梅雨も明けたというのに、連日の雨で気分も湿りがちになる、憂鬱な日々を送っていた大室圭司(おおむろけいし)。
「大室圭司さん少しお時間頂けますか?」
帰ろうとする圭司に、1人の女子大生が校舎の退場口の前で声を掛けた。
「ああぁ、それはいいけど、なに?」
女子大生から、いきなり声を掛けられた圭司は、怪訝な表情をみせながら驚き戸惑いを覚えたようだ。
どんよりと重い天候のせいなのか、少し不機嫌な雰囲気で応対してしまった圭司。
「ありがとうございます。私、教養学部の秋ノ宮真子です」
「そうなんだぁ。秋ノ宮さんね。丁寧なあいさつをありがとう」
「仲間から真子と呼ばれていますから、大室さんもそのようにお願いします」
「そうかぁ~。なら真子ね、それで用事は?」
「はい。私は大室さんのことをいつもグランドの隅から眺めさせていただき、いつもステキな方だなぁと思って・・・」
今まで圭司を見つづけてきた真子は、こんな事やあんな事があったと一気に話し、今日まで自分なりに考え、圭司に声を掛けた。
これが秋ノ宮真子と大室圭司の出会いだった。
外見からはそぐわぬ真子の強心臓。これも大室圭吾を慕う余りだったのだろう。
嬉しさと恥ずかしさが入り混じった複雑な想いで、圭司は少し冷たく返事した。
「それで何?」
「彼女ではなく、お友達として今日から付き合って欲しいです。・・・できれば、妹のようなフランクなお付き合いを・・・」
好きだけど・・・。
彼女ではなく、特別な女性としての立場を認めて欲しいと言う真子。
真子に特別目立つような可愛さはない。かといって派手さも無く、ごく普通の女子。
大人しい感じが真子の第一印象で、変わった事を言い出す面白い子だと圭司は思った。
驚いた顔をみせたが、丁寧に対応してくれた大室圭司。
少し冷たい言い方をする人だが、本心からでは無いような印象を受けた真子は少しも驚かなかった。
話はちゃんと聞いてくれるし、今まで見てきた通りの優しい人だった。
真子の唐突な呼びかけにも、真剣なまなざしと態度で接してくれた圭司。
「なら、真子は今日から特別な友達で、妹分だな」
「ええ、大室圭司さん。それでお願いします」
真子の事を何一つ知らない圭司は、色々なことを教えて欲しいと、その日は真子が差し出す傘に入れてもらい、2人で話ながら帰った。
圭司の肩が、小さい傘のせいで濡れていた事を気づいていたが、何も言えなかった真子。
このようにして、真子と圭司の交際は始められた。
交際が順調にスタートし日々が重なられていった。
そして、急にオトコらしくなった圭司。
「真子。大室圭司さんって、親しい彼女がいるんだよっ!知っているの?」
「勿論。知っているよ」
その、彼女の存在は真子の耳にも届いていた。
噂によれば、大室圭司は親しい彼女と肉体関係に陥り、交際していると学生間ではもっぱらだった。
「噂だと、私立の超有名な大学らしいよ。何でも一流企業のお嬢様だって」
「そうだよ。何回も圭司さんと彼女が連れ立って歩いているところ見かけたよ」
真子は何かを深慮するように重い口を開き、友達と話していた。
「それでいいの?彼女さんがいても」
「私は、大室圭司さんのカノジョでもないし、単なるガールフレンドだから・・・・・・」
「それじゃぁ~。日陰の女じゃない?」
「私はそれでお願いしますと、圭司さんに言って今まで仲良くしてもらっているの」
「ああぁぁ~。ワタシの友達は、先輩の愛人かぁ~」
「やだぁ~。愛人なんて、圭司さんに迷惑よ」
「ああぁぁ、真子は完全に愛人の発言だねぇ」
真子は友達から愛人、愛人と言われ、ののしられているようで複雑な心境だった。
確かに彼女がいる男性とつきあう真子。奥さんがいる男と付き合うようなもので、結婚していたら不倫のそしりは免れない。
つづく