真子を支えているのは大室圭司への愛。
家庭では真子も針の筵。
弟は未成年。妹は勉強に忙しい。
休まる日々は無い。文雄の冷たい反応が真子を混乱させていく。
「愛してるよ。日本の現状は・・・・・・」
電話の向こうで圭司が尋ねる。
わざわざ電話をかけてくるという事は、圭司も何かと苦境に立たされているのだろう。
「おかあさまの事で何かと少しね・・・・・・」
「そうだろうな・・・・・・俺と真子じゃ・・・。あまりにも身分がなぁ・・・・・・」
卒業を無事に果たしても、日本での就職は難しいだろう。
日本に帰りたくても、周囲がそれを快く迎えてはくれないだろう。
真子もまた苦境に立たされていた。
両親の許しをもらうのは至難の業。
真子の血縁関係も・・・はい、そうですかと素直には言えないだろう。
苦しい環境におかれている秋ノ宮真子と大室圭司。
2人の意地を貫こうとすれば、両親も頑なにならなけばならないだろう。
ふたりとも、もうすぐ30歳。
愛するがゆえに人並みに、圭司の子も欲しい真子。
私も、圭司がいるアメリカに行こうかしら?・・・
頭をよぎるのは、世間で噂になっているロイヤル・ファミリーのようす。
故郷を捨て異国の地に渡った男性。
それを可能にしたのは恵まれた財力と稀に見る世渡り上手。
憎まれながらも、敵が多かれば味方も多い。
これまでの真子は、いま苦難に立たされている恋愛を抜きにすれば、敷かれているレールの上をひたすらに歩いてきた女性。
雨中のなか、黒塗りの乗用車から裾が汚れぬように降りれば、決められた係の者が濡れぬようにと傘を差し出してくれる。
ニッコっと微笑み、会釈さえすれば、それは当たり前のこととして許されてきた。
アメリカでは圭司も就職が可能だろうし、真子も周囲を気にすることなく日々の暮らしをおくれる。
恋の逃避行も念頭におき、彼女は生活していた。
しかし、逃避行を決め込んで大室圭司(おおむろ けいし)のもとに飛び込めば、今までのようにはいかない。
雨が降れば、自分で傘をささねばならない。額の汗も自分で拭わなければならない。
そんな真子だったが一筋の光明が見えてきた。
明るいとまでは言えなくとも、微かには見える明かりだった。
「圭司さん・・・・・・」
「またせてね・・・・・・」
どうも圭司が帰国するみたいだ。
アメリカで就職先が見つかり、秋ノ宮真子(あきのみやまさこ)を迎えに来るのだろう。
またぞろ、世間がうるさくなるだろう。
それでも心無いものは、体のいい国外追放だと陰口をたたく者もいるだろう。
良し悪しにかかわらずとも、何かと非難の表向きに立たされる2人だった。
~完~