サイバーパンクな忍者世界で不死身の剣士してます 作:ニゴリエース
「おらあぁあああっ!!」
「はぁあああっ!!」
前條に対してカムイと凜子が躍りかかる。カムイは無銘剣虚無を、凜子は石狩兼光を構えて振るう。前條はそれを最小の動きで躱しつつ、時折鱗で攻撃を弾く。そして二人に対して魔剣を振るい反撃に転じようとする。
「―――こんのぉっ!!」
「獣化の術“タコ墨シャワー”!!」
「はぁあっ!!」
「ちっ―――」
しかし攻撃が当てられそうになるとすかさずゆきかぜ、蛇子、鹿之助がそれぞれ牽制に入る。中距離からはゆきかぜの雷撃と蛇子のタコ墨が繰り出され、遠距離から鹿之助の手裏剣が迫る。
面一杯に広がる攻撃は流石に回避に専念しなければならず、前條は手裏剣を弾き飛ばしながらタコ墨による煙幕から目を庇い、身体を捻って雷撃を躱しつつ大きく後方に下がる。そしてその瞬間をカムイと凜子は逃さなかった。
「っらあ!!」
「はあっ!!」
―――ドガァッ!!
―――ガキィィイインッ!!!
「ぐぅっ―――!?」
地面から足を離した瞬間、カムイの鋭い蹴りが、凜子の斬撃が放たれる。前條は躱しきれずにその身で攻撃を受けて吹き飛ばされて地面に転がる。そしてすぐに起き上がるが、ゆきかぜ達の追撃が迫り思うように動けないでいた。鱗に守られてダメージはないが、中々攻撃できないでいる。
カムイと凜子がお互いをフォローするかのように連撃を繰り出していく。もう一人が攻撃を仕掛け、それを前條が躱したり硬い鱗で防いでもすかさず挟み込むようにもう一人が攻撃を叩き込んで体勢を崩してくる。
前條は戦いが始まる時、自身の記憶を基に秋山凜子と水城ゆきかぜだけを警戒すれば良いと思考していた。
凜子には空間を跳躍することができる“空遁の術”と呼ばれる忍法を持っており自身や他の者を遠くに飛ばすことができる異能系の忍法だが、凜子の場合はこれを攻撃に応用している。斬撃そのものを空間跳躍させて遠くの相手を斬り付けたり、忍法そのものを刃に纏わせ、攻撃と同時に斬り付けた部位を空間跳躍させ防御を無視してダメージを与えることができる。
ゆきかぜは雷遁使いであり、物理攻撃に対して強固な鱗を持ってしても防ぐことはできない。おまけに彼女の雷撃は里の中でも群を抜いて強力であった。
だが攻撃は当たらなければ意味がない。故に躱しきれば問題なく他の者は脅威にならないと予測していたのだが、実際に相対してみれば彼は防戦一方であった。
「―――このこのこのお!!」
「―――いくわよ!“四刀流・タコ殴りSPECIAL”!!」
ゆきかぜの
「―――ちっ、鬱陶しい」
「逸刀流一ノ型“楓”!!」
「おらぁっ!!」
「がぁっ!!」
先にゆきかぜと蛇子を仕留めようかと思案した瞬間、一部の隙も見逃さずに凜子とカムイが迫り攻撃を繰り出していた。
前衛の二人が互いのカバーしつつ、前條が攻撃を放つ前に後方で援護が迫りそれを潰される。回避し続けるとすかさず前衛からの攻撃に晒される。内調によって調整を施し、以前よりもパワーアップしているにも関わらず完全に手玉に取られていた。そのことに前條は焦りを隠せないでいた。更に彼にとって、想定外のことが他にもあった。
「おらあぁああああっ!!」
―――ザシュ!
カムイが斬撃を繰り出すとそれを腕の鱗で受け止めようとする。しかしどういうわけか先ほどから彼の攻撃が防げなくなってきていた。斬られた部分の鱗だけが消え失せて攻撃を防げないのだ。
「なるほどな……こうやって使うのか。大分慣れてきたぜ」
これは無銘剣虚無の能力によるものだ。カムイが初めて能力を使った時は意図せずに発動させただけで上手く使えなかったものだが、小太郎達が援護に来て戦っている内に段々とその使い方に慣れてきており、すでに自分の思い通りに能力を発動させられるようになってきたのだ。当然、前條は自分の能力が無効化されているなど考えられるはずもなかった。
「ちぃっ!」
―――ガキィィイイインッ!!ギリギリギリッ!!
たまらず魔剣でカムイの無銘剣虚無を受け止める。前條にとってもう一つ想定外だったのは、カムイの身体能力がどういうわけか上昇していることだ。戦闘力は調整を施した自分の方が上であり先ほどまで圧倒的だったはずなのに、カムイの動きは先ほどよりもずっと速く、腕力も増していた。現に今つばぜり合いで前條の方が押されている。
「どうした前條先生!!戦いの最中に考え事かよ―――随分余裕じゃねえか!!」
「馬鹿な……ありえない……戦闘データの数値よりも高い……なぜ戦闘力が上がっている―――!」
「はっ!さあな、知ってても教えねえよ……だがさっきから妙に身体が軽くなったような感じがするのは確かだがな!!」
―――ドガァッ!!
「ぐっ!?」
カムイの重い蹴りが腹に突き刺さり吹き飛ばされる。前條は思わず膝を突き、想定外の事態に焦りを隠せないでいた。
「ありえない……戦闘力はこちらが勝っていた……全員の動きも見えている……斬鬼と雷撃が加勢に来たとしても、俺の方が有利なのは変わらないはずなのに」
「―――単純に数と相性の悪さって奴だ前條先生。一対一ならあんたが勝ってたよ」
「っ!?どういうわけだふうま君……」
前條の疑問に答えたのは小太郎であった。彼の言葉に反応し前條は思わず聞き返す。
「映像であんたの動きを見せて貰った。恐らく感覚を強化してるんだろ……相手の僅かな動作や空気の震えを感知して攻撃を先読みできるようにしている。だからカムイ先生の攻撃を簡単に回避できた」
その通りであった。前條は内調によって視覚を中心とした感覚器官を強化し、僅かな腕や足の動き、空気振動などから攻撃の機動などを察知できるようにしている。動きがすでに分かるのであれば躱すのは容易い。
「身体能力も上がっているみたいだしその鎧も今初めてみたものだが予測の範囲だ。あんたのそれは物理攻撃しか防げない―――ゆきかぜの雷撃や凜子先輩の空遁といった防御が意味をなさない攻撃には常に警戒しなければならない」
「……」
「防ぎようが無い面の攻撃には回避に専念しないといけないし、能力が上がっているといっても意識外からの至近距離の攻撃は回避しきれない。あとは防御できない攻撃を織り交ぜて反撃や回避の行動を潰していけば簡単に崩せるってわけだ」
「……なるほど、君の状況把握と指揮能力を甘く見ていたようだ―――それも想定外だ」
ふうまの説明に前條は一人納得し、彼を見据えて魔剣を構える。その視線からして完全にふうまを標的に定めており、左手の指を一本立てる。
「このチームの要はどうやらふうま君だな……なら君を潰せば簡単に崩せる……君は、一手で詰む」
「―――悪いな前條先生。あんたはもう詰んでるよ」
「なに?」
小太郎の言葉に前條の動きが止まる。すでに詰んでいる―――彼は確かにそう言った。そして小太郎はニヤリと笑う。
「今だ鹿之助ぇっ!!」
「―――おう!いくぞ!電遁の術“スパーク”!!」
―――バチバチバチッ!!
「なにっ!?」
小太郎の声に鹿之助が答え、忍法を発動させる。鹿之助の電遁の術は静電気程度の威力しかないため本来なら脅威にならないはずだった。しかし前條は知らなかった。彼の周囲には蛇子の墨によって隠されていた、鹿之助の静電気によって爆発する手裏剣がいくつもあったことを―――。
―――ドゴドゴドゴドゴオオオオオオオン!!
「ぐぅ!!?」
凄まじい爆発が連続で起き前條を飲み込んでいく。これは小太郎が事前に打ち合わせしていた作戦であった。前條が攻撃を先読みして躱すなら、意識外からの0距離攻撃で躱しようのない攻撃を叩き込む。そのため小太郎は鹿之助に大量の爆弾手裏剣を投げさせ、前條に悟らせないよう蛇子にタコ墨で手裏剣を見えないようにしたのである。
爆風と熱波に晒された前條はたまらず、そこから抜け出すために上空へ高くジャンプする。しかしそれも小太郎にとっては想定内の動きだった。そして事前の打ち合わせ通り、爆風の抜け目となる上へと飛んだ前條に向かって、ゆきかぜが
「予想通りの反応だ……行けぇ!ゆきかぜぇええっ!!」
「いっくわよぉ!リミッター解除!!“
―――バチバチッ!!ドガァアアアアアアアアアアッ!!
「っ……!!」
体表面は焼け焦げているが、前條はまだ動いていた。しかし鱗では防御できない、あらゆるものを吹き飛ばすほどの雷撃を諸に受けたためか動きが鈍っていた。それを見たカムイと凜子は咄嗟に駆け出す。
カムイは無銘剣虚無をブレードライバーに納刀し、凜子は石切兼光に空間転移の細かい泡を纏わせる。そして二人は必殺の一撃を放つ。
『抜刀!不死鳥無双斬り!』
「ぜぇえあああああああっ!!」
―――ズバァッ!!
「ぐっ!?」
カムイは無銘剣を引き抜き、炎を纏わせて前條を斬りつける。それは無銘剣虚無の能力も合わさり、鱗の鎧を打ち消して彼の身体を切り裂く。
「逸刀流秘奥義“胡蝶獄門”!!」
―――ザシュゥッ!!
「がぁっ!?」
凜子はあらゆる装甲を無効化し、あらゆる物を両断する必殺の剣を抜き放つ。前條はまともに躱すことができずに再び斬撃を受けて吹き飛ばされ地面を転がる。
「……ふっ!」
地面に倒れ伏した前條であったが、すぐに起き上がりカムイ達を見据える。まだ動けるようであり、その様子に鹿之助はビビって大声を出す。
「ひぇえええええっ!!?ま、まだ動けるのかよ!?も、もしかして不死身なのかよぉぉおおおっ!!?」
「落ち着け鹿之助……あれはダメージを認識できていないだけだ。あれだけ食らって平気なはずがない」
ビビる鹿之助に落ち着くよう小太郎が促す。その目は前條を見据えており、彼がどんな動きを見せようといつでも対処できるよう冷静に観察していた。
「少し……あるか」
前條は自分の身体に触れ、自分の身体にダメージが蓄積しているのを客観的に把握する。まだ自分は動ける―――そう彼は思っていた。
―――ビキッ!!
「ん?」
突然何かが割れるような音が響く。前條が視線を移すと、彼が握っていた魔剣が半ばほどから折れ砕けている。腰のドライバーも火花を散らしており、完全にその機能を失っていた。それと同時に変身が解除され、元の姿に戻った彼の身体がドロドロと崩れていく。
「そんな、馬鹿なっ……!?」
身体と装備が許容できないほどのダメージを負ってしまったのをようやく自覚し、前條は足を引きずってその場を逃れようとする。
―――ドスゥッ!!
「がっ!?」
そんな彼の胸から剣が突き出る。前條が逃げだそうとした瞬間、カムイは一気に前條に近づいて背中から無銘剣で貫いたのであった。確実に心臓の位置を貫いたのを確認し、カムイは無銘剣を抜き取る。そして前條はゆっくりと地面に倒れ伏した。
「―――か、カムイ先生……」
「―――もう、休んでいいぜ前條先生」
倒れた前條にカムイはそう告げる。すると前條はふっと笑う。それは先ほど見せていた冷たい笑みで無く、カムイや小太郎達が以前からよく知る、生きていた頃の前條の笑顔そのものであった。
そして彼は目を閉じる。すると彼の身体はぐずぐずに溶けていき、地面には壊れていたドライバーと折れた魔剣だけが残った。それを見届けたカムイは変身を解除し、無銘剣虚無を肩に担いで小太郎達の方へ振り向いた。
「悪かったなお前ら……こんなことに巻き込んで」
「か、カムイ先生……終わったのか?」
「あぁ……前條先生も、ようやく眠れたよ」
「前條先生……」
戦いが終わり、全員が肩の力を抜く。しかし、その場にいた誰もが浮かない顔をしていた。いくら死体で作ったサイボーグとはいえ、見知った人間を殺したのだ。その心情はあまり穏やかでないだろう。
「―――さて……それじゃあそろそろ帰るか。アサギさんにはお前らから報告してくれ」
「えっ?」
「内調の新型サイボーグは破壊した……もう俺がここにいる理由がないからな」
「で、でもカムイ先生……折角五車に戻ってきたのに」
「あくまで一時的に戻ってきたんだ。用が済んだら帰るのは当たり前だろ鹿之助」
「そんな……ようやくカムイ先生が帰ってきたと思ったのに……」
「悪いな蛇子……俺がまだ五車に戻ってくるのは当分先だ」
突然のことに鹿之助と蛇子は寂しそうな表情を見せる。カムイもまた寂しげに笑うが、それでも五車に留まるつまりはない。彼はそのまま小太郎達の方へ視線を移す。
「小太郎、今回は助かった……良い指揮だったぞ」
「ははっ……まあ俺は忍法も使えないし、これくらいはこなさないと」
「それでも見事だ。元教師として鼻が高いぞ、もっと胸を張れ」
「―――はい、ありがとうございます!」
「……ゆきかぜ、悪いな。またしばらくお別れだ」
「ふん!カムイ兄はいっつもそう……今度は、いつ会えるの?」
「……さあな、それは分からん」
「……連絡はしなさいよ?」
「もちろんだ」
カムイは最後に凜子の方へ向く。彼女は口を結び、何かを耐えるかのような表情をしている。そんな彼女を見てカムイはふっと笑い―――。
「強くなったな、凜子。俺が思った以上だ」
「あっ……」
カムイはそう言って彼女の頭に手を置いて撫でる。凜子は少し驚いたような顔をするが、それを甘んじて受け入れる。もやもやしていた彼女の心は少しだけ穏やかになる。
「―――じゃあな、また会おう」
「「「……っ!」」」
カムイは短く別れの言葉を口にすると、その身を炎が包み鳥の形を為して空へと舞い上がる。炎の鳥はあっという間に遠くへと飛んでいくのであった。
「それで、あなたは結局ここに戻ってきたのね」
「まあね……傭兵の立場なら自由に暴れられるからな、五車の里に戻るのはまだまだ先だな」
「……まるで結婚しない男の言い訳を聞いてる気分だわ」
五車の里にて内調の新型サイボーグを撃破してから一週間が経過した。カムイはヨミハラにて、高坂静流がアジトにしている酒場へとやってきていた。彼は酒を片手に、カウンターに立っている静流にそれまでの経緯について話していた。
「しかし珍しいわね。カムイ君が他人を頼るなんて……てっきり一人でその新型サイボーグと戦うのかと思ってたわ」
「背に腹は代えられないってね……俺一人で戦うにはアレは相性が悪すぎた。下手に長引けば更に改良を加えられたあげく、量産化もされる可能性があったからね……早めに潰しておこうっていう合理的な判断をしただけだよ」
「合理的な判断ねぇ……」
カムイの言葉を静流は半信半疑で聞き、ジト目で彼を見つめる。
「なにか?」
「戦闘狂の貴方が合理的って言うのがどうもねぇ……もしかして、そのサイボーグが前條先生だったからかしら?」
「……」
「カムイ君、前條先生と仲良かったからね。彼が内調の道具にされているのが許せなかった、だから早く彼を眠らせようと考えたんじゃないかしら?」
「―――勝手な憶測だよ」
「ふふっ……ええ、勝手な憶測よ。でもカムイ君って昔から情に脆いというか感情的になることが多いから、案外当たってるんじゃないかしら?」
「さあね……」
静流の言葉にカムイは外方を向き酒を呷る。そんな彼を静流はニヤニヤしながら見つめていた。
「静流さん、もう一杯くれ」
「あら、また?カムイ君ったら最近飲み過ぎよ。今までそんなにお酒は飲まなかったじゃない」
「……別に酔っ払うほどは呑んでないよ」
「―――はぁ……カムイ君、どうにもストレスが溜まってるわね。何か嫌なことでもあった?身体の調子は良さそうなのに」
「……別に、なんにもないよ」
「何にもない人が、ヨミハラで弱小とはいえ新興の組織を一人で壊滅させるような真似するかしら?」
「……」
静流は呆れたようにため息をついてカムイを見つめる。カムイは自分が先日に弱小組織一つを潰したことが静流にバレていることを察して目をそらす。
ここ最近、彼は疼きによる欲求不満がエスカレートしていた。五車の一件の後、どういうわけか彼の身体の調子は頗る好調だった。身体が軽く力が漲っている。まるで今まで付けていた重りを外して身軽になったような気分だった。
おまけにどういうわけか傷の再生速度まで速くなっている。この前までは攻撃が当たった後に傷跡が癒えていたのだが、今では攻撃が当たった瞬間には傷が一瞬で癒えてなくなっているほどだ。
だが、身体の調子が良いというのがそもそも原因であった。攻撃があっさりと当たってはすぐに敵が絶命し、少し腕が立つ程度の者ではまともにカムイの相手をすることもできずにやられてしまう。
そのため戦いを長く楽しめず、疼きによるイライラが消化不良のままになることが格段に増えてしまったのだ。その結果、イライラが頂点に達した彼はただ道端で、普段なら無視するであろう下っ端に
組織を潰していくらかマシになったがそれでも気分が晴れないため、こうして静流の酒場を訪れたのである。
「……身体の調子が良いっていうのも考え物だな。それなりの人数や手練れじゃないとまともに戦えなくてイライラが消えない」
「だからお酒で気を紛らわそうとしているのね」
「そうしないとノリでノマドに戦争仕掛けそうなんで……というわけで、おかわりください静流さん。ボトル一本まるごとで」
「まったく……あまり飲み過ぎて暴れないようにね」
ノマドに戦争を仕掛けるなど笑えない冗談を口にしたため、静流はやれやれと首を振りながらカムイの要求に応え、お酒を追加で持ってくるのだった。
『やあやあ、つい先日ぶりだね主人公君』
「……またか、神様」
周りの景色がいつの間にか以前と同じように闇に包まれていた。そして目の前にはやっぱりあの神様がいたことに俺は思わず嘆息を付いた。しかしそいつは構わずニヤニヤといつも通りむかつく笑みを浮かべてこちらを見つめる。
「最近暇なのかよ……まさかこんなに早く再会するとは思わなかったぞ」
『今日は君の様子を見に来ただけさ。まさかあんな助言程度で―――しかも短時間で無銘剣虚無を使いこなせるようになっているとは思わなかったしね……うんうん、やっぱり君は意外と主人公体質なのかな?』
「……」
『けどあんな紛い物相手に他人を頼ったのはいただけないなぁ……そこだけがとても面白くない。主人公ならあれぐらい一人で倒して貰わないと』
「ずいぶん勝手な言い草じゃないか。どうしようと俺の勝手だろが」
神様が好き放題言ってているため、俺は流石にカチンときてつい言い返してしまう。するとそいつはわざとらしく、やれやれと首を振っていた。
『―――やれやれ、君は自分がどんなとんでもないものを持っているか自覚がないみたいだね。それは世界をも破滅に導くほどの力を持った聖剣なんだよ?本当だったらあの程度の存在に、相性があったとはいえ苦戦するようなことは絶対無かった』
「……」
『前にも言ったけど、君は無意識に力をセーブしているからあんな危うい結果になるんだ。折角物語が面白くなる所なのに君に死なれちゃ困るんだ。縛りプレイはほどほどにしてほしいね』
「―――だから内調に情報を提供して俺を襲わせつつ、俺に力を解放させるように仕組んだのか?」
『……っ』
俺の言葉に神様の動きがピタリと止まる。カマカケのつもりで言ってみたが、どうやら図星のようだ。だが神様は隠す気はさらさらないようで、面白がっているかのような表情でこちらを見てくる。
『……へぇ、気づいてたんだ』
「どうにも不自然なんだよ……いくら井河影臣が俺の情報を持ち帰ったとはいえ、ドライバーの複製なんてそう簡単にできるものじゃない。現物か、それの詳しい情報が手元になきゃ無理ってもんだ」
影臣と戦ったのは数ヶ月前だが、あの短い戦闘でブレードライバーや無銘剣虚無の詳しい情報を得られるなんて考えられない。ましてや複製などとてもじゃないが不可能だ。
だが実際に前條先生は複製品を手にしていた。ワンダーライドブックはなかったが、それでもよくできている代物だ。他の聖剣やドライバーが存在するなんて話は聞いてないし、僅かな情報だけであれほどの物を現代の技術だけで作るのは筋が通らない。
なら考えられるのは一つ―――誰かが意図的に情報を提供したのだ。そして俺以外で無銘剣虚無の情報を持っている奴など、この世界では一人しかいない。そう―――俺がこの世界に転生した元凶である神様以外に考えられない。
俺の考えを察したのか、神様はケラケラ笑い出す。まるでいたずらに成功した子供のような笑い方だ。
『うんうん、君のお察しの通り―――と言いたいところだけど半分正解で半分外れだよ』
「なに?」
『意図的に、そして内調だけに情報を流したわけじゃないよ。私は無銘剣虚無が“どういった代物なのか”を伝え広めただけ、内調はたまたまその文献を手に入れていただけだよ。いやあ案外苦労したよ……無駄に広い魔界で無銘剣のことが書かれた文献を散りばめつつ一から伝承を広めるなんて今までやったことなかったから』
「……どういうことだ?」
神様の言葉に思わず聞き返してしまう。いったいこいつが何をしでかしたのか、俺は確かめなくてはならないと感じたのだ。
『―――ほとんどの連中はただの言い伝えだって信じなかったよ。けど“エドウィン・ブラック”は違った……現に君に干渉してきただろ?様子見がてら、あわよくば力を奪うために接触してきたんじゃないかな』
「……っ」
『吸血鬼の魔王だけじゃない。淫魔の王や内調だって君に接触してきたじゃないか……たかが剣一本のために、面白いくらい食いついてくるねぇ。だが本来の力を発揮していない君では連中には勝てない……だから助言を送ったりもしたのさ♪』
「おいおい……あんた、あまり干渉しないって言ったばかりだろ。がっつり物語に関わってきてるじゃねえか」
『いやいや、私はただ情報をばらまいただけで登場人物に会っているわけでも、どこかの勢力に属したわけでもない。だからこれは物語に直接干渉したわけじゃないよ』
「―――物は言い様ってか……あんたは、いったい何が目的だ」
『ん?』
「必要以上に連中を煽って、俺と争わせてなにが狙いなんだ……あんたに得なんて一つもないだろ」
こいつの台詞から、俺は思わずそう尋ねてしまう。なぜこいつは様々な奴らを焚きつけるような真似をするのか。そんなことをしていったいこいつにどんな利益があるというのか。だが、神様は信じられないほど面白そうにして言葉を紡いだ。
『―――だってそっちの方が物語が面白くなるだろ?無敵の主人公に次々と降りかかる災難に強敵との激闘……最高に面白そうな物語じゃないか♪』
「……はは、あんたはいつだってそれか」
やっぱりだった。こいつはそういう奴なのだと今更ながら理解した。俺の戦いを、俺の人生を、俺の選択を物語として楽しむために行動したのだ。なんて単純で身勝手で、悍ましい神様なのだろうか。
「―――神様、俺はあんたが死ぬほど嫌いになったよ」
『そうかい?私は君のことは好きだぜ?今のところ、君の物語はそれなりに面白いからね』
「……いいぜ、精々物語を楽しんでおけよ。俺は、俺の人生を生きるだけだ」
『―――うんうん、楽しみにしてるよ。また会おう主人公君♪』
「俺はもう二度と会いたくないよ」
神様はケラケラ笑って手を振る。そして闇に包まれていた空間に光が広がっていき、俺の意識は段々と薄れていくのであった。
「……くそっ、また最悪の気分だ」
目が覚めた俺は、二日酔いでガンガンと痛む頭を抑えながら呟いた。いくら物語を楽しむためとはいえ、まさかそんな昔から行動していたとは考えもしなかった……というか、物語には関わらないって言ったのに、なにがっつり干渉してるんだあいつは。
神様のはた迷惑な行動には怒りを通り越して呆れすら覚えてしまう。
「……ん?あれ、そういえばいつの間に戻ってきたんだ俺?」
目が覚めたばかりの時は気がつかなかったが、よく見渡すとそこはヨミハラで拠点として使っている部屋であり、俺はベッドで横になっていた。記憶が確かなら俺は静流さんの酒場で酒を飲んでいたはずだ。
「もしかして記憶が飛ぶくらい酒を飲んでたのか?……はあ、静流さんに迷惑かけちまったかな?」
俺は自分の失態に思わずため息をついてしまう。以前はフランシスに飲み過ぎるなとあれほど言っていたというのに、まさか自分が同じ失敗をするなんて……。
昨晩の自分の行動に対して自嘲していると、ふとなにやら良い香りが漂っているのを感じた。それは日本人には慣れ親しんだ味噌の香りである。
「味噌汁の香り……もしかして静流さんか?」
もしかしたら昨日泥酔した自分を静流さんがこの部屋に運び、今は台所で味噌汁を作ってくれているのかも知れない。俺はそう思い一言礼を言うためにベッドから身体を起こし、部屋のドアを開ける。
しかし、そこに静流さんの姿はなかった。代わりに、本来ここにはいないはずの人間が台所に立っていた。
「……はっ?」
「―――むっ、起きたかカムイ先生。待っててくれ、今朝食を作ってる所だ」
俺は思わず呆けた声を出してしまった。なぜなら台所に立っていたのは、つい先日五車で別れたはずの秋山凜子だった。彼女は素朴な私服の上にエプロンを身につけ、菜箸を片手に朝食の準備をしていたのだ。
「……いやいや、なんでいるんだお前!?」
俺は思わず大声を出してしまう。まさか朝起きたら彼女がここにいるなど誰が予想できただろうか。
「いつこっちに来たんだ……というかなんで俺の拠点の場所知ってるんだよ!?」
「うむ、実は話せば長くなるのだが……実は今日から私はここで世話になることにした」
「―――はい?」
凜子が突拍子もないことを言ったため頭で理解できなかった。いったいどういうことだ。
「私がアサギ先生にお願いしてな。抜け忍になったカムイ先生のお目付役として、ヨミハラの潜入任務を請け負ったのだ」
「潜入任務?」
「まあ実はそれも建前でな……単純に惚れた人の傍にいさせてくれと頼み込み、アサギ先生が任務という形式で許可してくれたから貴方を追いかけてきたんだ」
「……いやいやいや、急に現れてなに言ってんのお前!?」
「むっ、なにか疑問が?」
「疑問しかねえよ!!」
まさか彼女がこんな大胆な行動に出るとは思わなかった。五車でゆきかぜには聞いたが、ここまでするほどとは誰も思わないだろ。だがそれでも凜子は構わず、俺をまっすぐ見つめてくるため思わず頭をかいてしまう。
「あのなぁ……俺がどういう人間か知ってるだろ。もっと他にいい男がいるだろが」
「……そんな人がいるのなら、私はここには来ていないぞ」
「……っ」
「もちろん貴方がいなくなった日から、私はずっと貴方を忘れようとした……貴方にとって、私は別れを告げないほど気にもかけない程度の存在だったんだと。そう思うことにして、他の恋をしてみようともした……」
「……」
「けど、結局は無理だった……どんな時でも貴方のことを思い出してしまうんだ。私は、どうしようもなく井河カムイという人を好きになってしまったんだ」
「……悪趣味だよお前」
「なんとでも言ってくれ……でも、私は決めたんだ……なんと言われようと貴方の傍にいるのだと」
「お、おい……」
凜子が俺の身体に抱きつき顔を埋めてくる。背中に回された手はがっちりと組まれて離れそうにない。
「こんな重い女……貴方は嫌か?」
「……別に、嫌じゃねえけどよ」
「なら安心だ……」
「―――凜子……俺は、ロクデナシだぞ?」
「私はそんな貴方に惚れてしまった」
「俺とくっ付くと碌な目に遭わないぞ」
「覚悟の上だ」
「他にも女がいるんだぞ?」
「なら私に夢中にさせるだけだ……」
「……お前さ、馬鹿だよほんとに」
「ふふっ、そうだな……私は大馬鹿だ」
これはもう離れそうにない。それほどまでの決意が凜子から伝わってくる。これを拒絶するのは無理そうだ。俺はそう思って彼女を抱きしめ返すのだった―――。
「ところでどうやってこの場所に俺がいるって分かったんだ?」
「うむ、アサギ先生から地図を貰ってな。ここに貴方の拠点の場所が書かれていたんだ」
「……マジ?アサギさんに俺の居場所バレてたの?今度引っ越し考えなきゃ」
《おまけ》
秋山凜子が井河カムイに惚れてしまった原因は、まだ十代にも満たない幼い頃の話だ。彼女は幼いながらも利発であり、幼なじみのゆきかぜに姉のように慕われていたため一緒に遊ぶ機会が多く、ゆきかぜの家を訪れた際にカムイとも出会ったのだ。
彼らはすぐに打ち解け、まるで兄妹のように毎日を過ごしていた。そしてその日も三人は近くの川で水遊びに興じていた。だがこの日、ある事故が起ってしまう。
カムイが用を足すためその場を離れた際、凜子は調子に乗って岩の上に飛び乗ろうとした際、つい足を滑らせて川に転落してしまったのだ。川の流れは意外に速く、凜子は大量に水を飲み込んで溺れてしまう。
幼い凜子は必死に身体をバタつかせて浮かび上がろうとするが、服が水分を含んで重りとなり思うように泳ぐことができない。このとき初めて凜子は死の恐怖というものを味わった。
誰か助けて―――そう心の中で呟いたその瞬間、凜子は強い力で抱きしめられ川の上に浮上した。彼女は咳き込みながら何が起ったのか確かめようとすると、そこにいたのは井河カムイだった。
『おい、大丈夫か?息できてるか?』
彼は凜子が川に落ちた際、ゆきかぜの悲鳴を聞きつけてすぐに川へ飛び込んだのだ。そして溺れている凜子を発見するとすぐに抱きしめて救助したのである。
その後寒さと恐怖で震える凜子を暖めるためにたき火を付けて、水に濡れた服と身体を乾かしながら彼女を抱きしめたまま宥め続けた。川で溺れ、恐怖で泣き疲れた凜子は安心感を覚えながらカムイの腕の中で眠ってしまった。
その日から、凜子はなんとなくカムイのことを意識するようになった。彼が遊びに来たときも、彼が教師になり自分の学校を訪れた際も、凜子はいつの間にかカムイのことを目で追うようになっていたのだ。
そしてそのことを妹分であるゆきかぜに相談した際、それは恋なのだと教えられたことで初めて凜子はカムイに惚れているのだと自覚するのであった。
神様は愉快犯で物語を面白くするためならどこぞの地球外生命体なみに行動します。
今回は読者の方に相談があるのですが、この作品は全年齢VerとR-18Verで書き分けているのですが、それだと執筆に支障がでるのではという意見を頂きました。
そのためR-18Verでの一本化にするほうが良いか、これまで通り全年齢Verに分ける方がよいかアンケートを取ることにしました。皆さんのご意見お待ちしてます。
オリ主のヒロインに追加するなら誰が良い?
-
甲河アスカ
-
鬼崎きらら
-
神村舞華
-
馬鹿野郎全員ふうまの嫁だろ