サイバーパンクな忍者世界で不死身の剣士してます 作:ニゴリエース
カムイ達がテウタテスと遭遇していた一方で、足止めに残った不知火達の戦いは未だに続いていた。
不知火は縦横無尽に襲いかかるフュルストの触手と無尽蔵に湧いて出てくる異界生物の攻撃を紙一重に躱す。そして攻撃を躱した刹那の瞬間に薙刀を振るい触手と異界生物を両断していく。
不知火の周りは斬り捨てた触手や異界生物の死骸と血が夥しいほど広がっている。だがフュルストの触手は悍ましい音を立て腐臭をまき散らしながら再生し、異界生物は斬り捨てた数だけフュルストの魔力によって作られたゲートから次々と新しい異界生物が現れその数は一向に減ることはない。
「くっ!?」
「ホホホホっ!だから無駄と言っているでしょう!幻影の魔女などともてはやされてはいましたが、所詮は魔族に転じた下賤な元人間……私に敵うはずがないでしょう!!」
」
長時間動き続けながら戦っていたためか、不知火の全身は汗で濡れており荒い呼吸を繰り返している。そんな彼女の様子を見ていたフュルストは自身の勝利を確信し、満身創痍な不知火を嘲笑する。
そんな彼の元に、先ほどまで亜希やフランシスと戦っていたニールセンとオロバスが駆け寄ってくる。
「フュルスト様、先ほど我らに刃向かってきた女の剣士共を始末しました」
「ブルルッ!俺も、鬼の女、始末した!!念入りに、トドメ刺した!!」
「ほう、そうですか」
部下達の言葉を聞きフュルストは先ほどまで彼らが戦っていた場所に視線を移す。そこには身体を輪切りにされて物言わぬ肉塊と化した亜希とナーサラ、ミリアムが転がっている。もう一方、オロバスが戦っていた方には地面が強い力で何度も殴られたかのように地面が抉れておりその中心にはトマトが潰れたかのように血がまき散らされていた。血溜まりの傍にはフランシスが持っていた金棒とバッグが転がっている。血溜まりの正体は恐らくオロバスによって原型がなくなるほど踏み潰されたフランシスのなれの果てだろうとフュルストは考える。
「ホホホホっ、お仲間もすでに始末されたようですねぇ。見るも無惨な姿で転がっておりますよ」
「……っ!」
「ですが悲しむことはありません。貴女もすぐに彼女たちの後を追うのですから!」
そう言いながらフュルストは不知火にトドメを刺すべく体中から無数の触手を生やし、その身体を貫こうと襲いかかっていく。
「あっ…・・!?」
その攻撃を避けようとしたが、不知火の態勢が崩れ動きが鈍る。その隙を逃さずフュルストの触手が彼女に殺到していく。
――――ズドズドズドォッ!!グシャァッッ!!
数多の触手が不知火の身体を貫き押しつぶす。肉を潰す嫌な音が響き、触手の間から血が滴り落ちる。そして触手の間からゴロリと不知火の首が転げ落ちるのであった。
「ホホホっ、なんとまあ呆気ないことです。ですがあの幻影の魔女すらこうも容易く……やはりこの本の力は素晴らしいですねぇ」
無尽蔵な魔力を与えながら大量の異界生物を操ることができ、元淫魔族の大幹部である幻影の魔女すらも圧倒することができた。その事実にフュルストは自らが持つ魔本を眺めながら思わず優越感に浸ってしまう。
「あら、もう勝った気でいるのね。少し慢心が過ぎるのじゃないかしら?」
「なにっ!?」
転がっていた不知火の首が、突如として言葉を放つ。そのことにフュルストは驚愕を顕わにするが、次の瞬間に彼のすぐ傍に控えていたニールセンとオロバスがまるで強い力で殴られたかのように吹き飛ばされる。
更にフュルストによって召喚された異界生物たちもまた、見えない何かによって引き裂かれ次々と肉塊へと変わっていく。
「ぐあっ!?」
「ブルルッ!?」
『『『GUGYAAAAAAAAAAAッ!?』』』
「これは、まさかっ!?」
見えない攻撃による奇襲を目の当たりにし、フュルストはハッとなる。しかしフュルストが防御の姿勢を取る前に、彼の背後から刃が閃き彼の背中を切り裂く。
「ぐぅっ!?この程度っ!!」
意識外からの攻撃に不意を突かれたものの、魔本により無限の魔力と強力な回復力を手に入れていたフュルストにとってはかすり傷程度のものでありその気になればすぐに回復できるものだ。
フュルストもそのことを理解しており、自らの背中についた傷を癒やすべく意識を集中する。しかしそれよりも早く、突如として傷口が大きく開き血をまき散らす。
「ぐがぁぁぁあああっ!?」
傷口が大きくなった瞬間、凄まじい激痛が走りフュルストは悲鳴を上げて地面に膝を突く。先ほどまで不知火に何度も切り刻まれても悲鳴一つあげず、すぐさま傷を回復させたあのフュルストがである。
「こ、これはいったいどういうことですか……っ!?」
「流石のアンタの回復力でも、私の忍法は防ぐことはできないみたいだな」
「なっ!?あ、あなたは!」
自らの身体に走る激痛に困惑するフュルストの前で、突如として空間がぐにゃりと歪む。そしてそこから現れたのは、先ほどまでニールセンと戦い全身を切り刻まれてバラバラの肉塊となっていたはずのふうま亜希であった。
「邪眼“死裂”……私の邪眼はどんな傷でも致命傷に変えることができる。いくらアンタが傷を回復させることができると言っても、致命傷をすぐに癒やすことはできないだろ」
「なぜあなたが……まさか、私がみたアレはっ!?」
「そう、私が作った幻影よ」
「っ!?」
またしても空間が歪み、その中から不知火とフランシス、ミリアムとナーサラが現れふうま亜希の隣に立つ。ニールセンとオロバスによって始末されたと思われていた者達は全員無傷であり、汗一つかかずに自分を見下ろす不知火を目の当たりにし、フュルストはようやく事態を理解した。
「そうか……そういうことですか。私だけでなくニールセンやオロバス、あの異界生物すらも貴女の幻に踊らされていたということですか」
「その通りよ。それで、まだやる気かしら?」
不知火は目の前で戦っていたフュルストだけでなくその場に居た部下達もまとめて幻影で惑わし、自分達がフュルスト達によって為す術なく倒されたかのように見せかけた。そして戦いが終わったと見せかけた一瞬の油断を突き、幻影によって姿を消した不知火達が強襲しフュルストの軍勢を一網打尽にしたのだ。
まんまと幻影に引っ掛かったこと、元人間の不知火に出し抜かれたことに屈辱を感じフュルストはギリリと歯ぎしりを起こす。しかし異界生物を全滅させられ部下達も不意打ちを受けて傷を負っている。何より自らの身体が負った傷は中々治っておらず、このまま戦ってもただ無駄死にするのは明白であった。
「いいでしょう……時間は十分に稼ぎました。今日はここらで退くとしましょう……ですが、この屈辱は決して忘れません。覚えときなさい!」
フュルストは負け惜しみにそう言うと魔力の渦を作り出し自らとニールセン、オロバスを包み込む。そして彼らの姿は忽然と消えてしまう。どうやら転移によってこの場から逃げたようであった。
「ふぅ……どうやら退いたようね」
気配が完全に消えたことからフュルスト達がこの場から退却したのだと不知火は確信し、思わずため息をついた。
「不知火……あいつ、今時間は十分稼いだと言っていたけど」
「えぇ、恐らく彼らとは別に動いている人がいるわ。そいつらが恐らくカムイ君達を追っているのだと思うわ」
「連中、囮……戦力の分断、時間稼ぎ、合理的な戦略」
「えっ!?なら早く追いかけないとヤバいじゃん!?」
「確かに。探偵やユーリが付いているから大丈夫だと思うが……あやつらがあっさりと退いていったのも気がかりだしな」
フュルスト達を撃退した探偵事務所のメンバーは魔科医の元へと向かったカムイ達を追うべく走り出すのであった。
一方その頃、テウタテスと遭遇したカムイ達は劣勢を強いられていた。
「ちぃっ!おらぁっ!!」
「ハァっ!!」
「フッ……」
デザストがグラッジデントを片手に斬りかかると同時に彼の背後からユーリが小刀を投げつける。テウタテスは特に動じることなく無銘剣でデザストの攻撃を易々と受け止める。そして同時に鎧の間からグジュグジュと嫌な音を立てながらドロドロとした黒いものが溢れ出る。
――――ジャギンッ!!ガキガキガキィィィイイイインっ!!
するとそれは突如として鋭い槍のような形状となり、迫り来る小刀をはたき落としてしまう。更にそれは縦横無尽に動きデザストとユーリに襲いかかる。
「くっ!?」
「ぐあぁぁあっ!?」
ユーリはなんとか身体を反らして黒い槍を躱す。しかし至近距離にいたデザストはその攻撃を躱すことができず、黒い槍に何度も身体を切り裂かれ火花を散らす。
「むんっ!!」
――――ズバアアァァァアアアアアッ!
「がぁぁぁあああっ!?」
黒い槍の攻撃に怯んだデザストに対して、テウタテスはすかさず無銘剣を振るい追撃を加える。デザストはそのまま吹き飛ばされて地面を転がる。
「どうした、こんなものではないだろう。もっと私を楽しませてみせろ」
「ちっ!あの野郎……」
「これが、魔界九貴族の力ですか」
グラッジデントを杖代わりにして立ち上がるデザストと、小刀を構えながら油断なくテウタテスを見据えるユーリ。彼らはすでに体力のほとんどを使い果たしているようで肩で息をしている。
デザストが参戦し事態が好転したかのように思えたのも束の間、テウタテスの登場と共に状況はますます悪化している。テウタテスはその圧倒的な力でデザストとユーリの二人を相手取っていた。
二人の攻撃はテウタテスには通じず、テウタテスの身体から溢れ出る肉腫による攻撃に二人は徐々に追い詰められていく。
このまま続けていても勝ち目はない。そう考えたユーリはそっとデザストに耳打ちする。
「あなたは、カムイさんのお知り合いですよね?」
「あっ?なんだよこんな時に……」
「……私がテウタテスの動きを止めます。その隙に、あなたが奴に攻撃を仕掛けてください」
「……動きを止めるだと……そんなことできるのか?」
「えぇ……ですが、そのためには奴と目を合わせなくちゃいけません。それに、テウタテス相手に私の力がどれだけ通じるか……恐らくできてもほんの一瞬だけでしょう。ですから、その一瞬の隙にどうか……」
「……ハァ……今回ばかりはしょうがねえか。オラァァアアッ!!」
ユーリの言葉にデザストは渋々頷き立ち上がると、グラッジデントを振るい連続で斬撃波を放つ。
「ふん……」
迫り来る斬撃波を、テウタテスは右手に持った無銘剣で斬り払う。斬撃波はテウタテスに届かずその全てが両断されていく。しかしデザストはそれでも怯まず斬撃波を放ちながらテウタテスへと走って行く。
「そおらそらぁぁああああっ!!」
テウタテスの元までたどり着き、グラッジデントを振るい続けるデザスト。その全ての攻撃をテウタテスは無銘剣で弾き、つばぜり合いで火花を散らす。デザストがグラッジデントに力を込めても、テウタテスの構えた無銘剣はびくともしない。
「その程度の攻撃、私には届かない」
「みたいだな……だがな、あんまり俺を舐めるんじゃねえよ」
「なに?」
「おおおらぁぁああああああああっ!!」
「むっ……」
デザストは無銘剣を握っているテウタテスの手を掴み、押さえ込む。すると虚を突かれた形でテウタテスの体勢が僅かに崩れた。その一瞬をユーリは見逃さず、アイマスクを取り払い自らの能力を発動させる。
「っ!」
「ぬっ!?これは……」
次の瞬間、テウタテスの動きがピタリと止まる。これがユーリの持つ能力―――目が合った相手を魅了し、数分間相手を意のままに操ることができる“魅眼”である。ユーリが持つこの能力は、彼女の一族の中でも特に強力であり本来なら相手をそのまま自害させることもかのであったが、あまりにも格上の存在であるテウタテスにとってはただ動きをほんの少し止めることしかできないでいた。
しかし、デザストにとってはそのほんの少しの時間さえあれば事足りる。デザストはテウタテスの動きが止まった瞬間、彼を蹴り飛ばす。そして吹き飛ばされたテウタテス目がけて、デザストはグラッジデントを構えて必殺技を放つ。
「“カラミティ・ストライク”……!オォォォオオオオオオオオオッッ!!」
――――ズバアアァァァアアアアアッ!
紫色のエネルギーを纏いながら身体を回転させて突撃するデザスト。そして吹き飛ばされているテウタテスに追いつく瞬間、彼は渾身の一閃を叩き込んだ。テウタテスはそのまま地面へと倒れる。
「……なるほど、悪くはない。技の冴え、能力、それらを全て上手く活かしている」
「なっ!?」
「だが、私には通じない」
しかしテウタテスはなんのダメージを負った様子もなく立ち上がる。デザストの攻撃は確かにテウタテスに直撃した。その証拠に、攻撃が当たった箇所の鎧の部分が砕けていた。しかし鎧からは血も肉も溢れていない。更に砕けた鎧の隙間には、まるで闇そのもののような黒い空洞が広がっている。それを見た瞬間デザストは今まで味わったことのない、言い様のないおぞましさを感じた。
その黒い空洞から、ドロドロと再び肉腫があふれ出し一本の黒い槍と化す。それは素早く真っ直ぐにデザストへと伸びていく。それはデザストの腹を貫き壁へと叩き付けられる。
「がぁああっ!!?」
「デザストっ!?」
デザストは腹を貫かれたまま壁へと縫い付けられる。カムイは思わず彼に駆け寄ろうとする。しかし彼の前にウィスプが立ちはだかると、彼の顔目がけて蹴りを放つ。
「ふっ!」
「ぐがっ!?」
「カムイさんっ!?」
身体能力が下がったカムイはそれを避けることすらできず、そのまま地面を転がる。それを見たユーリがカムイを助けようとするが、それよりも早く黒く大きい肉腫がユーリを襲い包み込む。
「うあっ!?」
「ユ、ユーリ……ぐぅっ!!?」
「今はテウタテス様が楽しんでいる最中なのよ。邪魔するなんて不敬よ」
顔を蹴られて地面に転がったカムイは、痛みに呻きながらも身体を起こそうとする。しかしそんな彼の腹を今度はワイトが蹴り上げて邪魔をする。
「ぐうぅううっ!?」
「私の動きを止めるとは、中々の異能を持っている……その力、これからは私のために使わせて貰うぞ」
肉腫に包まれたユーリはそのままテウタテスに首を捕まれて持ち上げられる。ユーリは苦しそうにしながらも拘束を振り払おうと暴れるがビクともしない。
そしてユーリの首を掴んでいた腕の鎧の隙間から再び肉腫があふれ出すと、ユーリの身体を包み込んでいく。まるで肉腫に取り込まれていくようである。
「っ!?なん、ですかっ、これは……っ!」
肉腫に包まれていく度にユーリは恐怖を感じた。その肉腫は見た目こそ悍ましいが、身体が覆われていく度に不安が解きほぐされ心地良く感じてしまう。それが何より恐怖を増長させる。
「ほう……感じるぞ人間よ。お前の心の奥底にこびり付いて離れない悲しみと、その身を焦がさんばかりに燻っている憎悪の炎を」
「……っ!?」
「案ずるな、己の身を委ね我が色に染まるが良い。その悲しみも憎悪も全て捨て去り、お前は私の新しき命として生まれ変わるのだ」
「や、めろ……ユーリを、放せ……っ!」
「カ、ムイ……さっ……逃げ……て……っ!」
ドロドロとした肉腫に飲み込まれていくユーリに向かって必死に手を伸ばすカムイ。そんなカムイに、ユーリは絞り出すような声で逃げろと告げた。
「やめろっ……やめろおぉぉぉぉぉおおおおおおっ!!」
―――カランっ……
喉を潰さんばかりにカムイの絶叫が空間に響く。しかしその叫びも虚しく、ユーリは完全に肉腫に飲み込まれた。そしてその肉腫はテウタテスの体内へと収まり、地面に音を立ててユーリの小刀が転がった。
「あっ……ユーリ……」
「次はお前だ、虚無の剣士よ……お前も我が尖兵へとなるがいい」
ユーリを取り込んだテウタテスは、今度はカムイを標的に定める。しかしカムイは呆然となり地面に落ちたユーリの小刀を見つめる。
(あの時と同じだ……また……俺は、なにもできなかった……)
ユーリがテウタテスに取り込まれたのを見ていることしかできなかったカムイは茫然自失となり項垂れた。ユーリにとってカムイは探偵事務所を通して最近交友を深めた程度であり危険を冒してまで自分を助けるほど深い仲ではなかったはずだ。今こうして厄介ごとに巻き込まれたとしても、見捨ててその場から逃げれば命は助かるはずだったのだ。
なのにユーリはカムイを助けた。淫の氣によって身体が不調になり殺されそうになっても、テウタテスというあまりに強大な存在が現れても、ユーリは決してカムイを置いて逃げようとしなかった。その光景がカムイには、かつて死んだ己の母の姿と重なって映ってしまう。
(なんでなんだ……なんで俺は、目の前にいながら何もできないんだ……!!)
自身がまだ幼かったあの日、実の母を殺された時のように喪失感と絶望がカムイを苛む。そして同時に彼の心からフツフツと煮えたぎるような感情がわき上がってくる。
目の前で自分と関わりがある者が傷つき、奪われるまでに何もできなかった無力な自分への怒りと、平気で奪っていく者への憎悪がカムイの心を支配する。それが痛みで動けないでいたカムイの身体に力を与えていく。
「ふざ、けるな……っ」
「ん?」
「ふざけるなって言ってんだっ……!!」
蹴られてジクジクと痛む腹を押さえながらカムイはゆっくりと立ち上がった。力を奪われ、無銘剣を奪われて子供と大差ない身体にされていながら、彼の身体から発せられる気に当てられテウタテスは思わず足を止める。
「もうこれ以上、奪われてたまるか……!!」
カムイが叫び、立ち上がる。そして彼の言葉に反応するかのようにテウタテスの手に握られていた無銘剣虚無が光と熱を放ち始めた。
「なんだ?貴様、いったい何を……!」
―――ガキィィイイイイイインッ!!!
「ぐっ!?」
「「テウタテス様!?」」
次の瞬間、無銘剣虚無は独りでに動きテウタテスの手から離れて彼を切り裂く。更にそれはカムイに切っ先が向かうと同時に突撃し、彼の身体を刺し貫いた。するとカムイの身体を炎が包み込む。
「これは……!」
「オオォォォオオオオオオオオオオオッ!!」
炎がカムイの身体を燃やす。しかしただ燃えているわけではなかった。よく見ると呪いによって少年のように縮んでしまったカムイの身体が少しずつ大きくなっていっている。そしてあっという間に元の身体の大きさに戻ったのである。
「馬鹿な……元に戻っただと……まさか、力を封じていた呪いそのものを焼き尽くしたとでもいうのか!」
あまりの出来事にテウタテスは驚愕を顕わにした。彼は予め自身の協力者より、カムイの身体には呪いが仕込まれていることを知っていたのだ。その呪いは数多の魔族の血を掛け合わせて作られたものであり、ちょっとやそっとでは解呪することが困難なほど強固なものであることを。そしてその呪いが刻まれている間、カムイの力の大半は封じられることを。
だがその呪いが、無銘剣によってあっという間に打ち消されてしまったのだ。
更に驚くことはそれだけではなかった。カムイの身体の一部―――過去に彼が獄炎の女王アスタロトによって刻まれた刺青が突如として輝きを放つ。そしてそれに惹かれるようにカムイの身体を覆っていた炎が刺青へと集束し、凝縮されていく。
やがて全ての炎が一つに集まると一つの形を成した。それは紅く四角い、小さな本のようであった。その紅い本はしばし空中を漂うと、やがてカムイの手へと収まる。それを見た瞬間、カムイは驚きを顕わにした。
「これは……!」
カムイの手にあったのは“ライドブック”であった。それも彼の記憶にうっすらと残っている前世の知識には存在しないはずの、見たことのないものである。
だがそのライドブックを手にしただけで、カムイはそれから発せられる凄まじいエネルギーを感じ取っていた。故に彼は一切のためらいなく、自らの腹に突き刺さっていた無銘剣虚無を引き抜きブレードライバーへと納刀する。そして手に持っていたライドブックの表紙を開いた。
『インフェルノ・クイーン!!』
『あらゆるもの全てを焼き尽くす、魔界の炎を司る一人の女王がいた……!』
そしてカムイはライドブックをブレードライバーに装填し、無銘剣虚無を引き抜く。
『抜刀!』
「……変身」
次の瞬間、彼の背後から炎が湧き上がる。そして炎はまるで意志があるかのように蠢くと、一人の女性のような形を成しカムイを背後から抱きすくめる。そして炎がカムイを包み込み、その姿を変えていく。
『エターナルパワー!!』
『虚無!神獣の炎で全てが無に帰す……!』
やがて炎が小さくなると、仮面ライダーファルシオンへと変身したカムイが姿を現した。しかし、それはいつものファルシオンとは違った姿である。
オレンジを基調としたアーマーは紅色へと変わっており、腰のフェザータセットも形状を変え腰全体を覆いローブのようになっている。
「なんだ、あれは……あの野郎、あんな力隠してやがったのか」
ファルシオンの形状変化には、壁に縫い付けられていたデザストさえも困惑していた。しかし形が変わっただけでなく、少し離れているだけでも伝わる熱量と力の奔流をデザストはしっかりと感じ取っており、そのパワーに彼は思わず釘付けになってしまうほどであった。
しかし驚いていたのはデザストだけでなかった。テウタテスもまた新しいファルシオンの力を感じ取り驚愕していた。なぜなら彼の纏う炎は、ただの炎ではなかったからである。
「その炎は、まさか獄炎か……馬鹿な……人間如きが、魔界の炎を扱うだと!」
獄炎を纏ったファルシオンを見て驚いているテウタテスを余所に、カムイはゆっくりと歩を進めテウタテスに近づく。その瞬間、彼は傍に控えていたワイトとウィスプに命を下す。
「ワイト!ウィスプ!奴の動きを止めろ!」
「はっ!」
「お任せください!」
テウタテスの命を受けて二人は動き出す。ゴーレムを従えウィスプとワイトはカムイへと襲いかかる。
「ふっ!」
しかし次の瞬間、カムイの動きが急激に加速する。炎を纏った足で地面を強く蹴り、目にも留まらぬ速さでウィスプとワイトの元へたどり着く。
「なっ!?」
「速い!?」
「おらぁっ!!」
――――ヒュッ!ドガァッ!!ドゴォッ!!
驚愕する二人に向かってカムイはためらいなく拳打と蹴りを放つ。もろに受けたウィスプとワイトは大きく吹き飛び壁へとたたき付けられる。
「きゃぁっ!?」
「うぐあっ!?」
壁にめり込むほどの衝撃でたたき付けられた二人はそのまま地面に転がり気を失う。カムイはそれを確認することなく、残ったゴーレムに向かって無銘剣を振るう。
「オオラアァァアアアアアアッ!!」
―――ゴウッ!!
無銘剣から炎が溢れ、ゴーレム達を一つ残らず飲み込んでいく。そしてそれらは全て、塵一つ残さず焼却されたのであった。
「馬鹿な……一撃だと」
ウィスプとワイトの二人、さらには彼女たちが従えるゴーレム全てを一撃で仕留めたことにテウタテスは信じられないと言わんばかりに呟きを零す。
そんなテウタテスに対してカムイは無銘剣虚無の切っ先を向け、言葉を放つ。
「次は、お前の番だ……!」
今再び、激闘が幕を開けるのであった―――。
また大分投稿期間があいてしまった……大変申し訳ありません!!
前回のアンケートで、ファルシオンのオリジナルフォームについて登場させるかどうかというアンケートを行い、出しても良いという票数が多数集まったため今回早速登場させることにしました。詳しいスペックとかは時間が空いたときにでも書いて投稿したいと考えています。
そしていつの間にか、お気に入り件数が500を突破していました!登録していただいた方々、大変ありがとうございます!これからも頑張って投稿して、皆さん楽しんでいただけるようにしていこうと思いますのでどうぞ応援よろしくお願いします。