※この作品はR-18です。

俺の大学性活はまちがい続ける。   作:滝 

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一色いろは、成就する。

 

 一色の部屋に入ると、俺たちはベッドに隣り合って座っていた。

 

「浮気しようって⋯⋯」

 

 俺の言い方が引っかかっているのかそれともドン引きしているのか、一色は隣でぶつくさ呟いている。もうちょっと言い方がなかったのかと自分でも思うけれど、残念ながらあれ以上正しく表現できる言葉が思いつかなかったのだ。

 

「いや、ね? それ以外言いようもないし」

「それは⋯⋯。そうかもですけど」

 

 これから先の展開に想像したのか、一色は僅かに頬を赤らめる。

 よくよく考えたら、これは純粋な浮気以外の何者でもない。結衣を初めて抱いた時のように、そうする事を許された訳でもなく、俺から一色を誘ったのだ。

 側(はた)から見れば、随分と姑息な事をしていると思う。いくら告白されたとは言え、断れる事なんてないだろうと踏んで言っているのだ。しかも酒を飲んでぐだぐだになっている相手に言うところが、より性質(たち)が悪い。

 

「一色。その、だな⋯⋯」

「いろは、です」

 

 そう言われて顔を覗き込むと、一色は真っ直ぐに俺を見ていた。

 

「いろはって、呼んでください」

 

 いつものあざとさは消え失せていて、揃えられた脚の上で重ねられた手がいじらしい。真剣な目で見詰められて、否を唱えられるはずもなかった。

 

「⋯⋯いろは。いいか?」

「はい⋯⋯」

 

 目を閉じたいろはの肩に腕をまわし、こちらに引き寄せる。

 ぶっくりとした血色のいい唇に、上気した頬。長い睫毛は緊張に震え、鼻から漏れる熱い息が可愛らしい。間近で見る彼女の顔は、ひたすらに美しかった。

 

「ん⋯⋯」

 

 形のいい唇を塞ぐと、そんな甘い声が漏れ聞こえてきた。そのキスに積極性はなく、しかし愛(いつく)しみ合うように唇をはみ合う。

 

「はぁ⋯⋯」

 

 お互いの顔を離すと、いろはの唇は艶やかに濡れていた。彼女は人差し指と中指だけでそっとその唇を押さえる。

 

「これが、先輩のキス⋯⋯」

「いや、あの⋯⋯。感慨深げに言われると小っ恥ずかしいから、やめようね?」

「感慨深いに決まってるじゃないですか。やっとキスできたんですよ?」

 

 やっと、という言葉に、俺は自らの業の深さを思い知る。そう感じる程に、いろははずっと前から俺に気持ちを向けてくれていたのだ。それに気付かない振りをしていた自分は、酷く薄情で臆病だったと思う。

 

「だからもっと、してください」

「⋯⋯分かった」

 

 もう一度抱き寄せると、頭を抱え込むようにしてまた唇を塞いだ。暫しの間お互いの唇の感触を確かめ合った後、いろはの口内に侵入していく。

 

「んっ、ぅ、んん⋯⋯っ」

 

 くぐもった声が耳にくすぐったく、悪戯に情欲の炎を扇いでくる。絡みつき返してくる舌の動きは拙く、臆病な小動物を思わせた。それでも懸命に応えようとしてくれる動きが嬉しくて、俺たちは時を忘れて互いの熱を伝えあっていた。

 

「ん、はぁ⋯⋯」

「⋯⋯いろは」

 

 一体何分、そうしていたのだろうか。唇を離すと、俺はいろはをベッドに押し倒した。淡いベージュのシーツの上に転がったいろはは、不安そうな目でこちらを見上げてくる。

 

「その⋯⋯。初めてなんで、優しくしてくださいね」

「へ⋯⋯?」

 

 その一言に、俺は一瞬呆気に取られてしまった。

 初めて、という事は、一色は処女だったのか⋯⋯?

 

「なんですかその反応⋯⋯」

「だって、てっきり⋯⋯。いや、なんでもない」

 

 これ以上は間違いなく藪蛇だろう。しかし取り繕ったような俺の反応に、いろは大変ご不満であるらしい。

 

「失礼ですね。ひょっとして処女の相手めんどくさいとか思ってます? 中学の時からヤリまくりですって言った方がよかったですか?」

「そんな訳ねぇだろ」

 

 例え話とは言え自分の事を蔑ろにするような言い草が気に食わなくて、俺はいろはに覆い被さって口に蓋をした。髪を撫でながらまた舌を口内に侵入させ、不必要なまでにまわる舌を絡め取る。俺と一緒に居過ぎた所為で、そんな自虐的ところまで似てきてしまったのかも知れない。

 

「ん、はぁ⋯⋯」

 

 彼女の発言をかき消すようにしたキスは、少々激し過ぎたのだろうか。いろはの呼吸は深く、眼下でその胸が大きく上下していた。濡そぼった目は俺を非難するようでいて、しかし求めているようにも思える。

 

「先輩のせいですよ」

「え?」

 

 思いがけない言葉に、間の抜けた声が出た。真意を窺うようにその瞳を覗き込むと、真っ直ぐな視線が返ってくる。

 

「わたしが処女をこじらせたのは、先輩がいたからです」

「んな童貞こじらせたみたいに⋯⋯」

「だから責任とってください。⋯⋯わたしの処女、ちゃんと貰ってください」

 

 いろはの言葉に、思わず胸が詰まった。彼女の本気を少しは分かったつもりでいたけど、全く理解が足りていなかったと思い知る。

 

「ああ⋯⋯。ありがとな」

 

 紡いだ言葉自体はさっきと同じだったのに、その響きも意味も全く違っていた。いろはの髪をかき上げて額にキスを落とすと、その瞳にじわりと広がっていくものが見える。

 

「んっ⋯⋯」

 

 耳の裏を撫で、ブラウスのボタンを外す。照明の下に晒された白いうなじに唇をつけると、いろはの身体がびくんと反応する。

 一つ、また一つとボタンを外していく度に、陶器のように白い肌が露出していく。形のいい胸を包むものが見えると、思わずごくりと唾を飲み込んだ。

 あの一色いろはを、今から抱く。彼女の初めてを、俺が奪い去ってしまう。

 そう考えると心の臓は自分で心配になるぐらい早鐘を打ち、どこかに隠れていた欲望が鎌首をもたげる。早く彼女の全てが見たいと、心の奥底から声が聞こえてくる。

 

「あ⋯⋯」

「脱がすな」

 

 ブラウスのボタンを全て外して、スカートのホックを外した。されるがままになっているいろははあっという間に下着姿になって、その健康的な美しさを俺の眼前に晒していた。

 

「な、なんですか⋯⋯。見過ぎじゃないですか」

「いや⋯⋯。めっちゃ綺麗だなと思って」

「──っ!」

 

 なんの奇も衒(てら)わない言葉に、いろはの頬は更に赤くなる。今更恥ずかしくなってきたのか、自らの身体をかき抱くようにしてその下着ごと大事な部分を隠してしまう。

 

「もっとよく見せてくれ」

 

 そう言いながらいろはの腕に手をかけると、意外な程に呆気なくその防御は崩される。ブラジャーの上からその柔らかな部分を揉むと、切なそうな声が漏れた。

 

「あ、ん⋯⋯。せん、ぱい⋯⋯」

 

 どくんと一際(ひときわ)大きく心臓が跳ね、手の動きが止められなくなってしまう。ブラジャーのカップ越しでも分かる柔らかさは、そのまま触ればどんな感触だろうか。いろはの耳をはみながら、そんな事を考える。

 

「先輩、あの⋯⋯」

「ん?」

「照明、消してもらっていいですか。恥ずかしいので⋯⋯」

「駄目だ」

 

 恥ずかしそうに懇願するいろはが余りにも可愛らしくて、ついそんな意地悪を言ってしまいたくなる。一切取り繕わないいろはは、いつものあざとさ全開の彼女よりもずっと俺の心を掴んでしまう。背中にまわした手を滑らせると、ブラジャーのホックを外す。淡いイエローのショーツを先に脱がし、焦らすように腕からブラジャーを抜き取った。

 

「──いろは」

 

 ベッドに横たわり、こちらを見上げてくるいろはと目が合う。羞恥に濡れた瞳が、開けば恨み言しか聞こえてきそうにない唇が、俺の全て狂わしていくような気がした。

 

「綺麗だ」

「せんぱ──、ん⋯⋯」

 

 何かを言おうとした唇を塞ぐと、彼女のなだらかで柔らかな肌を手のひらで確かめる。お椀型の形のいい胸は乳首がつんと天井を向き、揉みしだけばその確かな柔らかさと弾力を伝えてくる。くびれに手を這わせるとぴくんと身体は反応して、鼠径部(そけいぶ)を撫で上げるだけで甘い声が漏れる。

 

「ひぁ、んっ⋯⋯♡ あ⋯⋯」

 

 いろはの秘部に指を這わせると、聞いた事もない高い声が聞こえた。彼女の入口は既に濡れ始めていて、陰唇を触ればいやらしい水音が鳴る。俺の丹精を込めた愛撫にいろはが反応してくれていると思うと、喜びと一緒に邪な気持ちも湧き上がってくる。

 

「あ⋯⋯♡ 先輩、その⋯⋯」

 

 いろはの腕が伸びると、その手が服越しに俺の身体を撫でた。初めてながらも、俺に愛撫を返そうとしてくれているのかも知れない。

 

「別に無理しなくてもいいぞ」

「いえ、そうじゃなくて⋯⋯。わたしだけ裸なの、恥ずかしいです⋯⋯」

 

 消え入りそうな声とその恥ずかしそうな表情が、もはやまともに働いているとは言えない頭から思考能力を奪っていく。俺は頷くとシャツを脱ぎ、ついでに下半身も裸になって、いろはと同じく全裸になった。

 

「これでいいか?」

「────」

 

 俺の問いかけに頷きも返事もなく、いろはの視線はある一点に集中していた。つまりは凝視している。俺の元気になった下半身を。

 

「な、なんですかそれ⋯⋯。なんでもう大きくなってるんですか」

「⋯⋯いろはに興奮してるからに決まってるだろうが」

 

 言わせんじゃねぇよ、と独り言(ご)ちながらいろはの視線を遮るように唇を重ねる。浅いキスだけで顔を離すと、うぅっといろはは僅かに声を漏らす。

 

「先輩の、お腹に当たってます」

「⋯⋯おう」

「その⋯⋯入るんですよね? 想像していたよりずっと大きいんですけど」

「入るだろ、多分」

 

 もうすぐやってくる時間の事を考えているのか、不安そうに訊いてくるいろはには一切の余裕がなかった。そんな様子が妙に可愛らしく思えてくる。

 そんなに心配しなくても、問題なく挿入できるだろう。けれどせめて初めての痛みは軽減できるように、俺にはまだやる事があった。

 

「ちゃんと優しくするから、そんな顔するなよ」

「あ⋯⋯」

 

 いろはの髪を撫でると、彼女は顎をくすぐられた猫のような表情を浮かべる。流石いろはす。庇護欲と嗜虐心を同時に刺激してくるなんて、中々できる事じゃない。

 俺は覆い被さっていたいろはの身体から身を起こすと、そっとその細い脚を開かせた。まだ秘部を隠そうとするいろはの手を両手で押さえると、舌だけを使ってその入口を舐め上げる。

 

「ひぁっ♡ ん、せんぱ、いっ⋯⋯♡ そんなところ、汚いです⋯⋯っ」

「何も汚くなんかねぇよ」

 

 ピチャピチャとわざと音を立てながらクンニを続けると、いろはの中から溢れる潤滑が増してくる。びくびくと震える身体を絡め取った手ごと押さえつけて、執拗なぐらいに舌先で責め立てた。

 

「待っ、てっ⋯⋯あ♡ 先輩、もう、ぅぅうぅっ♡ 充分、ですからぁ⋯⋯っ♡」

 

 快楽から逃げるように身じろぎするいろはを、尚も愛撫し続ける。初めての時は濡らし過ぎるぐらいでちょうどいい事を、恋人たちがその身を以って教えてくれたから、俺を受け入れるための準備は怠らない。

 

「⋯⋯そろそろいいか?」

「はぁ、はぁ⋯⋯ん♡ もう充分って、言っているじゃないですかぁ⋯⋯」

 

 肩で息をしながら涙目で見詰めてくるいろはは非難の声を上げたけれど、その身体は素直だった。脱ぎ捨てたズボンの中から財布を取ると、隠すように仕舞い込まれていた避妊具を手にする。金色の個包装を破ると、中から現れた薄っぺらいものを硬くなったそれに被せていく。その様子を、いろははじっと見詰め続けていた。

 

「⋯⋯どうした。やっぱり怖くなってきたか?」

「いえ、慣れてるなと思って。⋯⋯なんか、悔しいです」

 

 なんだそりゃ女の子はリードして欲しいものなんじゃないの? なんて考えながら、俺はいろはに覆い被さった。彼女の言葉の真意は分からなかったが、さっきから俺自身は早く中に入らせろと唸りを上げている。そっといろはの入口に硬くなった肉棒の先をつけると、彼女の身体がびくんと反応した。

 

「入れていいか?」

「⋯⋯はい」

 

 その返事を聞き届けると、俺はゆっくりといろはの中に入っていく。潤滑は充分なはずなのに、亀頭まで入ったところでそれ以上の侵入を阻まれる。ぎゅっと目を瞑ったいろはの髪を、ただ優しく撫でた。

 

「悪い。多分、結構痛いと思う」

「ん⋯⋯。それでも、いいです。⋯⋯先輩の、ください」

 

 いろはは目を開くと、怯えた様子ながらも健気にそう言った。彼女の手が、俺の頭の後ろにまわされる。引き寄せられ、それに合わせるように腰を沈み込ませていく。

 

「──っ! いっ、〜〜!」

 

 何かが裂けるような感覚と同時に、いろはの声無き叫びが耳朶を打つ。最奥まで到達すると、俺はその中で分身をびくびくと脈打たせていた。

 

「よく頑張ったな。全部入ったぞ」

「はい⋯⋯っ。あ⋯⋯っ!」

 

 いろはにキスしようと少し動いただけで、彼女の表情は苦悶に歪む。俺はなるべく彼女に体重をかけないように、その細い身体に覆い被さった。

 

「⋯⋯本当に先輩に処女、あげちゃいました」

「ああ」

「思っていたより、痛かったです。あと先輩の、おっきすぎます」

「それはどうしようもないな」

「それから⋯⋯」

 

 言葉を途切れさせると、濡れた瞳が俺を捕らえた。はぁ、と熱い吐息を漏らした後に、彼女は続ける。

 

「すっごい、嬉しいです」

 

 お為ごかしも便宜も演技だって何もないその言葉が、すっと胸に落ちてくる。はにかんだ笑顔が少女だった頃の彼女を思い出させて、たった数年前の事なのに胸が痛くなった。

 いろはの想いに、どれだけ真摯に応えられているのかは分からない。これから先、どんな風に彼女と向き合うべきなのかだって、何も見えてはいなかった。

 だからせめて、彼女にとって最良の時間になるように。今の俺にとってできる事は、それしかないと思うから。

 

「ん⋯⋯」

 

 もう今日何度目かも分からないキスをしながら、濃密に熱を伝え合う。いろはの中に入った俺自身は一ミリも動いていないというのにびくびくと脈打ち、その感覚をもっと味わいたいと足掻く。

 

「はぁ⋯⋯」

 

 永遠のようなキスが終わると、俺はそうやって息を吐きながらいろはを抱き締めた。胸板に柔らかなものが潰れる感触が伝わって、未だにバクバクとうるさい心臓の鼓動が伝わりやしないかと心配になる。

 

「その、⋯⋯先輩。動いてもいいですよ」

「もう大丈夫なのか?」

「わかんないですけど⋯⋯。でもちゃんとわたしで気持ちよくなって欲しいです」

 

 本当に今日のいろはは健気で、可愛げしかない。いつもこうだったらいいのになんて思うが、それはそれで寂しい気もする。むしろ普段があざとく小賢しいからこそ、こんな時の彼女の魅力は増すのだろう。

 俺はいろはの両脇に手を着くと、彼女の顔を見下ろす。見上げてくる目にはまだ不安が滲んでいて、俺は気付いたらその髪を撫でていた。

 

「動くからな」

「はい⋯⋯。あっ、ん、っっ──!」

 

 少し動いただけでいろはの身体は跳ねるように反応して、喘ぎと噛み殺された叫びが混じる。俺は腰の動きを止めると、いろはの瞳を覗き込んだ。

 

「痛いか?」

「だい、じょうぶ、です⋯⋯っ。あ、っ──!」

 

 一瞬だけ合った目には雫が溜まり、ぎゅっと閉じられた拍子にそれは転がり落ちていく。どう考えたって、大丈夫じゃない。膣内は俺を異物と言わんばかりに締め付け追い出そうとしているし、その痛みも見ているだけで伝わってくる。

 

「もうちょっと待つか」

「はい⋯⋯。ごめんなさい」

「謝らなくてもいい」

 

 むしろ謝らなくてはいけないのは、痛い思いをさせているこっちだというのに。もう一度ペニスが動かないように気をつけながらいろはに覆い被さると、その痛みの感覚がやわらぐようにと唇を重ねた。

 歯茎を舌先で撫でると、いろははすぐに俺を口内に迎え入れてくれる。痛みから逃れるような激しい舌の絡ませ合いに、脳が蕩かされそうだった。

 

「んっ、はぁ⋯⋯。先輩、その⋯⋯もう一回試してもらっていいですか?」

「ああ、分かった」

 

 たっぷり五分はキスをしていただろうか。いろはは唇の端に銀糸を光らせたままそう言うと、俺は頷いてもう一度腰を動かし始める。

 

「あぁ、ぅ⋯⋯っ!」

 

 少し腰を引いてまた前に進めると、進入を拒むような強い締め付けと痛みに濡れた声が聞こえてくる。ひょっとしたらいろはの中は、他に比べて狭過ぎるのかも知れない。ここまで痛がられるのも初めてだったし、正直これ以上はいろはにとっても辛いだけだろう。

 

「⋯⋯抜くな」

「え⋯⋯。あ、ぅ──っ!」

 

 ペニスを抜くその動きにすら、いろははびくっと痛みに身を捩らせる。やはりこれ以上は無理という判断は正しかったと思う。

 ぬるんと抜け出たペニスを包むコンドームには、破瓜の血がまとわりついていた。俺の意思とは関係なく獰猛なまでに脈打つそれは、まだ足りないとのたまっている。

 

「今日はもうやめておこう」

「なんで、ですか⋯⋯。わたし、大丈夫ですから⋯⋯っ!」

「全然大丈夫じゃねぇだろ。いいから無理するなって」

 

 いろはの頭を撫でてやると、彼女は僅かに目を細めて眦(まなじり)に雫を溜め始めた。俺に応えようとしてくれる気持ちは嬉しかったけれど、これ以上彼女に無理はさせられない。

 肉棒からコンドームを外すと、ティッシュに包んでベッドサイドにあったゴミ箱に捨てる。その様子を、いろはは悔しそうに見ていた。

 

「⋯⋯先輩」

 

 ベッドの端に座った俺の後ろから、いろははそっと抱き締めてくる。背中にいろはの乳房の感覚が広がって、ペニスはびくんと脈打つ。まったく、自分でも呆れるぐらいに勃起している。けれどそれもいろはが相手なのだから仕方ないと思う。起こり得ないと思っていた未来は──一色いろはとの情事は俺の隠されていた欲望までをも詳(つまび)らかにしてしまった。欲深な劣情を、辟易する程の貪欲を、俺に自覚させてしまったのだ。

 

「先輩は、無理してますよね」

 

 耳元で囁かれる言葉が、隠し通したかった感情を焚き付けるかのようだった。いろはの視線は真っ直ぐに俺の股間に向かっており、見られて興奮しているかのようにペニスは膨張したままだった。

 

「いや、これは放っておけば勝手に⋯⋯」

「駄目です」

 

 覚悟の籠もった声が鼓膜を震わせると、すっと後ろから腕が伸びてくる。いろはの白く、細い指が肉棒に絡みつくと、ぶるんと大きくそれは反応する。

 

「これ、いいですか?」

 

 いろはは横から俺の顔を覗き込みながら、シコシコと肉竿を上下に擦る。辿々しく、優しい動き。微かに聞こえてくる息遣いが、聴覚から俺を刺激する。

 

「ああ、いい⋯⋯」

「あは⋯⋯。先輩って、エッチの時になると素直になるんですね」

 

 どこか蠱惑的な響きが頭の中に響いて、心臓はアクセルを踏み込んだみたいに激しく脈打っていた。一色いろはに、手コキをして貰っている。その事実を正しく認識すればするほど、興奮は隠せなくなってくる。

 

「それにしても⋯⋯すっごいですね、先輩の。大きいって言われません?」

 

 攻守を交代してからというもの、いろはは徐々にその小悪魔っぷりを取り戻してきていた。初エッチで怯えた様子を見せるいろはすもいいが、やはりこんな風に男を手玉に取ろうとしている方が彼女らしいと思える。

 

「まあ、言われるけど⋯⋯」

 

 しかしそう言うのは雪乃か結衣だから、他の男を知らないはずの彼女たちの言葉をどこまで信じたらいいかは分からない。仮にそうだとしてもその大きさの所為でいろはの初体験は挿入だけで終わってしまったのだから、いい事だけではなかった。

 

「こんなにおっきいの、入ってたんですね」

 

 いろははペニスをしごく動きは止めず、感慨深げにそう言った。いろはが性に関する言葉を紡ぐ度に、脳が痺れていくかのようだ。聞き慣れた声が、見慣れたその手が、俺をやがてくる終わりに誘い込んでくる。

 

「は、あぁ⋯⋯。もうちょっと、強く握っても大丈夫だから」

「ふふっ。はい」

 

 甘酸っぱい囁き声に、肉棒はいろはの手の中でびくんびくんと暴れまわっていた。ペニスを握り込む手に少しだけ力が加わると、ぐんと快感が強く大きくなる。

 

「う、ぁ、あぁ⋯⋯」

 

 尚も背中に押し付けられ続けるいろはの胸の感覚が、耳にかかる熱い吐息が、そのネイルに彩られた指が、俺を絶頂へと誘(いざな)っていく。今日一番に張り詰めた肉棒は、まるで射精しているみたいにびくびくと脈打っていた。

 

「ひょっとして、出そうですか?」

「ああ⋯⋯。ティッシュ、用意してくれるか」

「あ、はい」

 

 いろはは少しの間だけ手コキを止めると、ベッドの端に追いやられていたティッシュボックスを持ってくる。再び俺の背後に回ると、ティッシュを二枚ほど左手に持ち、右手はまた俺の肉棒を握った。

 

「先輩、床にこぼさないでくださいね」

「善処する⋯⋯けど、多分それだけじゃ足りないぞ」

「えっ?」

 

 いろはの左手に広げられたティッシュを見ながら言うと、視界の端で目を丸くするのが見える。

 

「あと五枚ぐらいは、取っておいてくれ」

「どれだけ出すつもりなんですか⋯⋯」

 

 いろはは呆れながら言うけれど、これは仕方ないのだ。ここ三日彼女たちとの交わりもなかったし、いつも一発目は多い。それにいろはにして貰っているんだから、興奮して大量に発射するに決まっている。それに文句を言われるのをただ見ている訳にはいかない。

 

「は、あぁ⋯⋯、そろそろ出る⋯⋯っ!」

「⋯⋯いいですよ。先輩の、気持ちよくしてあげます」

 

 天使のような声で、小悪魔めいた言葉が耳に届く。俺のものをしごくいろはの手の動きは追い込むかのように早くなり、あり得ないぐらい速く心臓は血液を送り出す。

 

「はぁ、ぅ、あぁ⋯⋯、もう、出るっ、イっ、くっ!」

「はい⋯⋯。出してください、せんぱ⋯⋯あっ、え──」

 

 いろはの言葉を最後まで聞き届ける前に、俺のペニスは盛大に射精していた。いろはの右手に擦り上げられながら、左手に広げられたティッシュに向かって吐精する。

 

「うぁ、は、あぁぁ⋯⋯」

「ちょっ、え、先輩、まだ出て⋯⋯、うわ」

 

 放物線を描きながら飛んだそれは、勢いが良すぎてティッシュだけでは受け止め切れない。いろはに指に絡み付いたかと思うと、その手を飛び越えたザーメンがぼたぼたと床に落ちていく。

 

「本気ですか先輩。どんだけ出すんですか」

「は、ぁぁ⋯⋯。すまん、もう終わるから」

 

 これ以上精液を溢すまいといろははペニスの先にティッシュを被すようにしてそれを受け止めようとするが、量が多過ぎて射精する度に白濁液が床に垂れていく。いろはに手コキしてもらうなんて特殊な状況の所為で、自分でも信じられないぐらいの量を発射していた。

 

「⋯⋯もうおさまりました?」

「ああ⋯⋯」

 

 俺が答えると、ティッシュを持っていたいろはの左手がペニスから離れる。亀頭に張り付くティッシュを右手で剥がしながら、いろははじっとその手の中に出された白濁を見ていた。

 

「出し過ぎです。⋯⋯結局床にも飛んじゃいましたし」

「⋯⋯すまん」

 

 いろははもう何枚かティッシュを取ると、自らの指に絡みつく精液を拭き取った。カーペットに撒き散らかされた精液も拭き取ると、すんすんと鼻を鳴らして左手を嗅ぐ。

 

「これが、先輩の匂い⋯⋯」

 

 ⋯⋯こいつ、わざとやってるのか。

 その光景を見ていると、勃起が終わるどころか肉棒はびくびくと反応を繰り返す。

 

「で、どうしてまだ大きくなったままなんですか」

「いや、ねぇ?」

 

 それ、お前が言うのかよ。と口を衝(つ)いて出そうになるが、すんでのところで止める。いつも彼女たちに精液を飲んで貰っては興奮しているが、こういうじわじわくるのもいい。⋯⋯いや、大分アレな事を考えてるな、俺。

 

「出してもしばらくはこんなもんだから、気にしないでくれ」

「そうですか⋯⋯」

 

 いろははそう言って、僅かに精液が垂れるペニスをティッシュで拭いてくれる。正直全く勃起がおさまる気がしなかったが、初めて続きで疲れているであろう彼女の負担にはなりたくなかった。

 

「先輩」

 

 いろははまた後ろから抱き着いて来たかと思うと、チュッと音を立てて頬にキスをしてくる。彼女の髪が、すだれのように俺の視界で揺れていた。

 

「今日は泊まっていきますよね?」

「ああ⋯⋯」

 

 時計を見れば、終電の時刻を僅かに過ぎている。いろはとの行為に夢中になり過ぎていて、全く時間を気にしていなかった。

 どこか気怠い身体をベッドに投げ出すと、いろはは俺を抱き枕にするみたいにぴったりと隣からくっついてくる。脇のあたりに柔らかな部分が当たって、落ち着かない。

 

「最後まではできなかったですけど、しちゃいましたね」

「⋯⋯だな」

 

 いろはの言う通り、多少不完全燃焼なところはあったが、間違いなく俺は彼女を抱いていた。処女を奪い、何度もキスを交わし、彼女の手淫で絶頂に導かれたのだ。これを浮気と言わずになんと言うのだろう。

 雪乃にはいろはと会ってもいいけど、浮気は駄目だと釘を刺されていた。この事が知れたら、間違いなく呆れられ、怒られる。否、そんな生やさしいものではないかも知れない。ひょっとしたら『私は結衣と二人で生きていくわ。さようならお猿さん』なんて見捨てられてしまうかも知れない。

 

「わたしは、後悔してないですよ」

 

 恐ろしい未来を想像していると、そんな言葉が隣から届く。俺の憂いを吹き飛ばすかのように、覚悟の決まった声だった。

 

「先輩は後悔してるかも知れませんけど、泣き落としでも既成事実ができればこっちの勝ちです」

 

 どこか勝気な笑みは、とても彼女らしいと思える。本当に俺のどこが、いろはにそうさせたのかが分からない。ただ一つ分かったのは、彼女はどこまでも本気だという事だ。一度は結衣のように自ら身を引こうとしたが、その笑みを見ているとそれすら彼女の計算の内だったじゃないかと思ってしまう。

 

「お前⋯⋯本当に逞しいな」

「当たり前ですよ。もう手段なんて選んでられないんです」

 

 そしてもう一つ、分かった事は。

 俺はどうやら自分で思っていたよりもずっと強欲で、めちゃくちゃな奴だ。雪乃と結衣という誰もが羨む恋人が居ながら、この子も手放したくないなんて、そんな事を考えている。

 

「明日、雪乃先輩たちのところに行きましょう。アポはもう取ってあります」

「は⋯⋯?」

 

 その言葉に、俺の口からは間の抜けた声が漏れ出ていた。一体どういう事だとその顔を覗き込むと、いろはの口端が上がる。

 

「先輩のことなんで、今日のことを有耶無耶にしたり雪乃先輩たちに言わないなんて、しないですよね?」

「そうだけど⋯⋯。ひょっとしてこうなる事を見越してたのか?」

「いいえ? むしろこうなる可能性は低いと思ってました。だから先輩が口を割らなかったら雪乃先輩と結衣先輩に訊くしかないなと」

 

 事もなげに言ういろはが、末恐ろしい。もはやいつもの調子を取り戻したのか、彼女は俺を揶揄(からか)うみたいに頬を指先で撫でてくる。

 

「それから直談判です。わたしも先輩の彼女になっていいですかって」

「あのさぁ⋯⋯。それ、俺の意思は?」

「それを確認する為に今日の約束があったんです。先輩、わたしのこと好きだって言ってましたよね?」

「そこまでは言ってねぇ⋯⋯」

「じゃあ今教えてください。わたしのこと、好きですか? それとも好きでも何でもない子と寝ちゃったんですか?」

 

 もう答えなんて知っていると、確信に満ちた目が俺を射止める。こいつ、すげぇな。勢いや覚悟だけじゃなくて、追い込み方が本当に容赦ない。雪乃や結衣に言えるまで時間のかかった言葉を、いとも簡単に引き出そうとしている。逃げ場のない誤前提暗示。そんな方法まで持ち出すとは、本当に誰に似たんだか。

 

「⋯⋯好きに決まってんだろ」

「はい。わたしも先輩のこと好きです」

 

 そしてニコーっと。まるで年端のいかない少女のような明るい笑みに、頭を殴られたみたいな衝撃を覚えた。あざとい。可愛い。だけど、それがいいまである。

 

 

「一生逃しませんから」

「逃げられる気がしないんだよなぁ⋯⋯」

 

 

 そんな言葉がぽっかり宙に浮かんで、やがて消える。

 明日の事を考えると、眠れそうにない。だから今は隣で微笑む彼女の事だけを考えようと、そう思った。

 






ここまでお読み頂きありがとうございました。
次話で最終回です。最後まで楽しんで貰えたら嬉しいです。

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