いわゆるエロステータス鑑定を何故か現代で持たされた学生の話 作:オキフの謳
「さて、どうするか……」
それからしばらく。
現在位置、◯◯町◯◯-◯-◯。
推定界外さんの監禁されていると思しき2階建て民家の前。
住宅街というロケーション、夕飯時より数時間後、というのを差し引いても不自然なほどに周辺に人通りがなく、また住宅に灯りはあっても人の気配が感じ取れない。
つまり、まごうことなきシナリオ影響下の状況であると思われる。
さて、ここで現代ファンタジーのエロゲーのシナリオ(かつ、触手が存在する)について考えよう。
退魔モノ、魔法少女モノ、戦隊モノ。いずれの場合においても、プレイヤーには負ける余地が存在する。場合によっては負ける余地しか存在しない。そして負けた場合の扱いが問題である。エロシーンが発生するのは諦めてもらうとして、事後に放り出されるのであればまぁいいだろう。自力で脱出する必要がある、もしくは救出を待つ必要がある場合も、あまり良くは無いが……まぁいいだろう。
問題はバッドエンドに突入する場合である。おお、プレイヤーよ、死んでしまうとは情けない。そんな救済装置が存在しない、一本道のバッドエンドシナリオなど最悪極まる。そしてそのバッドエンドの規模も問題である。個人の破滅程度であれば、まだ良い……いや本人にとっては良くないだろうが。例えば街が占領されて、治安が世紀末以下になるとか。もっと広く世界が占領されて、人類は皆奴隷になりましたなんてバットエンドもある。
俺が危惧しているのは、そういうパターンである。
そんなパターンから、被害者を救出できれば一発でシナリオが破綻すること受け合い。
そうでなくても、被害者を救出できれば、それはそれで意味のあることだ。
ただ、実行上の問題はやはり存在する。
想像していただきたい。ヒロインがこれから陵辱されようと言う状態で、居合わせた男子学生の扱いを。一番怖いのがべしっと言う音とともに画像が消えることである。つまり死ぬ。
だが、放置して、シナリオがバットエンドに突入し、人類総奴隷、そんな事態はまっぴらごめんであるし、悔やんでも悔やみ切れないだろう。
加えて、シナリオに起用された人には、少しも乗り気じゃない人の場合、文字通りシナリオを再生するかのごとくそれに沿って動くだけで融通というものが一切存在しないだろうという推測が立っている。思い出してほしい、最初の推定NTRエロゲのとき、北林が古谷をどうやって脅したかを。であるならば、今回の事態は加害者がそのようなシナリオの人形状態、もしくはシナリオによって発生した「現象」でしかないとも推測が立つ。
なぜならば……
《鑑定結果》
・名前:界外 祐子
・性別:女
・T/3サイズ:145/84:56:80
・非処女 初体験:田代 祐三
・総性経験値:37218
・状態異常:疲労(重度)
・行為歴
1分前:触手拘束三穴触手挿入:-:◯◯町◯◯-◯-◯
なぜならば、行為歴の「誰と」の項目が常に「-」、つまるところ相手がいない場合の表記だからだ。
いわゆるオナニーとか露出プレイの場合もこの表記になるが、さすがに疲労の限界を超えて勤しんでるとは思いたくない。
というわけで、別に隠密とか潜入に長けているわけでもない俺でもなんとかなるだろう、との予測が立つ。
ゲーム的に考えれば、RPG等のマップで、ランダムエンカウント然りシンボルエンカウント然り、プレイヤーではないイベントの設定されていないキャラ*1を一人配置しても、状況に変化はないし、そのキャラも特に襲われるわけでもない。しかし現実は現実、俺が何か干渉を起こせばそれはきちんと影響があるし、逆に何か爆発でもおきればきちんと巻き込まれることだろう。その点については重々注意を払っておかねばならない。
深呼吸を一つ。
では、いざゆかん――
「それはお勧めできません」
民家の玄関のドアノブに手を掛けようとしたとき、不意に、後ろから声をかけられた。
ぎょっとして急いで振り返るとそこには……わお。
そこには、いわゆる魔法少女とマスコットがいた。
そっか、魔法少女モノかぁ……いやまて、こっちを認識できてるな。この人乗り気なのか?
「繰り返しますが、お勧めできません。その先は危険です」
魔法少女に変身すると、元の本人と容姿はかけ離れたものになるパターンが多い。
金髪碧眼色白、大きな本を持っているので魔女モチーフも混ざっているのか、白と紫を基調にしたローブっぽいながらも中々に露出度の高い、片足など完全に出ている衣装に大きな三角帽。隣りにいるマスコットは、なんと言えばいいのか、犬だか猫だかよくわからない感じのオレンジ色の2頭身。*2
「あなたは?」
「あ……アルカヌスリーベル。好きに呼んでください。アルカヌス、もしくはアルケインが呼びやすいかと」
……やば、何語だ?
「ともかく、その先は危険です。入らないほうが良いです」
「……といわれても。ここに、知り合いの知り合いが監禁されているようなので」
「……、私が言うのも非常にアレだと理解していますが、そういうのは警察に任せるべきでは?」
ほんとにな。
んー、これは、例の触手とかそういうのに、現代兵器を含む物理干渉が効果が薄いとかのタイプかな?
まあそれ以前に、自分が助けに行くべきところに無関係の男が突入しようとしていればそうもなるか。
「そう言われても、警察が役に立たない可能性がありまして。それなら、こっそり行ってこっそり助け出して帰って来るしか無い、と」
「……」
アルケインは考え込んでいるようだ。
が、そこで横のマスコットが動く。
「反対だぽん! コイツ、すっげー怪しいぽん! 触手の人払いがちっとも効いていないぽん! 絶対に何かあるぽん!」
何に反対しているのやら。しかし、何かあるは正解である。
シナリオ効果にも名称がついたらしい。人払いか……こんな住宅街ではた迷惑な。
「では、なぜあなたはこちらへ?」
「決まってるぽん! 触手をぶっこr「あなたは黙っていてください」ぐぎゅっ!?」
何事か声高に言い始めたマスコットをきゅっと握って黙らせ、アルケインはこちらを向く。
「ここに捕まっている方は私が助け出します。あなたは避難するか、最悪でもここで待っていてください」
と、そう言ってそのまま玄関のドアを開けて入っていってしまった。*3
「……と、言われてもな」
そう言われてそうですかと帰っては子どものお使いと揶揄されるレベルであろう。
今回が魔法少女モノと判明したのはいいが、結局あの人がどれだけ強いのかわからないし、もしくは強制負けイベのバッドルートしかない奴、とかだとこちらにもなんらかの被害が来るであろう。
というわけで。
「おじゃましまーす……」*4
と、不法侵入する。
早速、アルケインは触手、触手でいいのか? 触手的な何かと対峙していた。
「魔力よ集え、光の矢となりて敵を撃て! ライトアロー!」
ビシュン!
光芒一閃、触手がなにかに貫かれて悶え蠢き、そのままボロボロと崩れていく。
「よし!」
詠唱に必要だったのであろう、あの重たそうな本をぱたんと閉じて、家の奥へと進んでいく。
とりあえず1階を調べるようだが、俺が先行してもあまり意味がないと思われるので玄関の靴箱の影で待機。1階を見て回り触手との対峙も追加で2回ほど。それからアルケインが上に上がっていくのを待って、俺も追いかける。
触手なんていうどうあがいても人間を配役として配置できない存在である以上、シナリオ外の存在である俺に反応してくるとは思えないのは少し前に考察したばかりだが、さすがに確証が持てないので今はアルケインに任せよう。
一番奥の大きめの部屋にアルケインが入るのを見て、俺も追いかける。
「なんてことを……!」
見事な汚部屋の奥のベッドで、蠢く触手にまとわりつかれている女性が1人。界外さんだろうか?
そりゃ当然怒りに燃えるアルケインだろうが、あのマスコットがビビり散らかしている。
「待つんだぽん! 今の力じゃあいつには太刀打ちできないぽん!?」
「関係ありません! 魔力よ集え、光の矢となりて敵を撃て! ライトアロー!」
激昂している模様で、マスコットから警告が入るがそれを気にせず攻撃を放った。
が、先程までのように貫通することも崩れていくこともなく、触手……確か触魔ヴァディウムとやらは界外さんを放りだしてアルケインに襲いかかる。
「くぅっ!?」
横薙ぎに振るわれた触手で、相当の威力がありそうなものだが、のけぞって回避、あるいは当たりそうなものを腕で弾いていた。
……どうやらもととなったエロゲーはRPGかアクションのようだ。同人誌、もしくはCG集だと、仮説上は一定の動きしかできないが、RPGやアクションの場合はAIやらパターンによる行動を繰り返すので、戦闘として成立しているならばこっちなのだろう。
さて、ここで俺が何もしないわけにも行かない。そっと、汚部屋の壁際を通り、ベッドのそばへ。触魔ヴァディウムはこちらを無視している*5ので、界外さんを抱き起こして担ぎ上げる。
……粘液塗れでこちらにもべっちょり来ていて非常に不快感が強いが、界外さんの状態異常に発情などが何も無い以上、これは単なる不快な粘液であると断定できるので我慢するのみ。
「うぅ……だ、誰……?」
「もう少しだけ、辛抱してください」
それにしても軽いなこの人。
「魔力よ集え、光の矢となりて敵を撃て! ライトアロー!」
アルケインはもう一度攻撃を仕掛けるものの、まるで効いているようには見えない。
「だめだぽん! 触手のボスは、魔法を通さない結界を纏っているぽん! だから修行して結界破壊の道具を作ってからって言ったぽん!」
マスコットがヒステリックに叫んでいる。
条件未達成による負けイベだったのだろうか……だが、今は違う*6
「アルケイン、界外さんを救出した。撤退できる」
「ぽぉん!? でも、ダメぽん、ドアが開かないぽん!」
「マジで!?」
ボス戦からは逃走できないというお約束か!? ……って、ドアノブを捻ってみれば普通に開くじゃないか。
「開くじゃん」
「ぽぉん!?」
大丈夫かこのマスコット。もしくは俺がシステム制御外だからだろうか?
「マスコット! あれは魔法を通さないのですね!? 魔力を通さないのではなく!」
そこにアルケインからマスコットへ質問が飛ぶ。その間も、触手の攻撃を捌き続けている。
「た、確かそうだぽん!」
「ならば! 魔力よ集え! 我が手足に宿りて武具となれ!」
「ぽぉん!? そんな魔法知らないぽん!」
「えぇ……」
最後は俺である。
アルケインの両手両足が輝き出すと、持っていたあの重そうな本をもうこれはいらんとばかりに放りだし*7、振り下ろされる触手に合わせて右の拳を、振り抜く!
ブヂィッ!
と、鈍い音がして触手が殴られた部分から弾けて吹き飛び宙を舞う。そして、その破片は床にべちゃりと落ちるとそう間をおかずボロボロと崩れていった。
「はーっ! やっぱ直接打撃っしょ! 魔法がダメなら直接魔力を流し込んでやればいいっしょ!」
そしてウキウキとしたアルケインの声。誰アレ、と突っ込むまもなく、見事な歩法で距離を詰めるとすんばらしい速度で両の拳が乱れ飛び、ちょっと痛いよぉ、なんて言いつつノリノリで触手にかかとが振り下ろされる。ひとしきり弱らせたと判断したのか、一歩下がって何事かを、おそらく魔力をチャージ、右の拳がひときわ輝き出すと、踏み出し、どんと床を踏みしめる音と共に強烈な正拳突きが触魔ヴァディウムのうねうねしている中心をぶっ叩き。
「――――!!」
悲鳴っぽい衝撃を周囲に撒いて、触魔ヴァディウムは消えていった。
「押忍!」
……なんつーか、文系清楚系魔法少女と思ってたんだけど、多分これ配役の段階で間違ってたんだろうなあ……。
そんな、見事な残心を決めているアルケインを見て、俺はそんな感想を抱くと同時に、ふと、気づく。
《鑑定結果》
・名前:中田 静枝
・性別:女
・T/3サイズ:169/94:62:86
・非処女 初体験:田代 祐三
・総性経験値:26154
「え、中田さん?」
「!?」
ガバっとアルケインがこちらを向く。容姿、特に色が変わっているが、確かに顔立ちは中田さんである。
「い、いえ、私はアルカヌスリーベルですので、そんな……」
「いや、顔一緒だし……」
「……」
ずかずかとマスコットに近づく中田さん。そしてマスコットを鷲掴みにする。
「ぽぉん!?」
「このクソマスコット! どういうことよ!? なーにが、親兄弟姉妹恋人だって見破れない認識阻害だぽん! よ!? 今日会ったばかりの人に見破られてるじゃん!」
「く、くる、し、い、今も認識阻害は有効だぽん……こ、こいつがおかしいんだぽん……」
割と見苦しい勢いで口論を続ける二人(?)をよそに、とりあえず俺は界外さんを介抱しよう。もしかしたら救急車とかを呼ぶべきなんだろうが、この状況をどう説明するかが思いつかなかったし、あるいは界外さんの惨状を衆目にさらす気にもなれなかった。