サイバーパンクな忍者世界で不死身の剣士してます 作:ニゴリエース
その異形は、己という存在に虚無感を抱えていた。創造主による気まぐれによって生み出された、不死身の肉体を持つ怪人―――仮初めの命でできた異形は、ただ命じられるがままに戦うことでしか自分の存在を表すことができなかった。
異形は自由と自身の存在意義を求め、各地を彷徨い更なる戦いへと身を投じた。その中で、異形は自分に近しいと思える存在と出会った。強さを求めて戦う未熟な剣士―――その存在に異形は声をかけた。
『強くなりたいなら、俺と来い』
異形からの誘いを剣士は何度も払った。しかし剣士は多くの挫折と己の弱さに打ちひしがれ、ついには異形の手を取る。そこから彼らの物語が始まった。
異形は弱さに振り回され、迷いながら何度も立ち止まる剣士を導き、時には激励し共に歩んでいった。剣士は異形を鬱陶しがりながらも彼の言葉に導かれ、次第に本当の強さへと至っていく。しかし異形の方は仮初めの命が燃え尽き始め、創造主からは無意味な存在と斬り捨てられた。
異形は己の命が終わる前に、剣士との本気の決闘を望んだが、剣士はその戦いを意味がないと断じた。さらに異形は創造主が気まぐれで適当に作った存在で、意味などない存在だと聞かされる。己が何も残せないまま消えていくという絶望を抱え、異形は静かに己の消滅の時を待った。そんな彼の前に、別れたはずの剣士が姿を現す。
『苦悩と決意に満ちた、甘くて苦々しい匂いがする……』
『……お望み通り、お前と戦ってやるよ』
『へぇ……どういう風の吹き回しだ?……まあいい……来いよ』
かくして異形と剣士の最後の戦いが始まった。剣士は異形を倒して己は先に進むと宣言し、異形は嬉々として彼を迎え撃つ。しかし剣士が他人の技を使ったため、異形は剣士に失望を顕わにする。
異形はそうではないと言い放ち、剣士を斬り捨てる。剣士は地面に倒れ、己の非力さを身に感じて絶叫する。
『あぁあああっ!!なんで俺こんなに弱えんだよ!?』
嘆き叫ぶ剣士に対して失望した異形は、容赦なく斬り捨てようと剣を掲げる。
『お前の存在意義はない……』
異形がそう吐き捨て、剣を振り下ろす。しかし剣士は斬り殺される瞬間に、脳裏である言葉を思い出す。
『強さの果てを見たくないか?』
かつて異形に掛けられた言葉に、剣士はギリギリのところで持ち直す。剣士は再び立ち上がり異形と相対すると、果敢に挑みかかる。迷いや恐れを捨てた剣士の怒濤の連撃を受け、異形の心は喜びに満ちる。
『ハハハッ!!どうした?お前らしくなってきたじゃねぇか―――』
『お前じゃない!!俺は……“―――”だ』
『俺は……“――――”だ!』
お互いの存在を確認するかのように名乗りを上げ、二人の決闘はさらに激しさを増していく。戦いにのめり込んでいく二人であったが、異形はすでに己の存在が消え始めているのを感じ動きを止める。それを見て剣士は剣を止めてしまうが、それでも異形は止まることなく戦いを続ける。
意味のないまま消えてたまるかという異形の思いを感じ、剣士は静かに剣を構えて彼を見据える。
『俺の全存在をかけて……お前を倒す』
『……フフフフフッ……ハハ、ハハハハハハッ……来いよぉぉぉおおおおっ!!』
剣士の静かな宣告に、異形は喜びを顕わにした。剣士にとって、己は決して意味のない存在ではない。存在全てを掛けて倒すべき敵だという言葉に、異形は自分という存在の価値を見出したのであった。
異形と剣士の戦いは佳境を迎えていく。異形の放つ剣を弾き、無防備になった彼に向かって剣士は渾身の一撃を繰り出していく。異形は静かに、それを受け入れるのであった。
『あぁ……つまんねぇな、もう終わりか……』
異形は地面に倒れたまま、そう呟く。その身体はまるで消えかけの火のようになって消滅していく。己の存在が終わりを迎えることに悲しさを覚えながらも、異形は自分が満たされていることを実感する。
そして消えゆく中で、異形は身体を起こして剣士に向かって最後のやりとりを行う。
『お前はそのままでいいんだよ……。ああ、それとな……紅生姜、ちゃんと食えよ?フフフフッ、ハッハッハッハッハッハッ……』
『ハァ……。マジ……ないわ』
異形はそう言って消滅していった。確かな満足感を得て、異形の命は終えたのであった。
『―――うんうん、良い物語だ!感動的だったよ!だがそれじゃあ物足りない!君という存在にはまだまだ価値がある。こんな所で終わらせるなんてもったいない』
『だから私が君に、新しい人生を与えてあげよう。そして新しい世界に君を送ってあげよう。そこで思う存分、味わえなかった世界を楽しみ給え。そしてせいぜい、君の物語を続けて私を楽しませてくれ♪』
『君には期待しているよ、怪人君♪』
「……ハァ、マジないわ」
備え付けられたソファで寝そべっていた異形は、かつて剣士が吐いた言葉と同じ台詞を気怠げに呟いた。折角心地よい夢を見ていたというのに、最後に出てきた存在によって気分が台無しである。
あの日、異形は己の存在意義を見いだし死んだ筈であった。しかし彼はどういうわけか生き返っていた。神と名乗る存在から以前と同じ姿と仮初めの命を与えられ、見たこともない世界に放り出された。
最初こそ異形は怒った。自分は満足してあの結末を受け入れたというのに、神を名乗る存在の気まぐれで再び蘇させられ見知らぬ世界に捨てられたのだから、異形にとっては無責任かつ勝手極まりない行為であった。
しかし異形はすぐに気持ちを切り替えた。生き返ったのなら生き返ったで、再びこの命を使って世界を楽しむのもありと考え、異形は以前と同じように各地を彷徨い始め強そうな者がいれば勝負を挑む生活を続けていた。
そして今日もまた、異形は戦いを終えて自身が寝泊まりしているソファで惰眠を貪っていた。本来なら眠るという行為は必要ないのだが、他にすることもないため仕方なく横になっていたのである。
そして自分が死んだ日のことを夢で見たため、異形はそれを懐かしみながらも楽しんでいたのだが、件の神が現れた所で目覚めたため気分は最悪の一言である。
「ったく、仕方ねぇ……出掛けるとするか」
異形はそう言ってソファから立ち上がると、肩にドクロの装飾が刻まれた長剣を担ぎ歩き始める。そして部屋のドアを開けて外へ出ようとすると、彼の後ろから声を掛ける者達が現れる。
「あれ?新入り、どっか行くの~?」
「なになに、新入りまた出掛けるつもりなの?」
「あぁ?……あぁ、夢見が悪くてな。気晴らしにちょっと出掛けてくる……」
異形に声を掛けたのは二人の少女であった。しかし見た目は少女であるが、どちらもその背には翼が生えていた。彼女もまた異形と同じ、人ならざる存在である。そして異形が今現在生活している住処の主人であり、異形がこの世界を訪れてから共に過ごしている二人組である。
異形が少女と出会ったのは数週間前であった。異形は目的もなく、当てもなくあちこちをふらふら彷徨って過ごしていたのが、ある時少女達がならず者の集団に追われているのを見かけたのである。彼女らが言うには、商売で金を巻き上げようとしたら失敗し、恨みを買って追われたいたのだとか。
それを見た異形は二人から人間ではない奇妙な匂いを感じたため気まぐれを起こし、ならず者の集団を追い払ったのである。そして異形は助けた少女達からこの世界について様々なことを尋ねた。人間界や魔界、少女達が魔族と呼ばれる存在であり、人間は魔族に対抗するための様々な組織や対魔忍なる存在がいるなど、あらゆる情報を知った。
そして少女達は異形が行く当てがないことを知ると、彼の強さを見込んで自分達の用心棒として雇われないかと誘ったのである。異形は特に目的もないため、強い剣士と戦えるのならとそれを受け入れたのである。
そこから奇妙な共同生活が始まった。異形は少女達の用心棒をしながら毎日剣士を探して襲う日々を過ごし、少女達は異形の強さを頼って詐欺紛いな商売を続け、金を稼ぎ続けたのであった。
そして今日は商売が休みなため、それぞれが思い思いに過ごしていたのだ。そして異形が今日もまた剣士を探しに行くことを知り、少女は渋い顔をする。
「新入りも熱心だねぇ~……というか、そんなに戦うのが楽しいの?」
「まあな……まっ、こればっかりは理解してもらおうとは思わねえよ……」
「ふぅ~ん。あっ、でもあんまり暴れすぎないでよ?この前みたいにやり過ぎてどっかの組織に目付けられたらボク達もたまったもんじゃないんだから!」
「ふっふっふっ、そりゃ無理な相談だな……まっ、もし狙われても心配すんな……いつもみたく俺が追い返してやるよ」
「ま~たそんなこと言って~。あんまり遅くなんないでよ~!!」
「そうだぞ~!用心棒のお前がいないと私たちの安全を誰が守ってくれると思ってるのさ~!」
「はいはい、分かったよ……」
少女達の言葉に対して異形は気怠げに答える。しかし彼女たちの言葉に不思議と悪い気はせず、異形は少しだけ気分を良くし、闇の街から漂う危険で蠱惑的な匂いに心を踊らせながら歩を進めるのであった。
場所は代わってヨミハラの裏通り―――魔界騎士リーナより剣士狩りの情報を得たため、ノマドの本部を後にしたカムイは暗闇が広がる道を一人軽快に歩いている。しかし彼は自身の周囲をチラリと確認しながら歩いており、どこか警戒を顕わにしている。
(……付けられてるな)
それもそのはずであった。カムイがノマドを出てからしばらくして、彼が人通りの少なくなった道を歩き始めた時から自分を付けてくる存在がいることを感じ取っていたのだ。
なんの目的かは知らないが、その自分を狙って動いているのは明白であるためカムイはあえてその存在を誘い出すために人気がない場所を探し始めたのである。そして人の数が少なくなっていくと、その存在が自身に段々と近づいてきているのを彼は感じる。
(刺客……にしては数が少ないな。恐らく一人……例の剣士狩りか?)
もしや探していた件の剣士狩りの方から自分に近づいてきたのではと予想し、カムイは内心ほくそ笑む。もし剣士狩りならば願ってもないことだからだ。カムイはこれから起こるであろう戦いを想像し、疼き始める自身の心を必死に抑える。
やがてカムイは人混みから外れた、事を起こすにはうってつけの静かで人目が付かない場所へとたどり着き歩幅を小さくする。すると少しずつ、しかし確実に気配が近づいてくる。カムイはゆっくりと腰に差した無銘剣虚無へと手を伸ばす。
(さぁ、来いよ怪人……来い、来い、来いっ!俺とも戦いを楽しもうぜ!!)
カムイは獰猛な笑みを浮かべ、ついに無銘剣虚無を掴みその存在を迎え撃とうと身構えた。その瞬間であった―――。
―――ムニュゥっっ♡
「ふっふっふ~っ♪だ~れだ♪」
彼の視界が唐突に暗くなり、後頭部に柔らかい何かが押しつけられた。どうやら視界を手で覆われたのであろう。闇の街であるヨミハラでは道すがら人を襲う輩が存在するが、このような悪戯をする手合いは存在しないであろう。
カムイはその声と唐突な悪戯染みた行為に拍子抜けしながらも、今自分の後ろにいるであろう存在が自分のよく知る人物であると理解し、思わずため息をついた。
「……なにやってんだ、さくら」
「にゃははははっ!やあカムイちん、おっひさ~♪」
両目を塞ぐ手を振り払い、カムイは振り返る。そこにいたのは、予想通り―――カムイの幼なじみであり五車学園では同じく教師を務めていた、最強の対魔忍である井河アサギの実妹“井河さくら”がそこに立っていた。
唐突なさくらの登場にカムイは内心驚きながらも、五車の里で別れる前と変わらない陽気で明るい、おちゃらけた態度に呆れた様子を見せる。
「おひさじゃねえよ……なんでお前がここにいるんだ」
「むっ、久々に会ったのに随分冷たい反応するじゃん。もっと再会を喜んでよ~」
「……相も変わらずやかましい奴だなお前は」
カムイの言葉にさくらは頬を膨らませてむくれる様子を見せるが、カムイは特に気にする事はない。そのままカムイは両腕を組んで壁に寄りかかり、ジト目で彼女を見つめる。
「―――で、改めて聞くけどなんでお前がここにいるんださくら」
カムイはさくらにそう尋ねる。さくらは五車学園で教師を務めているため、本来ならヨミハラに居るはずがない。そんな彼女がここにいるのだから恐らく任務が絡んでいるのだろうと考え
、その内容をそれとなく聞こうとしたのだ。
「いやぁ、実は最近ヨミハラで剣士狩りってのがいるって話じゃない?対魔忍の方で襲われた人はいないんだけど、それでも色んな所で散発的に被害が広まってるじゃない。カムイちんも噂くらい知ってるでしょ?」
「あぁ、今まさにそいつのことを探ってる所だよ……まさか、お前もか?」
「そうそう。お姉ちゃんが言うにはね、このままだと剣士狩りは対魔忍にも狙いを付けるかもしれないから、被害が出ないうちに対処したいってさ。んで、私がヨミハラの偵察担当ってことで潜入したんだ~」
さくらは特に隠すこともなく自分が偵察任務でヨミハラを訪れたことを話す。その格好は彼女が対魔忍だとバレないよういつもの対魔忍スーツではなく、少し肌が露出した派手な私服を纏っている。
「なるほどな……んで、その任務をサボってお前はわざわざ俺に会いに来たってことか?」
「えぇ~サボったわけじゃないよ~!たまたまカムイちんの姿を見かけたから声かけようと思っただけだよ♪」
「ふぅ~ん?」
「むぅ、疑ってるなぁ……まっ、それは置いておくとして。とりあえず久しぶりに再会したんだし、これから一杯どう?」
「任務って言った矢先に酒を飲もうとするんじゃない」
「えへへ~、冗談冗談!」
さくらが悪戯っぽい笑みを浮かべながらふざける様子を見て、カムイはため息をつきながらもそのやりとりにどこか懐かしさを感じていた。
「まっ、とにかくカムイちんも剣士狩り探してるなら都合が良いね!ここは私と一緒に探すのってのはどう?」
「断る……奴は俺一人で探す」
「えぇ~なんでさぁ!二人で探した方が効率いいじゃん!ぶぅ~ぶぅ~!」
「剣士狩りは俺の獲物だ。それに、恐らくお前じゃアイツは仕留めきれない。だからお前はもう帰れ」
「そんなの分かんないじゃん!そんなに危険なら尚更二人で行動した方がいいでしょ?」
「いいや断る。剣士狩りとは俺が戦う」
「むぅ~……もうつれないなぁカムイちん。少し一緒にいてもいいのに……折角会えたのにそんなに冷たくすると、悲しくなっちゃうじゃん」
さくらの誘いを断り頑なに一人で剣士狩りを探そうとするカムイの態度に、さくらは寂しそうな表情を見せる。そんな彼女の顔を見てカムイは少し罪悪感を覚え、面倒くさそうに頭をかくと懐から紙とペンを取り出す。そして紙に何かを書くと、それを彼女の方へ差し出す。
「時間になったらこの酒場に来い……酒くらい奢ってやるから、それで勘弁してくれ」
「わぁ~い、やったーっ!!約束だからねカムイちん!!遅れたらダメだからねぇ~!!」
「ハァ……現金な奴め」
カムイから紙を受け取ったさくらはけろりと態度を変え、明るい笑みを浮かべてその場から駆けていく。そんな彼女をカムイはため息をつきながら眺め、苦笑いを浮かべるのであった。やがてさくらの姿が見えなくなったのを確認したカムイは、再び剣士狩りを探すために踵を返す。
「さて、それじゃあ剣士狩りの捜索再開と行きますか」
「―――待てごらぁぁあああああっ!!」
「逃げんじゃねぇこのクソメスガキ共おぉぉぉおおおおっ!!」
「ぎゃぁぁあ~~~!待って待って、勘弁してぇぇええええ!!」
「ボク達をどうするつもりなのさこの痴漢―――っっ!!」
「……あっ?」
しかしその時、遠くから怒号が響くのをカムイの耳が捉える。そして声がした方を振り向くと、宙を飛んでいる何かを追いかけている集団がカムイの方へ駆けてくるのが目に入った。そして集団に追われている者達が、またまたカムイにとって見覚えのある人物であった。
「……な~にやってんだリリムにミナサキ」
「えっ!?あっ、兄貴~!!お助け~~~!!」
「兄貴ぃ!ちょうど良いところに!!ボク達を守ってぇ!!
宙を飛んでいる魔族二人―――下級夢魔のリリムと八咫烏のミナサキはカムイの姿を見るやいなや大急ぎで彼の背後に回る。そしてリリム達を追ってきた集団はそれぞれ武器を構え、カムイを挟む形で対峙する。彼らはそれぞれ斧やら銃やらを携えており、放つ殺気は尋常ではなかった。
「ようやく追い詰めたぞこのクソガキども!!」
「よくも俺らの商売を邪魔しやがったな!!」
「今日は護衛の奴もいねえ!ふん縛って娼館に売り飛ばしてやるぜ!!」
「……お前ら、今度はなにをした?」
彼らの怒り心頭な様子から、カムイはリリムとミナサキがまた何かやらかしたのだと察しジト目で自分の後ろに隠れている二人を見下ろす。
カムイが彼女たちと出会ったのは数年前であった。リリムとミナサキはよく二人で活動しており、よく悪巧みや悪事を働いてはトラブルを引き起こしている困った魔族の二人組だ。
カムイと初めて出会ったときも、その悪巧みが原因で追われていた最中であった。彼女たちが追われている途中でたまたま通りかかったカムイであったが、その時は見た目が少女の二人組であったため人攫いに追われているのだと思い、咄嗟に助けに入ったのである。
しかし話を聞いてみれば二人がとある組織の金庫から大金を盗み、それがバレて追われていたというのだから、カムイはとんでもない連中を助けてしまったと思わずため息をついたほどだ。
そしてそれ以来リリムとミナサキはカムイを“兄貴”と呼び、なにかにつけて金をたかったりトラブルに巻き込んだりしているのだ。ちなみにカムイも彼女たちを邪険にはしつつもどこか憎めないでいたため、なんだかんだ世話を焼いているのは余談である。
「い、いや~別になにもしてないよ」
「ちょっと物を拝借しただけで、い、いや、ちゃんと返す予定だったんだよ」
「あぁっ!?なに言ってやがるこのクソガキども!!」
「お前らが俺らの倉庫から取引のブツを盗んだんだろがっ!!」
「おかげで取引はパアだっ!それもこれもそこのクソガキどものせいだ!!」
「……お前ら」
カムイは思わず頭を抱えそうになる。ある程度予想はしていたが、また悪事を働いて追われていたことにカムイはあきれ果てていた。彼女たちに懲りるという言葉は存在しないようだ。カムイはやれやれといった様子でかぶりを振る。
「ねっ、お願いだよー兄貴!兄貴ならボクたちを助けてくれるよね!!」
「正直、関わりたくないしお前らが全面的に悪いから俺はすぐにでもこの場を立ち去りたい」
「そ、そんなーっ!?兄貴は可愛い子分である私たちがどうなっても良いっていうのかバカヤロー!!」
「バカはお前らだ、このトラブルメーカーども」
お騒がせコンビのリリムとミナサキはカムイの後ろでギャーギャーと騒ぐが、剣士狩りを探しに行きたいカムイにとってはいい迷惑な話である。そしてそんなやり取りをしている三人にしびれを切らしたのか、ならず者たちは武器を構えて襲い掛かる。
「いつまでくっちゃべってやがるてめえらっ!!」
「もうこの際関係ねぇ!そこの男も一緒に袋叩きにしてやれっ!!」
「「「うぉぉおおおおおおおっ!!」」」
「……あ~ぁ、結局こうなるのかよ」
雄叫びをあげて飛び掛かってくるならず者たちを前にし、カムイはうんざりといった様子で首をなでる。そしてすぐに気持ちを切り替え、ならず者集団を迎え撃つのであった。
時間にして十分程度が経過した。ならず者たちは一人残らず地に伏せ気絶していた。カムイは手の汚れを払い、つまらなそうにため息をつく。ウォーミングアップのつもりで相手してみたが、予想以上に弱く歯応えがなかったためカムイにとってはフラストレーションが溜まるだけの楽な戦いであった。
ならず者たちが軒並み倒され安全が確保されたのを見るやいなや、リリムとミナサキは笑顔でカムイへと近づいていく。
「いやぁ~流石兄貴!頼りになるー!!」
「ありがとう兄貴!なんだかんだ言ってボクたちを守ってくれるから大好き―!!」
「やかましいこのアホンダラ共」
―――ゴッ!ゴッ!
「「あいだぁっ!?」」
カムイは近づいてくる二人に拳骨を落とす。二人はそれをもろに喰らい、頭を押さえてうずくまる。
「そもそもお前らが盗みなんてしなければこんなことにならなかったんだ。いい加減学習しろ、この小動物共」
「なにさー兄貴までおやびんみたいなこと言ってー!!」
「そうだそうだー!!ボク達が何しようとボク達の自由じゃないかー!!」
「今その自由のせいで俺が巻き込まれたところなんだが」
説教を受けながらも反省する気がゼロの二人の態度にカムイは呆れるばかりであった。とにかくカムイはそのまま剣士狩りを再開しようと考えるが、ふと思い立ったのか彼は二人に声をかける。
「……そういえば、お前らに聞きたいことがあるんだが」
「へっ?兄貴が私たちに聞きたいこと?」
「珍しいー。兄貴がボク達に聞きたいことがあるなんてー」
「ちょっと人を探しているんだ……人っていうか、魔族と似てる感じの奴でな。巷じゃ剣士狩りって呼ばれているそうだ」
悪事や悪だくみのために様々な場所を渡り歩いているであろう二人組ならば、剣士狩りの居場所についてなにか知っているかもしれないと思い、カムイはリリムとミナサキの二人に尋ねたのだ。
カムイは事細かにその剣士狩りであろう人物の特徴を二人に伝える。最悪目撃した場所だけでも聞き出せればよいと期待していたのだが、カムイにとって予想以上の返事が二人から返ってきた。
「えっ?それってもしかして新入りのことじゃない?」
「新入り?」
「最近ボク達が用心棒として雇っていて、すっごく強い魔族みたいな奴なんだ……なんか、本の魔人とかなんとか言ってたような」
「……そうかい、なるほど。どうやら運は俺に傾いてきたらしいな」
まさかリリムとミナサキがすでにその剣士狩りと知り合っていたとは思わず、カムイは内心ガッツポーズをしていた。彼はすぐさま彼女達に剣士狩りの居場所を尋ねることにした。
「そいつは今どこにいる」
「なんか、夢見が悪かったとかどうとか言ってたから、気晴らしに出かけるとか言ってたよ」
「場所までは私たちも知らないよー」
「たぶんアジトで待ってればその内帰ってくるんじゃないかな」
「……なら、ミナサキ。お前のヤタガラスの能力でそいつの居場所を探してくれ」
カムイはリリムとミナサキのアジトに剣士狩りがいないと知ると、すぐさまミナサキにその居場所を探らせようとする。ヤタガラスであるミナサキには一度見たものを探知できるという能力が備わっており、それを使えば剣士狩りの居場所を立ちどころに察知することができるのだ。しかしミナサキは面倒くさそうな表情を浮かべる。
「えぇ~なんでそんなことしなくちゃいけないのさー!面倒くさいー!」
「そうだそうだー!大体わざわざ探しに行かなくたって私たちのアジトで待っていればいいじゃーん!」
ミナサキの言葉にリリムもまた同調する。基本的に自由なスタンスであるこの二人は己の思うがままに行動するため、やりたくないことには基本的にやる気を出さないのだ。しかしそんな彼女たちを見かねると、カムイは懐から何枚かの一万円札を取り出した。
「そっかー……かわいい子分の二人にお小遣いでもあげようかと思っていたんだが、そう言うことなら仕方ないな。自分の足で探すことにするか」
「ボクに任せてよ兄貴ー!すぐに新入りの居場所を探してあげるよー!!」
「そうそうっ!ミナサキちゃんがいればすぐに新入りがいる場所なんて分かるよー!!」
(ちょろいなこいつら)
金を見せた途端に手の平を返してやる気を見せる、金にがめつい二人にカムイは思わず苦笑いを浮かべるのであった―――。
一方その頃、カムイと別れたさくらは気楽な様子でヨミハラの裏通りを歩いていた。特に警戒している様子もなく、その足取りはどこか軽かった。
「さぁ~て……カムイちんとの待ち合わせまで時間あるし。どこかのお店で適当に時間でも潰しながら剣士狩りの情報を集めますかなー」
普段は教師として生徒を引率する立場であるが、今回は一人での行動なためすでに観光気分であり、さくらは久しく会ったカムイとの待ち合わせを楽しみにしながら歩いている。
「しっかし剣士狩りを探してこいって……なんの情報もないのに探せってのは無茶ぶりってもんじゃないのかなー」
今回のさくらの偵察任務の対象である“剣士狩り”なる存在は、アミダハラやヨミハラ、東京キングダムなど様々な所で活動が見られているが、その姿も目的もはっきりしておらず情報はほとんど皆無に等しいものだった。
そんな輩を探せと言われても姿がないのでは探しようがないため、自然と情報収集を行わなければならない。さくらもまた対魔忍であり、この手の任務は昔からこなしてきたためお手の物ではあるが面倒なものは面倒なため、思わず文句を垂れる。
「あ~ぁ、なんだったら剣士狩りの方から会いに来れば苦労しないのにな~」
さくらはそんなことを呟きながら大通りを目指す。そんな時であった。
「そうだな……考えてやってもいいかな……?」
「ん?」
大通りに差し掛かる曲がり角の陰から、ゆらりと身体を覗かせるものが現れ道を塞ぐ。さくらは足を止め、突然現れたその存在を見つめる。
その者は明らかに人間ではなく、頭部が赤い髑髏を彷彿とさせる形状となっている。さらに両肩にはオオカミの意匠があり、身体はまるで昆虫を思わせるような甲殻で覆われている。首元には赤いマフラーがたなびいており、片手には髑髏の装飾が刻まれた長剣を手にしている。
通常の魔族とも違う姿とその気配に、さくらは眉をひそめてその異形を観察する。するとその異形は長剣をさくらに向け、砕けた態度で自然に話しかけてくる。
「お前、面白い匂いがするな……戯けた魂と血に濡れた刃が擦れ合う、最高に愉快で危険な匂いがな」
「へぇ~……こんな美人を捕まえて危険なんて言うんだ。随分変わった魔族なんだね、君」
「フッフッフッ……お前、人間にしては中々強そうだな。ちょっと俺と遊んでいけよ……そおらっ!!」
「うわっと!」
異形は有無も言わさずにさくらへと斬りかかっていく。さくらはその斬撃を後方に宙返りして躱し、衣服を脱ぎ捨てる。その格好は新調した対魔忍スーツへと替わっており、どこから取り出したのか小刀を二振り逆手に持ち構える。
「なるほどねぇ、君が噂の剣士狩りってことか~。いや~まさかいきなり鉢合わせになるとは……普段の行いが良いのか悪いのか分からないものだ、ねっ!」
「ハハッ!そらっ!!」
―――ガキィィイインッ!キィィインッ!キィンキィンッ!!
さくらは身を低くして前へと飛び出し二刀を振るう。上段の振り下ろしからの袈裟斬り、空中を反転しながらの突き攻撃と、身軽でアクロバティックな動きをしながらの連続攻撃を繰り出すが、異形はそれを剣で弾いて防いでいく。
異形もまた長剣を振るうが、さくらはそれを飛んで躱す。しかし異形は勢いを殺さずに蹴りを繰り出していく。さくらはその蹴りが当たる直前、その蹴りに合わせて勢いよく異形の足を蹴り高く跳躍する。
さくらと異形は互いに距離を置き、それぞれの得物を構えて相手を見据える。異形はさくらの身軽さと鋭い攻撃に感嘆詞ながらも嬉しそうに笑う。さくらもまだまだ余裕という態度を崩さず笑みを浮かべている。
「―――ハハハッ!!お前、中々面白いな……本当にこの世界は退屈せずに済みそうだ……」
「ふっふー♪君も中々やるね~。なら、これはどうかな!」
さくらがそう言うと、二刀を構えて走り出す。異形は長剣を構えて受けて立とうとするが、彼の目の前でさくらの姿が突然掻き消える。
「なに……おうらっ!!」
―――ガキィィイイイイイインッ!!!
「うわわっ!?」
さくらの姿が見えなくなったことに異形は驚くが、すぐに後ろを振り返り長剣で袈裟斬りを放つ。すると、異形の背後の影から姿を現したさくらが慌ててそれを防御し、吹き飛ばされながらも体勢を崩さずに身構える。
さくらが異形の目の前で消えたのは、彼女の忍法である影遁の術によるものだ。さくらの忍法は影を利用したものであり、影の中を自在に移動できるのである。これを利用して異形の目の前で彼の影の中に潜り背後からの奇襲を狙ったのであるが、どういうわけか異形はそれを看破し、背後からちょうど飛び出したさくらに斬撃を放ったのである。
攻撃は防がれたが奇襲を潰した異形は、さくらの異能の力に関心を示す。そして彼女が同居している少女達から以前聞いた、対魔忍という者達であることを悟る。
「影に入れる能力……なるほど……あいつらが言っていた、人間でありながら異能の力を使う連中……対魔忍っていう奴らか……」
「いや~、まさか影遁の術を初見で見破られるとは思わなかったよ。君、なんで分かったのかな?」
「お前、匂うんだよ……」
「なぬーっ!?女性に対して匂うとか失礼だぞぉ!!」
「―――くっくっくっ、そりゃ悪かったな……」
さくらは異形の言葉に怒った態度で返すが、内心では異形の嗅覚の鋭さに舌を巻いていた。影に潜み、背後に移動したさくらを察知できるほどの嗅覚は驚異的であり、奇襲の類いが効かないと悟ったさくらはすぐに別の手を繰り出すことにする。
「奇襲はダメか……なら、ちょっと本気出しちゃおうかなっ!!」
さくらがそう言うと、意識を集中して術を再び発動させる。しかし彼女の身体が影に沈むことはなく、それどころか彼女の足下の影が膨れ上がっていく。するとその影はいくつも分裂し、さくらと同じ姿へと変わっていく。
影の形が変わったのを見た異形は警戒を顕わにして身構え、さくらの能力を冷静に分析する。
「なるほどな……影に入れるだけじゃなく、影を自在に操る能力か……面白い能力だな……」
「さあて、それじゃあいっくよ~っ!“影遁の術・影乱波”!!」
「―――せえやっ!!」
さくらと影達は一斉に異形に向かって駆け出していく。異形は迎撃のために背を向けると、首元のマフラーがいくつも分裂しまるで触手のように伸びてさくらと影達へと襲いかかる。
「よっ!ほっ!甘い甘い!!」
さくらは跳躍してマフラーによる攻撃を躱し、その上を走っていく。影もまた壁や地面を縦横無尽に走り、攻撃を躱していく。そして異形の元へとたどり着くと、すぐさま二刀による斬撃と影達による殴打と蹴りを繰り出していく。異形もまた負けじとその攻撃を弾いて防ぐ。
「とりゃっ!そりゃっ!」
―――ガキィィイイインッ!!キィンッ!!ドガッ!ドゴッ!!
「ぐっ!?鋭い斬撃の嵐と、影による予測できないほどの縦横無尽な攻撃っ!いいねぇっ!!」
四方八方から繰り出される攻撃の嵐に晒され、その全てを防ぎきることができずその身で受ける異形であったが、尚も嬉しそうに叫びながら反撃を繰り出そうとする。しかし反撃の刃が影に当たる直前、影はどろりと地面へ溶けていく。
「なにっ……!?」
攻撃が空振り、異形が驚きを顕わにする。そして次の瞬間には溶けた影が地面へと広がり、その中から影でできた槍がいくつも飛び出して異形の身体を貫いていく。
―――ドスドスドスドスドスゥッ!!
「ぐあぁぁああっ!?」
「殺すつもりはないけど、ちょっと大人しくしててもらうからねっ!」
影の槍に身体を貫かれ、身動きが取れない異形に向かってさくらは一気に加速していく。そしてトドメの一撃を繰り出すため、異形の胸に向かって小刀を閃かせる。
―――ザシュウッ!!
「がああぁぁぁあああああああっ!!?」
浅くではあるが斬撃を胸に受け、異形は力なく項垂れる。そして同時に彼を貫いていた影もまた消えていき、その身体は地面に横たわる。
「……う~~~んっ!よし、おしまいっ!!さあて、後はこの子を縛って色々と話を聞くことにしますかっ!」
異形との決着がつき、さくらは思い切り背伸びをする。そしてそのまま異形を拘束しようと彼に近づいていく。しかし次の瞬間であった。
「……なるほど、確かに凄まじい威力だ……気に入ったぜ……」
「えっ!?嘘っ、傷が塞がって!もしかしてむっちゃんやカムイちんと同じ―――」
「おうらぁっ!!」
「うっ!?」
大ダメージを喰らい倒れたはずの異形は、まるでなんてことのないように立ち上がる。彼の身体には傷が一切見当たらず、さくらは驚愕を顕わにする。そして異形が自分の幼なじみ達と同じ、瞬時に傷を癒やすことができるほどの回復力を持っているのだと思い知る。しかしその一瞬の隙を、怪物は見逃すことはなかった。
異形は長剣を振るうと、紫色をした刃状のエネルギーがさくらに向かって放たれる。躱そうにも影に潜る時間すらなく、さくらはせめてダメージを少なくしようと身を屈めて防御の姿勢を取る。そして―――。
―――ドゴオォォォオオオオオンッ!!
刃状のエネルギーが直撃した瞬間、爆発が起こる。煙が立ちこめ、さくらの姿は視認できない。異形は長剣を肩に担ぎ、さくらが生きているかどうかを確認するために煙が晴れるのを待った。
「―――あ……?」
しかし煙が晴れた瞬間、そこには炎の翼が折り重なって佇んでいた。そしてその翼が広がると、中にはさくらを庇うようにして抱きかかえるカムイの姿があった。
少し前、カムイはミナサキの能力によって異形がいる場所へと赴いていた。そこではちょうどさくらと異形が激闘を繰り広げていたのだが、さくらが油断した矢先に異形から攻撃が繰り出されたためカムイはすぐに彼女の元へと飛び出した。その身を守るために背中の翼でさくらごと自分を覆い、異形の攻撃を防いだのである。
「―――ったく、油断してやられそうになってんじゃねえよさくら」
「ニャハハ……め、面目な~い……それと、守ってくれてありがと」
「はいはい、どういたしまして」
カムイはさくらをそっと下ろすと、無銘剣虚無を肩に担いで異形と相対する。そして異形の姿を見て、カムイは己の予想が当たっていたと確信する。そして異形もまた、カムイが持つ無銘剣虚無に気がついたのであった。
「さて……まさかこうして、お前と相まみえることになるなんてな」
「その剣……なるほど、お前があの神様って奴が言っていた剣士か……狂気と理性が擦れ合う、最低で最高にヤバい匂いがするなぁ……今度の剣士は、中々楽しめそうだな……」
新しい剣士の登場に、異形は胸を躍らせ長剣をカムイへと向ける。そしてカムイもまた、無銘剣虚無を異形へと向ける。
「ようやく会えたな、剣士狩り……いや、デザストォォオオッ!!」
「くっくっく、俺を知ってるんだな……虚無の剣士……!」
今異なる世界で惹かれ合うように、剣士と
RPGで五車祭が来ており、覚醒リリム狙いでガチャ引いたらSRきらら先輩が三枚同時に来て虚無った作者です……。いや、きらら先輩も欲しかったけどリリムが一枚も来なかった。おまけに前回に続いてSRアスカが怖いくらい引いてる……。
ようやくデザストの名前を出せました~。作者にとって仮面ライダーセイバーではバハトに続いて好きなキャラです。ただちゃんとデザスト感出せてるかなと不安になることもあります。