泣き虫のデビルマンはありふれた異世界で再起する 作:Hetzer愛好家
「う、ぬ……?」
「あら、目を覚ましたのですね」
サタンとの会話を終え、現実世界でも目を覚ました明は自身を見下ろす女性に気がついた。まだ寝惚けた視界ではあるが、彼の目には金髪の美少女が映っている。
軽く握り拳を作ってみると、特に痛みも違和感もないので身体は大体治癒したのだと結論づけた明は体を起こす。
そんな明を見る美少女の表情はどこかウットリとしている。体を拭くために全裸にしていたので、年頃の少女は色んなことを想像してしまっていた。
「……君は? 服装から見るに結構なところのお嬢さんだと思ってるのだが」
明の言葉通り、美少女の服装はかなり豪奢である。洋風の洒落たパーティーで着るようなドレスと、宝石らしき物が埋め込まれたティアラを身につけている。
彼の予想はある意味正しいが、実際は彼の予想を遥かに超える家柄のお嬢さんだ。
「私はリリアーナ・S・B・ハイリヒです。ハイリヒ王国の現当主であるエリヒド・ハイリヒの娘。すなわち王女ですわ」
恭しく頭を下げるリリアーナに明は愕然とする。マンガや小説を読み漁っていた明からしたら、リアル王女様が目の前に居るだけでビックリ仰天だ。
そして名前の最後に付いていた“ハイリヒ”という単語。これは本来、使徒と殴り合った夜を越したら訪れる予定だったハイリヒ王国と一致している。とんでもない大物に看病してもらったのかと知った明は見るからに挙動不審になった。
「え、なんかごめん。じゃなくてごめんなさい。失礼な態度だ……でしたね」
「ふふ、気にしないでください。そんなに畏まらなくても大丈夫ですよ」
「いや、王女様でしょ? 流石に謝罪の1つでもしないと……」
「むしろ気を遣わないでほしいですね。勇者御一行様とはフレンドリーな関係で居たいんです」
勇者御一行様という言葉にピクリと反応する明。彼はまだ知らないが、あの戦いから既に1日以上が経過している。つまり、ハジメを含めた30人ぐらいの生徒はハイリヒ王国に到着している。そういうことだ。
自分が勇者御一行の1人だと思われていることには安堵しつつ、傷の治癒速度で怪しまれたのではないかと明は冷や汗を流す。
しかしその心配は杞憂であった。リリアーナは父から、勇者たちは強大な力を持っていると先に聞かされていた。看病した彼女も驚きはしたが、勇者御一行様の1人だから仕方ないと疑いもしなかったのである。
明の心配事を特に口に出すこともなく、リリアーナは「そうだ」と手を叩いて何かを取り出した。
彼女が取り出したのは銀のプレートである。12センチ×7センチ位とそこまで大きくなく、取り回しにも便利そうな代物だ。
さらに1本の針を取り出して明に手渡し、不思議そうに見つめる明に対して説明を始める。
「それはステータスプレートです。現在の自分の能力を客観的に数値化してくれます」
「ふむ。自分の能力を数値化して見られるのは便利だな。訓練も捗りそうだ」
「ステータスプレートの表面に魔法陣があるのは分かりますか? そこに自身の血を垂らしてください。それで起動します」
そのための針である。そう理解した明は早速自身の指に針を刺し、垂れた血をステータスプレートに擦りつけた。すると、魔法陣が一瞬淡く輝いた。
無事起動したと分かった明は自身のステータスを眺める。あまりに興味深そうに眺めているので、ついリリアーナも興味が湧いて後ろから覗き込んだ。
そして仰天した。彼のステータスはこんな感じである。
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不動明 17歳 男 レベル:1
天職:悪魔
筋力:300
体力:300
耐性:300
敏捷:400
魔力:200
魔耐:200
技能:変身・強靱・治癒力向上・生命力増強・言語理解
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まず目を引くのは天職だ。バカ正直に悪魔とされている。明は特に気にしていないが、リリアーナは天職を真っ先に見て腰が抜けるほど驚いた。しかし、彼女が驚いた理由はそれだけではない。
技能の少なさの割に素のステータスが異常に高いのだ。参考なまでに、勇者として召喚された少年のステータスはオール100である。また、この世界で最強とまで謳われる騎士団長が居るのだが、そんな彼はレベルが62で素のステータスが300前後だ。明はレベル1にして、既に騎士団長を“人間態で”勝っている。
現在表示されているステータスはあくまでも人間の不動明の物だ。変身したらどうなるのか。興味本位から明は技能欄の〝変身〟をタップした。
すると、
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アモン 17歳 男 レベル:1
天職:悪魔
筋力:30000
体力:30000
耐性:30000
敏捷:40000
魔力:20000
魔耐:20000
技能:超音波・聴覚強化・飛翔・熱放射・豪腕・豪脚・透視・腕刃・強靱・分子操作・念話・治癒力向上・生命力増強・言語理解
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「きゅう……」
化け物という言葉でも足りないぐらいに凄まじいステータスが表示され、リリアーナの脳の情報処理能力がオーバーヒート。そのまま目を回してしまった。あまりに気絶までが早く、名前欄が悪魔の名で表記されていたことを彼女は知らない。
一方、仰天しているのは明も同じであった。もっとも、彼は能力値の高さに驚いているのではない。自身の持つ能力の多さに驚いているのである。初陣で無意識に使った〝熱放射〟以外にも攻撃に使える能力が発覚して明はウキウキしている。ちなみに空を飛ぶために使った〝飛翔〟ですらも攻撃に使える。全身凶器なのだ。
自身の能力を完全に掌握できればもっと強くなれる。そう確信した明は元気よく立ち上がってその辺に落ちている服を着込み、そのまま部屋を出て行った。リリアーナは放置である。
彼が運び込まれたのはハイリヒ王国の宮殿であり、とんと道が分からない明だが、常人より性能の高い聴覚を筆頭に様々な能力を駆使してハジメを探す。ハジメさえ見つければどうにかなると踏んだという訳だ。猫背気味で歩く明とすれ違ったメイドは一瞬で意識を刈り取られているが、彼は気にせずに足を進めていく。
「お、見つけたぞ。そこか」
ブラブラと歩くうちにハジメの気配を見つけた明は嬉々としてその場所へ向かう。
……そして、視界に飛び込んできた映像に驚愕した。そして同時に握り拳を作った。
「ほら、なに寝てんだよ? 焦げるぞ~。ここに焼撃を望む――〝火球〟」
「ここに風撃を望む――〝風球〟」
「ちょ、マジ弱すぎ。南雲さぁ~、マジやる気あんの?」
ハジメが何人かの男子に囲まれてリンチされている情景。それを目にした明の怒りメーターは一瞬で振り切れた。
かつての明と重なるハジメの惨状。私利私欲のためだけに行われる無意味で理不尽な暴力。少なくとも10年近くはそんな扱いを受けてきた彼だからこそ、今現在ハジメが何を思っているのかが痛いほど分かる。
争いが苦手で、何か暴力なり暴言なりぶつけられた時は嵐が過ぎるまでひたすら耐え忍んでいた明だが、誰かのために涙を流せる彼の心はマグマの如く煮え上がっていた。
「お前ら、何やってるんだぁ――!」
あらん限りの声を上げながら地面を踏み込み、異常に低い姿勢でダッシュした明は勢いのままに1人の男子に激突。ハジメに風の塊をぶつけた男子を壁まで吹き飛ばした。
「え、明くん……?」
翌日になっていきなり行方不明になった明の姿を再び見たハジメの驚きは大きい。部屋には上半身の服のみが残されるという不可解な失踪だったため、何か良くないことがあったのではないかとハジメは心配していた。
まだ完全に信じた訳ではないが、それでも他のクラスメイトとは違って普通に接してくれる明が突然姿を消したとなれば、流石のハジメでも心配するし不安に思うのである。
「お、お前何をするんだ! 怪我しちまうだろうが!」
「ふざけた物言いも大概にしろ。逆に問うが、お前らが彼にやったことは怪我で済むか分からないことだろうに。それとも、1度体験しないと分からないということか?」
「こいつは弱いから俺らが鍛えてるんだよ! 部外者のお前が邪魔をするんじゃねえ!」
怒りからデビルマンに変わってしまうのを必死に抑えつつも、溢れ出る怒りまでは歯止めが利かずに明の表情が険しくなっていく。
獰猛な犬歯が剥き出しになり、瞳に殺意を宿した明の威圧感は凄まじい。ハジメをリンチしていたのは彼のクラスメイトである檜山、近藤、斎藤の3人組だが、小心者である3人は一瞬にして縮み上がった。
強烈なプレッシャーは物理的な枷となり、1歩も動けなくなった3人組に容赦なく近づく明。止めなければ死なない程度に3人組を殴ることだろう。
慌ててハジメは止めようとするが、先刻受けたダメージが響いて立つことも声も出せない。
「2度とその口を開けなくしてやる……!」
死なない程度だが、激昂させたからには半殺し以上が確定である。血が滲むほど拳を握る明の姿に、ハジメは薄らと悪魔を幻視する。
だが、ギリギリのタイミングで惨劇は回避された。1人の少女の声が響き渡ったのである。
「何やってるの!?」
声の主は白崎香織という人物だ。例に漏れずハジメのクラスメイトであり、その容姿と声から学校の女神として扱われている。異世界に転送された際に得た能力は〝治癒〟であり、彼女の役職はそのまま治癒師だ。
ちなみにそんな彼女はハジメに思いを寄せている。それが原因で檜山たちのような屑がハジメを醜く憎み、そして嫉妬しているのだが……。
「南雲くん、大丈夫!?」
一目散にハジメに駆け寄る香織を見た明は少し安心する。3人組とは違い、実直な心の持ち主だと悟ったのだ。しかし、安心したからと言っても怒りは全く晴れない。この隙に逃走しようとしていた3人組をギロリと睥睨し、文字通り硬直させてから改めて接近する。
だが、その拳が牙を剥くことはついぞなかった。凛とした声が追加で響き渡ったのである。
「貴方も一旦落ち着きなさい。その心持ちでは本当に殺生を犯すわよ」
声に違わず背筋をピンと伸ばした綺麗な立ち姿。それが、明が最初に感じた声の主の感想である。艶やかに光を反射する黒髪をポニーテールに纏め、キリッとした目つきを携えているのは八重樫雫という女子だ。やはり彼女もハジメのクラスメイトである。
香織と並んでも全く遜色のない外見の美しさと、逞しい顔に違わない騎士のような性格はハジメの通っていた学校でも大人気だ。香織と雫を纏めて女神と呼称する者も居る。
納得行かない様子の明だが、雫の声で少し頭が冷えた彼は拳を引っ込める。置き土産のようにもう1回3人組を睨み、そしてハジメの元へ足を運んだ。
「大丈夫か?」
「う、うん。白崎さんが回復させてくれたからね」
「そうか、それは良かった。さて……逃げようとしているそこの3人。今度同じことをしてみろ。次は俺が息の根を止めてやる」
足音で逃げようとしていることは筒抜け。そんなことは露知らず、3人組は顔を真っ青にしてその場から消えた。
そそくさと逃げ去る3人組を呆れた表情で見やる雫。香織はハジメに「いつもあんなことされているの?」と問い詰めている。相当にご立腹なのか、明は彼女の背に日本刀を構える般若を見た。
「はあ、全く懲りないわね……」
「君は奴らのことをよく知ってるのか?」
「知るも何も、アイツらはクラスメイトよ? 悪い意味で有名だし、そもそもクラスの男子が南雲くんの敵みたいなものだし」
ハァ、とため息を吐く雫。彼女の顔には目立たない皺が生まれ始めていた。
神の使徒を瞬殺するならこれぐらいのステータスは必要かな……なんて思ってます。正に悪魔的と言えるでしょう。