1
「よっ!…、お前また朝っぱらからボヤッとしてんなあ…。そういえばあれから何か解ったのか?」
奇妙な体験をした翌日。
早目に学校に来て席に着いてぼんやりとしているところに、朝練が終わった阿久斗が話しかけてきた。
「阿久斗…!ああ、うん。色々と解ったけど、色々と解らなくなったというか…それ以外にも色々あったというか…まだなんかモヤモヤしてる」
俺がしどろもどろ答えると同時にチャイムが鳴った。
なんだそれ?まあまた後でな!と言いながら阿久斗は自分の席に着く。
2
昨日の夜。
光りに包まれた後、夢か現実かも曖昧なまま部屋に突っ立っていた俺は、フラフラとした足取りで靴を履いたままベッドに倒れ込み、そのまま寝てしまった。
翌朝寒さで目が覚めて、寝惚けた頭でブルッと震えながら暖房を付けて、履きっぱなしだった靴を脱ぎ、玄関に置いた。
床に無造作に置かれた鞄の中から、朝5時を伝えるスマホのアラーム音が聞こえる。
…今日はなんだかロードワークに行く気になれないな。
スマホを取り出しアラームを止め、一先ずシャワーを浴びに行き、かなり早いが朝飯を食べることにした。
そうだ、香澄さんがご飯作ってくれてたんだ。
そう思い出し冷蔵庫を開けると、香澄さんお手製の豚キムチ丼が入っていた。
…朝からヘビーだけど、大好物だし腹もかなり減っているので有り難い。というか、香澄さんは昨日の夜、これを自分の分も造って食べていったのか。いつも元気一杯な香澄さんらしいなと思い自然と笑みがこぼれた。
レンジに入れて温めている間、そういえば郵便物も受け取ったってメッセージにあったな。そう思い出して、改めてリビングにあるテーブルに行くと…
コピー紙で言うと幅と奥行きがA4サイズぐらいで、高さが10cmぐらいある箱が置いてあった。郵便用の包装紙に包まれている。
なんだこれ?
手に持った感じはそんなに重くはないけど。
そう思って差出人の伝票はどこだと、ひっくり返したりしてみたがどこにも貼られていない。というか、なんでこんな怪しいの香澄さんは受け取ってるんだよ。
香澄さんに電話しようと思ったけど、まだ5時半だ。差出人不明なだけで怪しいが、特に問題は無さそうなので連絡は後でもいいだろう。そう思い、温め終わった朝飯を食べ始めた。
食べながら考える。
まさか夢の続きを現実に見るとは…、いや、あれが現実だったのかはちょっと自信はないが、夢だったとしても先の展開を見れたのは良かった。
それにしてもだ。
あの時のスサノオノミコトと呼ばれる男との一体感、エネルギーは凄まじいものがあった。向かうところ敵なし、何でもできそうなあの全身を駆け巡る万能感にもう少し酔いしれていたかった。
今日の夜、もし夢を見たなら、次はヤマタノオロチと戦うのだろうか。そう考えただけで、なんだか気持ちが昂る。
…それとクシナダヒメさん、可愛い子だったな。
香澄さんに似ていたのは、夢に俺の気持ちが反映されていたせいなのかな…。そんなことを思って少し気恥ずかしくなった。
3
朝飯を食べ終わり、台所で洗い物をしていると
ガチャン、
玄関のドアが開いた。
え?
あ、鍵閉まってなかったんだ。
でも誰だ?
そう思った瞬間。
「剛志おはよー!」
いつもの聞き慣れた元気な声が玄関から聞こえてきた。香澄さんだ。
そう思ったと同時に。
やべ。
「ちょっ、ちょっ!ちょっとそこから動かないで香澄さん!」
慌てて叫んだ。
俺は今バスタオル一枚だけ腰に巻いている状態だった。
なんでいつもは俺が学校に行く少し前ぐらいに酔っ払って襲撃してくるのに、今日に限ってこんなに早く来るんだよ!
えー?なになにー?慌てちゃってー。と言いながら、香澄さんは俺の言うことを無視してパタパタとスリッパを鳴らしながら、キッチンまで来てしまった。隠れる暇もない。お手上げだ。
そんなこんなで、キッチンで俺は香澄さんと向かい合った。
あ…、えと…、
なんというか、その…、
カッコいい身体…してる、ね?
俺の全身を、頭のてっぺんから足の先までチラチラ見てそう言いながら、頬を赤く染める香澄さん。気のせいか、目も少し潤んでる気がするし、声も震えてる気がする。
え、何だこの香澄さんらしくない、しおらしいリアクション。
あの時見たクシナダヒメさんの庇護欲をそそる姿がフラッシュバックして香澄さんと重なり、俺は固まってしまった。顔に火がついたように熱くなる。
そして、香澄さんはハッとした顔をして髪を耳にかきあげながら恥ずかしそうに…まあ俺の方が恥ずかしい状態なんだけど。
「あっ…、ごっ、ごめんね…、とりあえず…、服、着てきたら?」
そう言って目を伏せた。
その言葉に俺もハッ!と我に返って
「あっ?!そうですね!そうします!」
俺は洗面所に駆け込んだ。
「ええと、なんかごめんね」
アハハ。と香澄さんが気まずそうに笑う。
とりあえずスウェットに着替えた俺は、リビングのテーブルを挟んで香澄さんと向かい合って椅子に腰掛けた。
「いや、大丈夫ですよ」
まだ動悸のおさまらない心臓を誤魔化しながら答えた。
気まずい沈黙の後、何か言わなきゃいけないことがあったなと思い返して
「…そういえば、昨日代わりに受け取ってもらった郵便物のことなんですけど」
と、テーブルの上に置いてある物に目を向けた。
「あ、それね。それなんだけど、実は郵便物じゃなくて、私が持ち込んだ物なの」
「え?」
「なんというか、ほんとは一緒に夜ご飯を食べながら説明しようと思ったんだけど、結局剛志が帰ってこなかったからさ」
それで郵便物って伝えておけば、送り主もわからないその荷物を、俺は勝手に開けて見たりしないだろうと香澄さんはふんだらしい。
「どうしても一緒に開けたかったから」
そう言って香澄さんは微笑む。
その笑みに俺はドキッとした。
プレゼントなのかな。
俺に?
誕生日はまだ先だけど。
そんなことを考えていると
「ねえ」
「はい?」
「最近さ、変わった事とかない?」
香澄さんが唐突に聞いてきた。
「えっと、例えば?」
「毎晩同じ夢を繰り返し見る、とか」
驚いた。
いきなり核心を突いてくるようなことを尋ねてきた。
「え?なんで分かるんですか?」
「んー?何となく?」
そう言って、ジッと目を見つめてくる。
そして、
「良かったらその夢がどんなのか聞きたいんだけど、教えてくれる?」
その後、正直に夢の内容を伝えると香澄さんは興味深そうに「やっぱり君なんだ」と呟き、なんだか嬉しそうにしていた。
「色々と伝えたいことがあるけど、もう剛志も学校に行く準備しなきゃだね。学校終わって帰ってくる時また連絡して。その時にゆっくり話したいな。」
今日は真っ直ぐ帰ってきてね!
そう言い残し、香澄さんは部屋を出ていった。