「……ッ…」
「痛むか」
「へい、き…です………ん、ん…」
大分慣れたとはいえ、堪えるよう顰められた眉と荒い息が苦しそうに止めている息を吐くように言う。
汗ばんだ額の髪を横に掻き分ければ、熱い息を吐きながらも何度も私の名を呼ぶ唇を音を立てるように吸った。
大丈夫だ、私達にはまだ、沢山の時間がある。
「声を抑えない方が楽だろう、安心なさい。決して酷くしない」
「で、は……ぁ、ッ…すこし……まっ、て…!」
「当然に。まい子が楽になるまで、辛さがなくなり気を遣れるまで幾らでも待とう」
「!! ……そ、そうで、は……な、ッぁ!」
身をよじり捻っていたその筋肉の薄い肌を、頬を撫で上げ、私の体格に見合う大きさの指を引き抜けば粘着質な水音が鳴る。
寝具の布地を必死に握り込みながらまい子はとろけそうな声色を上げた。生理的な涙が溶け込んだ吐息と共に、熱が名残惜しそうに伸縮する。
ああ……電気が走るような幸福感が身体を、心を満たしていく。
頬を伝い流れ落ちた涙がまい子の日に当たる事の無い白い肌の箇所に落ちた。
** 視えてる悲鳴嶼の視た全てのモノ **
先日の彼女からの"相談と解決の事件"から時は過ぎた。
私は心からの本心をあんな不本意なる連れ込み宿ではない場所で改めて彼女に告げ、そして彼女も私の手を取った。
世界には極々ありふれたそれ。そして……我らが足りなかった言葉ですら足りない心を合わせる為に、身体を重ね合わせるのは当たり前だった。
その弱き体の隅々まで堪能し、凹凸を合わせる為に形を柔らかく解きほぐすのも当然なる至福の時。
何度も何度も夢見たその光景を目に焼き付けようと、白い身体をベッドに縫いつけ見下ろし味わう。
小さな体の体内外の熱を感じ、何度も何度も糸を引く程抜き差しし、涙混じりに懇願させども拒絶しない範囲でとろけさせるよう全力を尽くした。
汗ばむ熱いまい子の白い指が私の身体を這い、縋るように掴む。
あの影にもう、怯えずにすむと。
影を見た時、私は震えた。勿論恐怖でもなければ怯えでもない。
愕然。
私にはまい子の言う黒い影は見えなかった。彼女の言う鋭い口も、目も視えなかった。
それは人だった。霊を視る力を持たないまい子には黒い影にしか視えなくとも、私にはその姿形は明瞭に視えていた。
二つの目。一つの口。大きな一つの、額を走る傷。人間の姿。
見慣れた、姿。
私だった。
そして理解する。黒い影は、まい子を怯えさせていた存在は、私が作り出した"影"だったのだと。
愛しい、苦しい、会いたい、欲しい、手に入れたい。そう願う感情がいつしか呪いとなり、まい子を苦しめていたとしか思えなかった。
思えば影が出てきた時は。会えないと苦しんだ時や、何も力になれないと憎み、まい子の……身も心も、離れていかない確実な全てが欲しいと願った時だったのだろう。
私自身を祓う事など出来ない、私自身が欲しいと願ったそれを……私が大人しく手に入れるまで消えるとは思えなかった。
私の手をこぼれ遠くに行ってしまう彼女を見送るなど、頭でどれだけ思おうとも心が許していなかったのだから。
何故だか、記憶もないというのにもう二度と手離したくないと想う。そんな訳がないのに。
強情なる、今度こそと二度と離さぬよう望んだそれを手に入れるまで……私は。
だから、全てを理解して、決意した。
今だ。
私が、私の為に作り出した絶好の瞬間を生かすのは今しかない。
すまない。本当にすまない。だが私は、一度も嘘は吐いていない。
私は私じゃないとは言ってはいないし、今後何があろうとも言うつもりも無い。
あれをもう、現すつもりもない。苦しめるつもりも無い。
「あぁ、は……ちょっと、待っ…!ぎ、っ…あっ、っ………んんっっ!!」
彼女は、私の、だ。言葉だけではない、誰もが何の障害も無く認める立場なのだから。
そうすればこの煉瓦色は、永遠に、私のものだろう…?