※この作品はR-18です。

サイバーパンクな忍者世界で不死身の剣士してます   作:ニゴリエース

43 / 44
『鬼ヶ島の激闘』:5

 

 

「……ん?」

 

目を開き、周りを見回すとそこはシルバラと戦っていたはずの森林ではなかった。仄暗い闇がどこまでも続く空間。草木一本すら生えていない虚無ともいうべき場所で、心が弱い者であれば、ここにいるだけで不安や恐怖に苛まれるであろう。だが俺にとってここは初めて訪れた場所ではないためそんな感情が湧くことはない。逆にこの場所に来るということは、“奴”が俺を招き入れたことに他ならない。

 

「またここに連れてきやがって……まるでタイミングを見計らったみたいじゃねえか、神様」

 

「みたいじゃなくて、まさしく見計らって連れてきたんだよ主人公くん。元気だったかい?」

 

 俺が虚空に声を掛けると、ソイツの声が虚空に響く。するとふよふよと身体を浮かせ、ニタニタと笑っている少女―――俺をこの世界に転生させた神を名乗る者が姿を現した。

 

「いやぁまさかこんな早い再会になるとはね。と言っても君の様子を見るに、君も私に会いたかったようだね」

 

「てめえ……よくも俺の前に顔出せたなっ!!」

 

「おっと!暴力は反対。こんな幼気な女の子に掴みかかるなんて穏やかじゃないなぁ。何をそんなに怒ってるのかな?」

 

 俺は神の傍に近づき胸ぐらを掴む。しかしソイツは怯むことはなくニヤけ面を浮かべたまま両手をあげる。その戯けた態度とニヤニヤとした笑みに俺はますます苛つきを覚える。

 

「とぼけるんじゃねえっ!なんでこの世界にシルバラがいる!てめえ、干渉しないとかほざきながら、デザストに続いてアイツもお前の仕業かっ!!」

 

「んんっ?シルバラって、あの鬼のことかい?」

 

「何しらばっくれてやがる……てめえがあの鬼をこの世界に連れてきたんだろがっ!!」

 

「―――フフフッ、あいにくあの鬼……シルバラは私が連れてきたわけじゃないよ。君の言っているシルバラはあくまで別の世界の彼……君が出会ったシルバラはあくまでこの世界の住人さ」

 

「なにっ!?」

 

 神は余裕を崩さずとんでもないことを言ってのけた。シルバラは元々仮面ライダー電王という特撮の映画に登場した悪役兄弟の片割れだ。物語において暴虐の限りを尽くしていた“オニ一族”と呼ばれる集団の長であり、歴史において人間との戦いに敗れることを知った彼らは歴史改変を行おうとし、それを仮面ライダー電王が阻止するために戦いを挑むというのが主な流れである。

 

 その悪役がこの世界の住人だとこの女は言ったのだ。俺は訳が分からず困惑してしまうが、神は俺の反応を見て察したのか、説明のために言葉を続ける。

 

「君にも分かるように説明するとね。世界ってのは一つだけが存在するわけじゃない。仮面ライダーやこの世界が創作物として存在する君の前世の世界しかり、実際に仮面ライダーが存在する世界もある。所謂平行世界というものさ。君もSFとかでよくこういった物を目にしたことがあるだろ?」

 

「……あぁ」

 

「そして世界がいくつも存在する中で、その世界ごとに住む住人の中には。時折立場や生い立ちに違いはあれどほぼ同一と言って良い人物がたまに存在する。仮面ライダーを知っている君には覚えがあるんじゃないのかい?」

 

「……」

 

 確かに仮面ライダーの作品を通して、平行世界で同じ人物が時折登場しているため神(こいつ)の言っていることは否定できない。だが俺が知っているのはあくまで創作に登場した設定であり、実物を見たわけではない。それ故にコイツの言葉を信じられずにいた。それにまだ疑問が尽きない。

 

「……もし、本当にあのシルバラがこの世界の住人だったら、なぜあの姿になれる。アレはシルバラが元から持っていた能力じゃないはずだ」

 

 シルバラ―――もといオニ一族のミミヒコは歴史を改編するために時空の狭間を通って未来に行き、その影響で怪人へと変身できる能力を身につけたという設定だったはずだ。なら俺が戦った方のミミヒコもまた、それと同じようなことをして怪人へと変身できる力を手に入れたのだろうか。

 

「それについては簡単さ。と言っても、それを説明するにはまず彼らの身の上を話さないとね。聞く気はあるかい?」

 

「……奴らは対魔忍のことを知っていた。つまり少なくとも対魔忍とは無関係ってことはないんだろ。だったら知る必要があるはずだ」

 

 元とは言え俺も対魔忍のはしくれだ。もし奴らが対魔忍と少しでも関わりを持っていたというのなら、小太郎達やアサギさん―――五車の里にも危険が迫るかも知れない。ならば少しでも奴らのことを知る必要があるはずだ。

 

「オーケー、なら話をしようか・そうだねぇ……まず彼らはね―――」

 

 俺が話を聞く気になったのを見ると、神は姿勢を整えて語り出し始めるのであった―――。

 

 

 

 

 

 

 

 およそ数百年前の話―――まだ人と魔の領域がハッキリと分かれていた時代のことであった。突如として魔界の門が開き、そこから多くの鬼族達がなだれ込み人々を襲い略奪と蹂躙の限りを尽くしたという出来事があった。

 

 鬼族達を率いるのは二人―――名をクチヒコとミミヒコという鬼の兄弟であった。彼らは元々魔界においても指折りの力を持つ部族であり、様々な場所で略奪を繰り返す生活を送っていたのだった。そして彼らは偶発的に開いた魔界の門を通じて人間界にやってくると、今度は人間達を襲い始めた。魔族のような強靱な肉体や魔術を操る力も持っていない脆弱な人間達は彼らにとって格好の獲物であったのだ。

 

 しかしそんな彼らの蛮行を黙って見過ごさない者達が現れた。それは闇に潜み密かに魔を刈る集団―――対魔忍達であった。彼らはクチヒコとミミヒコが率いる鬼族に対してすぐさま戦いを挑んだのだった。

 

 クチヒコとミミヒコの兄弟は鬼族の中でも特に強い力を有しており、生半可な実力で彼らに敵う者は存在していなかった。しかし対魔忍もまた魔と戦うことを生業とする集団であり、人間離れした身体能力や特異な忍法を使った戦略や奇襲によって鬼族と戦い続けた。

 

 いくらクチヒコとミミヒコが突出した力を有していようと個の力では限界があり、彼らが率いる鬼族達は対魔忍が操る忍法と人間達が長年培ってきた技術により徐々に押され始めるのであった。やがてクチヒコとミミヒコもまた戦いによって手傷を負い、彼らは逃げるようにして魔界へと帰っていったのである。

 

 だが鬼族はたった一度敗北したぐらいで侵略を諦めるようなことはなかった。彼らは傷が癒えると幾度となく人間界への侵攻を繰り返した。そしてそのたびに対魔忍が現れ衝突を繰り返す。そうして鬼族と対魔忍達の戦いが長年続き、対魔忍の勝利によって終わりを告げたのであった。

 

 

 

 

 

 

「―――そうして我らの一族は衰退の一途を辿った……」

 

 とある洞窟の中にいた男がまるで独白するかのように呟いた。黄金や朱色を基調とした豪奢な意匠に長く伸ばした長髪、そして白塗りの顔をしておりまるで歌舞伎役者のような格好をしている。しかし頭部には黄金の角が生えていることから、その者が人間でないことは明確であった。

 

 彼こそ件の鬼―――鬼族の部族の長にしてミミヒコの兄である鬼“クチヒコ”その人であった。

 

「我らは何度も人間界への侵攻を試みた。しかしその度に人間……対魔忍の連中によって阻まれ、我らはその数を減らし、おめおめと魔界へと逃げ帰るハメとなった。もはや元の半数にも満たないほど数を減らした我らの部族を魔界の連中はあざ笑い……あまつさえ辺境の片隅へと追いやった……っ!」

 

クチヒコは苦々しげにそう言うと片手に持った酒瓶を一気に呷り、空になると瓶を投げ捨てる。酒瓶が砕け散りガチャンと音が響くが、すぐに洞窟内に静寂が拡がる。しかしその静寂すらも今のクチヒコにとって苛立ちを助長させるものである。

 

「かつて鬼族においても有数の部族であった我らが、今では他の連中から隠れるような日々を過ごさざるを得なくなった。それがどれほどの苦痛であったことか……っ!」

 

 己の部族の力で襲い、奪い、支配し続けてきたことで得た栄華―――それを人間との戦いによって全て失った過去を思い出し、怒りと屈辱に顔を歪ませるクチヒコ。しかし彼はすぐさま怒りを抑え込み、懐に手を入れ始める。

 

「―――だが、これを手に入れたことで我らは大きな力を手に入れることができた」

 

 そう言ってクチヒコが懐から取り出したのは煤けた銀色の四角い物体であった。それは朽ちかけているかのようで所々ひび割れており、少し力を込めればすぐさま砕け散りそうであった。それは傍から見ればまるで一冊の本のようであった。しかしそれは決して本などではない。壊れかけているがその形状はまさしくワンダーライドブックそのものであった。

 

 なぜクチヒコがワンダーライドブックを持っているのか―――。それは数年前のことであった。かつて人間との戦いに敗れたことにより負った傷が大きく、かつての力と栄光を失ったクチヒコ達は自分達に対して報復を企む者達から隠れるように暮らしていた。その日もいつものように人間への恨みを募らせながら浴びるように酒を飲んでいた。そして弟であるミミヒコと共に覚束ない足取りで魔界の山道を歩いていたとき、そのワンダーライドブックを発見したのだった。

 

 それはひどく汚れており、少しでも触れば崩れてしまいそうなほどひび割れていた。クチヒコとミミヒコは最初こそ、それがそこらに落ちているゴミの一つだと思いすぐに視線をはずそうとした。しかし、クチヒコはなぜか落ちているそれから目を逸らすことができなかった。

 

そして酒によってふらつく足を引きずりながらそれに近づくと、片手に拾い上げる。するとそれから今まで感じたことがないほど強大な力の奔流が溢れ出る。その奔流は突然のことに戸惑うクチヒコとミミヒコへと纏わり付き、やがて体内へと流れ込む。そして次の瞬間、彼らの身体に変化が起きた。全身がまるで甲冑のような姿へと変わっていった。

 

姿が変わったこと、更には手に持った物から溢れた力の奔流が自分達の中に流れていることに困惑するクチヒコとミミヒコ。するとそんな彼らに声を掛けるものがいた。

 

『おやおや、まさかそれを拾ったのが君たちなんて……おまけにその姿……フフフッ、世界が違えど、因果は巡るってことかな』

 

 現れたのは少女であった。少女は興味深そうな目つきでニヤニヤと笑いながらクチヒコとミミヒコを見つめ、意味深げな言葉を呟いている。その雰囲気は少女の見た目からかけ離れており、纏う気配は人間や魔族でもなかった。

 

 突然のことにクチヒコ達は未だに困惑しながらも、謎の人物の登場に対して警戒心が勝りそれぞれ武器を構える。武器を向けられながらも少女は笑みを絶やすことはなく、しかし敵意はないといわんばかりに両手を軽く挙げる。

 

『そんな警戒しなくても大丈夫だよ。私は君たちの敵じゃない。ただ君たちが持っているソレ……ソレは私が落としたものでね、回収しようとここに立ち寄ったのさ』

 

『あぁ、別に返せなんて言わないよ。それを拾った時点でもう君たちの物だ』

 

『ん?ソレがなんなのかって?―――そうだねぇ……かつて世界を創った、大いなる力の一部って所かな?君たちの姿が変わったのもそれのおかげってわけさ』

 

『今は壊れちゃって力の大半を失っているけど、ソレは君達の力を何倍にも高めてくれる。今の君達はもはや神話級の鬼族にすら匹敵するほどさ。それに、もしソレが完全に直れば、更なる力を手に入れられるはずさ。君達が何度も煮え湯を飲まされた対魔忍どころか、魔界で名を馳せている連中すら歯牙に掛けないほどに、ね』

 

 少女は戯けたように嗤いながらクチヒコ達にそう囁いた。少女の言葉はあまりにも荒唐無稽であり、にわかに信じがたいことだった。しかしその言葉を完全に否定することはできない。確かに今の自分達は先ほどと比べ非常に力が漲っている。それこそ対魔忍との戦いで怪我を負う前すらも凌駕するほどだ。

 

 故に少女の言葉を無視できない。更なる力を手に入れられるという彼女の言葉が、悪魔の囁きのように自分達の頭の中で繰り返される。クチヒコ達はそれを振り払うことができず、少女に問いかける。“どうすれば更なる力を手に入れられる”と……。

 

『おっ、どうやら興味が出てきたみたいだね♪簡単だよ……それに力を取り戻させれば良い。実はソレと同じ物がいくつも存在するんだ。ソレらを全て集める……そうすれば力が共鳴し合い、ソレは力を取り戻すことができるよ♪』

 

『ん?ソレはどこにあるのか、だって?それは自分達で探しなよ、君達にそこまで親切にする義理はないよ……っと、言いたい所だけど、今日は気分が良いからね、特別に教えてあげる。フフフッ、そこは君達も言ったことがある場所だよ……』

 

 

 

 

 

『人間界……そこにソレと同じ物がいくつも存在する。詳しい場所はソレを使えばすぐに分かるよ。精々頑張って、もっと面白いものを私に見せてよね♪』

 

 

 

 

 

「そうしてあの女の言葉に従い、我々は再び人間界にやってきた。だがまさか人間共も、我々と同じ物を探しているとは思わなかったが……所詮は脆弱な人間、今の我々に勝てるはずがない。アレは、我々の物だ」

 

 そう言ってクチヒコはにやりと笑うと懐にワンダーライドブックをしまいなおす。すると洞窟にいくつもの足音が響いてくる。クチヒコは洞窟の入り口の方へ目を向けると、何人もの鬼族がやってくる。その先頭には、クチヒコの弟であるミミヒコがいた。

 

「兄ちゃん!!戻ったぜぃ!!」

 

「おぉ、戻ったかミミヒコォ!!」

 

 ミミヒコが意気揚々とクチヒコの前へと出ると、クチヒコは笑顔を浮かべて彼を歓迎する。

 

「その様子から察するに、もしかしてついに見つけたのか、アレを……」

 

「いや、それがまだ見つかんねえんだ……あちこちの遺跡を掘り返してんだけど、全然見つからねえ」

 

「そうか、まだ見つけられぬのか……」

 

「それだけじゃねえんだ兄ちゃん。この島にどうやら対魔忍の連中が来てるんだ」

 

「なにっ、対魔忍だとっ!?奴らめ……もうこの場所を嗅ぎつけてきおったかっ!おのれぇぇぇぇっ……対魔忍共め、どこまで我らの邪魔をすれば気が済むというのだぁっ!!」

 

「ひぃっ!?」

 

「く、クチヒコ様っ……」

 

 対魔忍がこの島に来ている―――その言葉を聞きクチヒコはたちまち顔を憤怒に染める。彼の対魔忍に対する憎悪は計り知れず、錫杖を握る手に力がこもる。そのあまりの怒気に下っ端の鬼族達は恐怖を覚えてしまう。

 

「安心しろよ兄ちゃん!今の俺達は無敵なんだぜ!現にさっきだって対魔忍の連中をぶっとばしてきたんだ!!それに、コイツを見てくれよ!!」

 

 対魔忍という言葉を聞き怒りに身を焦がすクチヒコを安心させるため、ミミヒコが笑みを浮かべながら彼の傍に近づく。そして懐に手を入れると、そこからある物を取り出す。それは先ほどカムイが取り落とした“インフェルノ・クイーンライドブック”であった。

 

「おぉぉぉおおおおおっ!!それはまさしく、我々の持っている物と同じもの!!あの女が言っていたことは本当だったか!!」

 

「俺がぶっとばした対魔忍の連中が持っていたものなんだ。あいつら、慌てて逃げ出してコイツを落としていったんだぜ!!」

 

「おぉっ!!流石だミミヒコぉっ!これで我々の野望はまた一歩近づいたぞぉ!!」

 

 ミミヒコの手に持っていたライドブックを嬉々として受け取るクチヒコ。先ほどの怒気は一気に霧散し、打って変わって上機嫌なものになる。そのことに下っ端達は思わず安堵を覚えた。

 

「まさか対魔忍もこれを持っていたとはなぁ。どうやらあの女の話は本当らしい……ならば、これと同じ物がこの島にも必ずあるはずだ」

 

「それを手に入れれば、ついに俺達の時代が始まるってことだな兄ちゃん!!」

 

「あぁ、その通りだミミヒコっ!ソレさえ手に入れば、我ら一族は人間界だけでなく魔界さえも支配できるぞぉっ!!」

 

「ワァーーーオッ!!楽しみだなぁ兄ちゃんっ!!」

 

「よいかお前達っ!この島のどこかにある、これと同じ物を探すのだぁ!!そうすれば、我らは世界の全てを支配できるであろうっ!!その時こそ、我らの時代が始まるのだぁっ!!」

 

「「「「オォォオオオオオオオオッ!!」」」」

 

 ワンダーライドブックを集め、やがては人間界と魔界を支配しようと夢想するクチヒコとミミヒコ。そんな二人に呼応され、他の鬼族も高揚を隠しきれず洞窟の外にまで響くような雄叫びを上げるのであった。

 

 

 

 

 

 

『やれやれ、騒がしいねぇ……まだ全てのワンダーライドブックを手に入れてもいないのに、もう支配者になる夢を見てるのかぁ?』

 

 

 

「「「「っ!!?」」」」」

 

 洞窟にいた鬼達の興奮を遮るかのように一つの声が響く。それはその場にいたどの鬼のものでもなかった。鬼達は叫ぶのをやめ声がした方へと視線を向ける。そこにいたのは鮮血のように赤いスーツを全身に纏った何者かであった。。

 

『よぅ、邪魔させて貰うぜぇ』

 

 突然の謎の人物の登場にクチヒコとミミヒコだけでなく、その場にいた鬼達全員が驚愕に囚われていたが、すぐに武器を取り出し警戒を顕わにする。しかしその者はそんな彼らの警戒心もお構いなしな様子であり、飄々としてクチヒコとミミヒコへと近づいてくる。

 

「貴様、何者だ!」

 

 謎の人物の近くにいた鬼の一人がすぐにその者を取り押さえようと近づく。そして腕を掴みその場に押さえ込もうとした。しかしその腕が振り払われるとそのまま裏拳で鬼の顔を殴りつけた。

 

 

 

―――ドガァッ!!

 

 

 

「ぐわぁっ!!?」

 

 殴られた鬼は次の瞬間、地面に倒れるまでもなく一瞬で身体が消滅してしまったのだった。まるで風船が破裂して吹き飛んだかのような光景であった。

 

「「「っ!!?」」」

 

「このっ!!」

 

 鬼の一人が一瞬でやられたことに皆が驚く中、その人物の近くにいたもう一人の鬼が怒りを顕わにして掴みかかる。しかしその人物は慌てることはなく、掴まれた腕とは反対の腕を素早く鬼へと向ける。その瞬間、腕から蛇の尻尾のような針が飛び出し鬼の頬へと突き刺さる。

 

 

 

―――ドスゥッ!!

 

 

 

 

「ぐっ、ぐぎゃぁぁぁああああああっ!?」

 

 そして次の瞬間、針に刺された鬼が悲鳴を上げる。するとその身体が溶けていきボロボロと崩れる。そして先の鬼と同様、骨も残さず消滅したのであった。

 

「なぁっ!!?」

 

「き、貴様っ!!」

 

「さっきの対魔忍共の仲間かっ!!?」

 

『大声を出すなぁっ!!』

 

「「「―――っ」」」

 

『まったく……こっちは話があって来たってのに、いきなり掴みかかってくるとは穏やかじゃないねぇ』

 

 二人の鬼が殺され、困惑しながらも怒りを覚える鬼達。しかし彼らが身構えると同時に彼が一喝すると、それに気圧され鬼達は怯んでしまう。そしてようやく鬼達が静かになると、彼はやれやれと言わんばかりに首を振り鬼達を押しのけ前に出る。

 

「……貴様、人間か……それとも魔族か」

 

 彼が前に出るとクチヒコもまた前に出て対峙する。周囲の鬼達とは違って動じることはなく、しかし突然現れた目の前の人物に対して警戒を顕わにしている。

 

胸にはコブラの意匠が彫られており、スーツは機械的であるため人間が作った物であることが窺える。声色は男のようであるが、そこ以外は全てスーツに覆われているため人間か魔族かも分からない。だからこそクチヒコは決して油断せず、武器を離さずに目の前の人物を観察する。

 

『オイオイ、そんなに殺気立つなよ。俺はアンタらの味方だぜぇ』

 

「なに……味方だと?」

 

 しかし彼はそんなクチヒコの視線すらも流すかのように飄々としている。そして彼はまるで敵意はないと言わんばかりに両手を上に上げながらクチヒコへと近づいていく。そして彼の目の前に立つと、“ある物”をクチヒコの目の前に出した。

 

『アンタらが探しているのはコイツだろ?』

 

「―――っ!?貴様、それをどこで!」

 

 いつ、どこから取り出したのか、クチヒコの目の前に出されたのは彼がわざわざ人間界に来てまで探し求めた物―――クチヒコとミミヒコが持っている物とは違う色をしているがその形はまさしく“ワンダーライドブック”そのものであった。まさか目的の物を目の前の人物が持っていたとは露程も思っておらず、クチヒコは驚愕を隠せずにいた。そんなクチヒコの驚く様子に気を良くしたかのように、彼はクツクツと笑い始める。

 

『フフフッ……随分と驚いてるじゃないか。もしアンタらが俺に協力してくれるのなら、コイツは譲ってやってもいいぜ?』

 

「協力だと……?」

 

『この島には対魔忍の連中が来てるだろ?俺はその内の一人に因縁があってねぇ……もしそいつを殺すのに協力してくれるなら、コイツはアンタに譲ってやる。それにここだけの話だが、ソイツは他にもコイツと同じものを持っている』

 

「なにっ?」

 

『―――どうだ、話を聞く気になったかぁ?』

 

 その者の言葉はまるで誘惑に満ちたかのように甘く危険なもののようにクチヒコは感じた。しかしその言葉は決して無視できるようなものではなかった。

 

「……いいだろう、協力してやる。我らは何をすれば良い」

 

「「「クチヒコ様っ!?」」」

 

「案ずるな……我らの目的はあくまでコレと同じ物集めること。それをわざわざ譲るというのだ。逃す手はあるまい」

 

『おっ!話が早くて助かるねぇっ!!』

 

「兄ちゃん、良いのか?」

 

「構わん。例えどのような思惑があろうと、我らの目的は変わらん。我らはそれさえ手に入れれば良いのだからな」

 

目の前の人物が何者なのか、それはまだ分からない。だが目的を達するためならば何者であろうとクチヒコは構わない。自分達がこの世の支配者となるためならば、目の前の人物など気に留める必要もないことである。

 

「だが忘れるな……もし約束を違えれば、我らは貴様を必ず殺すということを」

 

『信用ないねぇ。まっ、短い間だがよろしく頼むぜぇ』

 

「ふんっ……」

 

 クチヒコが殺意を込めながら圧をかけるもその者は戯けた態度を崩さず、先ほど二人の鬼を殺したにも関わらず親しげな様子を見せる。そのことにクチヒコは鼻を鳴らすも、どこか言い様のない不気味さを感じるのであった。

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。