「『…追い返す』」
「『殺さなければあなたが咬まれる』」
「『帰れ!』」
ボスたちが詰めている部屋から何かしら揉めているような声がドアの隙間から漏れ聞こえた。ちょうどコーヒーの替わりを持って入ろうとしたときだった。
「声紋分析の結果ひとりの音声は伝説の英雄であり犯罪者である『サ・ボス』と一致した。」
ザ・ボスだって…?
詳しくはその人物を知らないが、第二次大戦中 連合国軍中の優秀な兵士を集めて部隊を組織した『特殊部隊の母』であるという。そして10年前、ソ連のどこぞに核を撃ち込んだ狂人。その最期は弟子であるボスの手によって殺害された。ボスはその功績によりある
「何だって!?」
「もう一人は不明 30代の女性、イギリス訛りがある。背景に聞こえている曲は1973年のヒット曲」
「『私は…自分に忠を尽くす…』」
「…ボスがコスタリカで生きているとでも?」
絞り出したかのような声で客人の男にボスが訊ねる。
「『誰!?』」
「『侵入者だ!!』」
「私が知る限り彼女はあなたと共に戦った上官…」
スピーカーから悲鳴が響き_
「そしてCIAの命令を受け あなたが殺し…」
「あなたは英雄
大音量で音の割れた銃声が耳をつんざく。
「ッ!!」
この男、何をしている!?
ボスに害を加えようと言うならばと腰のホルスターに手を回し、いつでも室内に突入できるよう構えた。向かいの部屋から音を聞きつけピューマのほかアルマジロ、ラクーン、アリゲータが続々と出てくる。
「(待て)」
ハンドサインで仲間に制止を促す。
部屋からはまだやり取りが聞こえてくる。
「スネーク これは罠だ」
「やはり 祖国に背くことは出来ませんか?」
「_では これはもう いらない?」
ドアを僅かに開けて覗き見ると、客人の男がこれ見よがしに音声テープを火炙りにしようとわざとゆっくりとした動作で特徴的な義手から燃え出る炎に近づける。
「待て!」
そのテープをボスが素早く立ち上がって男からもぎ取り、椅子が倒れる。
「スネーク?」
「…あの娘のためだ
それは、あからさまに嘘であろう。だいいちいつもの声が震えている。男は義手でピースサインを作ってみせる。
「なるほど
ミラーはわざとトボけている。分かっているはずだ、これはボスに揺さぶりをかけて何かしらの案件を呑ませたのだと。
「では 今日はこれで失礼したい。海上プラントとヘリは明後日手配する」
「ああ こっちも支度を急ぐ」
一瞬ミラーの視線がサングラス越しにドアの隙間に注がれたことに気づく。ミラーがそうならボスもこちらの気配を気づくだろうが何も言ってはこない。先ほどのテープを手に俯いている。
「(戻れ 戻れ)」
ハンドサインで向かいの部屋に音を殺しながら駆け込み、仲間全員が出てきた客人2人と鉢合わせしないよう隠れる。それにしてもあの胡散臭い男と一緒にいた女学生はどういう関係なのだろう、あとでミラーに聞いてみようか…。
翌日、昨日の経緯について端折った説明をミラーから全員が受けた。
客人は表向きはコロンビア国連平和大学の教授 裏の顔はKGBであること、依頼はコスタリカに傭兵を駐留させるCIAがここで何をしようとしているのか調査しそれを阻止することである。ミラーが乗り気だった理由は基地として海上プラントを前金代わりに提供してくれることであろう。それについてボスは難色を示したもののあのとおり結局引き受けることとなってしまった。
「…一通り説明を終えた。何か質問は?」
「その海上プラントはどういった機能があるんですか?」
海上プラントと聞いても正直ピンと来ない。雨風凌ぐだけのこの小屋と大差無いのではないか?
「いい質問だ。今は特に作戦に必要なものはないが、コイツを運用し俺達が拡張していけばいい。」
「具体的には?」
「う、うーん…そうだなあ」
考えてないのかよ!とこの場から総ツッコミがボス以外の全員から上がる。だが違う、おそらく考えてはいるのだろうが今のミラーの頭のなかでは経営にあたり色々な計算が動いている。安易に「これ」と断言できないのもまあ納得である。
「武器調達とそのメンテナンスを管理する部門が早急に必要…将来的にはそこで様々なコトをやりたい…そうだスネーク!研究開発だ!研究開発班を設立しよう!?」
「…ああ 任せる」
ボスは興味なさげといった様子で
「なあスネーク!いくら実務は俺が担当しても、MSFのボスはあんただ。こういうときは盛り上げてくれよ!」
ミラーがボスの両肩を掴み上下に揺する。ボスの手元のパーツが床にポロポロ落ちていく。
「分かった分かったから揺するな!単に集中したいだけだ。このメンテナンスでも限度はあるからな、班は作っておいてくれ。手先が上手なラクーンをリーダーに各自手伝って貰いたい。」
「あー、では他に質問はないな?明日迎えのヘリが来るから荷物を各自まとめるように。」