泣き虫のデビルマンはありふれた異世界で再起する 作:Hetzer愛好家
不動明。享年17。性格は泣き虫で優しい。特技、得意科目はなし。運動は苦手。特徴は心が異常に強いこと。あとは共感性が非常に強いこと。
サタンから悪魔の力を授けられ、現在進行形で異世界へ移動している男のプロフィールを纏めるとこんな感じだ。悪魔の力がなければ、彼は自分自身のことを間違いなく価値のない無個性な人間だと卑下するだろう。
見ず知らずの生物にいきなり“神”の討伐を頼まれても一切疑わず、挙げ句の果てに自身が悪魔と合体したと告げられても文句を言わないところから彼の人の良さが滲み出ている。
異世界への移動を終えた明の目の前に、最初に広がるのは巨大な壁画だ。縦横十メートルはありそうなその壁画には、後光を背負い長い金髪を靡かせうっすらと微笑む中性的な顔立ちの人物が描かれていた。
興味をすぐになくした明は、次に自分の周囲を見渡す。どうやら巨大な広間に立っているらしいと気がついた明はさらに注意深く周囲を見る。
素材は大理石だろうか? 美しい光沢を放つ滑らかな白い石造りの建築物のようで、これまた美しい彫刻が彫られた巨大な柱に支えられ、天井はドーム状になっている。大聖堂という言葉が自然と湧き上がるような荘厳な雰囲気の広間である。
その最奥にある台座のような場所の上に居るらしいと察した明は、次にもっと視野を狭めていく。さっきから彼の耳には他の人間の声が入ってきていた。
「いったた。ここはどこだろう……?」
すぐ近くに座り込んでいた男子が明の姿を目にし、立ち上がろうとした姿勢のまま固まった。
「き、君は? 見かけない顔だけど……」
目つきが鋭いからだろう。おっかなびっくりと言った様子で明に話しかけた。
ジッと明は男子を見る。平々凡々な姿形であり、彼の知る“人間”という生き物であると分かった明は幾分目尻を下げて手を差し出した。
「不動明だ。よろしくな」
「う、うん。よろしく?」
完全に立ち上がった男子は辺りを見渡して愕然とした。表情筋の忙しい奴だなと秘かに思った明を一切無視して周囲を眺め、そして1人の少女の姿を認めると分かりやすく安堵の表情を浮かべた。
「どうやら俺たちは別世界に来ちまったらしい。見ろ、あんな姿をした人間は見たことないだろ?」
男子の肩を叩いて指を指した明。その先には、彼らを取り囲むようにしている30ほどの人間が居た。皆一様に祈りを捧げるように跪き、両手を胸の前で組んだ格好なのが不気味である。
彼等は白地に金の刺繍がなされた法衣のようなものを纏まとい、傍らに錫杖のような物を置いている。その錫杖は先端が扇状に広がっており、円環の代わりに円盤が数枚吊り下げられていた。
その内の1人、法衣集団の中でも特に豪奢ごうしゃで煌きらびやかな衣装を纏い、高さ30センチ位ありそうなこれまた細かい意匠の凝らされた烏帽子えぼしのような物を被っている70代くらいの老人が進み出てきた。
もっとも、老人と表現するには纏う覇気が強すぎる。顔に刻まれた皺しわや老熟した目がなければ50代と言っても通るかもしれない。
そんな彼は手に持った錫杖をシャラシャラと鳴らしながら、外見によく合う深みのある落ち着いた声音でハジメ達に話しかけた。
「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」
何か胡散臭さを感じた明は老人から目を離し、また男子の肩を叩く。ビクッと反応した男子だが、それに構わず明は尋ねた。
「名前を聞いてなかったが、何というんだ?」
「え、ああ……南雲ハジメだよ」
「ならハジメ。あの老人についてどう思う?」
ハジメの同胞のリーダーだと思われる人物が混乱マックスの他の人間を。諫めている中、明だけは冷静にハジメに対して質問を投げかけた。
ハジメもまた、比較的冷静だったこともあって質問に答える余裕がある。チラリと先ほど喋った老人を目にしてから口を開いた。
「怪しいよね。胡散臭いというか……」
「そう思うか、お前も」
ハジメは明と同じで、マンガや小説をこよなく愛するオタクである。異世界転生だとか、胡散臭い老人にはすぐに気がつけるだけの知識を持っているのだ。
同時にハジメは明に対しても疑惑の念を向けていたが、それ以上にイシュタルと名乗った老人の方が怪しく感じた。少なくとも明は害を及ぼさないと彼は判断したのである。
ハジメの同胞、すなわちクラスメイトの落ち着きが取り戻すまでまだ時間が必要。そう考えたハジメは逆に質問をすることにした。
「ねえ、不動くんって僕たちとは違う学校に通ってたの?」
探るような目つきのハジメだが、明は特に気にしない。「そうだな」と答えると、追加で自身が必要だと感じた情報を話す。
「違う学校に通ってたからお前たちと会うのは初めてだ。何で俺までこうしてこの場に立っているのかは知らないけどな」
ウソである。本当はどうやってこの異世界にやって来たまで説明できる。しかし明はそれをしなかった。
大魔神サタンだの、神殺しだの。ハジメはきっと信じないと彼は思ったのだ。だから話さなかった。偶然を装った方が良いと咄嗟に判断し、それっぽい話を混ぜたのである。
堂々としている明を見たハジメはひとまず納得し、ようやく落ち着いて移動を始めたクラスメイトの後を追いかける。それに明も続いた。
明が通り過ぎた後を追いかけようとした聖教会の人間は、何故か身震いが止まらなくなった。ある者は倒れ、またある者は嘔吐する。
そんな中、感受性の強い者がポツリと零した。
「あれは悪魔だ」
と。
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「ああ……腹減ったな」
勇者降臨の歓迎という名目で行われた晩餐会でたらふく食べたというのにそんなことを嘆く明。現在は割り当てられた部屋のベッドにダイブしてうつ伏せに寝転がっている。
悪魔という強力な魔物を人間の身体に抑え込み、制御しようとするならそれ相応にエネルギーが必要だ。少なくとも米8合は必須である。
イシュタルが何故ハジメたちを召喚したのかを説明している間を食べまくっていたので、良くも悪くも有名人になった明だが、当の本人は気にせず「満たされねえ」とぼやいていた。
もちろんただ食べていた訳ではなく、イシュタルが話す『この世界の危機』についてもしっかりと耳に入れていた。
この世界には人間族、魔人族、亜人族の3つの種族が存在しており、このうちの人間族と魔人族が長年戦争をして領土の奪い合いをしている。人間族は数が多く、魔人族は個々の力が強いというパワーバランスで上手く釣り合っており、ここ100年は大きな戦争もなかったらしい。
しかし、最近になって魔人族は魔物を使役できるようになった。魔物というのはこの世界において重要な“魔法”を何の制限もなしに使える凶悪な野生動物だ。こいつを次々と使役しているらしく、人間族のアドバンテージであった数の多さが覆されたようだ。
だから人類は滅びの危機に瀕している。そこまで明は聞いた。
それ以外にも宗教のことだとか、被差別種族の話があるにはあったのだが……当の明はそれ以上聞く耳を持たずにただ食事をしていた。
「まあ、俺の目的は決まってるから良いか。ハジメたちを召喚したエヒトとやらを殺せば目的は達成できるらしいからな……」
明日には麓の【ハイリヒ王国】に行くと聞いている明は早めに寝て英気を養おうと考え、仰向けに寝転がって目を閉じようとした。
だが、彼の耳に何かが急速に近づく音が聞こえてきた。悪魔と合体したことによって全身が隈無く強化されている明は、その音がただならぬ何かだと本能で感じ取り、上半身の服を脱ぎ捨て、部屋の窓から外へ出る。
窓の外には地面がない。いや、正確には存在しているが、地面は随分と下の方にあるので窓から飛び出ると自由落下する一方、と言うことだ。
明は背中に手を回し、折り畳まれていたコウモリのような翼をバサリと広げる。
――デビルウイング
月光を全て吸い取ってしまいそうなほどに黒く、そして深い色。バサリバサリとはためかせて明は大空へ上がった。
音がする方向を明が見れば、肉眼でもハッキリ確認できるぐらいに明るい何かが急速に降ってきている。目を細めて見ると、それは女の姿形をしているではないか。
「貴方が、我が主が危惧しているイレギュラーですか」
「お前は……?」
同高度になり、見つめ合う両者。明の目には、ビスクドールよりも美しい銀髪碧眼の女が映っていた。
白を基調としたドレス甲冑のようなものを纏っており、ノースリーブの膝下まであるワンピースのドレスに、腕と足、そして頭に金属製の防具を身に付け、腰から両サイドに金属プレートを吊るしている。おそらくは戦闘服だろう。
「ミカエルと申します。〝神の使徒〟として、主の盤上より不要な虫けらを排除します」
明とは対極的な銀翼がバサリと広げられた神々しく、見る者を魅了し惑わす恒星の如き輝きを放つ。
向けられた言葉を刃と受け取り、また神々からの宣戦布告だと捉えた明。獰猛な歯を剥き出しにして悍ましい笑みを浮かべる。口元は裂け、肌は褐色へと変色し、肩甲骨付近には手術の傷跡のような物が現れた。髪の毛もコウモリのような形へと変形していき、いよいよ人間らしさを失っていく。
爪が伸び、下半身は濃い体毛で覆われ、腕の一部が刃物のように飛び出し、先の尖った尻尾が生えたことで彼の変身は完了した。
「虫けらと言ったな……? ゴミ溜めに蠢く虫けらだと。ならば見るが良い、虫けらの底力を! ただの脆弱な虫けらだと侮ったその態度。必ずや後悔させてやる!」
地獄まで轟く悪魔の咆哮。草木は震え上がり、空飛ぶ鳥たちは地へ墜落し、地に立つ生物は恐れ戦き耳を塞ぐ。
デーモン族で屈指の実力者である“アモン”の力を人の身に宿し、暴れ狂う悪魔の支配を強靱な精神力で強引に抑え込むことに成功したその姿。乗っ取るはずの悪魔を逆に支配し、超人へと姿を変えた生きる処刑人。
別の世界で生誕し、そして活躍した不動明はこの姿を自らこう名乗った。
――デビルマン
「……その姿、何と禍々しいことでしょう。やはり主の支配するこの世界に、貴方のような虫けらは不要です」
「ならば消してみるが良い。貴様にその力があるならばなあ!」
明のデビルマンとしての初戦は、神が直々に送り込んだ刺客との壮絶な空中戦となった。
次回、神の使徒VSデビルマン。神の使徒の名前はデビルマンと対極にするため天使の名から取ることにしてます。