サイバーパンクな忍者世界で不死身の剣士してます 作:ニゴリエース
暗く深い地下に存在していながら、街灯やひしめき合う店から漏れる光によって常に明るく照らされるヨミハラの大通りを探偵事務所のメンバーが歩いて行く。先頭にはクローンアサギとユーリ、中央にはナーサラとミリアムと小さくなったカムイ、そして後方には不知火と亜希、フランシスといった順で並んでいる。
彼らが目指す先はヨミハラでも名うての魔科医が根城としている場所―――普段から歩き慣れた大通りを歩いて行くメンバーであったが、その中でカムイだけが浮かない顔をしている。
「う~ん、やっぱり小さくなったからか全然早く歩けねえ……身体が縮むってこんだけ辛いんだな」
カムイは身体が縮んだ影響で歩幅が狭くなり、身体も重く動かしづらい感覚があるため普段よりも歩く速度が遙かに遅いのを実感しているのである。そんな彼を見かねてか後ろから不知火が声を掛ける。
「カムイ君、歩くのが疲れたのなら私がおんぶしてあげるわよ」
「いらないって不知火さん……身体が縮んだからって子供扱いしないでくださいよ」
「うふふふっ、ごめんなさい。小さいカムイ君を見てるとつい懐かしくなっちゃって」
カムイの身体が縮み、彼の子供の頃を思い出したのか不知火がおんぶを提案してくるがカムイはそれを拒否する。身体は縮んではいるが中身は変わっていないため、女性相手におんぶをお願いするなどとてもじゃないができない。
不知火もそのことを分かっているのか悪戯っぽく笑っている。しかし今度は不知火の言葉に食いついた亜希、そしてフランシスまでもがカムイへと言い寄っていく。
「なら私がおんぶしてあげるぞカムイ!なんなら抱っこでもいいぞ!」
「いらねえ、お前はことある毎に俺に触ろうとすんじゃねぇペドフィリア」
「あー亜希ズルい!カムイー、アタシがおんぶしてあげるよ~!彼女相手だったら問題ないよね~!」
「だからいらねえっつってんだろっ!子供扱いすんじゃねえ!!」
明らかに下心満載の二人相手にカムイは怒鳴りつける。その様子を横で見ていたミリアムは思わずため息をついた。
「まったく、やかましい奴らめ……少しは静かにできんのか」
「カムイ、小さい、人気」
「はっ!ナーサラちゃんもしかして嫉妬してる!?ごめんねナーサラちゃん、君をほったらかしにしたわけじゃないんだ!お詫びに頭ナデナデしてあげる!」
「ナデナデ」
繁華街の喧噪に負けないぐらい騒ぎながら歩いている彼らの様子を、前方を歩いているクローンアサギこと探偵とユーリは苦笑いを浮かべながらも微笑ましそうに眺めていた。
「ふふっ、皆さん相変わらずですね。カムイさんも、なんだかんだ言いながら楽しそうに見えます」
「そうね。彼、怒鳴ってはいるけど本気で怒ってるわけじゃないし、皆もそれを分かってるのよ」
ユーリの言葉に探偵は同意する。しかし彼女は後ろにいるメンバーとは違ってどこかピリピリした雰囲気を醸し出し、警戒を顕わにしながら前を歩いている。
「あの……どうかしましたか?なんだか随分と警戒しているみたいですけど」
「……ユーリ、カムイの身体が縮んだということについてどう思う?」
「確証はありませんが、恐らく悪戯では済まないものですね。話を聞く限りカムイさんはただ縮んだわけじゃなく戦う力が使えなくなって無力化されているという点から考えると、少し意図的なものを感じますね」
「そうね……私もそう思うわ。だからこそ、警戒して損はないと思うの」
「……彼が狙われているかもしれないと?」
「カムイって感情的に動くから敵を作ることが多いのよ。もしかしたら今の彼がああなってるのは、その敵の仕業ってことも考えられるわ。そうなると、今の彼を放っておくのはあまりに危険ね」
「なるほど。確かにその可能性もありますね」
事務所で事情を聞いた際、カムイはただ身体が縮んだだけでなく対魔忍としての身体能力や変身能力までもが失われている状態だと聞かされた。まるでカムイを無力化させているようにも見え、探偵は何者かの思惑があるのではないかと考えていた。
普段のカムイであれば、たとえ単独で敵に襲われようとも対処することはできるだけの実力があった。しかし力を失った今の状態を襲われればひとたまりもない。そう考えた探偵は油断せず周囲を警戒しているのである。
そしてそんな探偵の考えが的中したのか、大通りを歩く彼女たちの前に立ち塞がる者が現れた。
「ヒヒヒ……随分と賑やかじゃないか」
「「「―――っ」」」
「……月島か」
「おやおやファルシオンの旦那、随分と可愛らしい姿になっちまってるじゃないか」
カムイ達の前に現れたのは、武装難民の服と酷似した小汚い衣服を纏った男であった。男の名は月島―――うさんくさいながらヨミハラでも指折りの情報屋として名が通っており、カムイや探偵も情報収集のためよくこの男を使っており面識がある。
探偵事務所のメンバーは唐突な月島の登場に驚きながらも警戒を顕わにし、カムイは眉をひそめながら月島を睨み付ける。
「お前、今の姿を見てよく俺だって分かったな?」
「ヒヒヒ……闇の世界ではどこに目や耳があるか分からないものなんだぜ旦那。俺も伊達に情報屋で食ってるわけじゃないさ」
しかし月島はそんなカムイ達の剣呑な雰囲気を気にもせず、いつものようにうさんくさい口調で言葉を続けていく。
「随分とお困りみたいだからな……あんたらはウチのお得様だし、特別サービスとして今回はわざわざこっちから出向いたってわけさ」
「特別サービスねぇ……」
「……その話し方……あなた、カムイがこうなった原因を知ってるってことかしら?」
まるですでに情報を掴んでいると言わんばかりの話し方に、クローンアサギはやや疑いの眼差しを向けながら月島に尋ねる。
「あぁ、もちろんだよ。ただ今回の件は少々危なっかしいみたいでね……値段は少々張っちまうが、どうする?」
「……今回は手回しがいいわね。常に勿体ぶった話し方をするあなたにしては、随分と売り込みが激しいじゃない」
月島の言動に探偵だけじゃなく不知火までもが疑惑の念を感じ彼を睨み付ける。普段の月島ならば、相手が欲しがる情報をいきなり提示しようとしたりせず、自分から情報を相手に売りに来ることもない。それが今回はどうにも様子がおかしいことに一同はなんとなく感づいているのだ。
「ヒヒヒ、これは俺なりの誠意って奴さ……旦那には世話になっているからね」
「―――はぁ……白々しいって言葉を知ってるかてめえ?」
あくまで誠意であると言いきる月島に対し段々とイライラしてきたのか、カムイは口調を荒げながら彼を睨み付ける。しかし次の瞬間、彼の口からとんでもない事実が聞かされることになる。
「それといい加減その気持ち悪い演技をやめろ月島……いや、ノマド大幹部“フュルスト”って呼んだ方がいいか?」
「「「「っ!!?」」」」
「……ヒっ、ヒヒっ……ヒヒヒヒヒヒ……」
カムイが発した名前に、探偵事務所のメンバーは驚きを隠せないでいた。そして月島はというと、何が面白いのか不気味な笑い声を上げながら身体を震わせている。すると唐突に彼の身体がボロボロと崩れ始め、その姿がみるみると変わっていく。
月島という皮が崩れ、中から現れたのは禿げ上がった頭に小太りの身体、まるで宣教師のような服装をした魔族の男であった。この男こそ犯罪組織ノマドにおいてイングリッドや朧と並ぶ大幹部の一人“フュルスト”である。
「―――ホホホホ……いやはや、疑われているのは知っていましたがまさか正体まで知られていたのは予想外でしたよファルシオンさん。いや、元対魔忍の井河カムイさんとお呼びした方がよろしいですか」
「アンタに名前で呼んで欲しくないね悪趣味ハゲ」
唐突なノマドの大幹部の登場に探偵事務所のメンバーは驚きながらもそれぞれ武器を取り出し身構える。しかしフュルストは余裕の態度を崩さず笑みを浮かべながらカムイを見つめる。カムイは探偵達に守られるような位置でフュルストを睨み付ける。しかしフュルストは気にする事なく、平然とした態度で言葉を続ける。
「しかしあなたはいつから私の正体に気づいていたのですか?」
「んなもん、てめえが月島として俺と初めて会った日からだよ」
「ほう、まさかそんな前からですか。しかし、それだとあなたは私の正体を知りながらも月島としての私と関わり続けたと言うことですか?」
「あんたのことは気に食わないしはっきり言って嫌いだが、闇の世界で生きていく以上は情報が命だからな。精々利用させて貰ったよ」
「ホホホホ、ただの戦闘狂かと思っていましたがあなたも中々食えない方のようで」
「……普段は裏でコソコソしているアンタがわざわざ出張ってくるのは珍しいな。まさか俺の身体がこうなったのはてめえが原因か?」
フュルストはノマドの大幹部であるが表だって動くようなことはほとんどなく罠や策を用いるタイプである。そんなフュルストが身体の縮んだ自分の正体を知っており、かつ目の前に現れたということから、カムイは今回の件についてフュルストが関係しているのではないかと考えた。
そしてカムイの質問に対し、フュルストは悪びれることなく嫌らしい笑みを浮かべながら答える。
「えぇ、その通りですよ。あなたがそのような姿になった原因は私にあります」
「―――っ」
「あなたが先日センザキで殺した魔女を覚えていますか?彼女は私の部下でしてねえ。彼女の身体を改造した際にちょっとした細工を施していたのですよ」
「細工だと?」
「はい。万が一彼女が死んだ時、殺した相手を無力化させるためのトラップで、まあ一種の呪いのようなものです。まあ身体が縮むのは少々想定外でしたが、中々可愛らしい姿だと思いますよ」
「てめえに可愛いって言われても怖気が走るだけだ」
「おや、それは失礼を」
「……それで、罠に嵌めた俺を始末するために出てきたのか?」
「いえいえ、私があなたの前に現れたのは取引のためですよカムイさん」
「……取引だと?」
フュルストの言葉にカムイは眉をひそめる。この男の言う取引などきっと禄でもない事に違いない―――カムイだけでなく探偵事務所のメンバーもそう考え油断なく身構える。
「縮んでしまったあなたの身体、元に戻してあげてもよろしいですよ」
「なに?」
「実はカムイさんの持つ“ある物”が必要でしてねえ。それをこちらに差し出していただければ、特別にその呪いを解いてあげましょう」
「あら、普段から人間を見下すような貴方が力尽くで奪いに来るわけじゃなく取引とは、どういう風の吹き回しかしら」
フュルストのうさんくさい言葉に、不知火は不信感を持ちカムイの前に出て言葉を投げかける。彼女の身体から僅かに殺意が漏れているが、フュルストの余裕の態度は尚も崩れて折らずニヤニヤと笑い言葉を続ける。
「ホホホホ、カムイさんとは情報屋として長い間お付き合いをした間柄でしてね。なるべく彼とは穏便に済ませたいという私の計らいですよ“幻影の魔女”殿」
「……」
「へぇ……それで、あるものって?」
「―――カムイさんの持つ“無銘剣虚無”……渡していただけないでしょうか」
「っ!」
「無銘剣を渡してくださるのなら、カムイさんの身体を元に戻して差し上げましょう。いかがでしょうか?」
フュルストの言葉にカムイは驚きながらも内心やはり無銘剣虚無を奪うために現れたかと考えていた。
無銘剣虚無は世界をも滅ぼす力を秘めた聖剣であり、その存在は以前カムイを転生させた神によって魔界に広く伝えられている。しかし多くの者がただの伝承であり実在しないものとして扱われていた。
しかしカムイが傭兵として闇の世界で生きており、無銘剣虚無の存在が露見するのは時間の問題であった。そして伝承で伝えられる危険な力を持つ聖剣が実在すると分かれば、それを狙う輩が出てくるのは道理である。
そう言った輩と遭遇した場合、カムイは自身の力で追い返すだけの自信があったが今の彼は戦う力がない状態である。そしてフュルストはそれを分かっているからこそこうして姿を晒したのであろう。
フュルストは取引とのたまっているが、これは圧倒的有利な状況からの脅しである。カムイはそのことを理解し、フュルストに対してますます不快感をあらわにする。
「……お前、取引って意味をもう一度考えた方がいいぜ」
「おや、私としては正しく理解しているつもりですが?」
(白々しい男ね……嫌いだわ)
(だがどうする探偵……このハゲ個人で動いているならまだしも、ノマドの指示で動いているなら大事になる)
(亜希の言うとおりね……最悪の場合、他の幹部である朧やイングリッドまで出てくる可能性があるわ)
(とにかく今は出方を見るべきよ……二人はいつでも動けるよう準備していて)
フュルストの傲慢な物言いにカムイだけでなく探偵も苛立ちを隠せずにいる。しかしフュルストはノマドの大幹部であり、もし彼が組織の指示で動いているのならそれらを相手にしなくてはならない可能性もある。
ヨミハラで生きる以上、実質街を支配する組織を相手にするのは自殺行為だ。それを理解しているため亜希と不知火は探偵と小声で相談し、緊急の事態に備えている。
「さて、私もあまり暇な身ではないため早いとこ返事をいただきたいのですが」
「……」
「あぁ、それと返事もせず逃げようとは思わないことですね。あなた達はもう囲まれていますから」
「「「っ!?」」」
フュルストの言葉にはっとなりカムイ達が振り返ると、彼らの背後には武器を持った魔族達が並んでおり退路を阻むようにして塞いでいた。そして彼らの先頭には、まるで侍を思わせるかのような格好をした男が立っている。
「……」
「―――あの男は」
「彼はニールセン、私の腹心の部下ですよ」
「……“沙無羅威”のボスか。わざわざヨミハラに出張ってきてるなんてな」
「沙無羅威!?沙無羅威ってあの東京キングダムの五強の一角の!?」
カムイが発した男と男の所属する組織の名前にフランシスが驚く。彼の名はニールセン―――東京キングダムにて強い勢力を持つ五強の一角“沙無羅威”というノマドをバックに抱えた組織のボスである男だ。
探偵事務所のメンバーもまた闇の世界で生きているため五強の存在は知っていたが、まさかそんな大物が出てくるとは思いも寄らず、フランシス以外の面々も少なからず驚きながらも警戒を顕わにする。
ニールセンは表情を変えず、うつろな目でカムイを見つめながら自らの腰に差した刀に手を掛ける。そして全身から殺気を放ち、腰を落として身構える。
「さて、では返答を聞きましょうかカムイさん。もし渡さないと言うならば、少々痛い目に遭っていただかなければなりません。もちろんあなたの連れの方々にもね」
前門の虎後門の狼と言わんばかりの状況であり、ニールセンからは並みの者ならば縮み上がるであろう殺気を放たれているが、カムイは怯まず中指を立ててフュルストを挑発した。
「誰がやるかクソボケ、寝言はあの世で言え」
「―――ならば仕方ないですね……ニールセン!!」
「はっ!」
「っ!」
交渉決裂になるや否やフュルストはニールセンに向かって叫ぶ。そしてニールセンはすぐに腰の刀―――妖刀・天ノ弱を抜き放ち振るう。すると天ノ弱の刀身はまるで鞭のようにしなりカムイへと襲いかかっていく。
天ノ弱は天を駆ける魔界の魔獣アプサラスの羽根を鍛えて作り出された妖刀であり、羽根のように軽く鋼鉄よりも切れ味が鋭く頑丈であり、さらには使い手の魔力を刀身に通すことで無限に形を変えることができ、まるで鞭のように自在に操ることも可能なのである。
普段のカムイならば弾くことも避けることも容易な一撃であったが、今の彼は一般人の子供程度の身体能力しかないため、咄嗟に反応することができなかった。
カムイはその一撃を避けられないと感じ思わず表情が強張る。そして天ノ弱の鋭い切っ先がカムイへと迫っていき――――。
―――ガキィィイイイイイインッ!!!
「むっ!」
甲高い音が鳴り響きカムイに迫っていた天ノ弱が弾かれる。弾いたのは亜希であった。彼女はいつの間にか刀を抜き放っており、カムイを庇うようにして前に出ている。
「やれやれ、随分と穏やかじゃないね。いきなり剣をよこせって言いながら子供相手に斬りかかるとは」
「そうね、それに貴方のその態度も気に入らないわ」
「亜希っ!不知火っ!」
「探偵、このままじゃ囲まれる。ここは私達に任せろ」
「私たちで奴らを引きつけておくわ。その隙にカムイ君を彼女の元へ届けるのよ」
亜希と不知火は探偵にそう言って刀と薙刀を静かに構える。相手はノマドの大幹部とヨミハラ五強の一角であり、このまま戦ってもいずれ数に圧倒されじり貧になりことは目に見えている。ましてや今カムイは戦えない状態であり、そんな彼を守りながら相手をするのは骨が折れるであろう。
探偵はそのことを理解しているためか二人の言葉に頷くと、カムイの身体を小脇に抱える。カムイは唐突な行動に思わず抗議しようとする。
「うわっ!?おい探偵っ!」
「我慢しなさい。亜希、不知火……無理をしちゃ駄目よ、危なくなったらすぐに退いて」
「はいはい、任せなって!」
「えぇ、あなた達も気をつけて」
「―――フランシス、目くらましをっ!!」
「オッケーっ!!どっせぇぇぇえええええいっ!!」
―――ドゴォオオオオオオオオオッ!!
クローンアサギがフランシスに素早く指示を出すと、彼女は背負っていた金棒を取り出しそれを力の限り地面にたたき付ける。激しい轟音が響くと同時に砕けた地面の破片が飛び散り土煙が舞っていく。
「むっ!?」
「ぐっ!?」
「今よっ!走って!!」
フュルストとニールセンは土煙と破片から顔を庇う。そしてその隙を突き探偵が叫ぶと一気にその場から駆け出しフュルストの真横を通っていく。
「おっと逃がしませんよ!」
しかしフュルストはすぐに身体から触手を生やし、その場から逃げ出していく探偵達の背へ向けて鋭い攻撃を仕掛けていく。しかし触手が彼女達の背に触れた瞬間、探偵達の身体が弾け飛ぶ。
「っ!?」
「―――おあいにく様、それは幻影よ」
弾けた探偵達の身体は液状となりパシャリと地面にまき散らされたため、フュルストは驚きを隠せなかった。フュルストが攻撃したのは不知火によって作り出された水の幻影であったのだ。
土煙が舞った一瞬の間、不知火は幻影を作り出し本物の探偵達の姿を隠すことでフュルストの目を惑わしたのである。
「なるほど、これが幻影の魔女の力というわけですか。ホホホ、少々厄介ですね……ですが甘いですよ」
「っ!」
「オロバス!彼らを追って剣を奪い取りなさい!!」
「オオオォォォォオオオオオオオオオっ!!」
フュルストが何者かの名を呼び叫ぶと、どこから魔力の渦が発生する。そしてその中から全身が甲冑のような金属で覆われた半人半馬の怪物が現れる。オロバスと呼ばれたその怪物は、雄叫びを上げながら巨大なメイスを片手にカムイ達を追いかける。
「ブルル!フュルスト様の命令!オレ、剣奪う!!」
「っ!?探偵さん、追ってきましたよ!!」
「ちっ!」
背後から迫ってくるオロバスの姿を確認しユーリが叫び、探偵は舌打ちをするとその場で立ち止まり自らの義手を作動させ重力波で迎え撃とうと身構える。しかしそれよりも早くオロバスに立ち向かうものが現れる。
「どりゃぁあああああっ!!」
「グオオオオォォオオオオオオオオッ!!」
―――ドガアァァアアアアアアッ!!!
オロバスの前に躍り出たのはフランシスであった。彼女は手にした金棒を振るいオロバスのメイスを受け止める。どちらも人外の怪力を発揮し、互いの得物がぶつかり合うと凄まじい衝撃が走る。
「フランシスっ!」
「こいつはアタシに任せて探偵!アンタはカムイを連れて先に行きなって!!」
「―――分かったわ、無理しちゃダメよ!行くわよユーリ!」
「はいっ!」
「フランシス!!」
「大丈夫だってカムイ!あんたのためならアタシ、頑張っちゃうから!!」
「ブルルッ!?」
フランシスがオロバスの足止めを買って出ると、探偵はカムイを抱えユーリと共に走り出す。カムイは思わずフランシスの名を呼ぶが、彼女はニカッと笑うと力任せに金棒を振ってオロバスを押し返す。
フランシスの怪力に押し返されたオロバスはたたらを踏むが、すぐに興奮したかのように息を荒げ怒りを顕わにする。
「さーて、それじゃあさっさと片付けて彼氏を追っかけるとしますか~!」
「ブルルッ!オレの邪魔した!オレと同じぐらいのパワー、強い女、許さない!殺す!!」
「悪いけど、アンタに殺されるつもりは更々ないっつーの!
鬼族のフランシスとフュルストによって無双の力を手に入れたオロバス―――力が自慢の両者が激突する。
そしてその様子を見ていた不知火は勝ち誇ったような笑みを浮かべ、フュルストと対峙する。
「どうやら甘いのはそっちだったようね。それじゃあこっちはこっちで相手させてもらおうかしら。ついでに、貴方がいったい何を企んでいるのか、色々と話して貰うわよ」
「ホホホホ……下賤な元人間風情が、あまり私を舐めないでいただきたいですな!」
妖艶な笑みを浮かべながら薙刀を向ける不知火に対し、フュルストは冷たい笑みを浮かべて対峙するのであった。
「シャァァアアアアアッ!!」
「はあぁぁあああああっ!!」
―――ガキィィインッ!ガキガキガキィィイイインッッ!!
一方亜希の方はニールセンと対峙していた。ニールセンが振るう天ノ弱は変幻自在に刃の形を変えて襲いかかっていく。縦横無尽に放たれる斬撃は常人であればあっという間に切り刻まれる程であったが、亜希は冷静に刀を振るいその攻撃を弾いていく。
「「隙ありっ!!」」
「むっ!」
亜希はニールセンの斬撃を弾ききり、彼女の周りは斬撃によって抉られている。二人は互いをにらみ合うようにして対峙する。するとニールセンの背後にいた部下達がそれぞれ武器を構えて亜希を取り囲むと、動きを止めた亜希に対して攻撃を仕掛けていく。
亜希は襲い来るニールセンの部下を迎え撃とうと身構えるが、次の瞬間布のようなものが彼らの身体へとまとわりつき動きを封じていく。さらに黒と白の小さな影がまとわりつき魔族達へと攻撃を仕掛けていく。
「な、なんだこれは!?」
「う、動けねえ!?」
「ピピィーーーッ!」
「キュキューッ!」
「ぐわ!?な、なんだこのちっこい生き物は!?」
「―――はあぁぁあああっ!」
―――ズバアァアッ!!
「ぎゃぁっ!?」
「ぐはっ!?」
身体を拘束され身動きが取れなくなり狼狽える魔族達の隙を亜希は見逃さず、手にした刀を閃かせ素早く斬り付ける。魔族達が倒れ伏すと彼らの身体を拘束していた布が解かれ、代わりに亜希の隣にふわりと何者かが降り立つ。それは居候メンバーのナーサラとミリアム、そして使い魔のシロとクロであった。
「ナーサラちゃんにミリアムちゃん、どうして戻ってきたの!?」
「カムイ、守る。ナーサラ、足止め、役目。亜希、援護」
「いくらお前でもこの数相手では無理があるだろうと思ってな!私たちも残って足止めすることにしたのだ、感謝しろよ!」
「ピピィーッ!」
「キュッ!」
どうやらナーサラとミリアムもまた亜希や不知火と同じように足止め役を買って出たようでこの場に残って戦うつもりのようであった。それを聞いた亜希は二人に対し笑顔を浮かべながら抱きかかえようとする。
「そっか!ナーサラちゃんとミリアムちゃんが残ってくれるなら心強い!むしろ二人が見ててくれるだけでも私は百人力だよ!」
「えーい!興奮して抱きつこうとするな!今は目の前のことに集中せんか!」
「ナーサラ、援護、頑張る」
「よーしっ!ならこいつらをとっとと片付けて、皆のことを追いかけるとしますか!」
「―――ぬかせ人間……私を相手にそう易々と勝てるなどと思わぬことだ」
「ニールセン様!我々も―――」
「無用……貴様らはあの幼子共の相手をしろ。次に決闘の邪魔をすれば、貴様らも斬る」
「ひっ!?」
亜希はナーサラとミリアムのおかげで気合い十分なようで意気揚々と刀を構える。一方ニールセンは決闘の邪魔をされたためか苛立ちを隠さず部下を威圧し、全身に殺気を纏わせ天ノ弱を構え直した―――。
一方その頃、フュルストの包囲を逃れた探偵達はヨミハラの道を駆けている最中であった。
「探偵!こっちは路地裏だろ!?こっちはアイツのアジトから遠回りになるんじゃないのか!?」
「まだ追っ手が来ないとも限らないでしょ。ここはなるべく見つからないように人目を避けて移動するべきよ」
「そうですね……数では向こうの方が勝っていますし、時間を掛ければまた囲まれる可能性がありますから」
「ぐぐっ……あんなに敵が集まっているのに戦えないのが口惜しい」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょあなたは」
探偵達は追っ手を警戒してか、人通りが少ない路地裏を通りながら魔科医の元を目指している。一方カムイはニールセンやオロバスといった強敵を前にし戦わず逃げることしかできない現状に口惜しさを感じているようであり、彼を抱えて走っている探偵は小さくなっても変わらない彼の様子に思わずため息をつく。
「とにかく、今は魔科医の所へ急ぐわよ」
「っ!探偵さん、止まってください!!」
「っ!?」
魔科医の元へ急ごうとする探偵達であったが、突如ユーリが声を張り上げて制止を促す。すると彼女たちの前に、また誰かが立ち塞がるようにして姿を表した。
「あらあら、いったいそんなに急いでどこに行くというのかしら?」
「ケケケケケケーーー!逃げられるとでも思ったか人間ども!」
立ち塞がったのは銀色の肌に口以外存在しないのっぺりとした顔を持つ奇妙な姿をした女と巨大な鳥の姿をした獣人であった。彼女らは通りの真ん中に居座り探偵達の行く手を阻んでいる。
「あいつらは―――」
「梟の獣人“シームルグ”に不明の魔女“ヴィネア”……どちらもあのフュルストの部下です」
「フフフ、そっちの女の子は私たちのことを知っているみたいね」
突如現れた二人の正体をユーリが話す。彼女らはニールセンやオロバスと同じくフュルストの腹心の部下であり、カムイの剣を奪うべく姿を現したのである。
「探偵さん、どうしますか?どちらも並みの魔族とは比べものにならない相手です。カムイさんを守りながら戦うのは少し無理があるかと」
「そうね……」
シームルグとヴィネアがニールセン達と同様にフュルストによって力を与えられており、そのどちらもが上級魔族をも凌ぐほどと言われている。
そんな彼女たちの力を感じ取り、ユーリはどうやって切り抜けるかと探偵に相談する。すると彼女は脇に抱えていたカムイをユーリの方へと差し出す。
「あいつらは私が相手するわ。ユーリはカムイを魔科医の所まで連れて行ってあげて」
「探偵!?」
「探偵さん!?あの二人を同時に相手するつもりですか!?」
探偵の言葉にカムイとユーリが驚く。彼女は一人でフュルストの側近二人を同時に相手にするつもりのようだ。
「大丈夫よ、不知火達にも言ったように私も無理をするつもりはないわ。適当に時間を稼ぐから、心配しないで」
「ですが……」
「……探偵、任せていいのか?」
ユーリは尚も食い下がり探偵の身を案じるが、カムイはじっと探偵を見つめて尋ねる。すると彼女はニコリと笑いかける。その姿はカムイが記憶する、彼女の元となったオリジナルであり最強の対魔忍である井河アサギと同じものであった。
「心配しないで、すぐに追いかけるわ」
「―――行こうユーリ、探偵なら大丈夫だ」
「……分かりました。探偵さん、無茶はしないでください」
カムイの言葉に渋々頷くと、ユーリは彼を抱えて曲がり角へと入りその場から走り去る。それを見たシームルグとヴィネアが追いかけようと進み出るが、彼らの前に探偵が立ち塞がる。
「悪いけど、ここを通すわけにはいかないわね」
「あらあら、私たちを相手に一人で足止めをするつもりなのかしら?」
「ケケケー!貴様一人で我々を相手するだと?思い上がったな人間が!」
立ち塞がる探偵に対し、ヴィネアはまるで女性の髪を思わせるような漆黒の奔流を、シームルグは自らの翼に仕込んだ当たればたちどころに相手を殺すことができる毒が塗られた羽クナイを放つ。
「ふっ!」
しかしそれを見た探偵は慌てることもなく冷静に対処する。身を翻して漆黒の奔流を躱しながら両腕のサイボーグアーム“ネメシス”を起動させる。探偵はそのまま自らに降り注ぐ羽クナイに向かって重力場を発生させると、クナイは全て彼女の前でピタリと止まってしまう。
「ケケーっ!?」
「返すわよ」
「ヒィィイイイイイイッ!?」
探偵はそのまま重力を操り羽クナイをシームルグに向かって打ち返すと、シームルグは襲い来るクナイを慌てて躱していく。間一髪当たらなかったようだが、自らの毒で死ぬかもしれなかったことにシームルグは思わずゾッとしてしまう。
「随分慌てて避けるのね。もしかしてこのクナイ、毒でも塗られているのかしら?」
慌てて回避したシームルグの様子を見て探偵は相手を小馬鹿にするような笑みを浮かべてる。そして敢えて追撃はせず、二人に対して挑発的な言葉を投げかける。
「あぁ、それと私をただの足止めなんて思わない事ね。あなた達程度、私にとっては二人がかりでちょうど良いハンデよ」
「き、貴様ァっ!?」
「へぇ、言ってくれるじゃない。どうやら少しは楽しめそうな相手ね」
(乗ってきた。これでどっちかが残ってカムイとユーリを追いかけるなんて心配はなくなったわね)
傲慢な物言いにシームルグは怒りを顕わにし、ヴィネアもまた言葉に殺気を滲ませながら探偵へと向き直る。探偵は二人の注意が自分に向かったことを確信し、油断せず構えを取る。ここでもまた、激しい戦いが起ころうとしていた――――。
「愉快な匂いがすると思ったら、やっぱり面白いことになってるなぁ……」
探偵がフュルストの側近二人と対峙している時、その様子を影で観察する者がいた。その正体はデザストであった。彼はカムイ達が探偵事務所を出た後に、フュルストの軍団とぶつかり合う様子をじっと観察しておりここまで付いてきたのである。
「妙な女に鳥のバケモノか……あっちも面白そうだが、あのフードの女の方が強そうだ……いいねぇ、戦い甲斐がありそうだな……」
目的はもちろん戦うためであり、今彼が注目しているのは探偵であった。かつてデザストが元の世界で出会い、兄を探していると言っていた少女と似た匂いを感じ取り注目していたのだが、彼女の実力の一端を見たデザストはますます嬉しそうに彼女を見つめる。
彼女とはどれほど面白い戦いができるのだろうか―――そんなことを考えながら彼は愛剣グラッジデントを肩に担ぎ身構える。
「虚無の剣士は行っちまったし、そろそろ俺も一暴れしてやるか……」
デザストが狙うは探偵―――彼はいよいよ戦いに乱入しようとしたその時、何かを感じ取ったのか急に足を止める。
「……どす黒く腐りきった匂いがしやがる。これは……虚無の剣士を追ってるのか……あいつ、いったい何に目を付けられてるんだ……」
ひどく不快感を感じさせる匂いにデザストは顔を歪めさせる。さらにその匂いの元がカムイを追いかけているのを感じ取ると、彼の態度はますます不機嫌なものになる。
「ちっ……放っておく訳にもいかねえか、仕方ねえ……」
極上の獲物を前にデザストは後ろ髪を引かれる思いに駆られるが、それでもこの匂いの元を放っておくと厄介なことになりかねない。彼はそう考え姿を消し、カムイ達が去って行った方へと向かっていくのであった―――。
作者「正月休みはしっかり休んでゲームして執筆に勤しむとしますか~!」
職場「正月に欠勤の人でたから代理よろしく♪」
( 0w0)「ウゾダドンドコドーン!」
正月から早速仕事で地獄を見たニゴリエースです。ブラックな職場に毎日忙殺されてますが、気づいたらもうすぐお気に入り登録が500に届きそうで感激し、執筆活動がますます楽しい今日この頃です。
これからも皆さんに楽しんでいただけるよう書いていこうと考えていますので、2022年もよろしくお願いします。