阿久斗と公園で別れ、帰り道。
そういえば香澄さんってあれからどうしたんだろうか。
ふと思い出してスマホを鞄から取り出した。
画面ロックを解除して待受画面を表示するとLINEメッセージと着信が入っていた。
連絡があるとすれば香澄さんか阿久斗ぐらいしか居ない。
まあ香澄さんからだろうな。
そう思いながらLINEを開くと、案の定香澄さんからのメッセージで、
{剛志のベッドが寝心地良すぎて昼過ぎまで寝てました。
洗濯物は取り込んでおいたよ。あと郵便物が届いたから代わりに受け取りました。テーブルの上に置いてあります。
それと、一緒にご飯食べようと思って待ってたけど今日は遅いね。
夜ご飯は作り置きが冷蔵庫に入っているので温めて食べて。
朝はごめんね、ありがとう♡}
という内容だった。
いつも香澄さんから届くメッセージを見てると、自分に年上の彼女ができた様に錯覚してドキドキする。
ハートマークを入れたりされると困ってしまう。
香澄さんは俺のことをどう思ってるのだろうか。
年の差は9歳で、相手は大人だ。
建前上は身元引受人だし本当に良くしてもらっている。
ただ、俺は香澄さんとの距離感を今だに掴めないでいる。
{学校帰りに友達と話し込んでて遅くなりました。今帰り道でもう直ぐマンションに着きます。夕飯ありがとうございます。
あと、飲み過ぎ注意ですよ!
女性なんだから何があるか分からないんだからホントに気を付けて下さいね}
メッセージを送り終わって一息。
こんな簡単な文章も、何度も打ち直してやっと送るという始末。
あまり事務的なメッセージでも冷たい感じがするしなぁとか、色々と悩む。
恋する乙女かよと心の中で自分にツッコミを入れながら着信のあった履歴を確認すると、非通知の着信が2件入っていた。
非通知着信なんて初めてだなと思いながら特に気にすることなくスマホを鞄に仕舞い直し、俺は家路を急いだ。
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おかしい。
急に空気が重くなった気がする。
自宅のマンションにもう少しで辿り着く、最後の曲がり角の手前で俺は不意に立ち止まった。
時刻は夜7時頃ー
すでに日は落ち街灯は点いているが、灯りの届いてない暗闇がいつもより深く暗い気がする。
視線を下にやると足元のアスファルトぐらいしか見えない。
なんだこれ。
慌てて後ろを振り返ったり視線を周りに巡らすと、街灯の明かり以外に景色が無くなっていた。
住宅街のはずなのに辺り一面の景色も真っ暗な闇で、周りの家やマンションも何もかもが黒く塗り潰されたように消えている。
慌てて鞄からスマホを出してみると電源が落ちて使えなくなっていた。
訳がわからない。
夢?
しかし歩いている途中で夢なんて見るだろうか?
白昼夢?幻覚?
このまま突っ立っていれば元に戻るのだろうか?
混乱したまま何も出来ないで固まっていると、街灯の明かりが闇に飲み込まれるように徐々に弱まり光を失って来ていた。
“このままここに立ち止まっていると危険な気がする”
直感的にそう思い、重くなっていく足を無理矢理動かし急いで角を曲がり、もはや街灯の意味を成さなくなりつつあるか細い光を頼りに走った。
体感と記憶を頼りにマンションの前と思しき場所に辿り着いた時点で街灯の明かりが完全に消え去り、瞼を開けているのか閉じているのかもわからない状態になってしまった。
なおも混乱する覚束ない足取りで前へ進みだした。
両手を辺りに巡らせながらすり足で、ゆっくりと。
やっぱりおかしい。
ここがマンションの前であるなら植え込みとエントランスに続く階段が、多少場所がズレているとしてもコンクリートの壁があるはずなのに手を伸ばしても何も無い。
まるで世界が消え去り、何も無い空間に放り出されたかの様な感覚。
なおも手探りで当てもなく進んでいると、靴底に伝わる感触が急に変わった。
足元だけ何故かぼんやりと見えるのだが、地面がアスファルトから乾いた土になっていた。
ここがマンションの近くなら、この辺に土のある場所はない。
とにかく立ち止まっていると余計に不安になるので進み出した。
しばらく進むと前方に光が見え始めた。
暖かい。
しばらく暗闇の中を歩いていたせいか、その光がとても暖かく安心するように感じた。
その光に吸い寄せられるように近づくと段々と光が大きくなり、眩しさに目を細めながら更に近づくと光の中に一人の女性を囲むようにして泣いている老父と老婆の姿が現れた。
あれ?
この景色って。
夢で見た景色だ。
やっぱり俺は夢を見ているのか?
でも、体の感覚が夢とは全く違う。
ちゃんと地に足がついている感覚。
そして、何より一番の違いは俺が学生服を着て鞄を持っていることだ。
夢の中の俺である“誰か”は、体が勝手に動いてる感じだったが、今は立ち止まったり後ろに下がって光から遠ざかったりも出来るし、自由に動ける。
現実感は全く無い光景の筈なのにやけに現実感がある。
しばらく俺はその場に留まっていた。
だが夢の続きが見れるかもしれないという期待感と、光に近づくにつれ不思議と体中に力が湧いてくる万能感に背中を押され、意を決して光に入っていった。