※一部センシティブな描写があります。
⚜ ⚜ ⚜ ⚜
ライカ、男、13歳。
太陽色の髪をなびかせ修道服を纏う、聖堂に従事する一人のシスターである。
木の葉揺らめく柔らかな初秋の日の午後、ライカは聖堂横、ひとけの無い沐浴場にいた。十字架のネックレスを外し修道服を脱ぐと未成熟な男子の身体はそこにあった。ゆっくりと水に足先をつける。心地よい冷たい温度が、じんわりと沁みる。
「もう秋か。」
タオルを巻き、落ち葉の浮く水面に大腿まで浸かると、沐浴場中央に鎮座した石碑へ静かに胸に手を当て深く呼吸した。
ちょっとした雨乞いのお祈りである。
ライカは練習として、よく簡単なお祈りを試すのであった。
「主よ、大地よ、我は木々に雨を乞う。大樹の繁栄に豊かな水のお恵みあれ」
金の装飾の華美な石碑はより一層煌々と輝きだし、──────もとに戻った。
「あっ…まじ?」
──そして足場の石畳から、おびただしい数の植物のツルが一斉に生えだしたのであった。
太いツルは地鳴りをあげメキメキと伸び──ライカの目前に迫る。
「……失敗しちゃった…」
「シスターライカ!まーたあんたって人は!」
大きな地鳴りを感じ、先輩のシスターが駆け寄って来る。
「シスターアルパ!助けて!今日のお祈りもうまいこといかなくてっ」
一旦体制を立て直すためツルに目線を向けつつゆっくりと地上へ戻る。畳んでおいた修道服は水に濡れ、既にビシャビシャになっており、着たライカの身体のラインが顕わになる。
「やだ、ずぶ濡れじゃない。……あんた本当に小さいわね。」
「あーんっ、そんなジロジロ見ないで……」
瞬間。
たった一瞬の、目をそらした刹那、一本のツルがライカのローブ目掛けて伸びる。
「おわぁっ」
「ライカっ!!!」
アルパが聖書を一枚ちぎると、それは燃えてツルに直撃────
──したものの、ツルには無傷であった。
「そんな!?」
ライカが向かってくるツルを、なんとか手で跳ねのける。
ビショビショになった修道服は重い。必死の抵抗である。
「シスターアルパ様!我らが援護致します!」
「シスターローライ!シスターニコン!」
駆け寄ってきた弟子のシスター二人は、同じく聖書を一枚破り宙へ放り投げる。
二人が術を唱えると、間もなく破られたページは空中で燃え尽き黒い雲が周辺を立ち込めた。
みんな、耳塞いでおいてね!と、シスターローライ。
鈍い大きな音が雲の中に聞こえ始める。
間もなく激しい稲妻が幾つもツルにぶつかり、何本かは切断され轟音をあげながら地面に叩きつけられた。
水面は大きく揺れ、飛沫を上げながら地面もまた揺れる。
戦場と化した沐浴場は、雷とツルのぶつかり合いにより荒れ果て、揺れていた。
「すごい…」
ライカは濡れた顔をタオルで拭くことも忘れ、その場にへたり込みただ地面から生えた巨大なツルを見上げていた。
足元に石畳の破片や石碑にあった金の装飾、沐浴場に放置してあったらしい錆びた工具なんかがゴロゴロと転がってくる。
時折衝撃波と暴風がライカの頬を抜けていった。
日がやや傾くも、戦いは困難を極めた。
アルパ、ローライ、ニコンがどれ程の術を使おうと、ツルは幾度も復活し、地面から無限のように生えてくるのである。最年長のアルパは流石に疲れを顔に滲ませた。
「危ないから僕のところに来ないでっ」
ツルをぱしっと避ける。
ライカはロザリオを硬く両手で握ると、右手にレイピアの幻影を纏った。
「こんなに荒らしちゃ、流石にカミサマも許しちゃくれないよ。」
よじ登った沐浴場の鉄の門の頂点から石碑のコア(核)へ、レイピアを向け真っ直ぐに飛び降りる。
乾き始めていた修道服の裾がヒラリと舞った。
“────愚かな────…”
「え……?あっああ!!!!!」
誰の声とも解らない声に、落下姿勢を崩すライカ。
「地面に落ちる……落ちちゃう〜〜〜!!!し''ぬ''ぅ''〜〜〜!!!!」
「「ライカ!!!!」」
シスターたちは目を覆った。
その瞬間何本もの太いツルがライカ目掛けて伸び、地面スレスレで受け止める。
ほっとするシスターたち。ライカは恐怖にうずくまる。
“術に失敗した愚かな少年よ、悪魔の戒めを受けるが良い”
声の主は石碑から聞こえた。
無防備になったライカの身体めがけて、更に別のツルがわっと襲いかかる。
「この子だけは怪我させないわよッ」
シスターニコンが首に掛けていたロザリオを石碑めがけて放り投げ、罰を、とだけ小さく呟く。
間もなく大きな閃光とともに石碑の一部が破裂し、散らばった。
張られた水が大きく吹き上がり一帯をぬかるみへと変える。
“そこのシスター、無駄な抵抗だな。そんなにこの子が大切か”
ぐねり、ぐねりと割れた石碑の中身から太く長い木の幹が這い出して来る。それは絡まり、大樹となった。
“今の一撃は悪手だったな…この小さいシスターには私の養分となってもらおう────…”
沐浴場の面影はあとかたもなく消え去り、激しい地鳴りとともに禍々しい大樹の影がシスターたちを覆った。
遠方にいた他のシスター達が異常事態にこの場へ近づくと地面から勢い良く根が生え行く手を妨害する。
「おやめなさい!その子に何をする気ですか!」
濡れて使えなくなった聖書を片手に吠えるシスターアルパ。
大樹の正面にはツルの上で裸足でうずくまったままのライカがいた。
“────さて、どうするかな……このまま喰うには修道服は邪魔だ。”
メコッと地面から細いツルが伸び、ライカの修道服の中へ入る。
付近からもう何本かの幹が手足、胴を巻きつけ、固定する
「……!動けない……!!?」
太いツルが、濡れた少年の肌を滑る。
「いやぁ………っ!やだ、なに……」
悪魔を宿した大樹の前に、シスターたちは無力さに立ち尽くすしかなかった。
「なんでそこばっか触る…ひゃ、だめ…へんなとこ触らないでぇ……やめて…………ん……」
段々と息遣いが荒くなる。
感じたことのない、砕けるような快感に視界が霞む。
“脱げんだろう、暴れるな。お前のような未熟な者にはこの状況で私に勝つには厳しいだろう。…大人しく運命を受け入れろ…さっさと楽にしてやる────”
ツルは舐め回すようにライカの身体を滑らせ、その度に小さく身体がぴくん、ぴくんと跳ねる。
無気力にもツルの上で身体をくねらせてシスター服を着崩し、執拗に衣服の中へ絡んでくるツルに翻弄されるライカがそこにあった。
彼の眼は、己の無力さと、抵抗が効かず与え続けられる羞恥に潤んでいた。
「や、やだぁ!やめてよ!離して!ん''っ……あぁ…………頭がクラクラして…………ん………♡やぁん………♡」
“なかなか良い顔をするじゃないか、良いぞ、そのまま私の養分となれ……!”
柔らかな秋の午後の赤みを帯びた太陽が、剥き出しになったライカの肌を眩しく照らす。
「も、もう、からだ我慢できなくなっちゃう……ッ……かみさま………っ」
最早これ以上の抵抗など意味がないと悟った。小さく声を震わせ、手足拘束のまま項垂れた。
シスターたちはその場でずっと俯いて、ロザリオを握りしめたまま沈黙を貫いた。
ふと足元に、半分ほど中身のあるオイル缶が転がっていたので力いっぱい投げてみるシスターニコン。
「このショタコン悪魔!!!!」
痛恨の一撃。
オイル缶は大樹に命中し、ガランガランと音を立て地面に落下する。中身が飛び散り、あたりに油の臭いが立ち込める。
“缶などと小賢しい…!!”
大樹は怒りライカの手足をさらに強く巻きつける。彼にはもう反応がなかった。
「シスターアルパ様」
「ええ、まずは何事も試してみなければ」
ローライは僅かに濡れず残っていた自身の聖書の1ページを大樹に向かって飛ばした。
「火。」
そしてそこで、この戦いは終わったのである────────。
「ごめんなさい」
日の暮れた聖堂。
ライカは大勢のシスター、街から帰ってきた修道士、そして昼間うたた寝をしていた神父、復旧作業を手伝いに来た民衆を前に、真っ白い私服のローブで深く謝罪した。
「聖堂、及びこの身も悪魔に汚され、穢れてしまった以上、もう修道女として神に仕えることはできません。この場限りでシスターを絶たせて頂きます。」
首から傷んだロザリオを外し、アルパにお世話になりました、と託すライカ。慌てふためくシスターアルパ。
「そんな急に…なにもやめることはないでしょう。沐浴場なんていくらでも直せるじゃない。第一あんた、男でしょう?」
「いえ、その…。」
真っ白いローブに視線が移る、現場にいたシスターたち。
「まぁ………ね、修道士でもヒラヒラのは着れるわよ。いいんじゃないそれで。」
と、ニコン。
見かねた民衆が『どうしたの』『怪我でもしたのか』と声を掛けるも、神父に『シスターの服が気に入ってたのかい』と問われるも
首を振って拒否し、顔を赤くしてもじもじするライカ。
シスターローライの手が優しく肩に置かれる。
「言ってご覧なさい、主はすべてを赦してくれるのですよ。」
「は、はい…………」
誰もが、ライカの唇を見つめた。
「えっと、その………
せーつーがきた。」
今日も賑やかな聖堂に夜の帳が下りる──────。
***************
それから神父、修道士とシスターたち、民衆にさんざん笑われたあと、
成長祝いということで、聖堂に居合わせた人々で愉快な食事会が始まった。当の本人は恥ずかしいからやめて!と言ったが聞く耳を持つ者はいなかった。
子供の成長ほど喜ばしいことはない、みなが口を揃えた。
「あんたもまた一つ大人になったんだねぇ、おめでとう。
────この教会に来たときは、まだ1歳だったもんねぇ。時が経つってのは早いもんさ。」
「やだーーー…………やめてよぉ…………」
俯いたまま顔をまた赤くするライカ。
「でも………助けてもらって嬉しかった。」
そうぽつりと呟くと、ぐび、とジュースで恥ずかしさを飲み込む。
「で、あんた精通してもまだそのシスター服着たいわけ?そろそろ修道士にジョブチェンしたら?」
シスターニコンがライカの頬を指でつん、と刺す。
「えぇ〜〜〜……まだ僕13だよ?まだこのままがいい。」
「何言ってんのさ、もう二年もしたら背も伸びて筋肉ついてガッシリ体型になるんだよ?大人になるってそういうこと。あんたの子供時代も終わりってわけ。さて、あと何年もつかねぇ。その服が似合うまま着られる期間。」
そう言うと、シスターニコンは『どのくらい身長伸びるかねぇ、隣町の神父様くらい伸びたらいいねぇ』と笑いながらその場から立ち去った。そしてフォーク片手に膨れっ面をするライカ。
「僕はこのままがいいのに。」
キャンドルが煌々と、ちょっとだけ大人になった13歳の少年の顔を照らした。
ライカはその日から、真面目にお祈りの練習と、自分で自分の修道服の洗濯をするようになったという話である。