サイバーパンクな忍者世界で不死身の剣士してます 作:ニゴリエース
「おい待てぇ!!」
遺跡を荒らしている鬼達に追われ小太郎達は森の中を必死に掛けていく。鬼達もまた手に刀や槍といった得物を携えて怒号を発しながら小太郎達を追いかけていく。
「ひいぃぃいいいいっ!!めちゃくちゃ追いかけてきてるぞふうま!!」
「今はとにかく逃げるぞ!あの数の鬼全員を相手にするのは流石にリスクが高い!!」
「で、でもふうまちゃん!逃げるってどこに!?」
「分からない!とにかく今は奴らを撒くしかない!木々を抜けてできるだけあいつらの視線を切るんだ!!」
鬼族の危険性を理解しており囲まれることを恐れた小太郎は二人に指示を出しながら森を駆けていく。普段から対魔忍としての訓練を受けている彼らにとって見通の悪い森や悪路を走ることには慣れている。しかしこのままただ逃げるだけには行かず、どうにかして状況を打破するため小太郎は走りながら必死に頭を働かせる。しかしそんな彼の思考を遮るかのように蛇子が大声を出す。
「ふ、ふうまちゃん!前、前!!」
「っ!?」
「う、嘘だろぉ!?」
森を駆けていた三人であったが、彼らは足を止めざるを得なかった。なぜなら彼らのすぐ先は崖となっていたのだ。森の中は高い木々が生い茂り日の光がほとんど届かず見通が悪いため、鬼達から逃れるには確かに都合が良かった。しかしそれは小太郎達の視界すらも狭めてしまい、近づくまで崖の存在を確認することができなかったのだ。
「ど、どうしようふうまちゃん!」
「飛び降りるにしては流石に高すぎる……すぐに引き返すぞ!!」
崖の高さを確認し、自分達ではここを飛び降りるのは危険と判断した小太郎はすぐさま二人に引き返すように指示を出す。二人は小太郎の指示に従いすぐに来た道を引き返そうと踵を返す。
「いたぞ!こっちだ!!」
「手間取らせやがって」
「逃がさねえぞ」
しかし運の悪いことに、彼らの来た道からゾロゾロと鬼達がやってくる。それぞれ得物を構え、崖を背にしている小太郎達を取り囲んでいく。それを見た鹿之助は怯えたように悲鳴をあげる。
「ひぇぇぇええええええっ!!もう追いついてきたぁあああっ!!?」
「ど、どうしようふうまちゃん!蛇子達、追い詰められちゃったよ!!」
「くっ!?」
初めて訪れた孤島のため禄に土地勘も持たずに逃げた結果、自分達を窮地に追いやることとなったため小太郎は思わず歯噛みする。しかしそれでもなんとかこの窮地を脱するため鬼達を見据えながら必死に思考を巡らせる。
(どうする……後ろは崖だが、蛇子のタコ足なら俺と鹿之助を抱えてでも降りられるか……けどこいつらがそれを黙って見ているわけがない。手裏剣と蛇子の墨で牽制して―――ダメだ数が多すぎる!全員の目をくらませるのは難しい!戦うにしても向こうの方が数が多いし場所も悪い!こっちが圧倒的に不利だ!くそっ、こうなったら一か八か飛び降りながら蛇子にタコ足を出してもらうしか……)
どれだけ考えても逃げ切れない可能性が高いことに小太郎は内心悪態をついてしまう。その間にもジリジリと鬼達は距離を詰めてくる。もはや考えている時間もなく、小太郎は二人に崖から飛び降りる指示を飛ばそうと口を開きかけた。その瞬間、突如として何かが飛来した。
―――ゴオォォオオオオオオオオッ!!
「うおっ!?」
「な、なんだっ!!?」
それは炎であった。炎は鬼達と小太郎達の間に割って入り飛来する。その炎はあっという間に地面に燃え広がるが、小太郎達に向かって炎が伸びることはなくあくまで鬼達の前を遮っている。まるで鬼から小太郎達を守るかのような形であった。
「なんだこれは!?」
「おい、何がどうなってやがる!?」
「俺が知るわけねえだろ!!」
鬼達は突然のことに慌てふためいている。しかし小太郎達はまるで自分達を助けるために現れた炎に既視感を覚え、ある人物を想像した。
「えぇっ!?こ、これって!」
「ふ、ふうまちゃん、この火ってまさか……」
「―――あぁ、たぶんあの人だ」
炎を見て三人がそれぞれ同じ人物を連想した時、段々と炎が小さくなっていく。そして示し合わせたかのようにその人物が炎の中から姿を現した。
「よう、随分な状況になってんなお前ら」
「「「カムイ先生!!」」」
炎の中から現れたのはすでに仮面ライダーファルシオンへと変身したカムイであった。突然ながらも恩師の登場に三人は喜びの声を上げる。カムイもまた小太郎達の姿を見て仮面の下で僅かに笑みを浮かべるが、すぐに無銘剣を構えて鬼達に対峙すると背中越しに三人に向かって言葉を掛ける。
「お前らここにいるってことは任務なんだろ?事情は後だ、ここは任せて逃げろ」
「で、でも先生、先生が戦うなら俺達も―――」
「良いから行け、ここじゃゆっくり話もできねえ。すぐに追いかけるから心配すんな」
すでに臨戦態勢のカムイを見て自分達も戦闘の構えを取ろうとしたが、それを遮りカムイが逃げるよう促す。そのことに対して僅かに後ろ髪を引かれる思いをするが、小太郎はすぐに気持ちを切り替え指示を飛ばす。
「蛇子、タコ足を出してくれ。三人で崖を降りるぞ」
「で、でもふうま」
「先生なら大丈夫だ。逆にここじゃ場所も悪いし俺達がここにいると先生の邪魔になる」
「うぅ……」
「……分かったわふうまちゃん」
「先生、また後で」
「おう、気をつけて行けよ」
小太郎の指示に従い蛇子は足を変化させると小太郎と鹿之助を抱える。そしてタコ足を器用に使い崖を伝って下へと降りていく。
「ま、待てぇ!!」
その場から逃げていく小太郎達を見て鬼はすぐに三人を追いかけようと駆け出す。しかしカムイはすぐさま遮るかのように鬼達の前へと躍り出る。
「おっと、行かすわけねえだろ」
「くっ!貴様、なんだ?」
鬼達にとっては突然現れた訳の分からない存在に道を遮られたため、苛立たしげにカムイを睨み付ける。しかしカムイは鬼達の視線を恐れもせず悠々と構えていた。
「見て分からないか?お前らを退治しに来た人間だよ」
「人間が、俺達を退治だと……ふざけた格好をした人間風情が、生意気な!!」
戯けたかのようなカムイの物言いに鬼の一人は怒りを顕わにし、手に持った槍でカムイの頭目がけて渾身の一撃を放つ。しかしカムイは少しも慌てることなく、眼前に迫った槍の穂先を片手で掴んで見せた。そのことに鬼達は驚きを隠せなかった。
「おいおい、どうしたよ。鬼は戦いが得意な種族だろ?なのにこの程度か?」
「っ!?人間風情が舐めおって!!ぬおぉぉおおおおおおおおっ!!」
槍を止められたことに愕然としている鬼に対して、カムイは余裕を醸し出し更には挑発すらしている。そのことに完全に逆上した鬼は両手に力を込めてカムイの眼前で止まっている槍を押し出そうとする。しかしどれだけ力を強めようと槍の穂先が動くことはない。
「―――鬼といっても所詮は下っ端か、期待外れだな」
―――バギィンッ!!
「ぬおっ!?」
まるで興味をなくしたかのように冷たい口調でそう呟いたカムイは穂先を握っている手に力を込める。その瞬間、槍の穂先が甲高い音を立てながら握りつぶされ砕け散る。力の行き場を失った鬼はその場で止まることができず、前へとつんのめってしまう。そして同時にカムイは左手の指先を前に突き出し、鬼目がけて勢いよく放った。
―――ズドォオオッ!!
「ごぶぅっ!?」
カムイの突き出された指は鬼の強靱な肉体をいとも容易く貫いた。そして左腕は心臓を貫き、そのまま鬼の背中まで貫通する。カムイはすぐさま鬼の身体から腕を引き抜くと、胸にぽっかりと穴が空いた鬼は糸が切れた人形のようにその場で崩れ落ちる。胸を貫かれた鬼はすでに絶命していたのであった。
「「「っ!!?」」」
鬼の一人が殺され、周囲にいた他の鬼達がどよめく。妙な鎧を纏っているが人間と聞き、たかが人間と侮り飛びかかった結果、あっさりと殺されたことに動揺を隠せなかったのだった。カムイは手についた血を振り払い、仮面の下で鬼達を見据えると手招きをして再び挑発を繰り返す。
「どうした、一人やられたくらいでなに呆けて突っ立ってんだよ。お前らも早く掛かって来いよ、三下」
「「「っ!!オォォォォオオオオオオオオッ!!」」」
仲間を殺された恨み、そして人間相手に舐められた態度を取られたことに怒り心頭になった鬼達は雄叫びを上げ、それぞれの得物を構えてカムイへと襲いかかる。カムイもまたそれを見ると無銘剣を構えて鬼達を迎え撃つ。
―――ガキィィイイインッ!!キィンッ!キィンッ!ドガァッ!!
戦闘を生業とする中級以上の鬼族の豪腕から繰り出される攻撃は非常に強力で一人を相手取るだけでも厄介であり、並大抵の者ではその一撃によってあっさり命を落としてしまう。鬼族を真っ正面からまともに相手するのは相応の実力者のみである。そんな危険極まりない鬼族の集団を、カムイは正面から迎え撃っていた。
繰り出される刀や槍の攻撃を無銘剣でいなし、時には徒手空拳で迫り来る刃を文字通り粉々に砕いていく。そしてかえしざまに刃を振るって鬼達の身体を切り裂いていった。火花が散り、鮮血が飛び交う中で鬼達は決して浅くない傷を負い次々と倒れていく。
カムイはというと鬼達の攻撃をほとんど受けておらず、まれに斬撃を受けて装甲から火花を散らすもエターナルフェニックスワンダーライドブックによって無限の再生力を得ているため手傷を負うことはない。戦いはカムイが圧倒的に優勢であった。
「おらぁぁあああああっ!!」
―――ドガァッ!!
「げぶぅっ!?」
鬼の一人に強烈な延髄蹴りを叩き込み、不快な音を立ててその身体を大きく吹き飛ばす。蹴られた鬼はしばらく地面を転がり、やがてピクピクと身体を痙攣させながらくぐもった悲鳴を上げる。蹴られた時に折れたのか、首はあり得ない方向へと曲がっており口からは喀血をまき散らしている。
「ぐっ!?」
「な、なんだこいつ……」
「本当に人間か?」
戦いが始まって十数分―――もはや戦いと言うよりも一方的な蹂躙に近いその惨状に生き残った鬼達は恐れおののいている。カムイはその様子を見て思わず嘆息を着いた。戦いが得意な鬼族が相手ということで、内心どれほど楽しい戦いができるのだろうかと期待していたのだが、戦い始めて早々に戦意を喪失し始めている鬼達を見て失望してしまったのだ。
「おいおい、もう終わりかよ……鬼族っていっても下っ端じゃこの程度か。なら、とっとと終わらせてもらおうか」
これ以上の戦いには得るものはないと思い立ったカムイは早々に鬼達を片付け小太郎達と合流しようと判断し、必殺技で一気に残りの鬼族を殲滅しようとブレードライバーに無銘剣虚無を納刀しようとした。その瞬間であった。
「―――っ!!?」
ぞわりと唐突に嫌な予感が走り思わず上を見上げる。そこには太陽を背にしてこちらに迫り来る一人の鬼族の姿が見えた。その手には金棒が握られており、それをカムイ目がけて振り下ろそうとしているのは明白であった。それを見たカムイは咄嗟に無銘剣を構え、その攻撃に対して防御を取ろうとした。しかし、それは悪手であるとカムイは思い知ることとなる。
「そうらぁああっ!!!」
―――ドガァァァアアアアアアアアアアアアアッ!!
「ぐがぁあっ!!?」
鬼が片手で振り下ろした金棒を無銘剣虚無で受け止める。しかし受け止めた瞬間、身体中の骨が砕け散ってしまったのではないかと思うほどとてつもない激痛が走り、カムイは思わず悲鳴をあげる。
空から振ってきた鬼はさきほどカムイと戦ってきた鬼達と比べ細身であり、額に生えた角を除いて顔立ちや体つき、ボサボサの白髪に服装からして人間に近しい姿であった。しかし金棒から繰り出された一撃はまるで桁違いであり、防御の上から相手を押しつぶしてしまうのではないかと思うほどのパワーと衝撃をカムイは感じ取った。
しかしその一撃はただカムイにダメージを負わせるだけに留まらなかった。その衝撃はカムイの足下を伝わり、地面を易々と打ち砕き崩壊させていく。ガラガラと音を立てて崖が崩れ、カムイの身体は空中へと投げ出されてしまう。
「うおっ!?やべぇっ!」
崖が崩れて落ちそうになるとカムイは背中から炎の翼を生やし体勢を整えようとした。しかし
奇襲を仕掛けてきた鬼は、自らもまた自らの攻撃によって足場を崩し空中に身を投げ出されたにも関わらず、体勢を整えようとしているカムイ目がけて強烈な蹴りを叩き込んだ。
「おらぁっ!!」
―――ドガァッ!!
「がぁっ!?」
鬼の蹴りが腹に直撃し、空中から一気に地面へと叩きつけられる。激しい音を立てて地面をバウンドし、木々をなぎ倒しながら転がりようやくその動きを止める。地面が抉れ、木々が折れたその光景はまるで隕石が落下したかのような光景だ。
「ゲホッ、ゴホッ!くそっ……不死身じゃなかったら死んでたな」
カムイは全身に着いた土を払い、咳き込みながら身体を起こす。身体こそ傷は負っていないものの、常人ならば先の蹴りと地面に叩きつけられた衝撃で全身が文字通りボロ雑巾と化して死んでいたであろうとカムイは考えた。
「―――おいふうま、あそこっ!!」
「先生!?」
「カムイ先生!!」
「っ!?」
自分を呼ぶ声が聞こえたためカムイは声がした方へと振り向くと、そこには先ほど自分が逃がした小太郎と蛇子、鹿之助の姿があった。どうやら彼らが逃げた場所まで吹き飛ばされたようであった。カムイが空から落ちてきたのを見て心配したのか、三人はカムイの元へと駆け寄ってくる。
「―――っ!!来るなお前ら!!」
―――ゴガァアアアンッ!!
「ぐあっ!?」
しかし先ほどと同じ悪寒を感じたためカムイは声を張り上げて三人を制止させる。そして咄嗟に防御の構えを取ると同時に鈍い音を立ててカムイが吹き飛ばされる。カムイは地面を転がりながらもすぐに起き上がり、三人を守るようにして無銘剣を構える。そしてその切っ先には、先ほどカムイを吹き飛ばした鬼が金棒を片手に持ち立っていた。
「ふはははははっ……」
鬼はカムイと小太郎達の姿を見るとニヤリと笑い、金棒を片手に担ぐとゆっくりと四人に近づいてくる。
「知ってるぞぉ、お前ら対魔忍だなぁ? 」
「ふうまちゃん……あの鬼ってさっきの」
「あぁ……あの力や態度からして恐らく、上位の―――もしかしたら神話級の鬼かもしれない」
「ひぇぇええええええっ!?そ、それってさっきの鬼達よりもずっと強いってことじゃないか!!」
鬼の姿を見て小太郎は、目の前の鬼が謂わば神話や伝承の元にもなるほど強力な力を持った鬼なのかもしれないと予想していた。そんな彼の言葉に鹿之助は思わず悲鳴を上げる。
(―――この鬼、なんだ……初めて会ったはずなのに、どっかで見たことがある)
一方カムイは油断なく鬼を見据えながらも、鬼にどこか既視感を覚えていた。対魔忍の任務やら傭兵の仕事やらで力を持った相手と戦うことはまれではなかったが、目の前の鬼は今こうして初めて会った筈であり、面識もなかったはずだった。しかしなぜかその鬼を見た瞬間、まるで遠い昔にその姿を見た気がしてならなかったのだ。
「まったく対魔忍ってのは俺らが何かしようとするとすぐに邪魔しに来る……ほんっと鬱陶しいなぁ」
「……俺は元対魔忍だがな。とにかく知ってるんだったら話は早い。お前らが何を企んでいるのか、全部吐いてとっととこの島から出てってもらう。さもなきゃ、ここで退治させてもらうぜ」
そしてそんなカムイの疑問を余所に、鬼は特に身構えることもせずカムイ達へと近づいてくる。カムイは剣を構えながら油断なく鬼を見据えて挑発する。しかし鬼は尚も余裕の態度を崩すことはなかった。
「や~だねっ―――変身っ!!」
―――ガシャァアアアアアアンッ!!
突如鬼が金棒を天へと掲げる。その瞬間、ガラスが砕けるかのように空間が割れ紫電が走る。それは鬼へと降り注ぎ、同時に細かな光の粒子が身体へと纏わり付くとその姿を変える。全身を覆う銀色の刺々しい甲冑に昆虫を思わせるかのような口元と複眼に角が二本生えた頭部―――先ほどの人間に近しい姿の面影はなく、もはや鬼というよりも怪人と呼ぶに相応しい姿であった。
「鬼が、変身した!?」
「な、なにあれっ!?」
「うわぁぁああああああっ!?ちょ、ちょっと格好いいっ!!?」
鬼の姿が変わった事に小太郎達は驚きを顕わにした。まさか鬼が変身能力を有しているとは思わなかったからである。一方カムイもまた、
(こいつは―――シルバラっ!!まさかこいつ、あの鬼なのか!!?)
朧気に残っているカムイの前世の記憶の中からようやく思い出した鬼の名前。その名はシルバラと言い、カムイが前世で見たとある映画―――仮面ライダー電王の物語において敵役として登場した鬼そのものであった。
(どうなってやがるっ!?デザストといいコイツといい、これもあの神の仕業なのか?なんでこうも仮面ライダーの怪人がこの世界にいやがるんだ!?)
「さあて―――お前らはいったいどんな音で潰れるのかなぁ?」
シルバラを目の当たりにして動揺しているカムイに対して、シルバラは飄々としながら金棒を弄びゆっくりとカムイ達へと近づいてくる。
「っ!―――小太郎達は下がってろ!!」
カムイはそう叫ぶと同時に無銘剣を構えシルバラと対峙する。しかしその瞬間、シルバラは金棒を両手に持つとそれをカムイ目がけて力の限り振り抜いた。
「ふっふっふっ――――おらぁっ!!」
―――ドガァッ!!
「うぐわっ!!?」
迫り来る金棒を受け止めようと無銘剣で防御の構えを取っていたカムイは凄まじい衝撃を受けて大きく吹き飛ばされ、木々をなぎ倒し地面を転がる。しかしすぐに体勢を立て直し剣を再び構え直す。そしてシルバラはすぐさま追撃しようとする素振りは見せず、金棒を肩に担ぎ悠々とカムイへと近づいてくる。
「ふっふっふ…」
「ちぃっ!!うおおぉおおおっ!!」
歩いて近づいてくるシルバラを見据えカムイは舌打ちを一つすると、すぐさまシルバラ目がけて走り出す。
「おらぁぁあああああっ!!」
「ふんっ!!」
―――ガキィイインッ!キィンッ!ガキィィイイインッ!!
無銘剣を連続で振るい猛攻を仕掛けるカムイ。対してシルバラは特に慌てる様子もなく、カムイの攻撃を冷静に見極め金棒で斬撃を防御している。そして斬撃の隙を突くかのように金棒を横薙ぎに振るう。
―――ブォンッ!!
「―――だらぁっ!!」
崖岩を一撃で粉砕できるほどの怪力から繰り出される金棒の攻撃が迫ると、カムイは姿勢を低くして躱し、そのままシルバラの頭目がけて蹴りを放つ。しかしシルバラは蹴りの攻撃を片手で易々と受け止めてしまう。
「おっと!」
「なにっ!?」
渾身の蹴りを受け止められた事にカムイは僅かに動揺する。そしてシルバラは受け止めたカムイの足を掴んだままその場で回転し始める。
「そおらっ!!」
「うおぉおおあああああああっ!!?」
身体を大きく振り回され、まるでハンマー投げのように投げ飛ばされるカムイ。その方向には大木が生えており、このままでは激突しかねない。しかし彼はすぐさま空中で姿勢を整えると、そのまま大木へ両足を向ける。そしてぶつかりそうになった瞬間、大木を力強く蹴り反対方向へと跳んでいく。その方向には当然カムイを投げ飛ばしたシルバラが立っている。
「おっ?」
「はあぁああああああっ!!」
投げ飛ばしたはずの相手がすぐさま戻ってきたことにシルバラは少し驚いた様子を見せていた。そしてカムイは無銘剣を突き出しながらシルバラへと突貫していく。
―――ガシィッ!!
しかし剣の切っ先がシルバラへと届く瞬間、その切っ先をシルバラは片手で掴み悠々と止めてしまった。
「なにっ!?」
「ざ~んねん―――おらっ!!」
―――ドガァッ!!
「ぐあぁああっ!?」
剣を止められその場で制止したカムイ。その瞬間を見逃さず、シルバラは金棒を突き出した。突き出された金棒はカムイの胸を打ち付け大きく火花を散らし地面を転がっていく。
「うそだろっ!?カムイ先生が押されてる!」
「あの鬼さん、あんなに強いの!?」
「ど、どうすんだよふうま!?このままじゃ先生やられちまう!!」
シルバラが圧倒的優位で戦況が進んでいくのを目の当たりにする小太郎達。カムイには下がっているよう指示されていたが、相手の強さを目にしてじっとしていられなくなったのか彼らはカムイの傍へと駆け寄ろうとする。
「先生!俺達も一緒に―――」
「―――来るなっ!!これは俺の戦いだ!!」
「「「っ!?」」」
カムイへ助太刀しようとする三人に対して、カムイは声を張り上げ制止させる。
「おいおい、あんだけやって傷一つないのかよ……お前、本当に人間か?」
尚も余裕の態度を崩さないシルバラは軽口を叩きながらカムイへと近づいてくる。一方カムイは一方的に打ちのめされながらも不死身の肉体によって怪我はまったくないため彼もまた余裕の態度を見せている。
「やってくれたじゃねえか……強いな、アンタ」
「そういうお前は潰し甲斐がないなぁ……もっと本気でやんねえと、ガキから潰すぞ」
「―――舐めてくれるじゃねえか……」
互いに軽口を叩きながらもそれぞれ武器を構えて対峙する二人。カムイは強敵との戦いによってすでにボルテージが上がっているためか、なぜシルバラがこの世界にいるかなどの疑問はすでに頭から吹っ飛んでいた。
「なら望み通り……全力で相手してやるよ」
「あっ?―――そいつは……」
目の前の相手は本気で相手をしなければならないと判断したカムイはそう言うと以前手に入れたインフェルノ・クイーンライドブックを取り出す。すると先ほどまで余裕を貫いていたはずのシルバラが初めてその態度を崩した。
「いくぜ―――こっからが本番だ!」
『インフェルノ・クイーン!!』
カムイは叫ぶと同時にインフェルノ・クイーンライドブックをブレードライバーへと装填しようとする。
しかし次の瞬間――――
―――ドスゥッ!!
「がっ!?」
突如として背中に鋭い何かが刺さったかのような衝撃を受ける。そして強制的に変身が解除され、まるで糸が切れた人形のようにその場へと倒れてしまう。
「あん?」
「先生!?」
「「カムイ先生!」」
カムイが倒れるのを目の当たりにした小太郎達はすぐさま彼へ駆け寄った。そして倒れているカムイを抱き起こすと、彼は苦悶に満ちた表情を浮かべながら浅い呼吸を繰り返しており、額にはじっとりと汗が滲んでいる。
「これは、いったいどうなって」
「ふうまちゃんどうしよう!先生、凄い苦しそうよ!」
「ど、どうすんだよふうま!!」
「落ち着け二人とも!」
突然倒れて苦しんでいる様子のカムイを見て蛇子と鹿之助は慌てた様子を見せている。そんな二人を叱咤する小太郎であったが、突然のことに彼もまた内心焦りを禁じ得なかった。
(くっ!?先生の様子からして、症状は凄くひどいみたいだ……突然倒れた様子からして、なにか奇襲を受けたのか?まるで毒を盛られたみたいだが―――いったい何がどうなっているんだ!)
「おいおい、本気出すとか言いながら急に倒れてやがって。いったいどういうつもりだお前」
「っ!?」
倒れたカムイを抱き起こそうとする三人であったが、それを黙って見ているシルバラではない。彼は突然カムイが倒れたことに対して疑問符を浮かべながらもズンズンと彼らへと歩み寄ってくる。
(くそっ!どうする……先生の様子からしてもう戦える状況じゃない!!!蛇子の墨で目を潰して―――無理だ、この鬼相手じゃ時間稼ぎにもならない!いったいどうすれば!!)
迫り来るシルバラを目の前にしてどうすればこの状況を打破できるのか、小太郎は必死に思考を巡らせる。だが次の瞬間、突如としてその場に突風が吹き荒んだ。
「うおっ!?」
「きゃっ!?」
「うわぁぁああああああっ!?な、なにが起こってんだぁっ!?」
「こ、この風はいったい―――」
突然起こった嵐の如き突風にその場にいた全員が思わず怯んでしまう。だが小太郎はこの瞬間を好機と判断し、すぐさまハッとなると二人に向かって指示を出す。
「蛇子!鹿之助!今のうちだ、先生を抱えてこの場から逃げるぞ!」
「えっ!?」
「この風であの鬼も怯んでる……今なら逃げられる、風が止まないうちにこの場から離脱するぞ!!」
「「りょ、了解!!」」
「あっ!おい待ちやがれ!!」
小太郎の言葉に二人は応えるとカムイを抱え上げ一気に走り出す。三人が走ると同時にシルバラもまた後を追いかけようとするが、小太郎達が走り出した瞬間突風がシルバラのみに向かって吹き荒れ、彼をその場に押しとどめる。
「うおっ!?なんなんだこりゃっ!!」
あまりの強風に身体が吹き飛ばされそうになりながらもその場に踏みとどまるシルバラ。そして風が止むと、小太郎達の姿はすでになかった。
「―――へっ!逃げられたか……」
「ミミヒコ様っ!!」
「あっ?」
ふとシルバラの後ろから声が聞こえ、彼はその場で振り向くと鬼族の集団が駆け寄ってくるのが目に入る。
「ミミヒコ様、ご無事ですか!?」
「おう、問題ねえよ」
「奴らはすでに始末されたので?」
「いや、逃げられちまった」
「ではすぐに追撃いたしましょう!そうこの島ではそう遠くには逃げられないはずです!」
シルバラをミミヒコと呼び傅く鬼達。彼らはシルバラが無事なことに安堵しながらも敵には逃げられたことを伝えられ、すぐさま追撃をしようと提案する。しかしシルバラは興味なさげな様子であり、元の姿に戻りながら気怠げに金棒を肩に担ぐ。
「いやいい、今は帰るぞ」
「えっ!?よ、よろしいので?」
「いいんだよ、今は“アレ”を探すのが先だ。アレさえ手に入れば人間なんてすぐに潰せるって兄ちゃんが言ってたんだ。それに―――」
「うおわぁっ!?」
シルバラは傍にいた鬼族に金棒を預け歩き出す。金棒を預けられた鬼はその重さに耐えられずその場に倒れるが彼はかまわず、カムイが倒れていた場所へと向かっていく。そしてそこには、先ほどカムイが手に持っていたはずの“インフェルノ・クイーンライドブック”が落ちていた。どうやら倒れた際に落としてしまったようであり、シルバラはそれを拾い上げるとニヤリと笑みを浮かべる。
「まさかあの人間がコイツを持ってたなんてな……兄ちゃんに良い土産ができたぜ。ふっはははははっ!」
そうしてシルバラは上機嫌に歩き出す。そして他の鬼族達もまた彼に付き従いその場を去って行くのであった。
一方、そんな鬼族達の姿を影から見つめる者がいた。全身が血のように赤いワインレッドのスーツに包まれ、表情は仮面で隠されまったく窺えない。その者は影から獲物を狙う蛇のようにじっと鬼族達を観察している。
「ふぅ、悪いなぁ……今あの鬼を倒されるのは俺としても都合が悪いんだ。計画通りにことが進むために、今回は邪魔をさせてもらったぜ。今は精々教え子に甲斐甲斐しく介抱して貰えよ」
その者はまるで誰かに話しかけるかのように独りごちるとゆっくりと鬼族達が歩いて行った方へと歩を進めていく。
「さあて、お前らもこの世界にとってはイレギュラーだが、考えようによっては俺の計画の役には立つからな。精々利用させて貰うぜぇ鬼共、フッフッフッ・・・・」
そう言って鬼達の後を追う謎の人物。その言葉に応えるかのように、胸に刻まれたコブラのマークが木陰の闇の中で妖しく輝くのであった――――。