未来を見ていない。
その言葉は楔のようユートの心に刺さった。
彼自身、自覚自体はしていた。
茅場晶彦に あの人を。
悠ねぇ……重村悠那を殺された憎悪を。
その復讐を成したのならば。
自分には 伯父である重村教授のように何か成すべきを見定めることが出来ない。
あの人は今回手に入れる情報を持って 電子体幽霊 として実体なきまま、重村悠那のアバター【ユナ】を再生させる。
誰にも打ち明けたことがないことがある。
茂村 優翔 には生まれたときからこの世界の全てが虚構のように見えていた。
仮想空間以上に作り物染みた現実世界。
ベールで覆い隠したような虚飾でコーティングされた世界。
息苦しい毎日はまるでルーチンワークのよう。
ウィルスよりも雑多に多岐に富む人間。
一歩進む道を間違えていれば、この少年もまたあらゆる現実より仮想空間こそが全てであるとしていただろう。
その世界の中で 親類の重村徹大とその愛娘 悠那。
悠那の幼馴染み後沢 鋭二だけがその苦痛に寄り添った。
現実拡張の研究が優翔の主観を良い方向に導いた。
虚飾に塗れるのならば、そのベールを重くないように整え直し
作り物に見えた世界をその認識が認めうる世界に整え直し
見える形は違っても その機能、その在り方を損なわせないようにしていく作業。
ARを併用することでようやく彼は世界の居場所を見出した。
世界を見れるようになった自分を二人の少年少女が連れ出し蒙を啓いてくれた。
世界が広いと言うことを。
そして、そんな壊れかけた心にも響く『本物』が重村悠那の唄だった。
アニソンを。ガールズポップを楽しそうに唄う彼女。
カラオケの個室で『えー君』と自分と『悠ねぇ』の三人で盛り上がる光景。
レトロアニソンばかり歌う自分を指さして笑う二人。
キレッキレのアニソンダンスをキメる自分と鋭二にぃ。笑う悠ねぇ。
ピアノを真剣な目で弾く悠ねぇ。
クラシックギターの調整を丸投げされて四苦八苦する鋭二。
見える世界が偽物であっても 『本物』だけは彼にとっての芯になった。
例えこの世界がフィクションであったとしてもその 本物 があれば。
だが、その『本物』は 唐突に奪われた。
ソードアートオンライン正式サービス開始。
彼はその文言を聞いて身の毛を与奪ほどの恐怖を持って自覚を得た。
世界が虚飾に見える? 当然だ。
何もかもが作り物くさい? 当然だった。
彼にとって は 彼が『茂村 優翔』になってしまう前に慣れ親しんだアニメコンテンツだったのだから。
自分がどうしてそう生まれたのか。神が居たのか? トラックに跳ね飛ばされたのか?
そんなことすらどうでも良く。
彼は全力で走った。
自分に本物を与えてくれた 重村 悠那。
自身に生きる術を与えてくれた 重村 徹大。
自分に世界との接し方を教えてくれた 後沢 鋭二。
知らなかったのだ。
彼等がSAOに関わる人間であったなど。
そうとなってしまう前、自分が変わってしまう前の見知ったコンテンツには彼等がいなかったから。
気が付くチャンスはどこかにあったはず、防ぐ機会もあったはず。
言い訳にすらならない悲劇を抑止することが出来たはずの自分の不明の結果がそこにあった。
デスゲームに誘われてしまった二人の年上の幼なじみ。
その死の階梯を自ら与えてしまったと絶望に浸る重村徹大。
そして その悲劇の始まりの前に何も出来ない自分。
知識があっても知能があっても何も出来ない現実。
だから、少年は。禁忌に触れた。
彼は茅場晶彦の現実での所在を 書籍版、アニメ版からの推測で割り出すに至った。
そう、知っていてはならない【原作知識】だった。
……だが、少年はそこでまたも挫折した。
現実でその殺意の刃を加えんと追い詰めたとき。一切の余裕を崩さず、世界の全てを無価値と見下すかのような瞳で。
『私を現実世界で殺せば、残る全てのSAO内の人間はログアウト不能状態となる。警察に突き出しても同じ事だ。残りの生存者全てと私一人。どちらが重いか。算数の問題だな……帰りたまえ。君には何も出来ない』
その時にはもう悲劇は食い止めようもなかった。
知識があっても何も出来なかった無力さで惚けている間に。
一ヶ月。それで鋭二にいと慕った後沢鋭二の家庭は崩壊し。
運命の日。2023年10月18日。
彼女。悠那の身体がびくりと跳ね上がり。
奪われた慟哭 と 何も出来なかった悲嘆 が。
ソードアートオンラインは その電脳世界に取り残された少年少女が出逢い、そして戦い抜き、そしてその先を歩んでいく物語だった。
だが、それを。
それを外から見る立場で。その悲劇を知って。
知識が合ってもそれに関わることが出来ない立場で。
これほどの無力、絶望を味わわねばならないのかと。
そんな折、とりつかれたようにVR研究を重ね、SAOサーバーに対する解析を行っていた重村徹大に茂村優翔は呼び出される。
昏く淀んだ瞳で。
『SAO、アインクラッドに行く機会があるのならば君はどうする?』と。
猶予は一年だった。
その準備期間で優翔は SAOにおけるアバター ユート になるべくあらゆる肉体改造、VR適正の適合率、利用するハッキング、クラッキングを使って SAO、アインクラッド内における茅場晶彦の殺害のための技巧を磨くために。
SAOの土俵で戦うことの無いようにあらゆる不正手段を定義し。
自己の相棒となる討論型対人口答入力式AIの育成。
カーディナルシステムに対するハッキング、クラッキングを行うための特化プログラムの生成。
クィネラ の名前を与えられ個性化しあり得ないほどの知能を獲得していくAI。
その名にはユートは覚えがあった。
だがしかし。
彼には この世界が虚構の物語であったことなどもはやどうでも良かった。
思い出せもしない、いや、覚えていても何にも役立てなかった前世の知識なぞ、もはや横に放り投げて。
自分に与えられた 本物 を奪われた怒り、憎悪。
それ以外のすべてを不要と断じて、彼は出来上がった。
ソードアートオンラインという物語を自分が壊すことになる。
彼は誓った。クラッカーとなることを。
その過程。物語の主人公達に出逢ったとき。己がどう振舞うのか、どう接していくのか。
自分の知る物語とは大きく変わってしまった世界でどのような変化が起きていたのか知りもせずに。
「…………なんでだよ」
第一層の頃の自分と同じ目。
そう告げられてユートは呟くように。
飄々とした自分を装いながらやり過ごしていた自分の罅に。
「君が俺に関わる必要は無いだろう? 必要だったのは足掛けとアインクラッド内での立場だけで こう言うチートを使ってでも先に進んでいくヤツがいた。そう言う認識を持ってもらうだけでよかったんだ……生き残りに対する接点があればそれでよかった」
握られた手を振りほどくことが出来ない。
ユートにとって他者からの接触は重い。
虚飾がないこの世界で触れてくる温度が重く自身を縛っていく。
二年前、最後に触れてくれた二人の幼なじみの熱が。
慕っていた二人のことが。
「君が……現実世界で何を見てきたのか。何を失ってしまったのかは知らないし、識る資格はないんだと思う。私達の過ごしたアインクラッドの中の二年と現実世界の二年はきっと見えていたモノが違うから」
力の抜けるユートの身体。
それを迷子の手を引くようにしてアスナは引き寄せ歩き出す。
転移結晶でアークソフィアに飛んでもよかった。
それをしないのはきっと。
「この世界はね。感情のもたらすモノの内、涙は堪えることが出来ないんだ」
ユートの虚無であった目の端から流れ零れる涙。
彼は知らずに涙を流す。
アスナの触れた握る手の熱さが もう、生きては二度と掴めなくなった彼女の。
幼かった自分の手を引いてくれた『悠ねぇ』の温もりに似て。
■ 無限の歓喜 性愛の断片(インフィニティエクスタシー エロスフラグメント)
77層 街部エリア トリベリア。
浮島の居住施設が物珍しい街。
浮島の一つ。まるごと宿泊施設となりそこに泊まるにも相応な資金が必要となるいわゆるVIP向けの宿屋サービス。
そんな宿にアスナはユートを連れて潜り込んだ。
高い宿賃は シークレット制の担保でもある。
そこに誰がきた誰が泊まったという情報をシステム的に隠蔽する。
これを解除するには相応のチップが必要になる。
隣り合う形の部屋。寝室が直で繋がるような広々としたロイヤルスイートを即金で支払い契約する。
言葉も少なく、投げ出すように部屋のベッドに倒れ込む。
「何も出来なかったんだ」
隣り合うように二人してベッドに突っ伏す中。
ユートは溢れるような胸の内を。
リアルのことを語るのは禁忌としているSAOプレイヤー達の中で。
リアルからやってきた少年は。
「自分のことを助けてくれた大事な人たちがいて、二人がSAOに捕らわれて」
言葉を選びながら端的に。
「一人は死んでしまって、一人は現実世界で知らぬ間に一家離散していて」
涙を湛えて無力さを。
「残されたのは家族を奪われた人 と 識っていて防ぐことが出来たはずなのに肝心なときに思い出せなくて全てをダイナシにしたバカ一人」
彼に非はない。それでも 何も出来なかったという悔いが棘となり。
「……もう何も残ってないんだ。僕に 本物 を与えてくれた人も世界も熱も…………それでも自分が残っているから、現実世界で殺せなかったあの男を。せめてこの手でくびり殺すためにここに来たんだ」
手を目に当て覆うようにして涙を隠す。
啼く資格はとうの昔になくしているのに。
止まらぬ涙が悔恨を刻む。
繰り返すように謝罪の言葉を。
「ゴメン、悠ねぇ……ゴメン、鋭二にぃ……ッ ごめんなさい……徹大おじさん……僕は識っていたはずなのに。防げたはずなのに……」
呟くようにやがて謝罪の声をそのままに寝言にして。
■ 無限の歓喜 性愛の断片(インフィニティエクスタシー エロスフラグメント)
アスナは何も問わずに隣でそれを聞いていた。
ボヤリと滲んで人影が。
愛し子の頭を撫でるかのようにユートの隣に現われる。
……アスナの目には見覚えがある。
身を起す。
高度自律型AI、おそらくは個人対応するナビゲートシステム。
そう言うプログラムは研究されていたとは訊いている。
それを擬人化させている時点で、彼を送り込んだ人というのは相応に力がある人なのだろうと推測が出来る。
『あら……ステイシア。 あなたはまだ寝ていないのね?』
アスナを見て全く知らない呼称で呼びかけてくる
「あの。私は アスナ であって その、すていしあ? とか言うネームではないんだけど……」
『些細な事よ。私が そう認識しているから貴女は ステイシア なのよ』
その目が細められ、まるで探るようにアスナの身体を見て流す。
『……ふぅん。なるほど。あのタイミングでこの世界を抜けられなかった影響がそこまで侵蝕しているのね……』
無関心であったような瞳が面白いモノを見つけたかのように歪み
『今すぐにアークソフィアに戻りなさいな。貴女。戻って、あの黒の剣士に抱かれなさい…………限界値と臨界値をそのまま越えてしまえば『変わる』しかなくなるわよ。ステイシア』
「何の……事ですか?」
『倫理コードで覆い隠しているから誤魔化せているだけであって 思考の分野である発情が倫理コードを越えて熱を齎していることぐらい、自覚しているでしょう?』
見抜かれている。
アスナは自分の状態をこの目の前の存在に理解されていることを自覚した。
立ち上がった女はアスナの前に立ちその顎から指でなぞるように真下に撫でるように線を引く。
同性の指がアスナの胸の谷間を滑り、ヘソの辿りそしてスカートの上からショーツ越しの秘部を通り過ぎる。
「……ッあっ…ん」
『ほら、倫理コードの影響下であっても、「こうされた」と言うだけで脳が快感や期待を拾い上げてしまう。ハラスメントコードが表示されたとしても留まらない熱があるのでしょう?』
抵抗が出来なかった。
ふぅ ふぅ と自分のものでは無いように息があがってしまう。
ほんの些細なことなのに興奮を感じ取り、発情していくアスナ。
同性でコレなのだ。
もし、触れた者が異性であるなら…………
そう思う頭の端が更に劣情を。
無意識下で指がステータスを開いていく。
その操作手順は熟れてしまったもの。
ステータス操作画面、その最奥に設定された秘域。
指が衝動の求めるままに動こうとしてタップする前に。
『そこまでになさい…………既にそういう所まできている。VR不適合症に類する過適合、ナーブギア設計上想定外の長期間に及ぶ連続接続と思春期の正常な脳神経が受け取るべきではない異常なストレスによって、読み込むべきではない情報まで読み込んでいるのが今の状態。カーディナルの異常観測がその本質なのよ』
「……あっ……」
腕ごと指を掴まれ止められるとそこでアスナは自分のしようとしていたことを理解し顔色を青くし、涙目になる。
『さて…………ステイシア? ここまで追い込んで何も無し。と言うのではいささか私も寝覚めが悪い。故に貴女に選択肢を与えましょう』
カーディナルの中において、そのシステムをリソースとして収奪する機能を持つ クィネラは。
己にならば、それが可能なのだと。
『カーディナルシステムの異常観測の元、心身に影響を及ぼすと知りながらそのままにしてこの先を歩むか』
『それとも』
『手にした全てを 我が主ユート に奉じると誓ったこの私の手に その心身の全てを委ねるか』
選びなさい と
カーディナルが異常観測を持ってその魂を蝕むならば。アカウント収奪による観測権限のハッキングを持って、その観測者をすげ替えて見せようと。
良識の外にある救いの手を差し伸べた。
現在の状況。
重要分岐点。回帰不能ポイントに到達しました。
ここで選択する結果で アスナ ルートのシナリオが大きく変更されます。
アスナは カーディナルの観測下において異常な心理状態 を獲得しています。
アスナは ユートの傷 を知りました。
アスナ 選択(アンケートにおいて決定。本話を合わせて二話後に最終確定)
しれっと雑にまとめたものを 作者活動報告 にて。
1 性衝動によって性的異常行動を起こす危険性を持ったまま、カーディナルシステムの観測状態のまま先に進む 状態維持したまま諦めずに進む。
2 アカウントをハッキングしアバターの観測をクィネラ経由にして、ユートに一蓮托生状態にする
■ 転生者
ユートのこと。茂村優翔 となる前のことはもはや参照不可能。
ただ彼が理解できたのが この世界がとあるコンテンツのなかであると言うこと で 自分が関わってきた人がそのコンテンツ内の知らない作品の中の登場人物 だったと言うこと。 作中、SAO内のプレイヤーになるのでもなくその外側で起きた悲劇を目の当たりにすることになった。茅場晶彦を現実世界での所在、長野県の山中の山荘を突き詰め、実際に追い詰めるなど原作知識チート転生者らしい行動を取れたがそこが彼の限界だった。
なお GGO編において登場するゼクシードとは親戚である。
■ カーディナルの異常観測
プレイヤーが陥る一定のストレス状態においてカーディナルが起こすアバターに対する異常観測。カーディナル自身は正常な動作であるとして自己修復を行っていない。
この異常観測によってアバターに精神性の変容などが起きる。
VR不適応症の過適合とされる。
想定されてない長期間の接続状態維持などで大なり小なり発生が確認される。
なお。黒の剣士キリトは自覚外であるが この影響で運動神経伝達物質の異常発達が起きている。
正史劇場版において エイジの着込んだパワーアシストジャケットを素手で引き裂いたり、正史アリシゼーション導入において一切の間合いが取れない状況でただの傘で人の太股を貫通するほどの刺突が出来る理由がこれ。
この欠陥を利用すると、人を洗脳したり、記憶消去したり色々ろくでもないことが出来る。須郷 伸之 はこれを知っておりSAOカーディナルではなくALOカーディナルを利用して人間の記憶・感情・意識をコントロールする研究を行っている。
■VR不適応症
仮想空間において発生する『理性より本能をシステムが検知する』というもの。生存本能による死からの遁走(どれほど重要な局面でも死なないための行動を優先してしまう)や死の恐怖からの身体の萎縮(原作版ノーチラスの症状)
本作においてはアスナの陥った『生殖本能を発端として、性衝動が突発的に起きる。自慰を抑えきれなくなる』症状が該当する。
対処法は無数にあるがどれが正解という絶対解がないため、個々に委ねられている。
【重要だけど重要でないかも知れない選択肢】主人公のユート君。現実世界の茂村優翔は既にある程度の経験済みです。その相手は?
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神代凛子:医学的な興味があってちょっと
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帆坂カリーナ朋:元カノ アルゴの中の人
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現実世界で助けた女子大学生:小比類巻香蓮
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現実世界で助けた女子高生:FB女主人公
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上記以外が望ましい