村までの近道を突っ切ろうとすると、ナメクジ型魔物のスラッグの群れと遭遇する。
何匹いようが問題のない魔物であったが、それでも彼女に隙は生まれていた。
ルーシェは不覚をとり、ナメクジに菊花を陵辱されてしまう……。
槍の穂先が閃き、地を這う軟体魔物の身体に風穴が空く。
「ふぅっ……」
刃濡れを払うように柄を回転させる。見事な槍捌きを見せるのは壮年の達人ではない。まだ少女の面影すらある女性だった。
ルーシェ・F・アトラス。
強国、アトラス帝国の第四皇女。
豊かなブロンドを赤いリボンでポニーテールにまとめている姿は、前述の容姿と相まって愛らしくさえ見える。しかし彼女こそ、アトラス帝国の『姫将軍』として知られる傑物なのである。
本来なら重装で守られるべきはずの肌は、大胆にも露出されている。細い鎖骨の浮くデコルテ、切れ長のヘソが見える腹部。下半身を覆うのはビキニスタイルのボトムスとニーハイブーツで、内腿のラインが艶かしい。
槍を好んで得物にする彼女は、動きやすさを装備の信条としている。ゆえに、市井の女戦士のような軽具で戦いに臨んでいるのだ。
「こんなところで足止めされてる場合じゃないんだけど……」
ルーシェはぽつりと呟いた。彼女には先を急ぐ理由があるのだ。
女武芸者の連続誘拐事件。昨今の帝都を騒がしている出来事である。すでに行方不明者の数は相当に昇っているが、その足取りは杳として掴めない。
捜査の差配や指揮をするのが上に立つ者の仕事かもしれないが……。ルーシェはそれを良しとしない。最前線に赴き、皆を引っ張っていくのが彼女の流儀であった。
とある村に誘拐犯の一団と思しき者たちが現れたと聞いたルーシェは、そこに向かうとすぐさま決めた。しかし帝都からの移動に数日を要する。初めて聞いた手がかりである。ルーシェは一刻も惜しかった。
その村への近道がある。彼女はそれをふと思いだした。そうとなればルートはひとつだ。ルーシェは茂る木々の間に切りこんでいった。
彼女の記憶は正しく、確かにそれは近道だった。しかし楽なだけの道などないもの。もうすぐ目的の村だというところで、ルーシェは魔物の群れと遭遇した。
大ナメクジ、スラッグである。成人男性の手のひらと同じくらいサイズの魔物たちが、ルーシェの前に立ちはだかった。
だが連中はいわゆるザコだ。ルーシェもまるで雑草を刈るようにスラッグを薙いでいく。
ただいかんせん数が多すぎる。自覚なきまま、ルーシェには疲労が蓄積されていった。ミスはそんなときに起きるもの……。刃雨をすり抜けたスラッグが一匹、ルーシェの足元に迫っていた。
ぬるぅ……。
「え!? きゃあ!」
ブーツ越しに何かが這う感触がした。何かとは言うまでもなく、スラッグである。
ルーシェの隙を突き、ついに一体が彼女の身にへばりついたのだった。
「この……っ、離れなさい!」
いかに槍術の達人といえど、自分の脚を刺さずに刃先を突き立てる自信はない。ルーシェは愛槍から手を一旦離し、スラッグの胴体を掴もうとした。
巨大ナメクジの体長は、ふてぶてしくも20cmにも及ぶ。そしてその身体を覆う粘液。ぬるぬるとしたそれは触れたものを容易に滑らせる。このふたつはスラッグの捕獲を難しくした。
相手はナメクジ。胴体に入った二本線や、ひょろひょろと宙をさまよう触覚が薄気味悪い。手袋越しとはいえルーシェは嫌悪感を覚えざるを得ない。
物体的にも精神的にも、スラッグの排除は進みづらいのだった。
「く……! ぅ、うぅ……っ!」
脚にまとわりつくスラッグを掴み、投げすてる。しかしルーシェが一匹のスラッグを処理する間に、二匹のスラッグが肢体を登り、三匹のスラッグが足元まで進んでくるのだ。
やがてその内の一匹がニーハイブーツの境を超え、ルーシェの太ももに頭を置いた。
「ひぁっ……」
粘液の冷たさとぬめりに思わず喉が絞られる。彼女はついに愛槍を放り、両手でスラッグを引きはがしはじめた。
だが彼女のこの判断は、残念ながら遅きに失した。
「きゃ……!」
彼女の背後を取っていたスラッグがひかがみに体重をかけた。膝を折られたルーシェはバランスを崩し、地面に膝と手をつく。慌てて立ちあがろうとするも、ナメクジ共はそれを許さない。
「あっ、こ、こら!」
この瞬間を待っていたとでも言うのだろうか。ルーシェの手の上に、ぽってりと肥えたスラッグが乗った。
ルーシェの槍は力任せのものではない。その細腕は華奢とも形容できるほどだ。見事な操槍はひとえに、彼女の技術によるものである。だから、スラッグ程度の重さでも抵抗を鈍らせるのには十分だった。
ルーシェが転倒しても、スラッグの進行は中断されない。粘液にまみれた身体はガラス面すら登破できる。やがて一体が、目的の場所に辿りついた。
ず、ずず……。
「あぁ……、あっ!」
スラッグがルーシェの双臀を這いずった。ビキニのボトムス越しとはいえ、その衝撃は過大である。その身にまとう粘液と相まり、巨怪な生物の大舌で舐められたようだ。
そして脳裏に浮かぶ、ナメクジの下賎な姿……。自分の下半身にそれが蠢いているところを想像し、ルーシェの背が粟立つ。
スラッグの辿った路は一目瞭然である。光る粘液がしっかりと残されているからだ。まるでルーシェの肢体にマーキングをしたかのようだった。
「や、やめ……! ぅうっ!」
アトラス帝国の第四皇女たるルーシェは紛れもない貴人である。その尻を撫でたとあっては、下手人は手だけでなく首も切り落とされかねない。
だがヒトよりもっと下賎なナメクジが、彼女の美尻を全身で堪能しているのだ。そしてなんの咎を受けることなく、悠々とその身を擦り続けている……。
「あぁぁ……! い、いい加減に、やめ……っ、うぁぁ!?」
スラッグの一匹がぐるりとルーシェの手首に巻きついている。まるで枷のようである。それが見事に彼女の抵抗を阻止した。ルーシェが今できる精いっぱいの抗議は、艶やかな金のポニーテールを振りまわすことくらいだ。
ずるりっ……!
「ひぁ……っ! あぁっ!」
下劣な軟体生物はついに、ボトムスの内側にまで蝕指を伸ばした。白尻に直接、粘液が塗りこめられていく。だがスラッグの狙いはそれで終わりではない。
「あぅぅっ!? な、なに……ッ!!?」
ひょろりと飛びだした触覚。それがルーシェのアヌスをかすった。そう。この大ナメクジ、スラッグは女性の身体に寄生するのだ。侵入経路は消化器官の最端、肛門からである。
とてつもない汚辱の予感に、ルーシェの背が震えた。魔物……それもナメクジ型という生理的嫌悪感をもたらす輩に、自分でもよく見たことのない不浄の穴を穿たれるのだ。
「やめなさいっ! やめて!」
ルーシェは怒声をあげる。屈強な軍人をも震えあがらせるカリスマを伴った声。しかしヒトではない、ナメクジたるスラッグには通用しない。なにより彼女は今、野生の世界では無抵抗を示すに等しい四つん這いの姿なのだ。そんな相手の言うことなど、どんな生き物が従うだろうか?
スラッグに備わった本能は生存のためか、はたまた女を狂わすためなのか。とにかくそれに従って、美尻にとりついたナメクジは行動を開始した。
つぷっ……。
「ひ、ひぁぁっ!」
アヌスに冷たいものが触れた。言うまでもなくそれは、スラッグの粘液である。ナメクジは円を描くような軌道で頭部を桃孔に擦りつける。己の全身から分泌されるねとついた体液を、秘密の穴に行き渡らせているのだ。
「あぁ! あはぁ! あぁぁ……!」
菊門を丹念に舐められているような感覚。そこに紛れもない快楽が潜んでいることルーシェは驚いた。そこを使ったことなど、自慰も含めてないはずなのに……。
高貴な女はだいたい後ろの穴が弱い。とある本の一節である。
口さがない仲間が、ルーシェもそうなの? と聞いてきたことがある。彼女はすぐさま否定したのだが……。ルーシェの背を炙り胎内を揺るがすのは、肛門姦がもたらす淫悦だった。
しかし彼女の心情は「気持ちいい」だけで終わるものではない。
――ダメッ、ダメ……! き、寄生される……ッ!!――
自分の身体に蟲が入りこむ。その嫌悪感と忌避感は筆舌に尽くしがたい。貴人としての立場などではない。女性として、なにより人間として、己が蟲の喰い物になるなど承服できなかった。
しかしそんな甘い願望など、砂糖菓子のように打ち砕かれてしまう。
まずは頭が挿入った。入念にねぶられた後孔はもはや、門の役割を果たさなかった。そして粘液をまとう太胴がずるり、ずるりと進んでいき……。
「あッ、あぁ……ッ! かはっ! あ、あぁぁぁ……!」
広げられたアヌスが急にすぼまった。ルーシェはいやでも理解してしまう。スラッグの細くなっている、尾に該当する部分までもが体内に入ったのだ。それはすなわち……。
――う、ウソ……。寄生された……!――
ナメクジが完全に体内に入りこんだ。自分の直腸が、スラッグの新たな住居となったのだ。
スラッグの生態に対する知識はルーシェも持っている。だが彼らに寄生されたら、果たしてどんな淫責を課されるのか? そこまでは知らない。
ただ絶対に、ロクなことにはなるまい……。茫とした意識の中、そんな確信がルーシェの頭を支配していた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……、……ッ!!、あ、あぁッ!?」
ルーシェは放心しながらも、荒い呼吸だけは続けていた。それが急停止する。彼女の身に新たな淫厄が振りかかった証左だ。
二匹目のスラッグが、ルーシェの尻穴にまた潜りこもうとしていた。
「だめ……っ! だめ、だめぇっ!」
ルーシェの声には慄きが含まれていた。一匹に寄生されただけでも甚大な衝撃を受けたのだ。これが二匹となると……。どうなるのかもはや想像もできない。
だが彼女の心など慮る必要などないとばかりに、二匹目がルーシェの尻割れに乗った。一匹目と変わらぬ滑感と重量感……。ルーシェの喉が引きつる。
「ふぅ……っ! う、うぅぅ……!」
ルーシェはアヌスに力をこめる。しかし念入りにふやかされ、すでに一度は拓かれた門道である。スラッグが頭を挿しいれると容易に広がってしまう。彼女の健気な抗いをあざ笑うかのようだった。
ぬぬぅ……。
アナルが拡張される感覚。お腹を内側から圧される感覚……。止めようがない脂汗がルーシェの額に前髪を張りつかせた。
ひたすら耐えるルーシェだったが、予期せぬ淫悶が彼女を新たに襲った。
「うぁッ!? あ、あぁぁッ!!?」
スラッグの潜行に対して強烈な抵抗が生まれたのだ。ルーシェの括約筋が働いたのではない。力の主は、先に寄生したスラッグだ。
上質なねぐらを確保した一匹目は競合相手の存在を良しとしなかった。なんとか追いかえそうと、ルーシェの直腸で踏ん張ったのだ。
だが簡単には諦められないのが二匹目だ。押す力と分泌する粘液を増して、魅力的なアヌスになんとか潜りこもうとする。
たまったものではないのが、この身体の正当な持ち主であるルーシェだった。
「あぁぁぁ……っ! やめて! やめぇ……ッ あっ、あはぁッ!」
貴き皇女が下賎な生物に哀訴する。しかもその体勢は、屈辱を惹起させる四つん這いである。まるで四足獣のように吠えるも、それはまさに負け犬の遠吠えである。腸内に居座る一匹目も、尻に陣取る二匹目も、ルーシェの言葉など完全に無視している。
ぬるるっ……!
体外にいたスラッグが急激に入りこんだ。尻穴と直腸を一気に広げられ、ルーシェの呼吸が止まる。
協定でも結んだのだろうか? それともルーシェのアヌスが開発されたのだろうか? 事実は不明であるが、とにかくルーシェの身体は二体分のスラッグを受けいれたのだ。
「はぁぁぁ……、あ、あぁぁ、あぅ……」
ルーシェは快楽が溶けた息を吐く。しかし二匹のナメクジに寄生されてしまった事実は、毫も揺らぐことはない。
二匹目の寄生が完了すると、周りのスラッグたちは急に撤退をはじめた。
この獲物に潜りこめるのは現時点ではせいぜい二匹までだと、本能的に知っているのだろうか? 野生生物は益体のない狩りをしないものなのである。ルーシェの涙滴でぼやけた視界が、スラッグたちの遅鈍な行動を見送っていた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
最後のスラッグが茂みに姿を消して少しの時間が経ったあと、ルーシェはようやく身を起こした。
ナメクジたちの身体で地面に縫いつけられていた手のひらと膝が少し痛む。だがこの程度など、彼女にとっては傷のうちに入らない。
「うぅ……っ!?」
懸念となるのは寄生した二匹のスラッグだ。お腹に感じるずっしりと重さは決して気のせいなどではない。彼女のスレンダーな下腹部も心なしかぽっこりと膨れている。
ルーシェは考える。帝都に帰還すべきだろうか? 城下町には寄生したスラッグを殺す駆虫薬が売られているはずだ。だが……。
誘拐事件の捜査をこんなことで遅らせて良いものだろうか? そうとも考えた。せっかく手にいれた情報。その鮮度が失われてしまうことをルーシェは恐れた。
それになにより今もまた、新たな被害者が出ているかもしれないのだ。ルーシェの心は決まった。
「い……行かないと……」
ルーシェを突き動かすのは使命感。彼女はもはやそれのみで前進しようとしていた。
一方、彼女の腹内に収まったナメクジたちは不気味な沈黙を貫いていた……。
〈了〉