転移門前広場にアスナの声が朗々と響き渡る。
「いつもなら攻略会議を始めましょう。と繋げるところだけど、今回は重要なことを話したいと思います」
周囲を見渡すように彼女は集まった面々を見て回す。
黒の剣士キリトがいないことに少しばかりの落胆と安堵を覚えながらも、その周囲を固める少女達、リーファ、シノン、リズベット、シリカが普通にいること。
少し離れた場所に アルゴ。
それから、金髪ショートのマリア、紫色のケープのハシーシュ、ブラウンショートのココア。
いずれもがここ一ヶ月の間、黒の剣士キリトと交友があった女性だ。
隠れるように此方を見遣る 紫色の髪をしたグラマラスな女性もなにやらそう言う雰囲気を醸し出す。
幸いなのは今の心境は前と違って、嫉妬心から沸き立つ衝動がないこと。
比較的フラットな状態でここにあれる幸運をアスナは感謝した。
「正直に言えば言うべきかどうかは迷ったことなの。でも、たぶん、秘していても碌な事にはならない。……75層における血盟騎士団団長聖騎士ヒースクリフがその真意と真実を秘したまま、攻略組前線に立ち続けたように」
人目を惹く装衣を着たハイエンドアバター【創世神ステイシア】としての
想起する。
彼という異物を攻略組に正式に加えて周囲の人間との軋轢なく全てを滞りなく終わらせる未来を。
「受け入れる受け入れないは各人の判断に委ねます。その上で、先ずは静聴してもらいたいと思います。……クィネラさん。後の説明、引き継ぎお願いします」
入れ替わるように。
紫銀とも言うべき装いに身を包んだ怜悧さを感じさせる風貌の美女が前に進み出る。
周囲を見回し、鷹揚に満足げに頷く。
1拍間をおく。
『先ずは参集を言祝ぎましょう。私の名はクィネラ。現実世界より総務省旗下の救出計画の元、我が主と共に【SAO】天空城アインクラッドに来た稀人』
転移門広場を包むように 声が徹る。
不可思議なことに誰もがその文言に口を挟めなくなる。
『聞くが良い。人間達よ。おまえ達はけして現実世界で見捨てられたわけではない。今も尚、この世界より救いださんとする者達は確かに居る。我が主はそうした者達より見出され、この地にやってきた救いの手』
まるで神話を紡ぐように言葉を紡ぐ。
まるでこれが大型キャンペーンクエストの始まりであるかのように言葉で人を引き込む。
大仰な手振りで印象づけていくその有様はまるで 神を奉ろう司祭の如く。
『公的機関より、死の世界に堕ちたこの世界を終わらせるために、あらゆる手段を執行することを許諾された者。生存者達の家族の終わらぬ苦悶を終わらせるため。この世界で死に果ててしまった者達の遺族の嘆きと怒り』
時折、その目に涙すら浮かべ。嘆きと怒りを代弁するかのように振る舞う。
戯曲を諳んじるが如く 一人劇の舞台を作り上げ、観衆を惹き付ける。
『……それらの想いを託され、我が主はここに在る。当世において 余りに隔絶し周囲と異なるほどに強い事を
転調し感情を激しく顕す。
不正手段を咎めること、知識があることを責めること。
『何はおいても生き延びることを是とするならば、それらは 利用する 手段。否定して何としよう。おまえ達の討ち果たさねばならぬ者は この世界を死の世界に変えた者。 茅場 晶彦。 システムの側に立つあの者に真っ当な道理が通じぬは相まみえ、システムによる呪縛を受けた者ならば解ろう』
攻略組と呼ばれたその中において最前線を行く者達を見遣り。
その理不尽さを思い出させる。
『彼方が使ったのであれば此方も許されるというのではない。事は。ヤツは己が目的のためならば何でも出来ると言うことに尽きる。この世界を愉しむ為にならば如何なる尊厳も地に落とせる者なのだと理解しなければならない』
敵対する者への敵意を収束させていく。
そう、己達の苦境も苦悶も元を正せば、ひとりの男が元凶なのだという事実を思い返させていく。
『友誼としてこの世界を愉しむのならば、その集団の中にいなければならないという理屈は。……その中に置いて死に行く者達を眺めて、殺されていくこと、死に行くことを眺めて愉しんだ と同意なのだと』
目頭を押さえ涙を堪える者達も現われる。
そう、彼等とてここに来るまで大なり小なりの犠牲を踏み越えた者、踏み越えてきてしまった者。
目の前で死なれたことだとてあろう。 自己防衛のため、誰かをその手に掛けてしまった者さえあろう。
それを知って見て 愉しんだ者が 茅場晶彦 なのだと。
『ヤツはこの物語の果てにこう締め括るだろう。私の作ったこの世界に懸命に生きてくれてありがとう。と』
そこで言葉を句切り 啜り泣きすら聞こえ始めた異様な雰囲気の転移門前広場に。
『人間達よ。それが許せるのか? 確かに懸命に生きただろう。生き抜くのだろう。だが、しかし。デスゲームを強要したのはあちらの理屈。その命の価値は断じて、ひとりの男が定めていいものでは無い』
ぼそりと 許せるわけがない。と呟く声が。
それを聞き、凜然とした美貌に笑みを浮かべ。
『故に問いましょう。命の価値を自らの手に取りもどさんと欲するのならば。茅場晶彦の思惑と楽しみを踏みにじって捨てるのだと決めたのならば。その為にならば、システムの定義する正しさにすら立ち向かうのだと決めたのならば』
紫銀の細剣をその手に生じさせ高らかに突き上げる。
『武器を掲げあげなさい。許容できぬと。不正手段、チートまで用いては進めぬと言うのならば、ここより立ち去りなさい。それを責めることは誰もしない。我が主は、それらの思いある者すらも背負ってこの世界を終わらせるのだから』
■ 無限の歓喜 性愛の断片《インフィニティエクスタシー エロスフラグメント》
シャ! 鞘鳴り。
最初に剣をあげたのは 誰でもない【閃光のアスナ】だった。
終わらせるのだという意志、この世界には負けたくないのだという原典の思いの結実は 茅場晶彦より、己の命の価値を取り戻すのだという決意に代わる。
水を差すように。
「なぁ……ちょっと良いカ?」
離れた位置からそれを見詰めるように見定めていたアルゴが。
情報屋のアルゴ、ネズミのアルゴと呼ばれ、人前で目立つように振る舞わなかったケープを被った少女が。
音も立てずに 人混みの集団を一切惑わすことなくすり抜け、その前に立つ。
それがどれだけの異常かこの段階で気がつける者は少なかった。
ケープを取り払うとそこにはクセのある金髪をショートに切りそろえたやや悪戯気味の猫を連奏させるような愛嬌のある面持ちの美少女が。
瞬間、アスナとクィネラの後ろに立っていた白銀の鎧騎士が揺らいだ。
兜の面に片手を当て、ゆらりとふらりと。
その口に人指し指を当て、その次の言葉を発しないようにと言うジェスチャーをしてからアルゴは言葉を放つ。
「そっちの人とア-ちゃんの意向は解った。でも、その肝心要ッぽそうな後ろの騎士さんのことを訊かせてもらいたいって感じだナ」
焦点がその鎧の騎士に集まる。
分かり易く三人前に出て注視を集める形でありながら、しゃべりもしなかった白銀の鎧騎士に。
『出来れば、統一の見解を得てからにしようと思っていたのだけど。 よろしい?我が主?』
促されるようにして前に出る。向かい合うようにアルゴの前に。
「……僕の名は 【ユート】。総務省直轄SAO事件対策本部帰属 SAO接続者救出計画:
指を払うように装備を切り替えるステータス表示。
それは指による九字切りか。 あるいは聖印刻みか。
装備が切り替わっていく。
レギオンストームジャケット レギオンストームブーツ。
白き血盟騎士団の装衣の如くの防具。
しかしながらその内包する力はその比ではなく。
腰に鞘付きの刀を履く。
アルゴがその顔を見て口を覆う。
「……な ん で……?」
言われんとしたことに被せるように。
ユートは告げる。
「本名【茂村 優翔】。
あえて、アルゴを無視するようにその横に出る。
そして、周囲を見渡し。
ざわめきだした攻略組を見遣り。重く徹る声で。
「此方の世界で本名を名乗るのはマナー違反なことは承知の上。その上でこの名を名乗ると言うことは、リアルに帰ったとき、この名で照会してもらえれば 僕の言ったことが事実だと証明される。これが僕に切れる一番の札だ」
ぼそりと アルゴが呟く。それを端にして。
呟こうとして抑え切れなかったのか。
せきを切ったような声が広場に響いた。
「…どうして… なんで、ユウ がこっちにきちゃうんダヨ!? SAOがデスゲームになったのは現実世界から来たのなら百も承知ダロ!?」
ばっと振り向き胸倉を掴みあげるように。
頭一つ分高いユートの顔を 涙目になった顔で睨みあげ。
「……茅場晶彦を殺すため。あの男は、自分の命に何重もの保険をかけた。現実世界に置いて逮捕拘禁された場合、ログイン不可能状態が継続された場合、ラスボスが不在になったとしてゲームクリア不可能として接続者全員を道連れにする」
それに対して、どうしようもなくなったような諦めの顔で事実を告げる。
「現実世界で殺された場合も同意。その場合は、あの男の身の回りの世話をしているひとりの女性の命も同時に奪われ、やはり、SAOはクリア不可能になり接続者全員が時間切れで終わる」
それは変わってしまった自分という人間の立ち位置を二年前に連絡が取れなくなってしまった少女に語り訊かせるように。
「……法務省は現行法制下に置いて審判不可能犯罪者となった 電脳犯罪者 茅場晶彦に対する特例による人権停止を宣言し、電脳世界SAO内に置ける特別処分の執行を決定した。……育成されたエージェントによる抹殺。そのエージェントが僕だ」
アインクラッド内の天候はその時折りで変化する。
雨がポツリポツリと降り始めていた。
『そこまでになさい。言わなくても良いことまで口にしてどうしますか。我が主』
空気を読んだ上であえて二人を引き離すように。
クィネラが手を触れないままに、指先だけで二人の間に距離を取らせる。
『記者の娘も問い質したき議が有るのなら、後で二人きりの時になさい。今は衆目もある上に本題が横に行ってしまうでしょう?』
フワフワと浮かび上がらせられ、アスナの隣にぺいっと落されるアルゴ。
それだけの現象がこのSAOの中に置いてはあり得てはならぬ異常であった。
指先一つの動作で動的オブジェクトを自在に運ぶ。
その異常性が解ればこそ、周囲もまた静まり返る。
『……これ。この通り。我が主【ユート】が述べたように、SAOに対してそのルールに則らず、一種のチート行為を行え、それを不正行為としてシステムに裁かれぬハッキング行為。あるいは異常修正プログラムの無効化か。それらを行いSAOを終焉に導き、茅場晶彦を討つ。それが為にここに在る』
それを引き継ぐようにアスナが。
接続者代表、生存者代表、攻略組代表として問い掛けるように。
「……みんな。わたしは この現実世界からの救出作戦に乗ろうと思う。命の価値を自らの手に取り戻すため。……この世界は辛かったし、苦しかったけど、同じくらい楽しいこと、人との出会いがあったり、喜びも在った。そういった過ごしてきた時間の意味と価値を。これからも進んでいくために取り戻したい」
再度、アスナは剣を掲げる。
天を指す剣がその先に雨降りになりかけた空に晴間を差し穿つ。
「生存者の意地を。あの人に見せてやりましょう!『あなたのために懸命に生きてるわけじゃない!自分のためだ!』って横っ面を張り倒してやるために!」
鬨の声があがった。
剣を掲げ、武器を天に示す者達。
ここに彼等の意思はまとめ上げられた。
幾人かを戸惑いの中に取り残しながらも。
■無限の瞬間 空洞の断章(インフィニティモーメント:ホロウフラグメント)
空間が揺れ 転移の兆候。
二刀を背中に携えた黒の剣士のホロウエリアよりの帰還。
周囲の異様な熱気と状況に戸惑いを見せ、そこに見たことのない装いのアスナの姿を認め。
「えっと……アスナ? この状況は……一体?」
語るべき、次の言葉を切り替えるように即興劇で修正を加えていくアスナ。
「黒の剣士キリトは その為に。最後の敵を討つために必要な【秘奥義】と称されたソードスキルを手に入れるため、今もこうして、単独で危険なエリアの攻略を担当してくれています。そうよね? キリト君」
有無を言わせぬ強引さを持って、事実に押し込めていく。
例え、彼に階層攻略の意思があろうとも、もはや、ここまでお膳立てされては翻すことも出来ない。
「……ヘ? あ、ああ……一応、そのつもりだけど……」
そう。こう返事を返してしまった以上、次に告げるアスナの言葉を止める術はキリトにはなかった。なくなってしまったのである。
「では、攻略組の再編として 先ずは、階層攻略担当の中心として血盟騎士団副団長のわたし、アスナが引き続きまとめ役を務めます。 黒の剣士キリトは【秘奥義】ソードスキル解放のためにホロウエリア攻略を中心に担当してもらいます。これに伴い、彼我のコンビは解消し、そのパートナーは攻略に適した人材に流動することになります」
公衆の面前で堂々と 噂話程度だったはずの 黒の剣士キリトと閃光のアスナのコンビ解消の明言。
それにどよめくような面子を抑え込むようにアスナが声を放つ。
誰かに何かを言わせる間がないように。
「……言葉では色々聞かされたし、私達の意思は改めて統一された。それでも尚。と思う人たちもいるでしょう。……そこで今回のわたしの出したプレイヤークエストになります。……剣で語れと聖騎士ヒースクリフはかつて言いました」
アスナという少女の培われた好戦的な気質を持って、証明をするのだと言わんばかりに。
ユートに向けて宣言するかのように。
「わたしたちとて無為、無作為の二年を過ごしたわけではないってことを。彼に証明し、叩き付けてやりましょう! SAO生存者、その攻略組としての力を!」
クィネラが面白いモノを見たとばかりに顔に笑みを浮かべる。
広げられるはシステムコマンドを持って開くコンソール。
人の集まったこの場であれば、それぞれのビッグデータを集めてそれぞれが関わってきた各種クエスト、各種イベントから演算しシナリオ作成、クエスト作成にかかわるカーディナルシステムのクエスト自動生成機能 に手が届く。
そして、クィネラの手腕を持って、アスナの発注したプレイヤークエストが特殊なイベントクエストに整え直される。
【汝ら 剣を持って天に志を示せ。生者の勲を剣にて語れ】
【特殊な戦闘が発生します。挑戦者はレイドパーティーを組み、指定する対象との戦闘を行います。HPに対する補正は99%遮断。全損前にシステムロックが発生します】
【強力な相手との戦闘になります。準備と編成を整えてください】
【ターゲット:災禍の鎧(一体) ユート(一人)】
【エリア指定:76層 ボスエリア】
目まぐるしく動いた事態の進展。
黒の剣士キリトは何が起きたのかを整理するより先に AR・VR適性共に高水準を保ち、自らと閃光のアスナの間に突き立ち抜けない楔のような存在になってしまった男と戦うことになった。
アルゴは出逢ってしまった。
二年前SAOからログアウトできなくなってから連絡が取れなくなってしまった人と。此方に来るハズなんてないと思っていた思い人と。彼が何を失ったが故に此方に来たのか思い当たりもせず。
■無限の瞬間 空洞の断章《インフィニティモーメント:ホロウフラグメント》
イベントの形で整え直された結果、それは一つのお祭り騒ぎのようになった。
こうまですると言うことはそこまでに強いのかと強さを予測し思案する者達。
レイドを組み挑むという事からボス戦相当で在るとして、きっちりとしたギルド内連携を確かめる者。
キリトはそのいずれでもなく一人で在った。
その隣に情報屋のアルゴがならぶ。
アークソフィアの中央広場噴水。
艶っぽい雰囲気などなく、あの時起きたことを情報として買い上げて頭から語り訊き、キリトは天を仰いだ。
これまであり得なかった外からの救出計画。
それに伴う強力な支援体制の元の公的保証の元に行われるハッキングとクラッキングの表明。
ゲーマーとしての意地がそれを認めたがらない。
だが。
「アルゴはそれをよしとしたのか?」
情報屋としての線区切りと言いたいように。
隣り合う位置から 二 三歩 離れるように。
「ンー? オレッちはそれ以前の問題になったからナ」
唐突にアルゴからキリトに向けて。
「まぁ、こう言う形になった以上は仕方ないと言えば仕方ない」
それまでの飄々として年下の少年をからかうように接していたアルゴから。
「キー坊。オネーサンがちょいと本気で今のキー坊が ユウ と戦えるのかテストしてやる」
まるで路傍の獲物を転がすネコ科の生物の獰猛さを感じるような目つきで。
「……アルゴ?」
【アルゴ から 1VS1デュエルが申し込まれました。受諾しますか?】
【Yes/NO】
それはアルゴという少女がキリトという少年に友人としてやれる最大の気遣いで在った。
~現在の状況~
特殊イベント進行中。
アルゴ(帆坂 朋)が ユート(茂村 優翔) と再会しました。
重要選択肢発生。
キリトはアルゴからデュエルの挑戦をされています。
尚、ルート補正、キャラ補正が加算されます。
現在 1に対して アルゴ補正が発生
3に対して アルゴ補正 アスナルート補正が発生しています。
1:Yesの場合
vsアルゴ戦が発生し、ソードスキルを使わない闘い+彼女が持ち込んできた現実世界での技術+秘匿されている情報屋アルゴの体術スキル+投剣スキル+軽業スキル+隠密スキルを組み合わせた戦闘スタイルの前にキリトは……
2:Noの場合
戦う意味がないと拒否した場合、彼女はそっかと軽く身を翻す。以後キリトの目の前に情報屋アルゴは姿を見せなくなる。街にいるのは確かだが徹底してキリトを避ける。曰く オンナの誘いを断る男はサイテーだからナ と嘯くのみだと言う。
3:逢い引き現場にアスナが現われる。
戦う理由がないと拒否しようとするとそこにアスナが現われる。
アスナとアルゴの間の空気も微妙な空気ではあるが、キリトとアスナの間の空気も微妙なモノになってしまっている。三竦みになりかけたその時、アスナの口からキリトに向けて……
【リーファ重要選択肢】彼女は現実から
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1:眼をそらす【現実逃避】
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2:目を逸らさない【現実直視】
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3:目を瞑る【回答回避】