※この作品はR-18です。

凄ノ王の仮面   作:気まぐれさん

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第七話

1

「このことは皆には内緒だよ?香澄ちゃん。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

格闘技を教えて欲しいとマガミさんに懇願したあと。

 

 

「うーん…本来香澄ちゃんのことは警護対象なんだけど、何かがあった時に身を守る術として習わせるのもあり…かな。」

マガミさんを一生懸命説得したら、そんなことを呟きつつ渋々了解してくれた。

私にはなるべく運動のしやすい服装に着替えて欲しいと伝え、携帯でどこかに電話をかけながらスタスタと演武場の中に消えた。午前中にマガミさんに案内してもらった場所だ。私は急いで寝室に戻って着ていたワンピースを脱いで、持っている中で一番それっぽい服装に身を包み、マガミさんが待つ屋敷内にある演武場に向かった。

私の格好は上が白のロングTシャツに下はデニムの短パン。これなら動きやすいし大丈夫だよね。

 

演武場に入るとこちらに背中を向けていたマガミさんが携帯を仕舞い、こちらに向き直る。

 

「うんうん、ちゃんと動きやすい格好で来たね」

そう言って微笑んだ。

「とりあえず、今日一日しか教える時間ないから、簡単な護身術の基本だけ教えよっか」

「はい!よろしくお願いします!」

「元気があって大変よろしい!」

 

実技指導に入る前に、一旦二人で床に座り10分ぐらい護身術の基本を教えてもらった。

 

護身術とは本来、武術の種類で弱者が強者の力を利用する格闘術の一種で、合気道や柔道から派生したものらしい。

 

基本的には3パターン。

相手の勢いを受け流し、体勢を崩れさせる。

相手の勢いを利用し、その勢いを相手に返しダメージを与える。

相手が勢いに乗り始めた瞬間、出鼻を挫いて戦意を削ぐ。

この3つが大事なのだとマガミさんは教えてくれた。それを基本として手元にある棒や、たまたまその辺にある物を武器として使うそうだ。

ただ、この護身術というものの危険なところは、全て相手の動きや出方に依存した、あくまで最低限身を守るためのものだということ。

敵と相対した時精神的に不安定になったり、怯えや恐怖に縮こまると結局相手のされるがままになってしまうということを、問題点として言われた。

 

「これはまあ、結局のところ喧嘩で殴り合いになったとして、自分の方が力は強いのはずなのに力の弱い相手に負けてしまうというのは、その時相手のことが恐いとか勝てないとか考えちゃって、本来やりたいことが何もできなくなる状態になるからなのよね。」

「大事なのは気の持ちようってこと?」

「そうそう。それとね、例えば私が7、8歳くらいの小さな男の子に思いっ切りパンチされても、それはそれで結構痛いのよ。いくら鍛えていたとしてもね。痛覚っていうのは中々無視できない人体の弱点かな。」

「私みたいな子供にやられても?」

「うん。そうだよ。だからもし強そうな人に襲われたり、何かされそうになったりした時は、恐れないで自分は今何が出来るのかを勇気を出して一生懸命考えるの。逃げても良いの。逃げられるならそれに越したことはないし。闇雲に暴れるのだけはダメだよ?」

 

私は体を鍛えて武術を極めるよりも、ここが一番大事な事だと思うなぁと言いながらマガミさんは立ち上がった。

 

「さあ、実技やってみようか!香澄ちゃんも立って?」

 

 

 

緊張してきた…。何するんだろう。

 

「ほら、目が泳いでる。緊張してるでしょ?香澄ちゃん。でもね、緊張することは大事な事なんだよ。ちゃんと警戒してるってことだからね。でも、硬くなりすぎては駄目だよ」

マガミさんはそう言うと、私に思い切り手を伸ばして押してこいと指示してきた。

 

よーし…!

 

私はマガミさんに手が届く位置まで思い切り踏み込んで、ありったけ力を込めて手を伸ばした。

 

 

手が届くー

そう思った瞬間、マガミさんは私の伸ばした手をスレスレで躱し、手首を掴んでそのまま自分の後方へ引っ張った。私は勢い良く前のめりになる。

 

あ、転んじゃうー。

そう思った瞬間後ろからフワッと抱きかかえられた。

「今のが相手の勢いを流して体勢を崩すやり方ね。同時にダメ押しで相手の足でも引っ掛けて転ばせていれば完璧かな。これでもし、私の後ろが崖だったり車道だったりしたら、今頃大惨事ね。」

「すごーい!」

私は目を輝かせながらパチパチと拍手をした。

 

 

 

それから護身術や合気道の、特に基本的な動作等を繰り返し教わった。昼休みを挟んで私は夢中になって、日が落ちるまで何度も何度も反復して練習した。

 

 

2

「ハァハァハァ…!も、もう無理…!動けない…!」

私はドサッと床に寝転んだ。床の冷たさが気持ちいい。

「凄い集中力…、こんなに基本練習みっちりやる人ってなかなか居ないよ…」

マガミさんはそう言って感心しながら私の汗をタオルで優しく拭いてくれた。

「さて!一日頑張ったし一緒にお風呂入って汗流して、それから皆でご飯食べよっか!」

「うん!」

 

それから私達は脱衣所に着いて、服と下着を脱いでお風呂場に向かった。

「ねえマガミさん」

「ん?なに?」

マガミさんに背中を流してもらっている時、ふと浮かんだ疑問をぶつけてみた。

「マガミさんって、ずっとボディーガードやってるんでしょ?なんで最初にやろうと思ったの?」

「んー?なんでだろうねー。ふふ、運命、かな?」

「運命って?」

「運命って言うより使命。って言った方がしっくりくるかなぁ」

 

そう言うとマガミさんは、私を後ろから優しく抱きしめてきた。背中にじんわりとした柔らかさが暖かさと一緒に伝わってくる。

マガミさんは私の肩の上に軽く顎を乗せながら話しかける。

「私の名前、オオグチマガミって言ったでしょ?漢字で真美って書いてマガミって読ませるのって珍しいなって思わなかった?」

言われてみてアッとなった。確かに、屋敷を散策してる時にオオグチマガミって漢字でどう書くの?と聞いたとき、面白い読み方をするなぁって思っていた。

「ほんとはね、美しいって漢字のところ、神様の「神」って書くんだ。でも、私の両親がさ、女の子だから「真美」でマガミって読ませようって、その方が女の子らしくて可愛いだろうって」

「そうなんだ。でも女の子にマガミって名前。すごく珍しいよね。」

「それはね…。」

そう言って私から離れて立ち上がった。振り返ってマガミさんを見る。

 

大人の女の人って綺麗だなあと思わず見惚れた。少し筋肉質で全体的にキュッと引き締まってるけど、女性らしい丸みを帯びた体付きをしている。銀色の髪も相まって神々しく見えた。

 

「神産みって知ってるかな」

 

ぼーっと見惚れてると、ふいにマガミさんが呟いた。

「うん、パパとママが少し前に教えてくれたよ?ちょっと難しかったし御伽噺みたいな感じだと思った。」

「そうだね、御伽話みたいなものかもね」

そう言って真っ直ぐに私を見つめてきた。

 

私は目を逸らせなかった。

マガミさんの瞳に縫い留められてるみたいに。

「私ね、お母さんのお腹に居る時に神産みが起きた珍しいケースなんだって。」

そう言って笑った。

「大口真神(オオグチマガミ)っていう神格化した日本狼。この国では神獣の一種って言われてるの」

「しんかくか?しんじゅう?」

「うーん、どう説明したら良いのかな…。神様に近い力を持ったオオカミさん?かな」

 

 

ちょっと離れててねとマガミさんはお風呂の端に歩いていった。私は反対側の壁際に離れる。かなり広いお風呂なので二人の間の距離は5メートルぐらいあった。

 

マガミさんは目を瞑り深呼吸をした。

 

その数秒後に変化が起きた。

まず最初にお風呂場の空気が変わった。さっきまで湿気が充満していたのにどんどん空気が乾いていく。

周りを見ると、集められた湯気がゆっくりと渦を巻き始めて、私とマガミさんを繋ぐトンネルの様な形になった。

なにこれ?と思いながらマガミさんに視線を戻すと、銀色の髪の毛が肩口から風が吹いたようフワッと持ち上がる。

 

「ふっ…!」

 

マガミさんが息を短く吐いて走り出すような姿勢を見た瞬間、瞼を閉じて開けたら、目の前にマガミさんが居た。

「ワァ!」

 

私はビックリして尻餅をついた。瞬きをした一瞬で私の目の前に瞬間移動した?!

 

マガミさんは私を見下ろしながら

「ごめんね、ビックリさせちゃったね。お尻痛くなかった?」

そう言い手を伸ばして私を立ち上がらせる。

「え?今の、え?」

「とりあえず湯船、浸かろ?」

何が起きたか理解できないで混乱している私の手を取り、一緒にお湯に浸かった。

 

 

 

 

 

お風呂に浸かりながら肩を並べ、ふぃ〜と気持ち良さそうな声を出した後、マガミさんが語り出した。

「今のはね、私の力。一瞬で香澄ちゃんの前に移動したように見えただろうけど、実際には目の前まで走ったって感じなんだ。手元に神具があると、もっともっと早く動けるの。」

「しんぐ?」

「うん。神具っていうのはね、元々その神様が持っていた物の一部なんだ。それがあると神様本来の力を人間が引き出すことが出来るんだよ。大口真神の場合は狼の牙だね。今は身に付けてないけど、ネックレスに加工してあって脱いだ服と一緒に脱衣所に置いてあるんだけどさ。」

 

 

 

すごいなぁ…。神産みって。

素直にそんなことを思った。

 

 

「だからね、さっきの香澄ちゃんの質問。なんでボディーガードやってるの?ってやつ?それはね、この力を使って守りたい人がいるの」

 

 

「守るって、誰を?」

 

 

「んー…、今はねぇ…」

マガミさんは目を細めて微笑み、私の頭を優しく撫でながら言った。

 

 

 

「香澄ちゃんのこと」

 

 

 

 

それから少しして湯船から上がり、マガミさんは私の髪をドライヤーで乾かしてくれた。

その後、鏡の前で櫛を使って髪を梳かしてもらいながら、私は尋ねた。

「もしさ、神産みが起きてなかったら、なんて名前だったの?」

「真堂明日香」

マガミさんはポツリと答えた。

「でもね、本名は絶対に誰にも教えたらいけないの」

「え?なんで?」

「それはね、悪い奴らがいて、本名を調べて転生者の親族とか大事な人にね、危害を加える可能性があるからだよ。人質、とか」

 

 

悪い奴ら?

 

 

「神産みっていう転生が起きるのって、良い神様だけじゃないんだってこと」

「悪い神様もいるってこと?」

「そうだね。だから本名を隠すっていうのは大事な人達を守ることにもなるんだよ」

「…そんな大事なこと、私に教えても良かったの?」

「本当は教えちゃダメなんだけどね…だから…」

 

 

 

 

 

マガミさん、

いや明日香さんは、パチリとウィンクして冒頭の言葉を私に言った。

 

 

 

 

 

 

 

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