれくらいエリスにも分かる。
だから改めて「ねぎらう」なんて言われても戸惑うばかりだし、どうすればいいのかなんて分からないのだ。
「まあいったん落ち着きましょう。ルディも今すぐにでも、というわけじゃなさそうですし」
そう言って、寝巻きで寝ぐせのロキシーは寝室のベットに乗り、のそのそとそのままベットの真ん中に陣どった。
ルーデウスもそうだなと言って、シャツの袖口のボタンに手をかけた。その仕草だけでエリスは下腹部にこみあげるものを感じる。
シルフィは肌着になるルーデウスの着替えを手伝っている。
下腹部で燃えあがる欲望を感じる。
だからこそエリスはベットのはしに遠慮がち腰かけた。
理性を失って二人に醜態をさらすわけにはいかない、どうなるのか少し様子を見よう。
シルフィがエリスに向かって唐突に問いかけてきた。
「エリスはいつもルディとどんな風にしてるの」
「どん…普通よ、ふつうにしてるわ」
「そうなんだ」
シルフィはルーデウスの方を向いて、いたずらっぽい目をして続ける。
「そうなの?」
彼が余計なことを言いやしないだろうか、ひやひやする。
ルーデウスは言わないよ、という目配せをして答える。
「それは、これから分かるかもね」
「何はともあれ、四人でするならエリスの緊張を解かないと…ですね」
寝ぐせの年長者は、優しげな目でエリスを見つめて言った。
★ロキシー視点★
シルフィは言った。
「まずボクとロキシーで、ルディを
どうだろう。
見るとベットに腰かけたルディは、無詠唱で部屋を暖めている。――まだダイニングの暖炉に火を入れる時間じゃなかったんだ。寝起きで時間が分かっていなかった。ルディは朝早くシャリーアに帰ってきたんだ。
シルフィの提案は悪くないと思う。しかし何か違和感がある。経験上こういう時は考えるより、違和感を口に出してみたほうがいい。
「それより先にエリス――そうですね、ちょっとお話しませんか」
口をついて出た。そうだ。
彼女の緊張がこちらまで伝わってくるのだ。戸惑いや尻ごみが手にとるように分かる。
ロキシーはベットのはしに座っているエリスを見やる。当のエリスはかたい表情でうなずいた。
彼女が保つ
ロキシーはそういったエリスにある種の信頼を置いていた。
子供達への接し方一つとっても、エリスのそれは信頼のおけるものだった。
信念の部分のみは譲らず、あとは意外と柔軟にモノを考える。分からないことは分からないと潔く認めて人に頼る態度は、ロキシーの目から好ましく映った。
大切にしていることが明確なのだ。案外家庭教師をしていたルディの影響が色濃く出ているのかもしれない。
とにかく。
だからロキシーはエリスを家族として信用している。
腹を痛めて産んだララがロキシーの娘であるのと同じくらい、エリスの娘でもあると(不思議と)素直に感じるし、同様にアルスはロキシーの息子でもあると自認しているのだ。
――今からすることは、そんな彼女自身が大切にしている距離感を超えることだ。
ロキシーは思う。
なれば。
エリスの
たぶん彼女が無意識のうちに大切にしていることであり、ロキシーもまた大切にしたいと思っていることだ。
一線を超えることをルディが望んだ以上、そしてエリスがそのルディに応えたいと希望する以上、ロキシーは自分が出来ることをしようと思った。
そして、いい機会かもしれない――そうも思ったのだ。
「ルディ、始める前にエリスとちょっとお話をしてもいいですか」
「はい。もちろん」
そう言って履いていた靴を脱いで、ルディはベットに背をもたせかけた。シルフィは無言でエリスの上着を預かって、部屋の隅にある外套かけにかけに行く。
さて何から話したものか――
「エリス、緊張していますよね」
そう切り出してみる。
「ちょっとだけよ…」
口をとがらせたエリスが受け応える。
「そうですよね、分かります。わたしも緊張しています」
「でもロキシーはシルフィと一緒にしたことがあるんでしょう」
「ええ、はい。あります」
エリスは口を結んでしまい、やや間があいた。
「じゃあ、緊張なんてしないじゃない」
「そんなことありません。今日は初めてエリスと一緒にここにいますから」
「わたしが一緒だと緊張するってこと」
「当たり前です、今からすることは普通のことじゃないんですから」
「そうよ…四人でなんて…」
そのままエリスは押し黙ってしまった。
ベットがギシリと揺れた。
シルフィがそっとベットに乗り、ルディに寄り添ったのだ。『どうするの』とこちらに目で訴えてきている。
エリスはベットの揺れを気にすることなく、口をひき結んで一点を見つめている。ルディはそんなエリスの方を見ていた。
ロキシーにはエリスの戸惑いがよく分かる。いつだかウェンポートの宿を魔術で吹き飛ばして半壊させたときのことが脳裏によぎる。あの時のエリナリーゼは六人だった。
でも今日のこれは、あの行いとは決定的に違うことがあるのだ。
「わたしが普通じゃない、と言ったのは人数のことじゃありません。今から特別な四人で特別なことをする、という意味です」
そう言ってもエリスは動じていないように見えた。
ただ一気に彼女の耳が赤くなったの認めた。
大切なことは伝わっただろうか。
ロキシーはエリスの純な部分を守りたいと思ったのだ。
ルディの相手を三人でするのではないのだ。
三人横並べでするのではない。
それはぜんぜん違う。
四人で大切な事をする。
それを伝えたかった。
そして、そうしたロキシーの機微を本能的に察知してくれるのがシルフィだ。
「エリス、こっちにおいでよ」
今度はシルフィがエリスに声かけた。
この家でエリスに向かって強い物言いをするのはシルフィだけだ。そしてシルフィに強い物言いをするのも、エリスだけだ。
年の近い二人は、わたしとは立ち位置少しちがう。
エリスは無言で履き物を脱いで、のろのろとベットの中心を囲んだ。
もう少しだけ――エリスに伝えなきゃいけないことがある。
「エリス」
「なに」
「わたしはこんな
「分かってるわ…」
ロキシーと目が合う。
「本当よ」
「そうですか。…なら、もっと思いをぶつけてくださっても大丈夫ですよ」
そう告げるとエリスは視線をそらし、言いよどみ、ロキシーと目を合わせ、そしてまたそらしてしまった。
「ロキシーは…その……わたしのことどう思ってるの」
ロキシーは赤い髪を優しく撫でた。
「今、すごくかわいいと思いました」
「なんで?」
ロキシーはちょっと考える。
「エリスは私をとても尊重していると伝わってきますし」
「だって――ロキシーは、ルーデウスがとても大切にしてる人じゃない」
「はい…ありがたいことに」
ちらっとルディを見るとニヤニヤしている。
思わずムッとして口を尖らせた。
ロキシーはシルフィにも目配せしたが、さらにむくれた。
シルフィもちょっとニヤついている。
まったく。わたしはエリスと真剣に話しているというのに…
「エリス…」
赤い髪を撫でながらロキシーは続けた。
「わたしもシルフィも、エリスがルディにどれだけ愛されているか知ってます」
エリスはシルフィの方を見た。シルフィはうなずく。
エリスはうつむいて赤面した。
「顔をあげてください、大丈夫ですよ」
ロキシーは優しく声をかけた。
「エリスはわたしがルディに大切にされているから、わたしを尊重するんですか」
「違うの!そうじゃないわ…」
シルフィがエリスの手を取った。
「分かってるよ。ねえ、エリスはボク達の家族だよ…?」
「エリスがこの四人の関係を大切に守ろうとしていることは、分かっているつもりです」
シルフィもこくりとうなずいた。
「ボクもだよ」
「そして、それはわたしも同じです」
エリスは生真面目な顔をしてうなずいた。
「ルディだけが大切なわけじゃありません。ねえエリス」
親しみをこめて名前を呼んだ。
「特別な四人で特別なことをするということ、わたしの言いたいこと伝わりましたか」
「――分かったわ」
「わたしにとってはエリスも特別な存在です」
エリスの顔に色がさした。
★シルフィ視点★
「でも、わたしは
消え入るような声でエリスは言った。
エリスがどんな風にルディとしているか想像つかないけど、そういうことはあんまりしないのかな。
エリスが普段通りにふるまうことが、ルディへのご褒美になると思うんだけどな。
あ、いや。
エリスもあったまってきたらそういう風にふるまえるよね、きっと。
「いいよ。とりあえずさ、ルディのおかげで部屋も暖かくなったことだし…」
そういってルディのズボンを脱がせにかかる。
「あ、あれ。話はもういいの」
とルディ。
いいのかな。いいと思う。
とにかくこの待ちきれない気分を大切にしないと。
ロキシーの方を見るともう自分の寝巻きをとって下着姿になっていた。ロキシーもボクとおんなじ気持ちだろう。
でもさすがロキシーだと思う。あんな風にエリスの緊張を解くなんて、自分には真似できない。
エリスも脱ぐだけ脱いだらどうですか、なんて言っている。
豪華だな…
シルフィは思う。赤髪の美女と青髪の美少女が下着姿で同じベットにいるのだ。
でも今は…
「ルディ、キスするね」
今日の主役を独り占め。
男ぶりを上げた旦那様を一瞬でもいいから。
エリスやザノバ、エリナリーゼだけじゃなくてカールマン二世や水帝イゾルデ、北帝ドーガといった一癖も二癖もある人間から信頼され、戦線を支えたルディ。
そんな人に、今は自分の旦那様をやってもらうんだ…
どうせ後からみんな加わるし今だけ。
ルディの首に手を回し、身体をめいいっぱい預けてルディに口づけした。
甘い気持ちに押し流されそうになる。
尻ごみしているエリスと面倒見のいいロキシーを差し置いて、今日のシルフィはちょっとわがままだ。それにこれくらいしないと、どうせエリスにだって火がつかない。
最後にしたのはいつだろう。
ルディとアイシャちゃんがミリスに行く前だから…もう一年以上前だ。
抜け駆けの甘い気分を味わっていると、すぐさまロキシーがやってきてルディの首筋に顔をうずめた。
…ふ…ふ…
ルディの息が荒い。見るとロキシーの手が、ルディの下着の中に忍び込んでしきりに動いている。
もうダメだ。お腹の奥に火が付いた。
彼の手がシルフィの胸に忍び寄ってきた。「エロ断ち」は終っているから、もう払わなくていい。もっともこの一年間、ルディは結構ストイックだったからあまり手を払うなんてこともなかった。
とにかく解放感に包まれ、シルフィは久しぶりに胸を愛される妖しい気持ちに、存分に飲み込まれる。
気づいたらロキシーはあっという間にルディの下着を抜き去って、たくましくなった彼のものを口と指とで丁寧に
どうなったかなとエリスの方を見ると、顔を真っ赤にして口をわなわなと震わせていた。
「あ…あ…」
エリスと目が合ったシルフィは、ちょっとだけ意地悪な気持ちになる。以前ケィオスブレイカーでルディとの情事を邪魔された時のことを思いだして言った。
「エリス」
「な、なによ」
「もったいないよ?」
エリスはぶるぶると震えて言った。
「お…」
「お?」
「わたしにもそれ、教えてよ!!」
ロキシーが振り向いて聞く。
「エリスは口でしたことありませんか」
エリスは真っ赤なままうつ向いた。
「あんまり…」
消え入るような声だった。
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