コロンビア、アトランティコ県バランキヤ近郊_
軍事利用のため世界地図から消された地、
「ふん!」
兵士が右拳を繰り出し、それをまた別の兵士がいなす。
「てやっ!」
先ほどの拳を突き出した兵士がそのまま腕を掴まれ、腰に胴をのせた次の瞬間には宙を舞い、砂地に叩きつける。
「ぐお!!」
この取っ組み合いに見える図は横に連なり、2人1組となって立ち替わりながら行われている。
ニホンのジュードー、その大外刈をイメージさせるような投げ技を使う兵士もおり、相手が倒れ混んだ次には短い
先の通り、2人1組で行われているため組み合わせに奇数で溢れた俺はこの乱取りの順番待ちをしているところである。
雨音に混じり、さほど離れていない距離で何かのエンジン音が聞こえ_止まったことに気づいた。すぐにそれに乗っていた何者かが分かった。
「ボス」
せっかくなのでボスに手合わせして貰おう。
「ボス お手合わせお願いします!」
そう言った次の瞬間には投げられ_身を捻って回転し、ボスを投げ_ボスもまた身を捻りこちらよりも幾らか軽く着地を取る。
「お前達!ボスが参加して下さるぞ!ボス 宜しくお願いします。」
今日の教官の当番役であるピューマがボスの前だからと声に張りをもたせているのが分かる。
来たばかりのボスと小休止を兼ね、基本動作の訓練に入った。
「敵地で最も重要なのは『状況の把握』だ。どこを見るか、いかに目標を早く発見するかが生死を分ける。」
などとちょっとした体操を挟み、打撃の訓練に入る。
もちろんボスの相手をするのは俺で華麗なコンボがキまり、倒れ込む。他の2人1組のコンビもそれぞれ片方が膝を付くなどしている。
「ボス お見事でした。では次に『スタンロッド』の訓練を行う。訓練には模擬ロッドを使う。用意_始め!」
スタンロッドを突き出すと150万ボルトの電流が放出される…外見的にそうは見えないが…とにかく相手はたまらず気を失う非殺傷武器である。最近支給されたばかりだが俺としてはあまり信頼が置けず、装備はしていても実戦では専らナイフを使っている。
このあとには冒頭のCQC訓練に戻り、日が暮れる時間まで続き、兵士達の中にはバテて力尽きる者が出てた。その中でもボスと俺の組み合わせは未だ立ち回りを続けていた。
ボスとその師匠が生み出したCQCは一般には浸透していないものであり、MSFでもボスとほぼ互角に渡り合えるのは俺だけであるが当然の話ボスのほうが上手である。
「く…動きは見切った、僅か差だった…」
「舌を噛むぞサーペント」
拘束され、首元がギリギリ締め付けられる。
「またお願いします」
「いいぞ」
拘束状態から俺が投げられたのを合図に教官役のピューマが号令を出す。次はまだ立っていられる奴がボスに飛び掛かり、複数の相手を捌く形を手本に見せて貰うというものである。だがやはりボスが圧倒的である。6人を相手に次々とボスは凪ぎ倒していく。
「止めぇ!今日はここまでだ。ボス ありがとうございました。」
肩で息を切り、鼻や口に入った砂で咳き込み、兵士達が死屍累々といった様でへたり込む。起き上がれる者から順次、我々が拝借している小屋に引き上げようとしたとき、またエンジン音が聞こえる。
「スネーク!」
我らがMSFのナンバー2、カズヒラ・ミラーがどこぞのツテで仕入れたセコハンのジープに乗ってやって来た。ボスへの客人らしい。
「ありがとうございました!BIGBOSS!」
「スネークでいい」
「すいませんでした…
「いいか 俺達に 勝利はない」
「「
20世紀最も完璧な男と言われた、かの有名な台詞である。
「俺達には…そのどちらも許されない」
そういうことではないとボスは背中で語り、俺は敬礼で見送る。
踵を返し、まだ砂地にへばりついた隊員の一人、アルマジロをピューマと2人で肩を貸してシャワー室へ連れた。
「…湯が出ない。ボイラーの調子が悪いようだ。」
「そっちもか?仕方がない、水で我慢しよう。」
「嫌だなあ…」
「我慢しろアルマジロ、雨水じゃ隅々まで洗えん」
この通り、我がMSFはこの小屋ですら無人をいいことに勝手に占拠して使っているほど小規模であり、武器も安いスタンロッド以外は全員分の装備が間に合わずほとんど鹵獲品を使い回している状態である。
「俺が閉めたパン屋でもこれ程ではなかったな…」
「なに?パン屋?」
「いや…忘れてくれ。」
今回来たという『客人』とやらは探る間もなかったが、胡散臭いニオイは雨の中でも漂っていた。顔立ちがこの辺の者ではないように見えたからだ。そんな奴を『客人』と言い張るミラーの思惑はおそらく何らかのビジネスが絡んでいるのであろう。厄介事でなければ良いが_