サイバーパンクな忍者世界で不死身の剣士してます 作:ニゴリエース
東京キングダム―――東京湾上に浮かぶ廃棄都市で、面積約38平方キロメートルの人工島。かつて政府の一大プロジェクトであった『東京キングダム・シティ』として建設され、第二の都心となることを期待されたはずであったが、企業誘致の失敗に東京湾地下鉄工事の大幅な遅れということで計画が頓挫し、10年前に開発が全面中止となり政府から捨てられた孤島へとなった。
そんな事実上無法地帯となった島には多くの犯罪者やテロリスト、人間界へと進出してきた魔族に魑魅魍魎が流れ着き、欲望渦巻く退廃と享楽のスラムへと瞬く間に姿を変えたのだった。
そんな東京キングダムへと足を踏み入れるのは井河カムイ―――つい先日、本人曰く
彼はしつこく声を掛けてくる客引きや売春婦を軽くあしらい、絡んでくるチンピラを物理的に黙らせながら黙って目的地を目指す。
「相も変わらず、騒がしい場所だな。まっ、そこはヨミハラも同じか……っと、着いたな」
暴力と快楽に支配された闇の街を見て吐き捨てるように独り言を呟くカムイ。そしていつのまにか目的地についたのか、彼はとある場所で足を止める。カムイの前には、他とは比べものにならないであろう豪奢なナイトクラブが鎮座している。そこはクラブ・ペルソナ―――東京キングダムでも一、二を争うほどのクラブであり、“表”の世界では法に触れるであろう背徳的な遊びを提供する場所である。
カムイは迷うことなくクラブの扉を開くと、そこには人間や魔族、男女問わず様々な者が存在していた。むせ返るような酒と煙草に甘ったるい女の匂い、妖しくも淫靡な光に照らされながら、際どいドレスなどの衣服を纏った女性を侍らせ男達は一夜の欲望を堪能しているのが見える。それを見たカムイは少しだけ顔をしかめる
「ったく、ここも変らないな……品のない場所だぜ」
闇の世界で暮らしているカムイにとって目の前の光景は別段珍しくもなんともない。だが実際に目の当たりにするとどうしても嫌悪感が勝ってしまう。下卑た欲望を満たすため金で美しい女を買う男達。彼らが稼いだ金は全うに稼いだ綺麗なものばかりではないだろう。そしてその金を稼ぐために多くの血と涙が流れたのは想像に難くない。そのことを考えるとカムイは苛立ちを覚えるが、すぐに心の中で自嘲をする。
「まっ、それは俺も同じか」
カムイは傭兵を生業としているため、まっとうな生き方をしているとは口が裂けても言えない。依頼の内容については選り好みしているとはいえ、己の生活と戦いに対する狂おしいほどの衝動を満たすため、カムイは剣を振るい多くの血を流してきた。殺してきた相手は大抵悪人であり、女子供をむやみに殺すような真似はしていない。だがやっていることは所詮人殺しであり、程度は違えど所詮は同じ穴の狢なのだ。
「ははっ……なにが“仮面ライダー”だ……そんなの名前、相応しくないって分かってるのにな」
自分が目の前の者達と同じなのだと自覚し、カムイはますます自虐的になってしまう。前世で憧れた、あのヒーロー達の名前を名乗ることすら烏滸がましいとさえ考えてしまっている。そんなことをしている内にどれほどの時間が流れたのだろうか、カムイに対して声を掛ける者が現れた。
「店の中でそんな顔してボーッとしないでもらえないかしら。客足が遠のいてしまうでしょ」
自己嫌悪に囚われいたカムイは声を掛けられたことでハッとなる。そして自虐の念に沈んでいたためか、彼は目の前の女性が自身のすぐ傍まで近づいていたことに気づかなかったのだ。彼はばつが悪そうな顔をしながら謝罪を告げる。
「……悪い、ちょっと考え事をな」
「珍しいわね、貴方は悩みとか抱え込むようなタイプには見えないのだけれど」
「おい、それって俺が単純な男って言いてえのか」
「クスクスッ♪そういうわけじゃないわ。ただそんなに深刻そうな顔してるのが珍しかっただけよ」
ふてくされるような顔をして睨み付けるカムイに対して女性は笑みを浮かべて受け流す。カムイもまた本気で怒ったわけではないため、ため息をつき視線をそらす。
「ちょっと夢見が悪くてな……ここんとこどうにも気分が乗らないんだよ」
「何か悩み事かしら。良かったら相談に乗るわよ」
「結構だ……プライベートまでアンタと関わりを持とうとは思わない」
女性の言葉にカムイは顔をしかめながら拒絶の意を示す。それを聞いた女性は少し戯けた様子で肩をすくめる。
「つれないわね。私たち、組んでから結構長いはずなのだけど」
「依頼主と傭兵としての関係、あくまでビジネスだ……
「―――そうね、確かにその通りだわ」
カムイに“マダム”と呼ばれた女は笑みを浮かべる。目元を仮面で隠し、ロングコートに身を包んだ女―――彼女こそクラブ『ペルソナ』のオーナーであり、傭兵としての仕事の依頼主。そして米連に属する機関―――
「立ち話もなんでしょうし、とりあえず座りましょう。仕事の話は向こうでね」
「……了解」
マダムは笑みを浮かべながらカムイを奥の部屋へと誘っていく。カムイもまた彼女に促されるがままにクラブの奥へと歩いて行く。たどり着いたのは豪華な調度品が置かれている個室―――特別な顧客へ接客するための所謂VIP席と呼ばれる場所だ。二人は向き合う形でそれぞれソファーへと腰掛ける。
「んで、依頼ってなんだよ」
「あら、随分せっかちね。まっ、私としても仕事が速いことに超したことはないけれど」
マダムはそう言うと脇に置いてあったファイルを取り出し、カムイの前へと差し出す。カムイはすぐ差し出されたファイルを開き、中に収められている書類へと視線を映す。そして一通り目を通したカムイは眉をひそめながらマダムの方へと顔を向ける。
「孤島にある遺物の発掘だと?」
「そう。実はここである遺物が発見されたの」
―――マダム曰く、日本海域に点在する孤島にて謎の熱源がいくつか感知されたのだという。人の手も入っておらず観光にも向いていない、ほんの小さい島から発せられた熱源に違和感を覚えたDSOはすぐさまその熱源を調べるために調査隊を派遣したのだという。
そして調査の結果、なんとその孤島にはいつ作られたのかも分からない遺跡が発見されたのだと。過去に発見された古代文明と照らし合わせても合致しない未知の文明―――そしてその奥には熱源の正体と思わしき物が眠っていたという。
DSOはすぐさまそれを持ち帰り“それ”の調査を開始した。その結果、使用方法は謎のままだったがとんでもない力を秘めていることだけは解析できたのだという。魔界の門を封印し、魔の技術が拡がることを是としないDSOとしても見過ごすことができないほどに。
故にDSOは残りの熱源の調査及び遺物の回収に乗り出したのだった―――のであるが。
「鬼の集団が乗り込んで調査隊を島から追い出したと」
「えぇ、その通りよ」
資料にあるように、二つ目の調査を開始したDSOの前に突如として現れた鬼の集団。彼らは有無を言わさず調査隊へと襲いかかってきたのだという。護衛は僅かばかりであり、奇襲を受けた隊員達はほとんど抵抗さえできず命からがら逃げ出したという。
「なんで鬼の連中が遺跡なんて狙う」
「さぁ……理由は分からないわ。ただ、動きからして恐らく組織だったものの思惑があるのだと考えられるわ。じゃなければ“鬼族”が好んで遺跡漁りをするとは思えないし」
「確かにな……」
鬼族は元々魔界に存在する種族であり、その多くは短絡的な物が多い。目先の快楽や金に弱く、刹那的に生きており、酒代を稼ぐために傭兵の真似事をするのが大半で組織的な集団は多くない。そんな連中ならわざわざ苦労して遺物を掘り起こして売り払うなど手間暇がかかるようなことはしない。傭兵や用心棒など人外の力を生かした仕事で日銭を稼ぐ方が単純で確実性があるのだから。
だが鬼の組織が存在しないわけでもない。現にカムイは鬼によって組織された集団を二つほど知っている。しかしそのどちらもが今回の件に絡んでいるとはとても思えなかった。
「“鬼哭”か“鬼武衆”の仕業……ってわけじゃないな。あいつらがそんなもの欲しがっているなんて話は聞いてないし」
鬼哭は霜の鬼神の一族によって組織された魔界のマフィアであり、鬼武衆は鬼族によって構成された東京キングダムの一角を支配する組織だ。カムイは傭兵としてどちらとも面識があるためか、彼女らが遺跡に眠っている遺物に興味があるなんて話を聞いたことがないため、どちらの組織も関与していないはずであると考えた。
「そこはこちらでも調査したわ。どっちも外れよ」
「ならこいつらは全くの別の組織ってわけか……」
「えぇ、どんな組織で誰がトップかは不明……けど狙いはハッキリしてるわ。熱源の発生源―――遺物の発掘よ。貴方には鬼族に奪われる前に彼らを撃退してほしいの」
「……なんで俺なんだよ。そんなもの、アンタんとこの連中で事足りるだろが」
「少し前までなら、私もそうしたわ。けどそうもいかなくなったの。
「……あぁ、なるほど。そういうことか」
特務機関G―――それはカムイにとっても少なからず因縁がある“米連に属している組織”である。戦闘・暗殺に特化したサイボーグソルジャーや最新鋭のドローン兵器を中心に構成されており、魔界の技術を得ようと日夜暗躍している組織でもある。同じ米連の組織でもDSOとは真逆の方針であり、両者ともに対立関係に当たる。
しかしそこは同じ組織に属しているため表だって争うわけにはいかず、こういった事案が起こると互いに動けずにらみ合いへとなってしまうことが度々あるのだった。
「どうやら向こうも熱源のことについて躍起になっているみたいでね。お互いに牽制し合って大きく動くことができないのよ」
「対立しているとはいえ、同じ米連の組織だから武力衝突は避けたいってか?はぁ、やっぱり組織ってのは面倒くさいんだな」
「組織のしがらみなんてそんなものよ。とにかく、そういうわけでこっちは表だって動くことができないの。そういうわけで米連に所属していないアナタを頼ろうって考えたのよ」
「はっ!頼る、ねぇ……金で動かせて体よくトカゲの尻尾切りができる、便利に使い潰せるの間違いだろ?」
「そんな捻くれた言い方は感心しないわよ。それに、そこまで嫌われるようなことしたかしら?」
「嫌ってはいねえよ……ただ、素顔も隠して本音も見せないアンタを信用できないだけだ。借りがなかったら関わろうとは思わない」
「あら、残念。私たち、それなりに長い付き合いだと思ったのだけれど」
「どの口がいいやがる……」
いくら口汚い言葉をかけようともマダムはのらりくらりと躱し、妖艶な笑みを絶やすことはない。その余裕な態度と腹の底を見せようとしないところがカムイの苦手とする所である。彼はこれ以上の問答は無意味と感じたのか、話を進める。
「まあいいさ。それで、話の続きは?」
「そうね……話の続きなんだけれど、その前に実はアナタに見せたい物があるの」
「見せたい物だと?」
マダムの言葉にカムイが小首をかしげると、彼女は真横に置かれていたアルミ合金のアタッシュケースを机へと置いた。そしてケースを開き、中をカムイへと見せる。そしてその中身を見た瞬間、カムイは表情を一変させ目を見開くこととなった。
「これは……!どこでこれを!?」
「最初に話した、孤島の遺跡から発見された熱源―――その正体がこれよ」
アタッシュケースの中に収められていたのはカムイにとっては見過ごせない物であった。ケースの中央に収められたのは小さな本のような物。しかしそれは決して本ではない。グリーンを基調とした長方形の物体。中央には逆さになって手を組んでいる男が描かれており、その上には漢字で『猿飛忍者伝』と書かれていた。
カムイが驚いたのも無理はなかった。それはまさにカムイが持っているものと同じワンダーライドブック―――それも原作において登場した仮面ライダーが一人“仮面ライダー剣斬”が使っていた『猿飛忍者伝ワンダーライドブック』であったのだから。
「これ、アナタが持っている物と同じ類いの物よね?」
「……あぁ、そうだ」
「なら、これがもし他の組織に渡るようなことがあったら大変なことになるのは百も承知よね?」
マダムの言葉を聞きカムイは顔をますます険しくする。まさしくその通りだった。ワンダーライドブックとは『仮面ライダーセイバー』の世界を作った“全知全能の書”がバラバラに分割されたものであり、各々に対応する伝承を封じ込めている。カムイの持つエターナルフェニックスワンダーライドブックもその一つであり、そのどれもが強大な力を秘めている代物だ。
もしこれを悪用しようとすれば、どれほど脅威になるのかは想像に難くない。マダムもまたカムイとは浅くない付き合いであり、彼の持つワンダーライドブックがどのような物かある程度理解している。だからこそ、今回の件についてカムイに依頼をしてきたことは想像に難くなかった。カムイもまた、ワンダーライドブックを見せられればもはや無関係ではいられなかった。
「……俺にどうしろと?」
「孤島に行って鬼族よりも先に熱源の正体を確かめて回収してきてちょうだい」
「このライドブックはどうするつもりだ」
「これは前金よ。遺跡の物も手に入れたらアナタに譲るわ」
「……アンタだったら有無を言わさずにこれを回収して封印なりなんなりすると思ったんだがな」
「私も最初はそう考えたのだけれどね。でも、これがどんなものかアナタの方が詳しいと思うから、アナタに預かってもらうことにしたの。アナタ相手ならこれを悪いようにはしないと思ってね」
「……そうか、そういうことならこいつは預からせてもらう」
カムイはそう言うとアタッシュケースに収められていたワンダーライドブックを懐へとしまう。マダムの言葉を全て鵜呑みにしたわけではないが、それでもワンダーライドブックを目の前にして見逃す気もなかったのだ。
「んで、その孤島ってのはどこなんだ?」
「場所は追って連絡するわ。アナタには明日、近くの港から舟に乗ってその遺跡があった孤島に向かって貰う」
「……当然俺一人ってわけじゃないんだろ?」
「当然。その島にはアナタの他にこちらから一人同行させてもらうわ」
「監視目的か?」
「違うわよ、単純にアナタのサポート。鬼族とはいえ今回の相手は得体が知れないし、万が一ってこともあるでしょ?」
「そうかい……ならもう聞かねぇ。そろそろお暇させてもらうぜ」
カムイはそう言うとソファから立ち上がり踵を返す。そんな彼に対してマダムは引き留めるように声を掛ける。
「あら、もう帰ってしまうの?相変わらずせっかちね」
「……」
早足に出て行こうとするカムイに対して呆れたように言葉を掛けるマダム。そして部屋を出る直前、カムイは唐突に足を止めると僅かに首を振り向かせて口を開く。
「なぁ……
「……フフッ、気になるの?」
「……あぁ」
カムイの言う“あの子”が誰なのか、マダムはすぐに理解し悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「あの子は平気よ。特に大きな怪我もしてないし、最近だと噂の対魔忍の遊撃部隊の子とも仲良くしてるみたいで、随分と笑うようになったわよ」
「小太郎達か……そうか、それなら良かった」
マダムの言葉を聞きカムイは肩の力を抜いた。彼の顔には先ほどまでとは打って変わって安堵の表情が浮かんでいた。
「……そんなにあの子のことが気になるのなら会っていけば?呼べばすぐに来れるわよ?」
「……いや、いい……あの子が無事なら。あの子が笑っているって聞いたなら……それだけで俺は良いんだ」
あの子に会えるという言葉に対して僅かに迷いを見せるカムイ。しかしすぐに首を振りその提案を払いのける。心の中で葛藤があったのかその表情はどこか浮かない。それをすぐに見抜いたマダムは呆れたように肩をすくめる。
「そう……素直じゃないわね」
「ほっとけ。とにかく、依頼の件は引き受けたからな」
「えぇ。それじゃあ明日、港で待ってるわ」
カムイはそう言うと今度こそ部屋を出て行く。マダムはそんな彼に向かってヒラヒラと手を振り見送るのであった。