サイバーパンクな忍者世界で不死身の剣士してます 作:ニゴリエース
最近の執筆作業BGMは『Evolution』です。
東京キングダム―――そこは闇の世界を象徴する街であり、常に魔界からやってきた魔族達や人間界の犯罪者達が幅をきかせている。ここでは強盗や違法取引、はたまた殺人など犯罪が常日頃から起っており騒がしくない日は存在しなかった。
もちろん闇の住人達が属する組織も大小いろいろ存在しており、それぞれが縄張りや利権を主張しそこかしこで抗争が起っていたほどだった。抗争が続き小さな組織はそれぞれ潰されるか、大きな組織の一部にされるかの二択であった。
そして今、この東京キングダムでも大きな縄張りを持っていた“龍門”と呼ばれる組織が崩壊しその争いは激化の一途を辿っていた。
“龍門”は様々な組織を支配下に置いて東京キングダムの一角を支配していたのだが、少し前に元対魔忍である二車骸佐が率いる“二車忍軍”が、龍門のシマを奪うためにDCウイルスと呼ばれる人をゾンビに変える代物を龍門の縄張りにばらまいたのである。
それにより龍門は壊滅的なダメージを受け事実上の崩壊、他勢力や下部組織がその空いた縄張りを奪い合い、抗争があちこちで始まったのである。
そして今日も東京キングダムのとある組織が所有する事務所で火の手が上がった。元々は龍門の下部組織であったが、崩壊後は違法薬物や奴隷売買などの商売になりふり構わず手を付けており、次第に幅を効かせ始めたので敵も多かったのである。
当然、組織のボスは敵や今後の抗争に備え稼いだ金で傭兵を雇い装備を整えていた。しかし今、それらが全て無に帰そうとしていた。
「ボスっ!下のフロアにいた連中が全滅しましたっ!?」
「―――く、くそがっ!?なんでこんなことが……っ!!」
事務所に乗り込んできたのはたった一人―――敵対する組織が雇っていた傭兵であった。彼は組織の事務所の入り口から堂々と入ってきて、自分が敵対組織に雇われて来たというのをわざわざ宣言したのである。
最初こそボスや組織の人間、雇われた兵隊達は一人で乗り込んできてわざわざ自分が敵であることを伝えてきたことに対して、そんなことをするなんて馬鹿か自殺志願者だと大声で笑い嘲った。彼一人に対して事務所にいた兵隊達は数十人であり、とても勝ち目なんてないと高をくくったのである。
だが結果はボスが想像したものとは真逆だった。彼はたった一人で事務所にいた兵隊達を相手していたのである。それもまるで赤子の手をひねるかのように、簡単に兵達をあっさり殺していたのである。
下のフロアにいた兵達はものの数十分で全滅した。そして彼はボスがいる最上階を目指している最中である。
「ええい!あんなに大金を払ったっていうのに役に立たん連中だっ!!」
「ボス!ここはもうもちません!!早く脱出を―――」
ボスは雇った兵達があっさり死んだことに苛立ちを隠せずに机を叩いている。そしてドアの傍に立っていた部下の一人が、事務所からの撤退を促そうとする。
―――ドスゥッ!!
「あごぉあっ!?」
しかし次の瞬間、彼の頭に剣が勢いよく生えた。後頭部から刺されたのである。唐突な出来事にボスと、部屋にいた護衛達は驚く。そして剣が引き抜かれ絶命した部下が倒れると、その後ろに件の傭兵が立っていた。
「ここが最上階か……もう逃げ場はないぞ」
「き、貴様―――もうここまで来たのかっ!下に居た連中は……!!」
「弱すぎで相手にならなかったぞ……今度からはもっとマシなやつを雇うことだ。まあ、次なんてないんだけどな」
その傭兵―――井河カムイは無銘剣虚無を肩に担いで部屋に入る。その全身は血まみれであり、その全てが返り血であるためその姿に不気味さがより一層増していた。
「く、くそがぁっ!!」
「舐めんじゃねぇえっ!!」
「死ねやぁぁああっ!!」
「はぁ……」
―――ザシュ!
―――ヒュンッ!ドスゥッ!!
「ぎゃぁっ!?」
「ぐぅっ!?」
護衛の魔族二人が剣を、オークが斧を振り上げてカムイに躍りかかる。しかしカムイはそれを冷めた目で見つめると迫り来る剣を軽く躱し、そのまま無銘剣を片手で振るって魔族の一人を斬り捨てる。そしてそのまま斬り捨てた魔族が握っていた剣を奪うとそれをもう一人の魔族に向けて投げる。放たれた剣は吸い込まれるように魔族の心臓に突き刺さり絶命する。
二人に遅れてオークが斧を振り下ろすがカムイはそれを片手で掴み、易々と受け止める。オークが自慢の怪力でそのまま斧を押し込もうとするが斧はビクともしない。そしてカムイはオークの腹を蹴り飛ばす。
「がぁっ!?」
腹に凄まじい衝撃を受けてオークは握っていた斧を手放してしまう。そして次の瞬間、彼の頭に先ほどの斧が振り下ろされた。
―――ズドォッ!!
「ぎゃっ!?」
カムイが奪い振り下ろした斧はオークの脳天をかち割る。それによりオークは一撃で絶命し倒れ伏した。そしてそのままボスの方へと振り向く。
「次は……アンタかい?」
「くっ!?バケモノがっ!!―――おい袁鹿角!出番だぞ、こいつを殺せ!!」
「ああ~ァ、なんだいぃ、もう出番なのか~ァ……」
カムイの姿にボスは思わず怯んでしまうが、すぐに自分の隣に控えていた男―――袁鹿角に命令を出す。その男は武道家のような衣服を纏っており、頬は痩せこけて蒼白になって不健康そうに見えるが身体はその逆で筋肉が盛り上がっている。そして両目の視点が定まっておらずとてもまともに見えない。
雰囲気からして異常な男であるがカムイは袁鹿角の姿を見ると、ようやくまともな獲物が現れたことに笑みを浮かべた。
「なんだ、まだ傭兵がいたのか……今度は楽しめそうな奴だな」
「ふんっ!でかい口を叩けるのはそこまでだ!おい袁鹿角、そいつを殺せば報酬は倍払うぞ!!もっと強い薬も用意してやる!!」
「フフフ~ゥ、それはとてもォ、楽しみだ~ァ……」
袁鹿角は不気味に笑いながら両手に“鹿角刀”という大きな武器を手にして身構える。カムイは特に構えることはせず、片手の指を曲げて『いつでも来い』と言わんばかりに挑発する。そして袁鹿角は一気にカムイへ踊り掛かった。
「あハハハ~~~~ハァっ!!」
「……っ」
袁鹿角が鹿角刀をヒュンヒュンと振り回す。カムイは自分に襲いかかる攻撃の軌道を冷静に見極め無銘剣虚無を片手に弾き、いなして躱していく。
―――ガキィインッ!ガキンガキンっ!!
「―――っらぁ!!」
カムイは攻撃を弾き、袁鹿角が隙を見せた瞬間に軽く無銘剣虚無を振るって袁鹿角の腕を斬り付ける。
―――ザシュ!
袁鹿角の腕が軽く斬られ血が噴き出る。しかし袁鹿角は痛みに怯むようなことはなく、むしろ狂ったように笑いながら尚も攻撃を繰り出していく。
「アハハハ~~ハァ!!いいねェ……気持ちイイなァ!!」
「ちっ……」
「ほらほらァ!今度はこっちのォ、番だァ!!」
(攻撃はでたらめに見えて精密……それなりに鍛えているか。身体の方は恐らく、魔薬による肉体強化か。匂いが身体に染みついてやがる……ヤク中だな)
カムイは攻撃を弾きながら袁鹿角の動きがそれなりに洗練されていること、そしてやつれた顔つきと異常な筋肉の発達は、魔薬と呼ばれる魔界医療や魔術によって生み出された薬による影響であることを理解する。
袁鹿角は元々龍門の下部組織の幹部でありそれなりに名の知れた武芸者であったのだが、薬に手を出したことで止められなくなり、ついには薬物中毒になり龍門や部下にも見放された。そしてつい先日もとある傭兵との戦いに敗れ組織に捨てられたため、薬を買うための金を稼ぐためにこうして傭兵の仕事を請け負ったのである。
当然そのことをカムイが知るわけがない。問題は強くて自分を満足させられるかどうかであり、袁鹿角はカムイにとって知り合いでもないため彼の過去などどうでもよかったのだ。
「ほォらァ!防いでばっかりでェ、斬り返してこないのかいィ?」
「ふん……」
「ちぃっ!なにチンタラしてるんだ袁鹿角!!さっさと殺してしまえ!!」
カムイを仕留められないことにボスは苛立ち、袁鹿角に怒声を浴びせる。そして袁鹿角が大ぶりの攻撃を繰り出した瞬間、カムイはそれを躱すことはせずまともに受けた。
―――ザシュゥッ!!
「っ!」
鹿角刀がカムイの腹に突き刺さり血が滴る。袁鹿角の攻撃は人体の急所の位置に突き刺さったため、彼は勝利を確信し更に刃を押し込もうとする。
「アハハハ~~~ハァ!!当たった―――」
―――ヒュッ!ドゴォォオオッ!!
「―――ごぼぉおおおっ!!?」
しかし次の瞬間、カムイの拳が袁鹿角の腹に突き刺さり、凄まじい衝撃が走る。まともに攻撃を食らった袁鹿角は胃の内容物を吐き出しかけるが、そんな暇を与えることもせずカムイは拳と蹴りの連撃を繰り出していく。
「おらおらおらぁぁぁあああああっ!!」
―――ドゴッ!ドガッ!バキッ!ドゴォッ!!
「あぎっ!?おごっ!?げぶぅっ!?」
袁鹿角は殴打の連続を躱すことができず全身に全ての攻撃をまともに食らう。そしてカムイはそのまま身体を捻り、袁鹿角の頭目がけてトドメの回し蹴りを放った。
―――ドゴォオオオッ!!ガシャァァアアアアアアンッ!!
目にも留まらぬ速度の蹴りが袁鹿角の頭に叩き込まれ、彼は吹き飛ばされそのまま窓へと突っ込む。ガラスを突き破り、最後の蹴りですでに意識を失っていた袁鹿角は悲鳴を上げることも無く事務所の外へと落ちていったのだった。
「やっぱり弱い……動きは洗練されてるかもだけど凜子みたく極めてるわけじゃなく中途半端……魔薬による肉体強化も並の魔族に毛が生えた程度か。期待外れだな」
カムイは尚も冷めた目つきで袁鹿角が落ちていった窓を眺めながら酷評する。彼は袁鹿角がある程度できる雰囲気をしていたためウォーミングアップ感覚で遊んでみたのだ。しかし大した技も持っておらず、魔薬による身体強化も大したものではなかったため、彼を満足させられるほどの者ではなかった。そのため、カムイはすぐに飽きて早々に決着を付けたのである。
カムイは腹に突き刺さった鹿角刀を抜き取る。抜いた瞬間にはすでに傷口は塞がっており、血もほとんど出ていない。端から見てまったくの無傷だ。彼は鹿角刀をその辺に投げ捨てると部屋に残ったボスへ視線を向ける。
「さて、残ったのはアンタだけだな……」
「ひ、ひぃぃぃいいいいいいっ!!?」
ものの数十分で部下や傭兵を失ったボスは悲鳴を上げて腰を抜かす。彼は恐怖のあまり涙と鼻水で顔を、そして失禁によりズボンを汚しながら地に伏せカムイへ頭を下げる。
「ゆゆゆ許してくださいぃぃぃぃぃいいいいっ!!か、金なら……金ならいくらでも払いますぅ!!だからどうか、命だけはお助けをぉぉぉおおおっ!!」
彼は何度も頭を下げて無様に命乞いをする。それはとても一介の組織のボスとは思えない、情けない姿であった。そしてそれを見たカムイの目は先ほどよりも冷たく、まるで汚物でも見たかのような目つきである。そしてカムイは無銘剣虚無を肩に担ぎ、静かに口を開く。
「なに命乞いなんてしてるんだてめえ……」
「―――えっ?」
「散々悪いことしてきたんだろ?他人の人生食い物にして金を稼いできたんだろ?その癖、自分の命が危なくなったら命乞いか……どれだけ失望させれば気が済むんだ?」
「ひぃっ!?」
僅かにカムイの言葉に怒気が混ざる。そして彼は無銘剣虚無をボスに突きつける。
「ここんとこずっとストレスが溜まってるっていうのに、雑魚ばっかり相手させられた上に最後は命乞いかよ……どれだけイライラさせる気だ、あぁっ!?」
「ひぃぃぃいいいいいいっ!!?」
「―――抵抗もしねえのかよ。……はぁ、もう良い。目障りだ、とっとと死ね」
―――ザシュ!
カムイは冷たくそう告げると、掲げた無銘剣虚無をボス目がけて振り抜いた。そしてボスの首が刎ね、命を刈り取るのであった。―――。
「―――というわけで、シマで好き勝手やってた連中は始末したぞ」
「おう、ご苦労だったなカムイ。お疲れさん……って言いたいところだがよ」
「……なんだよ一郎太。なんか文句でもあんのか?」
組織を壊滅させたカムイは、そのまま依頼主がいる場所へ赴いた。彼の前には今回の雇い主であり、カムイにとって旧知の仲でもある―――顔と上半身がオオカミのような姿の男が椅子に座っている。
彼はワーウルフと呼ばれる半人半獣の種族であり、名を“灰狼一郎太”と言う。彼は獣王会という小さなヤクザに属する男である。
獣王会は元々龍門の下部組織で、魔族の一種である獣人を中心としたギャングであったのだが、DCウイルスにより龍門が崩壊し獣王会の跡目が一郎太に変わったことをきっかけに、獣人の並外れた力とヤクザの人情溢れるあり方によって東京キングダムでの勢力を伸ばしていた。
しかし元々が小さい組織であったため勢力が大きくなるにつれ、人手が追いついていない状況が続いていたのだ。今回もそんな彼らの隙を狙ったかのように同じ龍門の下部組織が、獣王会の縄張りで好き勝手し始めたのだ。
元は同じ龍門の下部組織であるがそのやり方は獣王会とは真逆であり、彼らと敵対するのは時間が掛からなかった。しかし獣王会は慢性的な人手不足であり、逆に敵組織は汚い金を稼いではそれを使って兵隊達を囲っているため、下手な戦力ではどうしても被害が出てしまう。
一郎太自身も別件で動けない状態であったためどうしたものかと困っていたときに、カムイの存在を思い出した。カムイは獣王会がまだ小さな地元ヤクザだった時から仕事を斡旋して貰っており、獣王会の面々とも交友関係を築いていたのだ。
そのため今回の一件を傭兵であるカムイに対処して貰おうと一郎太は考え、彼に依頼を回した。そしてカムイもまた、今ヨミハラで同居している凜子がちょうど五車学園での期末試験があるため五車の里に帰っており手が空いているという理由で依頼を受けたのだが―――。
「まさか一日で組織壊滅させるなんて思わねえよ……なにやってんだよお前」
「いや、敵組織を潰せっていってきたのは一郎太の方じゃねえか」
「構成員丸ごと潰せなんて頼んでねえよ!事後処理が大変だぞこれ!!」
カムイから事の顛末を聞いた一郎太は思わず頭を抱えた。まさか依頼を回した次の日に敵対組織がトップだけじゃ飽き足らず構成員を皆殺しにして潰されるとは夢にも思わなかったのだ。おかげで一郎太の仕事が増える一方である。
「まったく……いくら昔っから気性が荒かったとはいえ、これはやり過ぎだぞ」
「悪い、ちょっと相手が弱すぎて加減ができなくてな……」
「……おい、お前最近少し様子おかしいぞ。なんかあったのか?」
「……別に、なんもねえよ」
「いやいや、いくらお前でもちょっと前まではここまで派手にやらなかっただろ……」
一郎太は思わず訝しんでカムイを見つめる。彼とは昔からの知り合いであり、酒だって酌み交わした仲である。獣王会の仕事だって一緒にこなしたこともある。その時のカムイは確かに暴走癖はあったが見境なしに敵を全滅させるようなことはしなかった。
だが今の彼はまるで力を持て余しやたらめったら暴れ回っているようにも見え、一郎太はそんな様子の彼の身を案じる。しかしカムイは笑みを浮かべ何でも無いと言う。
「心配するなよ一郎太、最近ちょっとイライラしてるだけだから……心配するほどのことじゃねえよ」
「……なら良いけどよ。とりあえず依頼は完了だな、今報酬を持ってこさせる―――おーいトラ!」
「今持って行くのだ兄貴!」
一郎太はカムイが無理して笑っているのを察しながらもそれ以上追求はしなかった。そしてそのまま別の部屋に待機している者に呼びかける。するとドアが開き、部屋に少女が入ってくる。
彼女は“トラジロー”という名前であり、見た目こそ少女であるが一郎太の妹分で、彼女もまた立派な獣王会のメンバーでありワータイガーという虎の獣人である。その力は凄まじくワーウルフである一郎太にも引けを取らない。
「ほら、持ってきたぞカムイ。今回の依頼の分なのだ」
「ありがとなトラ~」
「ふにゃっ!?か、勝手になで回すんじゃない!!」
「おっと、悪い悪い」
「まったく……」
彼女は両手に持っていたトランクをカムイに差し出す。カムイはそれを受け取ると、ニコニコと笑いながらトラジローの頭をなで回す。トラジローは獣王会のメンバーであるが、見た目が完全に少女であるため獣王会のメンバーはよく子供扱いされており、カムイもまた同じくトラジローを子供のように扱うことがある。
子供扱いされるのが気に食わないトラジローはカムイの腕を振り払って歯を剥き出しにして威嚇するが、カムイはどこ吹く風である。そして彼は受け取ったトランクを片手に立ち上がる。そして二人に手を振って部屋を出て行く。
「じゃあな一郎太、トラ……あんまり無茶するなよ、また何かあったら呼んでくれ」
「おう、またなカムイ」
「ふん、カムイに言われるまでもないことなのだ……次はお客として来るのだ」
「ハハ、ありがとよトラ」
二人に温かく別れを告げられ、カムイは笑いながら部屋を出て行き獣王会のアジトを後にするのであった。
カムイが出て行った後、しばらく腕を組んで黙っていた一郎太は、横に居るトラジローに声をかける。
「―――トラ、最近のカムイの様子をどう思う?」
「……まるで飢えた獣なのだ。あの暴れっぷりからしてタローよりもたちが悪いのだ」
一郎太の言葉にトラジローはそう答える。獣王会にはトラジローの幼なじみであり、白熊の獣人である“白熊タロー”という者がいる。彼は酒に酔ったり腹が減ると理性を失ったように暴れ回るという困った悪癖があるのだが、それでもカムイの最近の暴走ぶりとは比較にならない。
今のカムイはまるで血に飢え、獲物を求めて歩く獰猛な獣のようであった。その危うい雰囲気に一郎太とトラは危機感を覚えてしまう。
「―――カムイのやつ、変な気を起こして余計なことに首を突っ込なきゃいいんだがな」
「カムイも馬鹿じゃないのだ。物事の分別くらいつくはずなのだ」
「だといいんだがなぁ……」
一郎太は深いため息をつく。今のカムイだと、自分から危ない橋を渡るような真似を平気でしそうだと感じてしまい、心配せずにはいられなかったのであった。
獣王会の仕事を終え報酬を受け取ったカムイは、そのまますぐにヨミハラへと戻りとあるバーを訪れ酒を呷っていた。その雰囲気は明らかに不機嫌そのものである。
なぜカムイがここまでイライラしているのかというと、それは彼の欲求不満が原因であった。ここ最近、傭兵としての依頼で戦ってきたのはどれも大した腕のない犯罪者ばかりでありファルシオンに変身しなくてもちょっと相手をするだけで簡単に死んでしまうため、彼の戦闘衝動を満たせるような相手はいなかった。
そのため緊張感溢れる戦いを楽しむことができないでいた彼は行き場の無い怒りに苛まれているのだ。カムイはイライラした様子で続けて酒を頼みそれを一気に口の中に流し込む。そこには先ほど獣王会で見せた柔らかな雰囲気は無い。そんな彼の様子を見かねて彼の正面にいたバーのマスターが話しかけてくる。
「―――くそがっ!また外れだった」
「おや、今日も随分荒れている様子だねカムイの兄さん。また欲求不満が爆発したのかい?」
「ほっとけ優吾、いいからお代わりくれ」
「はいはい」
バーのマスター“古賀優吾”の軽口にカムイはふてくされた態度で接し、グラスを揺らして酒の追加を要求する。そんな彼の様子に優吾は苦笑いを浮かべて空いたグラスに酒を注いでいく。
ここは最近カムイが最近見つけたバーであり、お気に入りの店の一つである。店の名はなく、知ってる人間には『あの店』『奴の店』で通じる。そして優吾はその店のマスターでありながら、リボルバーの名手として知られている。
優吾はカムイがここ最近よく客として訪れるためか彼の好戦的な性格を理解し始め店で話を聞いている内に、こうして軽口を叩く程度の間柄にもなっているのである。
「はぁ……」
「また深いため息をつくね」
「……ここ最近弱小組織の雑魚ばっかり相手してきてつまんないんだよ。もう酒でごまかすしかないんだ」
「ここら辺でカムイの兄さんを相手できる人は少ないからね」
「……優吾、もうこの際お前でもいいからちょっとだけ相手してくんないか?」
「ハハ、勘弁してくれ。俺はまだ死にたくないよ」
「……冗談だよ。俺はこの店が気に入ってんだ、潰す気はさらさらないよ」
カムイの軽口をさらりと流し、優吾は静かに笑いながら静かに酒を注いでいく。カムイはつまらなそうに頬杖をつきながら酒が注がれたグラスを揺らす。それを眺めながら、またつまらない一日だったなとカムイが考えていた、そんな時であった。
「あら、可愛らしい坊やがいるじゃない。一緒にどうかしら?」
「あん?……っ!!」
後ろから声が聞こえたためカムイは振り返る。そこに立っていたのは全身が紅一色のグラマラスな美女であった。大半の男はその魅力溢れる肢体に目を奪われるであろう。そしてカムイもまた彼女を見た瞬間、目を奪われた。
しかしそれは女として魅力によるものではない。彼女に内包している恐ろしいまでの力を感じたからだ。カムイが戦ってきた奴らの中でも一線を画するほどの力を有しているであろうことをカムイは一目で見抜いたのだ。
「いらっしゃい姉さん。いつもので良いかい?」
「そうね、お願いするわ優吾」
突如として現れた強大な力を有する女にカムイは固まってしまうが、優吾はそんな彼女に気さくに話しかけて注文を取る。そしてその美女はそのままカムイの隣の席へと腰掛けた。
「……優吾、誰だこの人は?」
「ん?兄さん知らないのかい?この人は―――」
「―――アスタロト、獄炎のアスタロトよ。よろしく、坊や」
「……獄炎の女王、魔界9貴族の一人か」
「あら、どうやら知っていたみたいね♪」
アスタロトという名前を聞き、カムイは表面上は冷静を保っているが内心驚愕していた。まさか彼女のような大物がここを訪れていたとは思いも寄らなかったのだ。
“獄炎の女王アスタロト”―――魔界の一角、マグマが流れる灼熱の大地を領土としている者であり、強大な力と権力で広大な魔界を支配している九人の魔界貴族の一人。魔界屈指の炎の使い手で、その美貌と好戦的な性格から名を馳せている。その実力はかの吸血鬼“エドウィン・ブラック”に匹敵するとも言われている。
元対魔忍でありながら闇の世界に足を踏み入れていたカムイは、ある程度は魔界の情報も耳に入れていたがまさかそんな大物がこのヨミハラにいるとは考えもしなかった。
そして隣に座っただけで伝わるほどの圧倒的な力を持ったアスタロトに対し、カムイは必死に自分を押さえ込む。極上の獲物が突如として傍にやってきてことにより激しく沸き立つ衝動に耐え、あくまで冷静に横目で彼女を見つめる。
「……その魔界の貴族様がなんで人間界にいるんだ?」
「私の従者に聞いてね、今の人間界にはかなりの強者が集まっているそうじゃない。ヒマだから、散歩がてら本当に強い者達がいるのか見に来たのよ」
「ふーん……で、そんな暇人のアスタロトは俺に何のようだ」
「別に用はなかったわ。ただ退屈な夜だから暇つぶしでここを訪れたの。そしたら可愛い坊やがいたから声をかけただけよ」
「そうかい……」
「―――けど、可愛い坊やだと思ってたけど見当違いだったわ。あなた、殺気が隠しきれてないわよ。まるで獣ね♪」
「……気に障ったのなら失礼。あんたがあまりに強そうだったんで、つい」
「ふふっ♪このアスタロトを恐れもしないのね……気に入ったわ」
「……そりゃどうも」
「それに、あなたもわりと強そうね。……どうかしら、この後時間ある?」
「もちろん」
グラスに入ったお酒を飲みながらかけられたアスタロトの言葉にカムイはもはや笑みを隠せずにいた。一目見て自分から誘うつもりでいたが、まさか向こうから誘ってくるとは思いもしなかった。彼はもはや心の中で歓喜している。
「……ごっそさん優吾、釣りはいらねえ」
「ごちそうさま、優吾。今日はここまでにするわ」
「おや二人とも珍しい、今日は早いね。もういいのかい?」
二人はそう言うと早々に席を立つ。本来なら二人はこのバーでもっと酒を楽しんで時間を潰すはずなのだが、今日は早々に切り上げている。アスタロトに至っては呑んだのは一杯のみだ。
「……もしかしてお二人さん、気が合ったのかな。これからお楽しみなのかい?」
「……そうだな、確かにそうかもな。安心しろ優吾、店には迷惑はかけねえよ」
「そうね、今日は熱い夜になりそうね♪じゃあね優吾、勘定いつも通りツケにしておいて。あとでウェスタに持たせるわ」
「承知しました、女王。二人共、またのお越しをお待ちしてますよ」
優吾が恭しく一礼する。しかし二人はそれに見向きもせずに店の外へと歩いて行った。
「この辺でいいかな……」
優吾のバーを出たカムイとアスタロトはしばらく歩き、やがて人気のない場所へとたどり着く。二人は笑みを浮かべて相対した。
「あら、ここでやるのかしら?」
「あぁ、ここなら誰にも邪魔が入らない……満足いくまでやり合うとしようか、アスタロトォ!!」
「ふふふっ、せっかちね♪」
カムイはすぐさま躍りかかりアスタロトに向かって拳を振り上げる。アスタロトはそれを余裕の表情で見つめて軽く腕を振るった。その瞬間である。
―――ゴオッ!!
アスタロトの腕から凄まじい勢いで獄炎が噴き出す。彼女が操る獄炎は魔界の灼熱の大地から召喚されるものであり、大地の脈動がある限りその炎がつきることなく彼女に従うのだ。
カムイはそれを避けることができず真っ正面から受けてしまう。炎が全身を包み込み、凄まじい火力で彼の身体を焼き尽くしていく。
「がぁぁぁあああっ!!?」
獄炎の中でカムイは悲鳴を上げる。そして一瞬のうちに彼の身体を獄炎は焼き尽くしたのだった。
「あら、もう終わりなの?強そうだと思ったのだけど、期待外れだったかしら」
まさかの一瞬の決着によりアスタロトは拍子抜けし、腕を組み冷たい眼差しでカムイが燃え尽きた場所を一瞥する。しかし彼の身体が燃え尽きてできた灰の中から突如火の粉が舞う。
「いやぁ、試しに食らってみたけどすげえ炎だな。腹をぶち抜かれたりしたことはあったけど一回殺されたのは初めてだ」
「―――なんですって……?」
アスタロトは思わず目を見開いた。なんと火の粉の中から先ほど骨も残さぬほど焼き尽くしたはずのカムイが無傷で姿を現したのだ。カムイはなんともないといった様子であり、獰猛な笑みを浮かべてアスタロトを見つめる。その手にはいつの間にか無銘剣虚無が握られている。
それを見たアスタロトは納得がいったと言わんばかりの顔になる。
「“無銘剣虚無”……世界をも滅ぼす聖剣なんてただの噂だと思ったけど実在したのね。それがまさか、人間の男が所有しているなんて驚いたわ」
カムイは確かにアスタロトの獄炎で身体を焼き尽くされた。しかしファルシオンの能力によって無限の再生を得ているカムイにとって、ただ身体を消滅させられて殺された程度ならすぐに復活してしまうのである。
「へぇ、コイツを知っているんだな女王様……ならその能力は分かってるよな?」
「ふふっ、ならこれはどうかしら?」
「―――おらぁあああああっ!!」
アスタロトは笑みを浮かべ再び腕を振るって先ほどよりも大きな獄炎を呼び出す。それはカムイへと襲いかかるが、彼はすぐさま無銘剣虚無を構える。すると無銘剣に赤黒いオーラが纏い、そのまま斬撃による衝撃波を放つ。それはアスタロトの獄炎とぶつかると同時に一瞬で炎をかき消してしまったのであった。
「驚いた……♪私の獄炎をかき消すなんて♪」
「まだまだこんなもんじゃねえよ」
無銘剣虚無による能力の無効化を目の当たりにし、アスタロトは嬉しそうに笑みを深める。カムイもまた、これまでにないほどの強敵を目の前にして興奮を隠しきれないでいた。そして無銘剣虚無を腰のブレードライバーに納刀し、懐にしまってあったエターナルフェニックスワンダーライドブックを取り出す。
『エターナルフェニックス!』
カムイはそのままワンダーライドブックをブレードライバーに装填し、無銘剣虚無を引き抜いて左手に持ち替える。そして空いた右手の人差し指を顔の前に持ってくる。
『抜刀!』
「しーっ……変身」
『エターナルフェニックス!』
『虚無、漆黒の剣が、無に帰す!』
カムイの身体を炎の鳥が包み込み、仮面ライダーファルシオンへ変身する。アスタロトは
突如姿が変わったのを見ても特に驚きはせず、笑みを浮かべたままである。
「それが貴方のもう一つの姿というわけね?」
「そうだ……仮面ライダーファルシオン、それが俺のもう一つの名前だ」
「―――ふふふっ♪いいわ、とてもいいわあなた♪久々に熱くなれそうね♪」
「あぁ、俺もあんたみたいな奴と戦えると思うと嬉しくてしょうがねえよ」
「さあ、勝負しましょうファルシオン。私を楽しませてちょうだい」
アスタロトがそう言うと、彼女の手にかつて無い熱が帯びる。カムイは彼女をまっすぐ見つめ、仮面の下で獰猛な笑みを浮かべて無銘剣を構える。
「―――ハハ、いいぜ。二度と忘れられないよう身体に叩き込んでやるよっ!!」
カムイが叫びアスタロトに再び襲いかかる。今ヨミハラで二人の強者が激突するのであった―――。
最近めっきり寒くなってキーボードを打つ手が震えてしかたない毎日です。一気に寒くなったので暖房の環境を整えるのが大変でした。
お知らせなのですが、10月30日を持って当小説の全年齢Verを削除しました。皆さんアンケートにご協力いただき、ありがとうございました。今後とも執筆活動を頑張っていきたいと思いますので、応援の方をよろしくお願いします。
オリ主のヒロインに追加するなら誰が良い?
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甲河アスカ
-
鬼崎きらら
-
神村舞華
-
馬鹿野郎全員ふうまの嫁だろ