※この作品はR-18です。

DVにあっていた子を幸せにする話   作:匿名

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五話:彼女の悪夢は醒めるのか

「美春」

とりあえず、どうすればいいのかわからないままに声をかける。

「お父さん?」

彼女の怯え方は異常だった。

「違う。僕はお父さんじゃない」

否定して、近づいていく。

「あ……来ないでっ!」

彼女がそばに置いてあった時計を投げつけてくる。

「痛っ!」

そこそこの重量がある時計は、腕で受け止めたが、なかなかに痛かった。

「僕だ、美春!」

「なんで、いるの?私、だって、逃げたのに……っ」

彼女は自分がお父さんに見えているのか。

青ざめた顔、震える体。とても放っておいていいものではない。

「いやだ、いやだ、いやだ……!」

やがて彼女は気を失ってしまう。

「美春!ここにお父さんはいない1」

「こないで!」

彼女の蹴りが足に引っかかる。

「うあっ」

僕はあっさりとバランスを崩して、後ろに倒れる。

ゴンッ。

頭に衝撃が。

「み、はる……」

 

……めん……い……ご…んな……

 

誰か、いや、彼女しかいない。体を揺さぶってくれているのが分かる。

できれば、慰めてあげたい。美春のせいじゃないって言わないと。

美春のことを大切にするって言ったのに……このざまかよ。

…かっこわるいな。

やばい、意識が…

 

 

***

あの日も、こんな感じだった。

目の前に倒れた人影がぶれる。

お兄さん、お父さん。お兄さん、お父さん、…

「なんで逃げた」

二人の声が混ざったような声。

私は、お兄さんを見なきゃいけない。

せめて、頭ぐらいは冷やしておかないと。

「痛いなぁ……」

声が聞こえたと思ってお兄さんを見たら、

引きずっていたはずのそれはお父さんの体だった。

「ひっ!」

どこからか責める声が聞こえる。

「また、やったのか」

「お前は、傷つけた」

「お仕置きしてやる」

あっ!

あそこに指を無理やり入れられた記憶が脳裏に浮かぶ。

まるで、今やられているように、痛みがズキズキと存在を主張する。

やめて。やめて。

私は、お兄さんを。

お父さんの体と重なって見えるものをとにかく引きずる。

とりあえず、ソファーの上なら。

それで、頭、冷やさなきゃ…!

氷を袋に入れて、タオルで包んで、頭の下に…

ガンガンと、傷跡が痛む。全身が熱い。

「ごめんなさい!」

お父さん。

ごめんなさい。

お母さん。

ダメな子でごめんなさい。

お父さん。

お母さん。

私、どうすればいいの……?

「また、逃げればいいんじゃないか?」

いやだ、だって、お兄さんが。

「お父さんの時みたいに」

二度とやりたくない。

「ほら、言うことをきかなかったからだ」

…………本当に。

「最初から聞いておけばこの人も不幸にならなかったのにな」

…………………私はバカだ。

全身の痛み。頭を包丁で貫かれるような鋭い記憶のかけら。

やめて。やめて。なんでもするから。

ごめんなさい。ごめんなさい。…………

 

そうして、お父さんと、お母さんと、お兄さんと、

私が会った全部の人に謝り続けて、謝り続けて。

 

 

 

「全く、何に謝ってるんだ」

……お兄、さん。

 

***

 

目が覚めると、ソファーに寝かされていた。

「めんな……ごめ……」

そして、小声でぶつぶつとつぶやいている美春。

それは、多分僕を傷つけたことだけではない……

というのは、彼女の様子からもわかる。

なんというべきか。

考えて、考えて。口を開く。

 

……全く、何に謝ってるんだ

美春は、ゆっくりと頭を上げる。

涙を相当流していて、目が腫れぼったくなっている。

「お兄、さん」

「お父さんじゃないぞ」

「……そう、ですね……はい。」

「休め、今日はもう寝るんだ」

「出ていきます」

彼女は立ち上がるが、すぐに手をつかんだため、逃げられない。

「振りほどかないんだな」

「……今は、そんなこと」

「僕のこと、少しは信頼してる?」

「………………それは、もちろんです」

「美春がいなくなっちゃうと困るんだ」

「お兄さん……………」

やがて、力なく座りこむ。

「私、悪い子です」

「たくさん謝って、僕は許したんだから。僕に対しては悪い子じゃないでしょ?」

「……優しいですね」

彼女は乾いた笑いを見せる。

「私は」

 

***

 

悪い子です。

商社で働いている自慢のお父さん。

介護で人を助ける自慢のお母さん。

それで、猫の、マル。

幸せだった。私が塾に行っている時でした。

少しずつ、少しずつ、下がっていった成績。

お母さんは、いい人生を送って欲しいから成績を取りなさい。

そんな風に言っていた。それをお父さんがたしなめて。

少しピリピリしていて、でも、お父さんとお母さんと仲良く過ごすのが幸せで。

だから、ごめんなさい。

申し訳なかった。いっぱいお金がかかってるのよって。

私は、お金をどぶに捨てているんだって。

期待に応えたかった。応えたくて。

ある時、大喧嘩が起きて。お母さんがマルを連れて出ていった。

それからお母さんとは会っていない。

それで、お父さんがお酒を飲むようになって。

人を、死なせました。車が勝手に動いたって。

サイドブレーキがなんたかって言ってました。

よくわからないけど、お父さんは仕事に行かなくなって。

それから、……。

お父さんは何かに怯えて私に手をあげるのです。

だから、「大丈夫」って言うといつも怒って。

でも、大好きなお父さんだったから。

何度も大丈夫って言って。痛くても。

自慢のお父さんになって欲しくて、なんでもした。

お母さんの代わりに、家事もしたし、一緒に寝たりした。

痛いことを、嫌なことを、たくさんされても、やっぱり嫌いになれなくて。

それで、

 

「ごめん、もういいよ」

お兄さんが抱きしめてくる。

目の所が温かく湿った。

それで、初めて私は泣いているんだ、って気付いた。

***

 

彼女の言う事。

聞いていたけど。

「頑張ったんだね」

胸が温かく濡れていく。

目を閉じる。彼女の拙い言葉でも、

容易に想像させるだけの彼女の悲しい表情。

 

「ねぇ、お兄さん」

 

しばらく抱きしめていた。

 

彼女が僕から離れて、立ち上がる。

 

「ねぇ、私、悪い子だから、ね」

 

下着をするりと降ろす。

 

「お兄さんのお仕置き、いっぱいして」

 

片手でスカートをたくし上げて、

 

「お父さんのこと、お母さんのこと」

 

もう片方の手で僕の腕を取る。

 

「全部、お兄さんで忘れさせて?」

 

腕をゆっくりと彼女自身の大事な所へと導く。

 

「美春…………」

 

「お願い、お兄さん」

 

「私のお願い、……かなえて?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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