「アクト、ちょっと聴いて欲しいんだけどさ」
放課後の帰り道。
通学路沿いにある公園に立ち寄り、互いにベンチに腰掛け俺はそう切り出した。
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ここ最近例の夢が気になり、俺はずっと上の空で授業を受けている。まともに授業内容も頭に入って来ない。
そんな俺を見て、休み時間になる度に心配してしきりに話しかけてくれている友達がいた。
名前は武塔阿久斗(むとうあくと)
友達、というより俺の中ではなんでも話せる親友だと思っている。
本人にはとてもじゃないが照れ臭くて言えない。
阿久斗は高校1年2年と同じクラスでボクシング部に所属、部活が終わるとその足で駅前のボクシングジムに通っている。本人曰くプロを目指しているそうだ。
プロテストは17歳になると受ける事ができる。内容は筆記試験と2ラウンドのテスト生同士のスパーリング実技試験だ。
そしてプロボクサー・ライセンスの種別にはC級(4回戦)、B級(6回戦まで)、A級(8回戦以上)とあり、アマチュアでの経歴を考慮し審査の上、C級テストを免除(アマで5勝以上)することもある。
B級テストについては、アマチュア全日本ランキング10位以上や高校生チャンピオンなどが受験資格対象者となっているため、阿久斗はアマチュアで戦績を重ねB級テストを受け華々しくプロデビューし、一気に上を狙うと息巻いている。
「お前もボクシング部に入れば良いのに。そんなに強いんだからさ」
高校入学時からずっと阿久斗に言われ続けている耳タコ話。
「無理無理、性格的に俺は向いてないよ。それにバイトもやらなきゃだし。」
これも阿久斗にとっては耳タコな俺の返しだろう。
1年の頃、一度だけ阿久斗と喧嘩をしたことがあった。
最初のキッカケは俺と香澄さんが一緒にいるところを見られ、からかわれたことだった。
その時のクラスが騒然とした様子は今でもよく覚えている。
普段大人しい俺が激昂し、いきなり阿久斗に殴りかかったのだ。
不意打ちにも関わらず、阿久斗は俺の放った拳を皮一枚で躱し、素早く後ろに回り込み羽交い締めにしてきた。
「あぶね!いきなり何すんだよお前!退部になるから殴り合いとかマジで勘弁しろよ!」
「くっそ!離せよ!からかったの取り消せ!お前に何がわかんだよ!」
「からかったつもりなんかねぇよ!お前が勝手にキレただけだろうが!俺は悪くねえし!」
周りの男子達も俺のあまりの剣幕に圧され誰も止めに来なかった。
そうこうしている内に、女子が慌てて担任を呼びに行き、駆け付けた担任と別クラスの担任二人に引き剥がされ職員室へ。
そして始まる説教。
特に阿久斗はたっぷりと担任に絞られていた。
ボクシングを習っていたのに喧嘩を始めたというのが主だろう。
最初に殴りかかったのは俺なんだけどね。
担任に開放されたのは夜6時過ぎ、すっかり熱も覚めた俺達は帰りに公園に寄った。
「からかうつもりはなかったんだけど、なんかごめんな、そこまで怒ると思ってなかったからさ。」
「俺の方こそごめん!カッとなって悪かったと思ってるよ。」
それにしてもさ。
と阿久斗が
「最初に俺にパンチ打ってきた時さ、すげー切れ味だったよな…見てみこれ」
そう言いながら頬に貼られたガーゼを剥がす。
そして
「ちゃんと避けた筈なのになあ…」
と呟いた。
確かにやった俺も驚いていた。
俺の拳は皮一枚とはいえ掠った感触も何も感じなかったのに、極々浅くはあるが、阿久斗の頬にはナイフで切りつけたような傷が出来ていた。
「剛志はソリッドパンチャーだな。」
「ソリッドパンチャー?」
「パンチの質の話。パンチの強さには2種類あって。それぞれハードとソリッド。ハードっていうのはそれこそパンチ力が強いヤツのことで、当たるとズシンと体の芯に響いてダメージが残って相手の体力を削るんだ。
ソリッドっていうのは俗に言う"切れる"って種類のパンチでさ、相手の精神力とか意識っていうのかな…そういうのをスパッと刈り取るんだ。打たれ強さに自信のある選手でも呆気なくダウンしたり。勿論どっちのパンチをもらっても危ないんだけどさ、こっちは生まれ持った天性のスピードとかが関係してるって言われてて、世界チャンピオンで息の長い選手にはソリッドパンチャーが多いんだよ。」
へえ、やっぱりボクシングやってるだけあって詳しいんだな。
もっとこいつと色々話したいと思った。
ボクシングやってるっていうだけで喧嘩が好きな輩のイメージがあったけどそうでもないんだな。
そうしてその時初めて、阿久斗に自分のことを包み隠さず全て話した。話しても良い気がした。こいつなら同情することなく聴いてくれる。そんな気がしたから。
俺が捨て子で、中学3年まで孤児院に居た事。
俺のことを引き取ってくれた香澄さんのこと。
そして、その人に淡い恋心を抱いていること。
阿久斗は俺の話を黙って真剣に聞いてくれた。
このことがあってから、俺達は常に学校でもプライベートでもよく一緒に過ごした。放課後バイトの無いときは、人気のない公園で阿久斗に付き合い、マスボクシング(寸止めで行う試合形式の組手のようなもの)をしたり。
俺の自宅に呼んで二人して香澄さんに勉強を教えてもらったり、三人でゲームをやったり。
阿久斗は香澄さん目当てで遊びに来てたのが見え見えだったが。
まあそこは目を瞑ろう。
…気持ちは解る。
特に俺と二人きりの時の香澄さんはあまりにも無防備すぎるし。
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「どうした改まって。つうかやっと話してくれんだな。ここ最近ずっと“なんでもない”の一点張りだったし。」
ごめんな心配かけて。
結構バカげた話かもしれないけど。
と言ったあと俺は目を瞑り、気を落ち着けてからゆっくりとこの一週間の夢のことを話した。
ひとしきり聞いたあと阿久斗は
「…確かに変わってんなその夢。しかも一週間連続とかありえないし。俺は霊感とかわかんねーけど、前世の記憶とかそんなんなんかなぁ。」
と真剣な面持ちで考え込んでいる。
他人が聞いたら理解できないようなことだとは思う。
俺だって人から聞いたら「は?なにそれ。」ってマトモに受け取ったりしないかもしれない。
でもこうやって真剣に考えてくれていることが何より嬉しいし、阿久斗に話してみて良かったと心から思った。
少し気が楽になった。
そんなことを考えていると急に阿久斗が目を見開き、
「あっ!つうかヤマタノオロチって日本神話で出てこないっけ?俺はRPGの中ボスモンスターって感じで知ってるだけだけど、元ネタ調べれば何かわかるんじゃないか?」
「何かの伝説みたいなやつ?」
「そうそう!スマホあんだからネットで調べてみろよ、何か解るかもよ!」
そうだ、夢の先が見えないなら解ってる情報だけでも調べる。
何もやらないよりはマシだし、確かに良いかもしれない。
キーワードは、
アシナヅチ
テナヅチ
クシナダヒメ
ヤマタノオロチ
か…
阿久斗と別れたあと俺は自宅に戻り、その単語を調べてみることにした。