そこを進めながら過去を掘り起こしていく流れに変えました。
読んでいただいている方々、読みにくかったらごめんなさい!
主人公がずっと不在。
1
パパに付いて二人きりで長い廊下を歩いて行く。
お互いにしばらく無言だったけど、沈黙に耐えかねてパパに話しかけた。今まで感じたことがないほど私は緊張している。
「あの…、パパさ、今までずっと言えなかったんだけど、私が小学生の時、ううん、今も…かな。私に隠してること、あるよね?」
「ん?例えばどんなことかな」
パパは歩く速さを変えないで前を向いたまま返事をする。
「ほら、私が小学生の頃山下と二人であの屋敷に行ったとき。本当はあの日ここで何かあって、私達はあの屋敷に避難しなきゃ行けなかったんだよね?だっておかしいよ。帰ってきたら使用人が沢山居なくなってて、紗夏も居なくなってて。パパはあの時、「皆は違う場所に仕事で異動になったんだよ」って言ってたけど、あの時私と一緒に帰れなかった友達が言ってたんだ。あの日、この家の前を通ったらすごい火柱が上がってたって。屋根より高いぐらい上がって凄かったって。でも、あれだけ凄い火柱が上がったのに火事にならなかったから不思議だったって。」
パパは無言で聞いている。
「あとお姉ちゃんが言ってた神産みって、良い神様だけじゃなくて、悪い神様も転生するんだ。って。だから、何か良くないことがあったんでしょ?」
大体予想はしていた。
もし私達が避難しなければならなかったのであれば、それはお姉ちゃんの言うところの“悪い奴ら”が何かをしにこの家に来たということだ。火柱が上がったのに、周りに燃え広がったり大火事になってないことも、何かの力を使ったものだったとしたら説明が付くんじゃないかと思った。
何から話せば良いかな…。
そうパパが口を開いた時、廊下の突き当たりにある大きな鉄扉の前に辿り着いた。扉の前には人影が見える。お姉ちゃんだ。
この扉の前には小さい頃から常に誰かしら使用人が見張っていて、ここには近づかないでくださいねといつも言われていた。紗夏に駄々をこねて聞くと、この扉の向こうには凄い宝物があるんです。みんなには秘密ですよと教えられたことがあった。
「こんな時間に何かご要件でしょうか旦那様。」
そうお姉ちゃんは言うと、パパの肩越しから私に向かって笑顔で小さく手を振ってくれた。
お姉ちゃんがこの家に来てから少し経った頃、パパやママが「香澄の姉代わりになってくれないか。言葉遣いも気にしなくて良い」と言ってくれて、それ以来私達は普通の姉妹の様に普段から接するようになった。さすがにパパとママには今でも敬語だ。
ああマガミ、実はな。
パパはお姉ちゃんに近付いて何か耳打ちをした。
一瞬お姉ちゃんの表情が強張った。そして、そうですかと一言呟いて私に手招きをする。
私が側まで行くと、
「ちょっと確認したいことがあるんだけどさ」
と前置きして
「この扉、押してみてくれない?」
そう言った。
「こんな大きな扉を?私一人で?鍵とか付いてないの?」
「いいからいいから。何もなければそれはそれで良いし」
なんなんだろう…。
そう思いながら恐る恐る扉に近づき手を添えてみた。
ゴゴ…。
地震?扉に触れた瞬間、家全体が軽く揺れた気がした。
直ぐに揺れは収まり、今度は扉に触れたままの手の平に力を込めて強く押してみた。
ゴゴゴ…。
見た目が重厚で、一見すると大の大人が何人かで押さないと開かないような鉄の扉がいともあっさり開いてしまった。
「これでハッキリしたね」
お姉ちゃんは私にそう言ったあと、パパの方に顔を向けて頷いた。
「中に入ろう、そこで話をしようか」
パパにそう促され、扉の向こうに三人で入っていった。
2
扉の向こうに進み、中の明かりを点けたあと。すぐ扉を閉めるようパパに言われた。
なんで私がやるんだろう…そう思いつつ扉を閉めた。扉の裏側には取っ手が付いている。内側から開けて出る時はここを引っ張ればいいのか。
改めてゆっくりと部屋の中を見回した。
殺風景な部屋だった。広さで言うと学校の教室ぐらいの広さだろうか。
壁や天井には何か象形文字のような模様がビッシリと並んでいる。
紗夏が凄い宝物があると言っていたから、漫画やアニメに出てくるようなキラキラした金銀財宝が沢山詰まっている場所を想像していたのだけど、なんだか期待外れだった。
部屋のあちこちには宝箱にはとても見えない葛籠?のような物が沢山、無造作に並べられている。
部屋の雰囲気が大体解ったところで、
さて、話をしようか。
そう言ってパパは私に向き直り話し始めた。
まずは神産みが起きる時の前触れについて。
神産みが起きる時、その一週間前後から長さに個人差はあるけど同じ夢を見始めるということ。
それは神自身の断片的な記憶なんだという。
そこでお姉ちゃんが、私の場合はお母さんが出産の一週間前から夢を見始めたらしいんだけどね。と付け加えた。お姉ちゃんの母親が見た夢は、とても大きな狼の夢。誰かを背中に乗せて草原を走る、とても気持ちの良い夢だったそうだ。
そして、
その前触れを聞いて分かったこと。
私に神産みが起きたんだ。
クシナダヒメの。
今まで守護し導く者の長い歴史の中で、神産みが起きたことはこれまで一度もなかったらしい。
だから、パパもかなり動揺したと苦笑いした。
次に、私達が今居るこの部屋のこと。
この部屋は『神具の間』と呼ばれていて、さっき私が軽々開けた扉も神産みが起きた者、それも上位の神の力が宿った身体じゃないとびくともしないそうだ。お姉ちゃんが試しに開けようとしたらしいが開かなかったと言った。
そして、ここからはちょっと辛い話になるかな…。パパはそう言ってより一層真剣な顔になった。
紗夏が裏切った。
数名の使用人と共に。
いや、正確には元からそれが目的でこの屋敷に使用人として入り込んでいたのかもしれないということだった。
狙いはこの神具の間にある、悪神と呼ばれる神々の呪われた神具。
私は信じられなかった。
心臓がドクドクと波打ち、手はぐっしょりと汗ばんでいる。
新見紗夏(ニイミサヤカ)
私が幼い頃から、よく屋敷を留守にするパパやママに代わって遊び相手になってくれたり勉強を教えてくれたりする、もう一人のママのような存在。
山下を始めとする使用人達からの信頼も厚い人だった。
頭が混乱している私にパパはゆっくりとその時に起きたことを説明する。
これは推測になるが…と、
紗夏は多分、使用人になったばかりの頃から数年はそんなことはなかったのではないか。
さっき、「かもしれない」と言ったのは、使用人が交代で見張っている神具の間。最初からその気になればいつでもチャンスはあったということ。それをしなかったのはそういうことなのではないか。
だがどこかのタイミングで、紗夏に悪神の神産み、通称『悪神憑き(あしんつき)』が起きてしまったのではないか。
ということだった。
しかも、神具の間の扉を開けることができるほどの上位の悪神。
紗夏と共に裏切った使用人達もみな、何かしらの悪神が憑いていたと思われる。
でも…、と私。
「神産みが起きた時って、特別な力を持った巫女が神託を受けて教えてくれるんじゃないの?なんで気付かないの?」
「悪神はね、自分の魂を隠すのがとても上手いんだ。それは位が上になればなるほどね。特別な力を持つ巫女でも、場所や人の特定は難しいんだ」
神産みや悪神憑きが起きた人達が、その人本来の寿命や、転生者同士の争い、事故等で命を落とすと、宿っていた魂はその肉体を離れ、次の転生に向けて肉体を探す。
そして上位であればあるほど、転生に長い年月を要するということ。
そこから、中山グループが文献を調べ、これまでに祓った悪神憑きのデータを元にし、転生にかかる年数と、神具の間を開けることの出来る上位の悪神を調べて照合したところ、
おそらく紗夏に憑いたのは
「禍津神(マガツガミ)」という非常に強力な力を持った上位の悪神だという結果が出た。