※この作品はR-18です。

サイバーパンクな忍者世界で不死身の剣士してます   作:ニゴリエース

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『Dead Human・Ⅱ』

 

 

 

「……ん?」

 

 いつの間にか、周りが真っ暗闇に包まれている。確か五車の里に向かう途中で小休止のため仮眠していたはずだったのだが、いつのまにか本格的に眠ってしまったらしい。しかしいくら真夜中でもこんな一寸先も見えないような闇が広がるようなことはない。

 

目だってしっかり開いているし目隠しをされているわけでもない。本来なら森の中にいたはずだが、左右見渡す限り闇以外何もない。幻術か何かでもかけられたか。

 

「はぁ、……まさか休憩中に敵襲受けて気づかないとか、疲れがたまってたのか?」

 

『いやいや、別に襲われたわけじゃないから心配しなくてもいいよ?私が君を呼んだだけだしね』

 

「……」

 

 今スゴく嫌な声が聞こえた気がした。20年以上前に聞いて以来、二度と聞くことはないと思っていた声がしたため、俺は顔を歪める。そして声が聞こえた方を見ると、予想通りの奴がニヤニヤ笑いながらこちらを眺めていた。

 

『そんな嫌な顔しなくても良いじゃない。せっかくこうしてまた会えたのに、ノリが悪いな~』

 

「俺は二度とあんたに会いたくなかったけどな“神様”」

 

 そいつは20年以上前、俺をこの世界に転生させたあの神様であった。物語を楽しむためとかふざけたことを抜かしてこの世界に放り込んだ張本人で、俺からしたらはた迷惑な存在そのものだ。まさかこうしてまた会うことになるなんて。

 

「どういうつもりだよ……あの時、あんたこっちには干渉しないって言ってなかったか?」

 

『“あまり”干渉はできないって言ったのさ。私はあくまで読み手だからね……基本的に私は何かと深い関わりを持つことはしない。読み手が登場する物語なんてナンセンスとも言ったしねそれにあの“吸血鬼”にこっちの存在を感じ取られるかもしれないからね』

 

「だったら今日はなんの用だ……あいにく俺はあんたと話をする気は無いんだが」

 

『なに、今日はちょっと君に確かめたいことがあってね』

 

 相も変わらず憎たらしい笑みを浮かべてこちらを眺めている。いったい何の用事があるというのか。

 

『君ってもしかしてドMなのかい?』

 

「喧嘩売りにきたのかてめえ」

 

 まさか開口一番に罵られるとかいったいどういうつもりなのか。もしかして暇すぎて俺をなじりに来ただけかこいつ……。

 

『いやいやだって君、随分と能力をセーブして戦ってるよね?もしかして前世でも自分から縛りプレイでゲームやってた感じ?自分を追い込まないと感じられない性癖なの?』

 

「ようし、喧嘩売ってんだな上等だ輪切りにしてやる」

 

『ははは、そんな怒らないでよ。それより君、どうして無銘剣の力を使わないんだい?』

 

「はあ?」

 

 いつの間にか無銘剣虚無を握っていたため、ボロクソに貶してくる失礼な神様をぶった切ろうかと考えたがそれを神様が遮る。無銘剣虚無の力っていったい何を言っている。

 

『君もしかして覚えてない?知識は君の頭の中にちゃんとインプットしたはずなんだけど』

 

「……それってもしかして能力の無効化の話をしてるのか?」

 

 無銘剣虚無―――それは仮面ライダーセイバーにおいてもっとも恐れられた能力を持っていた。それは“聖なる力を無に帰す力”で、あの物語でキーアイテムとなる聖剣の力を無効化させるという能力である。これにより、軒並み強力な力を宿した聖剣を無効化し、圧倒的な強さで主人公達をなぎ倒したのが仮面ライダーファルシオンことバハトであったのはうろ覚えの前世の知識でも覚えている。さらには破滅の書と呼ばれるアイテムと組み合わせることで世界そのものを破壊することができるというとんでも設定もあった気がする。

 

「でもそれはあくまで聖剣の力を無効化だろ?無銘剣以外に聖剣なんてないんだから、ほとんど意味ない能力だろが」

 

 本来は対魔忍の物語に仮面ライダーのアイテムなんて、この神様から貰った特典である“無銘剣虚無”以外は存在しない。つまり聖剣の力を無効化する能力なんてあっても意味が無い。俺はそう思ってた。しかし俺の言葉を聞き、神様はキョトンと表情を浮かべたがすぐに大笑いし始めた。

 

『……ぷっ、あははははははははっ!いやあ、まさか縛りプレイじゃなくて単純に勘違いしてるだけか!あははははははははっ!!いやこれは気づかなかったなぁ!!』

 

「……おい、何笑ってやがる」

 

『くくくくっ……いやぁ、随分と可愛らしい勘違いをしてると思ってね。まさかまさか20年以上も使っておいて気づいてないなんて……君って案外間抜けなのかな?そういう意味で、君ってあの“ふうま小太郎”と似たもの同士なのかな?』

 

「いいから教えろ。なにが可笑しいんだこの野郎」

 

『いやあごめんごめん。そんなに怒らないで……そうだねえ、ちゃんと口で説明しなかったのも悪いね』

 

 一頻り笑ってすっきりしたのか、神様は姿勢を正して空中に座る。そして改めて説明を始めた。

 

『いいかい?無銘剣虚無は接触する“全ての属性を無効化する”能力を持っている。つまり、これは聖剣のみならず、あらゆる事象に対しても有効なんだ』

 

「あらゆる事象?」

 

『そう……例えば対魔忍の忍術や魔族の特殊な力もこれに該当する。つまり無銘剣の力はほとんどの敵の能力に有効なのさ。炎や水の攻撃だって簡単に切り払えるし、皮膚を硬質化させたりバリアを作ってもそれを貫通して攻撃することができる。まさにチートにふさわしい能力だね』

 

「……ん?ちょっと待て、それおかしくないか?だったらなんでヒルトの時は鱗を斬れなかったんだ?」

 

 神様の説明に俺は思わず疑問を口にする。ヨミハラにてヒルトという魔族と戦った時、奴は魔剣の力を使って身体に邪竜の鱗を纏わせていた。それを最初に切りつけた瞬間、弾かれてダメージを与えられなかった。だからあの時はわざわざ攻撃が通じるように逸刀流の剣術を使ったのである。

 

 俺の疑問を聞いた神様は呆れたような表情をし、ずいっと顔を前に寄せる。

 

『それは君が原因だ。言っただろう?君は無銘剣虚無の能力を使っていない。正確には無意識に力をセーブしてしまっているから封印状態みたいなものさ』

 

「力をセーブ?」

 

『そう。今の無銘剣は本来の力を発揮できていない。てっきり戦いを長引かせて楽しむための縛りプレイの一種かと思ったけど、どうやら君が他の聖剣にしか無効化の能力が効かないと勘違いしてたせいで、能力が上手く発動できていないんだ』

 

「……あぁ、なるほどそういうことか」

 

『まったく……本当だったらあんなヒルトとかいう小物相手に苦戦することなんてなかったはずだよ?』

 

「しょうがねえだろ、無銘剣の能力がそんな感じなんて気づかなかったんだし」

 

『まっ、君の場合は過去に何度か無意識で能力を使ったことがあるみたいだけど、意識して使えるようにするのは時間が掛かると思う。ちょっとばかし訓練が必要だね』

 

「訓練って……そもそもどうやって能力を発動させるんだよ」

 

『そこは君自身で探すべきだ。一から十まで説明したら物語がつまらなくなる』

 

 あくまで自分の楽しみ優先かよこいつ……。思えば最初っからこんな奴だったな。俺をいきなりこんな危なっかしい世界に放り込んだ奴に、優しさとか期待しちゃいけないな。

 

『まあ、せいぜいあがいてくれたまえよ。意外と面白い具合に物語が続いてるんだ。君には期待してるんだぜ?』

 

「―――勘違いするな。あんたの楽しみのために生きてるわけじゃない。あくまで俺は俺の人生を生きてるだけだ」

 

『―――くくくっ、言うようになったねぇ。これからもその調子で頼むよ“主人公”君♪』

 

 その言葉を最後に、周りの闇が次第に晴れていく。神様の姿は光に包まれて消えていった。

 

 

 

 

 

 

「やれやれ、気分が悪くなる時間だ」

 

 最悪の夢から覚め、俺は小休止を終えて再び歩みを進めていた。ヨミハラで前條先生に襲撃されてからすでに数日が経過し、俺は五車の里へと通じる山道を歩いている。公共の乗り物だと生徒達に発見される可能性があり、ややこしいことになりそうなので目立たないよう闇夜に乗じて潜入することにしたのだ。目指すは五車の里である。

 

 五車の里は外敵からの侵入に対応できるよう道が複雑化されており、要所要所には警備や忍獣が配備されている。そのため大抵のものであれば侵入することすらできずにその命を落とす羽目になる。

 

 だが俺も元はこの里に住んでいた者なので、当然五車に続く道はある程度覚えているし獣除けの香り袋も持ってきているので厄介な忍獣に絡まられる心配はない。それに運良く警備の連中にも出くわさなかったので、楽に通り抜けることができている。

 

「さて、たしかこっちだったかな」

 

 俺は記憶を頼りに道無き道を歩いて行く。やがて、闇が続いている森の中で光がちらほら見え始めた。おそらく五車町が近いのだろう。俺は光を頼りに歩を進めていく。

 

「―――あれ、ここは」

 

 木々を抜け、見晴らしが良い場所にたどり着く。しかし光の先に五車町はなかった。かわりに、この日本という国にはあまりにも不釣り合いな豪邸―――というかもはや貴族の城がそこに建っていた。あきらかに場違いな感じがするが、俺はそれを見てつい懐かしく感じる。

 

なぜなら俺が五車の里に居たときから何度もここを訪れたことがあったからだ。ここは水城一族が所有する城である。つまり不知火さんの家でもあるのだ。俺が幼少の頃、よくあの人にここへ招待されたものだ。当然寝泊まりだってしたこともある。

 

しかし、水城一族で不知火さんは五車を出奔し、旦那さんは数年前に他界している。そして今この城に住んでいるのは一人だけのはずだ。地縛霊みたいになっている執事もいたはずだが、生者は赤ん坊の頃からよく知るあの子だけ……。

 

「……ここに来るつもりはなかったんだけどな」

 

 俺はついそんなことを口走ってしまう。五車に戻ったのはあくまで、あの内調の新型サイボーグについての情報提供と対策のためだ。元の鞘に収まるとかそんな話では無い。しかしついあの子のことを思い出してしまい、俺はつい城の扉の前で立ち止まってしまう。

 

 小太郎達にだって会ったんだ。知り合いに顔を見せるぐらい良いだろうか……そんなことを考えてしまい、ドアノブに手が伸びるが俺はすぐに引っ込める。今は緊急事態のため五車に戻ったんだ。自分の感情を優先するのは贅沢というものだろう。

 

「はあ……あほくさ。用事もないのに何考えてんだが……さっさと五車学園に行くか」

 

『おや、またお嬢様になにも言わず姿を消すおつもりですかなカムイ殿?』

 

「―――おわあぁぁああっ!?」 

 

 真後ろから声が聞こえ、俺は思わず間抜けな悲鳴を上げてしまう。後ろを振り返ると、そこにいたのは全身を黒タキシードで固めたドクロ男であった。端から見たら悪霊と言っても良いだろう。だがそいつは幽霊であっても、俺が古くから知っている人物でもあった。

 

「―――善鬼さん!急に後ろから声かけるのはやめろって昔から言ってるだろっ!!」

 

『カンラカラカラ―――対魔忍ともあろう方が油断して後ろを取られるのが悪いのですぞ!』

 

 ドクロ男は笑って俺の文句を受け流す。この人は時来善鬼―――水城家執事にして本物の幽霊でもある人だ。冥遁と言う自らを特定の場所に縛り付けることで幽体となることができる忍法の使い手で、水城一族とこの城を守るために幽霊になっているのだという。

 

 ただ問題があり、忠誠心が高すぎて一族を守るために侵入者どころか来客すらも本気で殺しにかかることがあるのだ。俺自身も不知火さんが必死に説明してもらうまで殺されかけたことあるし。しかもボケがひどくて最初の一、二年は俺のことを忘れて侵入者と勘違いし、本気で殺そうとしてきたこともある。あの大量の動く案山子や家具が襲ってくるのはある意味トラウマものだ。

 

 だが長い期間を何度もここに訪れたため、善鬼さんもようやく俺のことを覚えてくれたのだ。現に今も襲いかかること無く俺の名前を呼んでくれたし。だが幽霊特有の気配を遮断して背後に立つのだけはやめてほしい。

 

『お久しぶりの来訪ですな。今までどこをほっつき歩いてらしたのですかな?』

 

「ほっつき歩いてって……別に、ちょっとやむを得ない事情があってだな……」

 

『ゆきかぜお嬢様に別れも告げぬほど長期間連絡も寄越さないほどの事情がおありで?』

 

「ぐっ……」

 

 善鬼さんはドクロ顔をずいっと寄せてくる。表情はないのだがその声色からして少し怒っているのが窺える。俺は罪悪感から少し目をそらしてしまう。

 

 ゆきかぜ―――それは不知火さんの一人娘であり、俺もあの子が赤ん坊の頃から知っている。この城を訪れては一緒に遊んだのだって頻繁にある。不知火さんがいなくなり、その旦那さんが任務で殉職した後は善鬼さんと一緒に世話を焼いていたほどだ。俺にとっては妹分の一人で、家族とも思える奴だった。

 

だが俺が五車の里を去る時、俺は彼女に置き手紙すら残さなかった。そんなものを残すほど、余裕がなかったのだ。

 

『……奥様が行方不明となり、旦那様は亡くなられ、兄のように慕ったあなたまでいなくなられてしまった。お嬢様は、しばらく部屋で塞ぎ込んでいらっしゃいました』

 

「―――そうか」

 

『凛子様やご学友のおかげでなんとか元気を取り戻しましたが、それでも時折あなた様のことを思い出していらっしゃいます』

 

「……悪い」

 

『謝られるなら私ではなく、お嬢様にですぞ。―――ではどうぞこちらに』

 

 扉がひとりでに開き、善鬼さんは流れるような仕草で城へ案内しようとする。俺はつい城に入るのを躊躇ってしまうが、それでも意を決して足を踏み入れていくのであった。

 

 

 

 

 善鬼さんに連れられ城の廊下を歩いていき、やがて見覚えのある部屋の扉の前で止まる。見た目は最後に訪れたときと何一つ変わっていない。この先は、間違いない無くゆきかぜの部屋であろう。中からも覚えのある気配がする。

 

 俺は気持ちを落ち着かせるため少し深呼吸をする。そして、小さく目の前のドアをノックする。

 

「……なあに爺や~?そろそろ寝るから夜食だったらいらないわよ~?」

 

 部屋の中から聞き覚えのある声がする。俺は思わずドアノブに伸びた手を引っ込めてしまう。

 

『お嬢様、お客様がお見えになっております』

 

「お客さんってこんな時間に?……あっ、分かった!どうせまたふうまが来たんでしょ?」

 

 いつまでも消極的な俺を見かねて善鬼さんが代わりに中に居る人物に声をかける。するとドタドタと中から足音が近づいてくる。そして一気に扉が開け放たれた。

 

「ちょっとふうま!遊びに来るにしても時間を考えて―――」

 

「……っ」

 

「―――えっ?」

 

 扉から出てきたのは日焼けした肌にツインテールの髪型をした、少し背が低めで胸が控えめな少女―――件の水城ゆきかぜであった。会うのは2年ぶりくらいだが、ほとんど見た目は変わっていないようだ。

 

ゆきかぜは俺の姿を見た瞬間、目を見開いて固まっている。そりゃいきなり行方をくらました奴がいきなり姿を見せたら面食らうに決まっているだろうな。だがいつまでも沈黙を保っていられないので、俺は思いきって彼女に声をかける。

 

「―――よっ、久しぶりだなゆきかぜ」

 

「カムイ兄(にぃ)……なの?」

 

「おう。言っとくが偽モンでも幻覚でもねえぞ」

 

「……」

 

「どうした、久しぶりに会えたからって感動のあまり声も出ないか?」

 

 俺はゆきかぜに声をかけるが、彼女はうつむいてしまい反応が無い。場を和ませようと思っておどけた感じで話しかけたが失敗だったか……。

 

 するとゆきかぜはすっと顔を上げる。彼女は涙目になりながらも俺を睨みつけた。そして―――。

 

 

 

 

―――パアァンッ!!

 

 

 

 

 乾いた音が響く。右頬がじんじんと痛み、俺は自分がゆきかぜに殴られたのだと遅れて理解した。

 

「―――ばかっ!!」

 

「―――っ」

 

 開口一番に罵られる。ゆきかぜは俺の胸を何度も叩きながらさらに罵ってくる。

 

「ばかばかばかっ!カムイ兄のばかぁ!!今までどこほっつき歩いてたのよ!?」

 

「……悪い」

 

「急にいなくなったと思ったら急に現れて!なんで連絡寄越さなかったのよ!!なんでなにも言ってくれなかったのよぉっ!!」

 

「……悪かった」

 

「―――ばかぁ!!カムイ兄のばかあぁあぁあああああっ!!」

 

「悪かった、俺が悪かったって」

 

 一気に感情が溢れたのだろうか、ゆきかぜは思いっきり俺に怒鳴るとタックルするように抱きついてくる。そして思いっきり泣いてきた。引き剥がそうにも意外と強い力であり、離れそうに無い。まさかここまで思われていたなんて……困惑する反面素直に嬉しいとも思ってしまう。とにかく俺はそのまま彼女が泣き止むまで、しばらくの間胸を貸すしか無かったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「だから悪かったって言ってるだろ……やむを得ない事情があったんだって」

 

「ふんっ!だったら落ち着いた頃に電話の一つでも寄越しなさいよ!カムイ兄がいなくなって音信不通になってからどれくらい経ってると思ってんの!」

 

「いや、それはそのだな……」

 

 俺はそのままゆきかぜの部屋で過ごしている。そして善鬼さんが気を利かせて持ってきたコーヒーを、ゆきかぜはホットミルクを飲みながらこれまでの経緯を話すが、ゆきかぜはまだ怒っている様子だ。実際連絡すら寄越さなかった俺が悪いため、ますます彼女に対して申し訳なく思ってしまう。

 

「人の気持ちも知らないで……どれだけ心配したと思ってんのよ」

 

「悪かったって……そんな怒るなよゆきかぜ」

 

「……カムイ兄は」

 

「ん?」

 

「カムイ兄にとっては、私ってどうでも良い感じなの?ただ他よりちょっと仲が良かった程度の人間だから、連絡も寄越さなかったの?」

 

 ゆきかぜはそっぽを向きながらそんなことをぽつりとつぶやいている。ああ、やっぱり連絡どころか手紙すら送らなかったのはマズかったな……。いつも明るく活発的でちょっと短気なあのゆきかぜが、こんな弱々しい言葉を口にするなんて思わなかった。

 

「―――そんなことはねえ。お前を忘れた事なんて一度もない」

 

「……」

 

「連絡寄越さなかったのは悪かった……言い訳はしない。でも、俺にとってゆきかぜが大切なのは今も昔も変わらない。それだけは本当だ」

 

 俺はじっとゆきかぜを見つめて自分の素直な気持ちを伝える。ゆきかぜはその言葉を聞き、ちらりとこちらを見てため息をつく。

 

「はぁ……もういいよ。今更昔のことを怒ったってしょうが無いし」

 

「……」

 

「けど!これから消えるときは一言伝えてからだかね!あと、ちゃんと連絡は定期的にすること!破ったらカムイ兄でも今度こそ許さないんだからね!!」

 

「……ああ、肝に銘じとくよ」

 

「―――うん、よろしい♪」

 

 そう言ってゆきかぜはニカッと笑う。その笑みは昔からずっと見ていたあの笑顔である。彼女の顔を見て俺も思わずほっとしてしまう。

 

「あっ、それとカムイ兄はちゃんと凛子先輩にも謝ること!」

 

「ん、凜子にか?」

 

「むしろカムイ兄が一番謝んなきゃいけないのは凜子先輩に対してなんだからね!」

 

 凜子というのは“秋山凜子”のことである。ゆきかぜの幼なじみで姉のような存在であり、同時に学生の身でありながら逸刀流の免許皆伝であり剣客としての実力は高く、斬鬼の対魔忍と敵からは恐れられている。

 

 ゆきかぜの幼なじみであるため、当然俺も彼女とは面識がある。教師と教え子の関係でもあるがゆきかぜを通して知り合っていたし、逸刀流を一緒に学んでいたためゆきかぜや小太郎達並みに親しい間柄だと思っている。

 

「そりゃあ長い間連絡しなかったし、会ったら謝るぐらいはするけどなんでわざわざそんなこと言うんだよ」

 

「……カムイ兄、凜子先輩のことどう思ってるわけ?」

 

「そりゃよくできた教え子だけど?あとはまあ……お前と同じで妹みたいなもんか」

 

「……はぁあ~」

 

「おい、なんでいきなりそんなくそデカため息を吐いてんだよ」

 

「どうせカムイ兄はあいつとおんなじで鈍感だし、そういう奴だとは思ってたけど……ほんっとうに男として最低よね」

 

「だからなんでそうなるんだよ」

 

「……もしかして気づいてなかったわけ?あれだけアプローチされてたのに?」

 

「アプローチ?」

 

「……いいカムイ兄?いくら子供の頃から知ってるからって、女の人が一人でわざわざ男の家に料理作りに行ったり、夜遅くまで一緒に稽古に誘ってそのまま家に泊まるなんて普通すると思ってるの?」

 

「……」

 

 ゆきかぜにそう言われたので俺は思い出してみる。確かに凜子は何やらお礼とか言って俺の家によく来てはご飯をごちそうしてくれたし、稽古だって道場でよく二人でやったのも覚えている。夜遅くなったからそのまま家に泊めたことだってある。若い女が男と同じ屋根の下に寝泊まりするなるなど教師としては注意すべきだったが、そこはあいつとの仲だしそこまで気にしなかった。

 

 俺だってよくゆきかぜの様子を見るために城へ遊びに行ったし、そのまま寝泊まりだってしている。別に気にする事なんて……。

 

(ん?待てよ……)

 

ゆきかぜはアプローチって言っていた。若い女が男にアプローチすることなんて……。

 

「……えっ?マジで?」

 

「マジよ、大マジ」

 

「……いやねえよ!なんでだよ!?ありえねえだろ!!」

 

「……カムイ兄、なんでそこであり得ないって言うのさ」

 

「よく考えろよ!そういうのはアレだよ!思春期でよくある奴だよ!気の迷いって奴だ!」

 

 たまたま近くにいた異性をそういう風な対象に見てしまうっていうのなら分かる。思春期特有のもので、恋に恋する状態なんだ。そうだそうに決まっている。凜子って男にモテるけどゆきかぜを可愛がるか剣術にしか興味を示さなかったからな、そういうのは耐性が低いはずだからな、うん。

 

「うわぁ最っ低~……女の子の恋心を気の迷いとか言うなんて」

 

「いやだってよ……そうとしか考えられねえよ、別にアイツに好かれるようなことなんて何もしてねえよ」

 

「……はあ。凜子先輩かわいそう……まさかカムイ兄がここまで鈍感だったなんて」

 

「ど、鈍感って……」

 

「凜子先輩がライバルが多いからってあれだけ頑張ってたのに、カムイ兄はまったく気づいてないだもん。かわいそう以外のなんでもないよ」

 

「いやだから俺は教師であって……んっ、ライバル?」

 

「とにかく!ちゃんと凜子先輩にも謝ること!分かった!?」

 

「りょ、了解しました……」

 

「はい、じゃあ話は終わり!今日はもう遅いし続きは明日にしましょ。爺やァ!カムイ兄を部屋に案内してあげてぇ!!」

 

『承知しましたお嬢様―――ではカムイ殿、お部屋にご案内いたします』

 

「あ、ああ……」

 

 ゆきかぜの言葉の勢いに押されつい肯いてしまう。そして俺はそのまま善鬼さんに案内されて部屋を出るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「世話になったな善鬼さん……ゆきかぜにはまた会おうって伝えといてくれ」

 

『カンラカラカラ―――またのお越しをお待ちしておりますぞ!』

 

 翌日、まだ日が昇りきっておらずゆきかぜが眠っているうちに城をあとにする。つい昔を懐かしんで時間を潰してしまったが、今は火急の用でここを訪れたのだ。思い出に浸っているほど余裕はない。

 

 しばらく走って数十分後―――俺は対魔忍の育成学校である“五車学園”へと足を踏み入れた。鍵は掛かっておらず、すんなりと中に入ることができた。そして記憶を頼りに廊下を歩いて行き、目的の場所へ向かっていく。

 

 たどり着いたのは、校長室であった。ここにあの人がいる―――俺はそう確信し、その扉をノックする。

 

「入りなさい」

 

 やはり聞き覚えのある声がした。扉を開き、中に入る。そこにいたのはこの学園の校長であり対魔忍の頭領である“井河アサギ”その人であった。彼女は椅子に座り、腕を組んでこちらを見据えている。

 

 俺はすぐ部屋に入って彼女に頭を下げる。

 

「お久しぶりです、アサギさん」

 

「ええ、久しぶりねカムイ。ふうま君達や紫から話を聞いたけど、元気そうでよかったわ」

 

「おかげさまで。あの時は、本当に申し訳ありませんでした」

 

「いいのよ、あなたは何も悪くないわ。でも、できれば何か一言伝えて欲しかったって気持ちもあったのだけれどね」

 

 そう言ってアサギさんはふっと微笑んだ。昔から変わらない柔らかで優しい笑顔に、俺は思わず笑みが溢れそうになるが、俺はすぐに気を取り直す。そして俺の考えを察してかアサギさんも笑みを消し、真剣な眼差しを向ける。

 

「それで―――突然戻ってきてどうしたのかしら?」

 

「火急の用件で来ました。内調の件です」

 

「……そう、今度は奴らが何をしたのかしら」

 

「見て貰った方が早いかと」

 

 俺はすぐに胸ポケットにしまってある携帯を取り出し、アサギさんに映像を見せることにしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、所変わって新内閣府庁ビルにて―――

 

「局長!五車の協力者より目標(ターゲット)が五車に現れたと情報が」

 

「―――そう、彼は五車に向かったのね」

 

 内調局員からの報告を受け局長と呼ばれた女性は何かを思案するような顔をしながら腕を組む。そのただならぬ雰囲気から彼女がただ者で無いのが伝わってくる。

 

 彼女は政府の高官であり“内閣情報調査局”の局長―――“峰舟子”である。彼女は内外問わず大物政治家や官僚、経済界の重鎮との太いパイプを持ち暗躍している凄腕のエージェントである。

 

 さらには見た目こそ若いが、大昔に起こった台湾危機の際にも陸自の参謀部にいたという噂もあり、その素性から味方さえ彼女を信用できる者が少ないほど得たいが知れない。

 

 そんな彼女は今、ある人物の行方を追っていた。そしてターゲットが五車にいる―――その情報を聞き、彼女はすぐ部下に尋ねる。

 

「例の新型は?すぐにでも出撃できる?」

 

「はい。大きな損傷は見られないため、戦闘データを修正しつつドライバーの性能を調整すればすぐにでも」

 

「―――そう。なら急ピッチで済ませなさい。目標は五車の里にいるからそこに向かわせなさい。命令は目標の生け捕り、その他は殺害しても構わない」

 

「了解しました、すぐに準備します」

 

 峰に命令されて局員はすぐに動き出す。峰はそれを見て一人ほくそ笑んでいた。

 

「さて、これで捕らえられるのなら上出来。そうでなければまた別の謀略を考えなくては……フフフ、あなたはどんな風にこれを打破してみせる“井河カムイ”」

 

 今、五車に再び脅威が迫るのであった―――。

 

 

 

 

 

 

 

 





※不定期の職場なので筆があまり進まず、今後の投稿も不定期になるかと思われます。


オリ主のヒロインに追加するなら誰が良い?

  • 甲河アスカ
  • 鬼崎きらら
  • 神村舞華
  • 馬鹿野郎全員ふうまの嫁だろ
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